《異世界から日本に帰ってきたけど、やっぱりダンジョンにりたい! えっ、18歳未満は止だって? だったらひとまずは、魔法學院に通ってパーティーメンバーを育しようか》27 桜Vs師
四人のプロの師を一瞬で倒した桜、その右手にはアイテムボックスから取り出した數発のパチンコ玉が握られている。
だが、彼はこの場に來てから何かを投げるようなモーションを見せていなかった。
驚くことに、桜は親指で玉を弾いたでけであった。これは中國拳法にある指弾と呼ばれる技として知られている。師たちの頭を正確に撃ち抜いたように、自在に狙った箇所にパチンコ玉を弾く技の持ち主である。
「な、何者です!」
一瞬で配下の師が倒されるという目を疑うこの狀況、そして魂が凍えるような冷たい響きの桜のセリフ、この雙方が相まってようやく雅が我に返る。雅と同時に鈴の著に手を掛けていた男子生徒も桜の存在に気が付いた。
「私のお友達から今すぐ手をお放しなさい。それが、あなた方の罪を軽くする唯一の方法ですわよ。私は頼んでいるのではありませんわ。警告しておりますの」
相変わらず氷のようなセリフが投げ掛けられるが、鈴の周囲にいる二人の男子生徒にはそこに立っている人がプロの師さえ瞬殺してしまう怪だという認識に至らなかった。男子生徒たちは、何らかのアクシデントによって師が倒れたものと、自らに都合の良い解釈をしている。彼らの常識の範疇では、銃でも持っていない限り四人の人間を一瞬で倒すなど、到底あり得る事態ではなかった。
「なんだと、俺たち上級生に向かって1年のガキが何を偉そうにほざいているんだ? おい、このが痛い目に遭うのが嫌だったら、その場から一歩もくんじゃないぞ」
桜は言葉で警告を発してはいるが、敢えて殺気までは出していなかった。殺してもいいかな程度の気持ちはあって多の殺気は籠っているが、さすがににめて隠している。なぜなら明日香ちゃんの訓練時のように殺気だけで簡単に気絶させてしまっては、この連中が犯した罪とは釣り合いが取れないであろうと考えたためだ。
その代わりとして、桜はアイテムボックスから取り出した黒いオープンフィンガーグローブをゆっくりと両手に嵌める。こんな大晦日の格闘技戦中継でしか目にしない代をなぜ桜が取り出したかというと目的はただ一つ。拳の威力を弱めるために他ならない。
このグローブは桜が私として異世界に持ち込んだ品であり、現在は対人戦専用のマジックアイテム化している。対戦者が死なないように大賢者によって桜のパンチの威力を50分の1まで軽減する世にも珍しい品であった。
攻撃の威力を高める品を數々作り出した大賢者は、初めて耳にした「威力を弱めてほしい」という依頼に目を白黒したという逸話が殘されている。
「私の警告に素直に応じないなんて実に愚かですわね。痛い目に遭うのは覚悟出來ているとけ取りますわ」
その一言とともに、桜の姿が二人の上級生の目から消え失せる。桜は自らのスキル〔神速〕と〔神足〕を同時に発していた。スキルレベルMAXまで極めた雙方のスキルを同時に使用するとどうなるか?
一定の距離を瞬時に移する〔地〕が発するのだ。これがたびたび見せている桜の瞬間移の正であった。姿を消した桜は、瞬きの間に鈴を取り押さえている男子生徒の目の前に移する。
「な、なんだと! ごばぁぁぁ」
「きゅ、急に、わぁぁぁぁ」
反応する暇を與えずに、桜は二人を毆り飛ばしている。威力を抑えてあるとはいえ、ヘビー級ボクサーのパンチ力の3倍以上の衝撃を與えるので、男子生徒2名は杉の大木にを打ち付けられて目を回す。これでも桜からすると、相當穏便な措置といえよう。
その時…
「桜ちゃ~ん! やっと追いつきましたよ~」
杉の林を掻き分けて、明日香ちゃんとカレンが現場に到著する。
何者かが爭う音を聞きつけた桜が急にダッシュっしたせいで二人は桜に置き去りにされていたのだが、ようやくこうして追い付いてきた。
「ちょうどいいタイミングでしたわ。お二人は鈴ちゃんを保護して、戒めを解いてもらえますか」
「ラジャーですよ~」
明日香ちゃんとカレンに支えられて鈴は桜から離れた場所に連れていかれると、口にり付けられた粘著テープをビリビリと剝がされていく。
「ぷはぁぁぁ。明日香ちゃん、ありがとう。やっとまともに聲が出せるわ」
「鈴さん、大丈夫ですか?」
明日香ちゃんは、ブラウスの上半分のボタンが飛んで両肩がはだけている鈴を心配顔で覗き込む。カレンも眉に皺を寄せて心配した表を浮かべている。
「明日香ちゃん、助けに來てくれてありがとう。桜ちゃんがギリギリ間に合ったおかげで、なんとか無事よ」
「お禮なら私ではなくて、ここにいるカレンさんにしてください。鈴さんが危ないって教えてくれたんですよ~」
「そうだったの。神崎さん、どうもありがとうございました」
「いいえ、気にしないでください。たまたまですから」
カレンはそんな大層な禮を言われる筋合いはないと首を橫に振っているが、鈴は粘著テープを外してもらって自由になった両手で彼の手を取り、何度も頭を下げるのだった。
◇◇◇◇◇
