《ウイルター 英雄列伝 英雄の座と神代巫》12.Truth or dareゲーム ③
のぞみはどうしてもヌティオスの腕が気になってしまい、話題を変える。
「ヌティオスさん、手の怪我は大丈夫ですか?なかなかひどい傷ですね」
自分の折れた腕を見て、ヌティオスは平然と言う。
「ああ、これか?たいしたことはないぞ。手の一本くらい、しばらくは折れていても平気だ。源(グラム)を循環させればすぐに治るからな。ほら」
ヌティオスは他の三本の手を使い、ゴキッと音を立てたかと思うと、無理やり折れた右下の腕の骨を元の向きに治した。それから、源を折れた腕に集める。右下の腕が緑のを纏ったかと思うと、みるみるうちに痛々しかった傷口が修復されていった。
「なるほど、知識としては知っていましたが、『気癒(きゆじゅつ)』というスキルですね?やっぱり闘士(ウォーリア)の方々はみんな、そもそものの素質が丈夫ですね」
闘士は質的に、他の屬の人々よりもが丈夫にできており、回復力だけでなく、ダメージや毒への耐に恵まれている。さらに気癒を使うことで、循環系に源を流しこみ、細胞の分裂再生の速度を一般人の數倍にまで引きあげることができる。このスキルを使うことで、傷や炎癥といった軽度の傷病を治癒できるだけでなく、強い源を使うことができれば、癌などの難病を治すことも可能だ。
腕が折れているという時點で痛々しく、それを源で無理やりに治癒させるのだから、本當はかなりの痛みを伴うはずだろう。のぞみはヌティオスの荒々しい治療を目の當たりにして、し青ざめる。闘士の世界がこれまで生きてきた世界とは違う常識でり立っていることを再認識させられた。そして、この世界で生きていくと決めたのだと自分に言い聞かせる。
「そういえば、ホームルームはいつもこんな雰囲気なんですか?」
「そうだ。日によっては格闘技の撃ち合いもする。ホームルームだけでなく、トヨトミの授業ではクラス全員をランダムに二つのチームに分けた対抗戦もあるぜ」
「授業でも負けたら罰ゲームをけるんですか?」
「ああ、青とかいう気絶するほどまずい謎のジュースを飲むとか、一日中、クソ可いキャラクターのお面を付けて授業をけるとか、トヨトミが著ている大道蕓人みたいな服で過酷な鍛錬プログラムをけるとか、その時々だけどな」
「あはは。それ、みんなは素直にけるんですか?」
「オレはいつもけるぜ。それより、なんで皆、トヨトミを相手取ると、カゼミのようにイライラさせられるんだろうな?イライラしたら、呼吸も心臓のきもれちまうってのに」
ヌティオスには、人間の多くが持つ恥心や自尊心といったが理解できない。良くも悪くも合理的なのだ。
のぞみはヌティオスの言葉の意味を察し、自分なりの考えを紡ぐ。
「先生は相手の攻撃態勢をれさせるような挑発が上手ですね。おそらく、心苗(コディセミット)に、挑発に耐える訓練をさせたいのかなと思いますが、でも、あれで良いのかどうかは、ちょっと微妙かもしれませんね……」
「負けたら腹は立つけどよ、でも、オレは罰ゲームの罰っていう意味がわからねぇな。青ジュースを飲むとが強くなるし、鍛錬プログラムは、パワーアップのためにけるべきだろ?なんで皆、それを罰だって思うんだ?」
「ヌティオスさんのように考えられたら、みんなもっと強くなれるかもしれませんね。でも、このクラス、なんだか賑やかで楽しそうです」
教室の一角でのぞみがヌティオスと穏やかな會話をしているとき、義毅(よしき)と綾(れい)はまだ、ソードの打ち合いを続けていた。綾がどんなに全力でソードを押しつけ、ハイスピードの斬撃を連続で繰り出しても、義毅は押し返し、斬撃を躱す。
「うーん、惜しいなぁ、風見(かぜみ)」
時間の経過とともに怒りのボルテージが頂點へと上りつめていく格の綾は、なかなか自分を鎮めることができない。正常でない神狀態で、一瞬の隙ができ、防の緩みを突くように、義毅の刺撃が綾のヘルメットに當たった。
「よーし!一本!」
「くっ!!」
燃えさかる炎のように怒る綾は、呑気に立ち上がったヘルメットの花を掌で叩きつけるようにして押さえる。そして、義毅を睨みつけながら、迷いなくスカーフリングを外した。
「次こそ……」
「おいおい風見、まだ質問してないぜ。年頃のが簡単にぐんじゃねぇよ」
「ハッ。どうせまたしょうもない下ネタやろ?聞く価値もないわ」
獲を捕らえる前の獣のような目をした綾を、義毅は顎をさすりながら観察する。そして、つまらなさそうにステージから教室を見下ろすと、一人の心苗を指差した。
「さて、そろそろ代するか。不破(ふは)、変わってくれ!」
「はいはーい!俺様も風見とやりたかったんだ!」
