《ウイルター 英雄列伝 英雄の座と神代巫》32.五人五晝食會 ②
「あの二人は好きにさせとけ。元々、地球(アース)界の日本人じゃねぇからな」
荒々しい聲の主は、黒須京彌(きょうや)だった。その後ろからやってきた、髪のをオールバックにしたクールな印象の男子心苗(コディセミット)が靜かに席に著いた。島谷真人(しまたにさなと)だ。二十歳を超えている二人が來ると、一気に大人びた雰囲気のテーブルになった。
「黒須さんと、島谷さんですね」
「神崎、遠慮なく座れよ。先の授業では初音が世話になったじゃねぇか?」
「え?あぁ、池に落ちてコースアウトしてしまったときのことですか?」
黒須が口火を切ったことで、初音も頷き、頭を下げた。
「改めてお禮をさせてください。神崎さんのおかげで、何とか今日のコースを乗り切りました」
いつも暗い顔の初音は人間関係が苦手なようだが、同じ出國のグループにっているところを見ると、芯は悪くないのだろう。
「いえいえ、お構いなく。コースアウト仲間として、手を貸しただけですから」
のぞみは慌てて手を振った。
悠之助は自分の席からテーブルの反対側にいたのぞみの目の前まで跳んできて、さっと席を引く。
「さあさあ、食事にしましょう?このテーブルはみんな、地球界ヒイズル州の出ッス。ここが神崎さんの席ッスよ」
豪快な口調でう悠之助とは違い、真人は鋭くのぞみを見つめる。しかし、表を変えないままで、「どうぞ」と言った。
「では、お言葉に甘えて」
のぞみは周囲の顔を見回して、気を落ち著けてから椅子に腰かけた。
先に注文した五人分を、ニンモーが運んでくる。豚カツ定食にハヤシライス定食、焼き魚と唐揚げ定食、カツ丼定食と、地球界の食堂と変わらないラインナップと味の料理が各人の前に並ぶ。それらはすべて、分子合によって作られた食材を調理したものだ。スタミナの消耗が一般人の比ではないため、どれも特盛りになっている。
食事中、京彌はずっと疑問に思っていたことをのぞみに問いかけた。
「神崎、お前、元々士なんだろ?なんでわざわざハイニオスに転したんだよ」
悠之助も話に乗っかかる。
「あ!それ自分も気になってました!しかも、フミンモントルでは績も優秀だったんでしょ?なんでわざわざこんな、士に不向きな場所に乗りこんできたんッスか?」
のぞみは手のひらを口の前に當て、さっと食べものを飲みこんだ。
「私のとある知人が闘士で、彼は地球界の武恒武大會で三連覇を獲りました。私は彼への憧れから、闘士の修行をけたいと思って、ここに來ました」
純粋で、大膽で、無計畫で、愚かで。
しかし、らしい儚い思いに突きかされてハイニオスにやってきたのぞみの話を、全員が驚きを持って聞いていた。
初音は目を真ん丸にして聞きっており、悠之助はからからと大聲で笑っている。
「あははは!マジっすか!?神崎さん、やっぱすげー面白いッス!ね、黒須さん?」
意見を求められた京彌は、しかしのぞみの話に衝撃をけたせいか、いつもの荒っぽい口調もなりをひそめ、表も妙な合に変わっていた。
「そう、だな……」
「ああ。黒須さんはね、こないだの冬休み、自分試しのために地球界の武恒武大會に出場したんッス」
「そんなことがあったんですか?」
地球界の武恒武大會と聞くと、のぞみは反的に遼介(りょうすけ)のことを考えてしまう。どんなに遠回りでも、彼にまつわる話であれば聞きたかったし、それだけでし幸せだった。
興味津々な様子ののぞみだが、京彌は時が止まったように黙っている。すると、悠之助がにやけながら事の顛末を話しはじめた。
「ま、結局、予選で一撃食らって負けちまったんッスけどね?黒須さん?」
京彌は耳を赤らめ、小さな聲でぼそぼそと言い訳を口にする。
「……年下の中學生相手だと思って、油斷しちまっただけだぜ」
「たしかに、地球界の武恒武大會は年齢もランクも制限なしですよね。武の師範の子孫が年でも出場することがよくあります。赤ん坊の頃から源気(グラムグラカ)の修行をけてたって、お聞きしたことがありますよ」
のぞみは京彌の結果には頓著していなかった。
それよりも、地球界の話題が出たことが嬉しくて、つい饒舌になっていた。
「あははは!黒須さん、そんなのが相手だったなんて、ツいてないッスね!」
悠之助は笑いながら、ムッツリ顔の京彌の背中をバシバシと叩いた。
京彌は聖學園(セントフェラストアカデミー)の心苗となってから源気の扱いを習得した。地球界の武恒武大會に出場すれば、決勝までいくんじゃないか?そんな思いをに出場を決めたが、予選の一回戦で相手に瞬殺された。京彌にとってその記憶は汚點でしかない。
クラスメイトにもっとも知られたくないを言いふらされ、恥ずかしさが怒りに変わった京彌は大聲で言い返す。
