久しぶりに大山ダンジョンへ……

カンカンカンカン！

屋外にある第１訓練場には、木がぶつかり合う乾いた音が響いている。現在ここでは明日香ちゃんとカレンによって、手にする木槍と棒の打ち合いが行われているのだった。二人とも真夏の日差しに汗びっしょりになりながら、槍と棒を打ち付け合う。

「そろそろお晝ですから、今日はこの辺にしておきましょう！」

「やったあー！　訓練が終わりましたぁぁぁ！」

「午前中だけとはいえ、こうしてをかしっぱなしというのは、相當キツいですね！」

カレンは、タオルで汗をぬぐいながらやや疲れた表で笑みをらす。実技実習の時間には、救護所で待機しているケースが多かったので、フルにこうしてをかす経験は聡史たちのパーティーに參加してからであった。

それにしても、こうして実際に明日香ちゃんと打ち合ってみると、自分の力がいかに不足していると気付かされている。

同様にタオルで汗を拭いている明日香ちゃんはというと……

「はあ、それにしても疲れましたぁぁ！　カレンさんとの打ち合いならまだマシですけど、桜ちゃんが相手だと本當に死にそうになります！」

「明日香ちゃん！　疲労回復にとっても効果がある飲みがありますよ！」

「ヒィィィ！　絶対に嫌ですぅぅ！　カレンさん！　どうかお願いします！」

桜がポーションを取り出そうとする気配を察知した明日香ちゃんは、鳥を立ててカレンにしがみついている。あんな苦くてトラウマを植え付けるような得の知れない飲みよりも、カレンの回復魔法のほうが斷然いいのだ。苦くないだけでなくて、心ともに癒される心地よい覚が全を包んでくれる。

「はいはい、わかりました！」

桜の魔の手を逃れようと自分にしがみついている明日香ちゃんに、カレンは笑いながら回復魔法を掛ける。怪我だけではなくて疲労までこうして回復してくれるから、明日香ちゃんとしては大変ありがたいのだった。もう二度とポーションは口にしないと、巖よりも固く決心している。

昨日とは打って変わって、魔法學院には生徒の姿が數えるほどしかない。ほとんどの生徒が、場再開となった大山ダンジョンに朝から向かって、その姿が出払っているのだった。

その分聡史たちは、広い場所を生かして朝から訓練に勵んでいる。土日に秩父に出掛けたので、こちらのダンジョンが再開したからといって早々にがっついてアタックする必要をじていなかったのだ。

今日は午前中を訓練に充てて、晝食をとってからゆっくりダンジョンへ向かう計畫を立てており、晝食時間に食堂に集合となっていた。三人が屋外の訓練場から食堂へと向かうと……

「おや？　鈴ちゃんは顔が苦り切っていますが、どうしたんですか？」

「魔法の練習で半分以上魔力を消費したから聡史君から魔力回復の飲みをもらったんだけど、これがまたとんでもない味で……」

「鈴さん！　私の気持ちを分かってもらえましたか？」

カレンのおかげでポーションからグッバイした明日香ちゃんは、ちょっとだけ上から目線で鈴に語り掛けている。鈴が舌を出して苦さと戦っている姿が、ほんのちょっとだけ嬉しい明日香ちゃんであった。

◇◇◇◇◇

こうして午後から、パーティーは４日振りに大山ダンジョンへと場していく。

「本當にゴブリンばっかりで、お金にならないダンジョンですよねぇ！」

秩父で味をしめた明日香ちゃんがぼやく聲を聴きながら、一行は前回早々に切り上げざるを得なかった３階層に降りていく。

せっかく得た神聖魔法を封印されたカレンは、世界樹の杖を握りながら歩いている。もしも機會があったら、この杖でゴブリンをブッ叩こうとかに考えているのだ。世界樹の杖を棒切れ代わりにしようとは、恐れ多いにもほどがある！

こうして３階層で登場してくるゴブリンの上位種を倒していくが、明日香ちゃんが何かに気が付いたかのように口を開く。

「桜ちゃん！　そういえばこのところ全然レベルが上がらなくなっているですが、一どうなっているんでしょうか？」

「明日香ちゃんのレベルは、いくつになりましたか？」

「今はえーと、１８ですね！」

「おやおや、いつの間にかずいぶん上昇していたんですね！　大２０近くまではレベルはグングン上昇しますが、そこから先になると必要経験値が上がりしますから、ゴブリン相手では中々上がらないんですよ！」

「そうだったんですかぁぁ！　全然知りませんでしたぁぁ！」

明日香ちゃんは、ダンジョンに関して本當に無知であった。こういう重要な報すら全く知らぬままにここまで來ていたのだ。もし桜と出會わなければ、おそらく落第は確実であっただろう。人間としては悪い子ではないのだが、冒険者としては々と失格な點が多すぎる！

「聡史君！　ということは、私たちはこのままゴブリンだけを相手にしていられないということかしら？」

「そうだなぁ……　もう卒業でもいいかな」

「お兄様！　そうと決まれば、これから４階層に出向きましょう！　新たな種類の魔と戦うのがいいと思います！」

本當は、単に桜が早く下に降りたいだけであった。

桜の意見はともかくとして、聡史は鈴に念のために尋ねる。

「４階層はどんな魔が出るんだ？」

「ゴブリンジェネラル、コボルト、グレーウルフ、それから極稀にオークね」

「ゴブリンの上位種に、犬と狼とですか……　はぁー、オークは上位種じゃないと大して味しくないんです」

桜は魔ンラインナップを聞いてガックリしている。先日隠し部屋でゲットしたオークジェネラルのはすでに金曜日に自宅に持ち帰り、母親の手で極上のトンカツになって桜のお腹に収まっていた。鈴とカレンも、オークジェネラルのとは知らずにペロリと味しくいただいていた。