修二は慣れた様子で安請け負いし、ステージに上がる。
「おーい、誰かそっちにあるヘルメット取ってくれ」
狐耳のメリルが、教卓の棚からヘルメットを取り出す。
「トヨトミ先生、投げるヨン!」
メリルは片手で砲丸投げのマネをして、義毅に向かってヘルメットを投げる。高速で投げられたヘルメットを、義毅はバシリと右手でけ取った。
「メリル、サンキューな!さ、不破」
義毅は嬉々としてヘルメットを修二に渡す。
「勝ち逃げするつもりか?」
従順にヘルメットを被る不破を橫目に見ながら、綾は不愉快さを全面にらす。
「風見、戦に善悪はねぇ。どんなに理不盡なことでも、外道なマネをしても、勝った者が絶対なんだ。敗者には選択肢は與えられねぇ。風見。お前は攻撃のテンポが速い。それはばすべきところだな。だがその代わりに息がれると剣筋が雑になって相手に見破られやすい。弱點がわかれば、また鍛えられるだろう?強くなってまたかかってこい」
プライドの高い綾にとって、クラスメイトの前で弱點を突かれるというのは屈辱だろう。だが、指摘は事実であり、義毅は綾の擔任だ。綾は歯噛みして食い下がることしかできなかった。
のぞみは一連のやりとりを俯瞰して、義毅がくだらない遊戯に興じているわけではないということに気付いた。ゲームを通して、心苗がそれぞれ鍛えた果と現在の技量を試しているのだ。
先生と生徒という関係だけでなく、心苗同士も闘競ほどの深刻さを持たずにチャレンジしあい、流できる。きっと今回はとくに、士(ルーラー)という本質を持ちながら、闘士の世界へとりこんだ異である自分を、クラスメイトの一員として迎えいれるための通過儀禮のような意味もあったのだろう。
ついさっきまで、先生との打ち合いで張したり、ふざけた質問やを強いられ恥ずかしい思いをさせられ嫌な気分も味わったが、終わってみると、意外にものぞみは、義毅のことが嫌いでないような気がしてきた。
とはいえ、罰ゲームがこのクラスでは日常的なことであり、さらに辱めをける可能もあるというのは複雑な気分だった。
のぞみの耳に、ゲームへの野次が聞こえてきた。そういえば、今日は新學期初日だというのに、なんの説明もなくゲームだけが続いている。義毅がステージから降りた今、教室にはカオスな空気が漂っていた。
ホームルーム終了を告げるチャイムが響く。
義毅はまだTruth or dareゲームが続いているのをわかっていながら、クラスの指揮権をいつものようにティフニーに譲り、煙のように教室から去って行った。
のぞみは義毅と話すチャンスを摑めずもどかしかったが、クラスメイトと馴染むのに、これ以上、教師を頼っていてはいけないと言われているような気がして軽く息を吐く。そして、扇狀に広がる席の、三段目の真ん中辺りに腰を下ろした。
椅子にかけていると、ようやくし気分が落ち著いてきたので、次の授業の準備をすることにした。のぞみは自分のマスタープロテタスを機に置いて、出席の登録をする。すると、機がり、そのの粒子が集まってノートと教科書が現れる。それらは自的にパラパラとページを繰って、次の授業の始まりの場所で開かれる。予習をしようとのぞみが教科書に目をやったとき、右の方から誰かが近づいてくる気配があった。
「よう!可い子ちゃん!」
紫と黃の混ざったアフロ系ウルフの髪型が最初に目にって、のぞみはすぐに、さきほど自分に質問をしてきたクラスメイトだとわかった。
「あなたは、不破さん?」
つづく
読んでくれてありがどうございます。もし、お想を貰えば幸いです。
毎週定期更新連載しています。よろしくお願い致します。
【書籍化/コミカライズ決定】婚約破棄された無表情令嬢が幸せになるまで〜勤務先の天然たらし騎士団長様がとろっとろに甘やかして溺愛してくるのですが!?〜
★書籍化★コミカライズ★決定しました! ありがとうございます! 「セリス、お前との婚約を破棄したい。その冷たい目に耐えられないんだ」 『絶対記憶能力』を持つセリスは昔から表情が乏しいせいで、美しいアイスブルーの瞳は冷たく見られがちだった。 そんな伯爵令嬢セリス・シュトラールは、ある日婚約者のギルバートに婚約の破棄を告げられる。挙句、義妹のアーチェスを新たな婚約者として迎え入れるという。 その結果、體裁が悪いからとセリスは実家の伯爵家を追い出され、第四騎士団──通稱『騎士団の墓場』の寄宿舎で下働きをすることになった。 第四騎士団は他の騎士団で問題を起こしたものの集まりで、その中でも騎士団長ジェド・ジルベスターは『冷酷殘忍』だと有名らしいのだが。 「私は自分の目で見たものしか信じませんわ」 ──セリスは偏見を持たない女性だった。 