「うっせぇよ!吉田!お前こそ、挑戦闘競の數がなすぎるだろうが!え?々しい男闘士(ウォーリア)なんて、見てらんねぇよ!」
「えー?そッスか~?上位軍団の必死すぎる爭いとか、自分には合わないッス」
績評価45位の悠之助は気楽に言った。
京彌が不機嫌になったせいで、テーブルの空気が不穏なものになってしまい、のぞみは発言しづらい狀況になった。空気をれ替えるように初音が聲を出す。
「神崎さんは、憧れのためだけに、ハイニオスに転してきたんですか?」
「いえ!それだけではありません」
よくぞ聞いてくれたとばかり、のぞみはしだけを張る。
「私は、自分の可能を広げるために、ここに來ました」
勇気を出したその一言に、周囲はさらに複雑な空気を纏う。
「どんな理由でも構わん。才能が、あるかないか。あったとして、開くか、開かぬかだ」
終始、沈黙を貫いていた真人がついに口を開いた。
鋭い目つきでのぞみを注視していた彼は、どうやらまだ、のぞみを同じ闘士の一員としては認められないようだった。
のぞみの言葉は、初音の心に深く響いていた。だが、生まれもっての屬に合った環境から、わざわざ過酷な場所に移ってまで修行をしたいと思う気持ちがどうしても理解できない。
真人の言葉でさらに靜まりかえった一同のなか、初音はのぞみに問いかける。
「私なら、士のままでできることを考えたと思います。ハイニオスの修行は士にとってひどく厳しいと思いますが……?」
「はい、でも、頑張ります!」
賛同を得られているわけではないとわかっていたが、それでものぞみは自分の気持ちに忠実だった。朗らかな笑みは、同じテーブルに座る心苗たちにそれ以上の追及を許さない、信念の力強さをじさせた。
白けた顔の真人、傷心の京彌、困したままの初音は言葉もなく黙っていた。テーブルの雰囲気は最悪だったが、悠之助は「あははは」と笑い始める。
「まあ、訓練さえ乗り越えれば何とかなるッスよ。神崎さん、同じヒイズル出同士、助けが必要なときは遠慮なく言ってくれていいッスからね!」
悠之助の言葉に、のぞみは悩みを打ち明けた。
「実はちょっと、困っていることがありまして……。皆さん、どこかの門派に所屬されてますよね?私、昨日までに七つの門試験をけて、全て失格になったんですが、門試験ってやはり、難しいんでしょうか?」
プライドを捨て、自分の恥部をわにするのぞみに、悠之助は笑って答える。
「えー?ボクのときはそんなに苦労しませんでしたけどねぇ。黒須さんとか島谷さんはどッスか?」
曖昧に答えると、悠之助は京彌と真人に振った。
「まー、俺は元から喧嘩に強えーからな。高速パンチで『參宿(しんしゅく)・詠春門(えいしゅんもん)』は一発だったぜ」
京彌は自慢げに答える。
「すごいですね。私は拳法などの実戦経験がないんですが、初心者でも門できるような門派はあるでしょうか?」
のぞみの言葉は、決して闘士が口に出さないものだった。弱さへの甘えがある。そこに、真人が鋭く斬りこんだ。
「神崎さん。どこでもいいからって気持ちで臨んだ試験、本當にかるって思ってる?」
その言葉は、もっとも直視したくなかった自分の弱みを明らかにするものだった。それでも、のぞみは真人に向き合った。
「君はたしかに転學試験に合格したみたいだね。それは、基礎スキルの項目で平均點を取ることができている、というだけのこと」
バサリ、バサリと一歩ずつ踏みこむように、真人はのぞみを斬り捨てていく。
「君も知っているように、門派にはそれぞれ特がある。心苗(コディセミット)は自分の持っている才能のうち、何を生かしていくかを考えなければならない。そして、その才能がきちんと発揮されているかを見るのが門試験だ。手當たり次第にけて當たればラッキーという類いのものではない」
言いたいだけ喋った真人(さなと)はまた黙ってしまい、のぞみは眉をハの字に下げる。
「そうですね……。やっぱり、私の勉強不足が原因です。でも、このままでは門派の稽古時間が空白になってしまいます。一人での自主練といっても、修行の仕方すらわからなくて……」
のぞみは焦っていた。門派の門試験はからない。クラスメイトとの実力差は広がっていく。早く門派を決めなければ皆に追いつくどころか、どんどん引き離されていく。考えていても実力はつかず、のぞみは困り果てていた。
「神崎さんは剣が多できるんッスよね?それなら、剣寄りの門派の試験をけてみたらどッスか?多合格率は上がるかもッス」
つづく
読んでくれて嬉しいですが、星と評価と想をいただければ幸いです。
次回も晝食會の続きです、よろしくお願いいたします。
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