それにしても、桜の魔の呼び方は……　確かに言われてみれば、コボルト＝犬、グレーウルフ＝狼、オーク＝……　ちょっと待とうか！　ってなんだ？　そこはせめてブタだろう！　ブタをすっ飛ばしてって……　完全に食材としか見ていないじゃないかぁぁ！　はぁ、こっちがため息をつきたくなってくるが、まあ桜だから仕方がないと諦めよう。

こうして話がまとまったので、桜を先頭にしてパーティーは４階層へ降りていく。

「まさか１年生ので４階層に來るとは、思ってもみなかったわ！」

「鈴さん、私も同です！　このパーティーは、絶対に何かが違います！」

鈴とカレンが、本音ぶっちゃけトークをわしている。通常は２年生にならないとこの階層まで下りてくる能力と度がに著かないものだが、平然と階段を下りる桜の後ろ姿を見ていると、これもアリなのかと思えてしまうから不思議だ。

階段を降りた直後……

「明日香ちゃん！　グレーウルフです！」

「お任せください！」

秩父で散々相手にしてだけあって、明日香ちゃんは型通りにグレーウルフを橫薙ぎで壁に叩き付けて、きを止めてからとどめを刺す。

「明日香ちゃん！　コボルトです！」

「お任せください！」

コボルトは、ドーベルマンを擬人化したような魔だ。犬型の頭で獰猛な牙を剝き出しにして襲い掛かってくる。しかも、右手には短剣を握っているから、油斷のならない敵だった。

カンカンカンカン！

明日香ちゃんはコボルト相手に、カレンと打ち合う程度の余裕の表で槍を合わせていく。

「ここです！」

トライデントが相手の腕を払うようにいて、コボルトが持っている短剣を弾き飛ばすと、あとはもう止めを刺すだけの簡単なお仕事であった。

「明日香ちゃんは、腕を上げたなぁ！」

「へへへ、お兄さん！　桜ちゃんのきに比べたら、止まって見えますから！」

秩父では、グレーリザードやクレーウルフを相手にして見事な槍捌きを見せていたが、こうして武を持つ魔を相手にして圧倒するとは、聡史の目から見ても明日香ちゃんの長は明らかであった。

それだけ日ごろの桜との猛訓練が実を結んでいる証明でもある。

「明日香ちゃん！　ゴブリンジェネラルです！」

「はい、お任せください！」

これもまた、コボルト同様に簡単にねじ伏せている。明日香ちゃんは、どこまで行ってしまうのだろう？

「明日香ちゃん！　オークです！」

「はい、お任せ……　ちょっと待ってくださいぃぃぃ！」

さすがにオークの格を見たら、明日香ちゃんにもストップが掛かったようだ。危ない危ない！

オークは聡史よりも上背があって、橫幅は２倍では利かない。重はおよそ２００キロ、大型力士同様の格でパワーが並大抵ではないのだ。目の前に現れた巨漢ともいうべきその格を見て、明日香ちゃんは涙目になっている。

「鈴！　魔法だ！」

「はい、聡史君！　ファイアーボール！」

鈴の魔法は、オークの足元を狙っていた。床で発させて下半にダメージを與えれば、オークのきを止められると、彼自が判斷していた。

ドカーン！

ブモォォォォ！

狙い通りにオークの足元で発したファイアーボールは、片足を吹き飛ばした。オークはその巨を支えられずに床に膝をついてけなくなっている。

「明日香ちゃん！」

「はい、行きます！」

そこへトライデントを構えた明日香ちゃんが殺到する。首元に槍を突き立てると、バチバチと電流が流れて、さしものオークも絶命した。

「やりましたぁぁぁ！　ついにオークを倒しましたぁぁぁ！」

天井に向けてトライデントを突き上げる明日香ちゃん！　その歓聲が、通路にこだまする。

「鈴さん！　ありがとうございました！」

「私はちょっと手伝っただけよ。明日香ちゃんは、すごいわ！」

「えへへ、そ、そうですかぁ？」

褒められると舞い上がってしまう明日香ちゃんは、ここでも健在だ。このお調子者め！

こうしてオークを仕留めて喜びに沸く明日香ちゃんたちを橫目に、桜はドロップアイテムに向かっている。

「はぁー、やっぱりでしたか……　お母様に頼んで、らかく煮込んだ角煮でも作ってもらいましょうか」

ちょうどその聲を鈴が聞きつける。

「桜ちゃん！　本當にオークのなんて食べられるの？」

「おや？　鈴ちゃんやカレンさんも、土曜日の晩ご飯で味しそうに食べていたじゃないですか？　トンカツ味しかったでしょう？」

「ま、まさか……」

「さ、桜ちゃん！　あのトンカツの正っていうのは？？？」

「この前隠し部屋で討伐したオークジェネラルに決まっているじゃないですか！」

「「ええぇぇぇぇぇぇぇ！」」

今度は鈴とカレンの悲鳴が通路に響くのであった。

最後までお付き合いいただいて、ありがとうございました。続きの投稿は、明日を予定しております。どうぞお楽しみに！

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