だというのに、ギルバートの思惑により、セリスは悪い噂を流されてしまう。しかし騎士団長のジェドも『自分の目で見たものしか信じない質』らしく……? そんな二人が惹かれ合うのは必然で、ジェドが天然たらしと世話好きを発動して、セリスを貓可愛がりするのが日常化し──。 「照れてるのか? 可愛い奴」「!?」 「ほら、あーんしてやるから口開けな」「……っ!?」 団員ともすぐに打ち明け、楽しい日々を過ごすセリス。時折記憶力が良過ぎることを指摘されながらも、數少ない特技だとあっけらかんに言うが、それは類稀なる才能だった。 一方で婚約破棄をしたギルバートのアーチェスへの態度は、どんどん冷たくなっていき……? 無表情だが心優しいセリスを、天然たらしの世話好きの騎士団長──ジェドがとろとろと甘やかしていく溺愛の物語である。 ◇◇◇ 短編は日間総合ランキング1位 連載版は日間総合ランキング3位 ありがとうございます! 短編版は六話の途中辺りまでになりますが、それまでも加筆がありますので、良ければ冒頭からお読みください。 ※爵位に関して作品獨自のものがあります。ご都合主義もありますのでゆるい気持ちでご覧ください。 ザマァありますが、基本は甘々だったりほのぼのです。 ★レーベル様や発売日に関しては開示許可がで次第ご報告させていただきます。
8 62BioGraphyOnline
BioGraphyOnline、世界初のVRオンラインゲーム 俺こと青葉大和(あおばひろかず)はゲーム大好きな普通の高校生、ゲーム好きの俺が食いつかないはずがなく発売日當日にスタートダッシュを決め、今している作業は… ゲーム畫面の真っ白な空間でひたすら半透明のウィンドウのYESを押す、サーバーが混雑中です、YESサーバーが混雑中ですの繰り返し中である。 「いつになったらできるんだよぉ!」 俺の聲が白い空間に虛しくこだまする。 BGOの世界を強くもなく弱くもない冒険者アズ 現実の世界で巻き起こるハプニング等お構いなし! 小さくなったり料理店を営んだり日々を淡々と過ごす物語です 9/27 ココナラよりぷあら様に依頼して表紙を書いていただきました! 2018/12/24におまけ回と共に新タイトルで続きを連載再開します! ※12/1からに変更致します!
8 170選択権〜3つの選択肢から選ぶチートは!?〜
いつもつまらないと思っていた日常に光が差した!! これは努力嫌いの高校生がチートによって最強への可能性を手に入れた物語 主人公進藤アキ(男)は受験生なのにろくすっぽ勉強もせずに毎日遊んでいた結果大學には1つも受からなかった… だがアキは「別にいっか」と思っていた そんなある日どこに遊びに行こうかと考えながら歩いていたら今まで見たことない抜け道があったそしてくぐると 「ようこそ神界へあなたは選ばれし人間です!」 そこには女神がいた 初めて書く作品ですので間違っているところや気になる點などんどん教えて下さると嬉しいです♪ 暇な時に書くので投稿日は不定期です是非読んで下さい!
8 112ぼっちの俺が異世界転生したら女性ばかりでハーレム!?
高校生2年生の孤堂 一真(こどう かずま)は、學校では友達がいないぼっちだった。 一真も友達と遊んでいるよりもアニメを見ていた方が楽しいと思うオタクだった。 ある日、自転車で學校から帰っていると突然曲がり角から車が走ってきて死んでしまう。 女神によって転生された先は、男女比率が1対9の世界だったのだ!
8 89S級冒険者パーティから追放された幸運な僕、女神と出會い最強になる 〜勇者である妹より先に魔王討伐を目指す〜
ノベルバのランキング最高10位! 『ラック』というS級幸運の能力値を持った青年ネロは突如、自分のことしか考えていない最強のS級パーティ『漆黒の翼』からの戦力外通報を告げられ、叩き出されてしまう。 そんなネロは偶然にも腹を空かした赤髪の女神(幼女)と出會う。彼女を助けたことによりお禮に能力値を底上げされる。『女神の加護』と『幸運値最強』のネロは授けられた贈り物、女神とともに最強を目指す旅へとーー!! 勇者の妹より先に「魔王」の首を狙うハイファンタジー。 ※第2章辺りから急展開です。
8 177闇夜の世界と消滅者
二〇二四年十一月一日、世界の急激な変化をもって、人類は滅亡の危機に立たされた。 突如として空が暗くなり、海は黒く染まり始めた。 それと同時に出現した、謎の生命體―ヴァリアント それに対抗するかのように、人間に現れた超能力。 人々はこれを魔法と呼び、世界を守るために戦爭をした。 それから六年。いまだにヴァリアントとの戦爭は終わっていない…………。
8 176