桜ひとりにいいようにやられて、配下の師と男子生徒2名をあっという間に叩きのめされた雅は、をワナワナ震わせて目を吊り上がらせた怒りの形相を浮かべている。杉の大木にを打ち付けられて気絶している男子生徒と同様に、桜の隔絶した戦闘能力を明らかに見誤っているよう。
「お前たち、急に現れたあの小娘を何とかしなさい。こうなったら手段など選びません。式神を出すのです」
「「「「「はい、お嬢様!」」」」」
雅の命令に聲を揃えて返事をしたのは、彼の親衛隊とでもいうべき3年生の男子生徒。本職の師が一瞬で倒されたのは誤算であるが、最も信頼できるこの五人がいるおかげで雅はいまだに強気を保っていられる。
「急急如律令、式神來臨」
五人が呪符を取り出して印を結ぶと、宙を舞う呪符が不気味な姿の式神へと変容していく。元々式神とは、平安時代のの大家である安倍晴明が都の四條大橋の河原に結界を築いて飼っていたという者に忠実な眷屬とされる。
その姿は様々で、あるものは鬼のようであり、また別のものは大蛇の姿を取るなどという言い伝えが殘されている。
この場にいる3年生の男子は師としてかなり優秀なようで、それぞれが自らの眷屬である式神をる腕を持っていた。とはいっても、最も下位の小鬼の姿をした式神5が出てきただけで、桜からすればゴブリン登場程度の認識でしかない。
「まとめて処分いたしましょうか」
桜は牙を剝いて襲い掛かろうとする式神に無慈悲な拳を浴びせていく。たとえ威力が50分の1であろうとも、小鬼程度を打ちのめすには十分であった。
「グギャァァァ!」
ゴブリンと同じような悲鳴を殘して式神は破れて引き千切られた呪符に戻って、空しく風にさらわれて何処かへと飛ばされていくのであった。
「これで終わりですか? それではこちらから參りますわ」
自信を持って送り出した式神があっという間に姿を消し去られた3年生の五人の者は挙って顔を引き攣らせてはいるが、このままむざむざやられるものかと別の呪符を取り出して火炎を飛ばして対抗開始。
「このような子供騙しは、無駄と知るべきですわね」
桜は巧みなステップで飛びう火炎を避けながら、3年生に向かって前進を止めようとはしない。避けた桜の背後に飛んでいく炎は最寄りの大木にぶつかって僅かにその表面に焦げ跡を殘して消え去さっていく。
飛んでくる火炎を全く気にする様子もなく速度を落とさずに接近してくる桜を見て、3年生の表は益々引き攣っていく。中にはすでに抵抗を諦めて、無駄撃ちを中斷して逃げ出そうと試みる生徒も出てくる始末。この期に及んではお嬢様の命令よりも自分のが可くなるのは當然の心。
「逃げても無駄ですわ」
だが、桜には容赦などというフレーズは無用であった。逃げようとする相手に対して背後から襲い掛かると、彼らはなすなく頭から大木にぶつかって次々に気を失う。
「おのれぇぇぇぇ、このの程知らずがぁぁぁぁ!」
最後にたったひとり殘された雅が、桜に向かって呪詛の籠った憎しみの視線を叩きつける。つい今まで東十條家の一人娘として余裕に満ちた態度で振る舞っていたが、その表にはどこにも名門の誇りなど殘されてはいなかった。
「お覚悟を」
対して桜は、普段通りの表を向けている。
それはあたかも、配下を全て片付けてラスボスまで辿り著いたかのような、この先にあるべき戦いに期待を膨らまる態度。
道の最大勢力である東十條家のお嬢様Vs傍若無人かつ脳筋なんちゃってお嬢様による、世紀の対決のゴングが今ここに打ち鳴らされようとしている。
先にきを見せたのは、雅であった。
「このクソガキがぁぁぁ! 今から門外不出の東十條家のをその目に焼き付けてやるから、覚悟しろぉぉぉぉ。急急如律令、前鬼後鬼、來臨」
手に握り締めた呪符に魔力を込めると、3年生の男子たちが生み出した式神とは桁違いの二の大鬼が姿を現す。平安時代の伝承によれば、前鬼と後鬼と呼ばれるこの大鬼は、安倍晴明と比べをしたとして知られる蘆屋道満が辺警護に使役したと言われる。
千年前の伝承がこうして現在まで伝わっている事が示す通りに、恐ろしい力をめたまさにと呼ぶには相応しい式神なのである。雅のの力は、誇張でもなんでもなく才能に溢れていると表現して差し支えない。
「非常に面白い手品ですわね。それでは々本気を出して戦いましょうか」
桜は、前鬼と後鬼を興味深そうに見ている。これだけの眷屬を使役できるとは、道というのも中々奧が深いものだと認識を新たにしているかのよう。彼自が「本気」と言っている証拠に、オープンフィンガーグローブからいつものオリハルコンの籠手にいつの間にか変更している。
の丈4メートル以上の高さから桜を見下ろす前鬼と後鬼、人間のコブシよりも大きな爛々と輝く両眼で桜を睨み付けている。
対する桜は、左右の籠手をカツカツと打ち鳴らしてを確かめている。その表は「いつでも掛かって來い」とばかりに、2の大鬼を明確に挑発している。
「前鬼、後鬼、その小娘を殺せぇぇぇ!」
「グオォォォォ!」
「ガァァァァァ!」
その雄びとともに、決戦は開始されるのであった。
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