《【書籍化】傲慢王でしたが心をれ替えたのでもう悪い事はしません、たぶん》伯母の來訪 ②
突然追い出そうとするかのようなリュークを問い詰めれば、彼の親戚のおば様が來訪されるという。
「え? それならちゃんとご挨拶をしないとじゃない」
ご両親が亡くなられていて、そのうえ一人息子。
彼の親戚は遠方に住んでいる人ばかりなので、実際に會うのは初めての事だ。今後の事を考えてもちゃんと良好な人間関係を築かなければね。
ふふん、わたしだってそういうのが大事なのはちゃんと分かってるんだから。
「何か失禮な事をしでかすとでも思ってるの? 大丈夫、禮儀正しく振る舞えるわよ」
リュークは首を橫に振った。
「そちらも大変に心配ですが……。彼はかなり獨特の人生観をお持ちで、決めつけが強いタイプです。もしかしたら不用意な言葉で貴方を不快にさせるかもしれません。しかし仮にも母の姉妹ですし、他に事もありまして私の方から強く注意することは難しいんです」
「他の事ってもしかして、ドリカ・クライフ伯爵夫人の領地から鉄鉱石を買いれてる事?」
「……ええ、そうです」
バルテリンクはいくつかの國と隣接した領地で、有事の時には一番の防波堤になる。
當然、武や防もたくさん必要なのだが、ここで問題が出てくる。
主な材料となる鉄の原料として鉄鉱石が必要となるのだが、バルテリンクには鉄鉱山が無い。地下資源としてとても貴重な魔石を膨大に保有していながら、逆にいうと『それしかない』のだ。
となると必然、別の領地から鉄鉱石を仕れなければならないのだが……。
「バルテリンクの鉄鉱石は、そのほとんどがクライフ伯爵領からの買いれに頼っている。夫人の機嫌を損ねて取引を中止されでもしたら大打撃をけるものね」
バルテリンクは國の中央から遠く離れた僻地にある。
王であるわたしであっても、そう簡単に大量の鉄鉱石を運ばせる事は出來ない場所だ。
もちろん権力を振りかざしクライフ伯爵領や周辺地域に強制命令を下せば話は別だが、あれは有事の際の切り札であって、日常的に便利に使えるものでは無い。殘念なことに。
「王である貴方に、滅多な事では無禮は働かないとは思いますが……。とにかく、直的で後先を考えない方なので安心は出來ません」
ふうむ。バルテリンク領主のリュークが、頭が上がらない相手。
……それは味方にできたら面白そう。
(この澄まし顔が何歳までおねしょをしてたのか聞いてやろうかしら)
「ふふっ、いいじゃない! それは是非ともご挨拶しなきゃね!」
「……なんですか、その急なやる気は。ろくでもない事を考えてませんか?」
そんな會話をしていると、今度は従僕であるヒリスまでがやってきた。
彼はリュークよりも何歳か年上のはずなのに、カラッとした明るい格と軽い腰のせいであまり年長者というじがしない。
「リューク様、無事王様は追い出せましたか……って、まだいらっしゃった!?」
「いらっしゃるわよ。何か悪いかしら?」
「い、いえ滅相も無い……」
追い出せたとはなんだ、追い出せたとは!
じろりと睨むとヒリスは震え上がった。 一方リュークはわたしをなだめることもなければ、ヒリスを諫めようともしない。薄者。
「あのう、まさかと思いますが」
恐る恐る聞いてくるヒリスに、を張って答えた。
「ドリカ・クライフ伯爵夫人なら、わたしも一緒に出迎えるわよ」
リュークは早々に説得を諦めたらしく、特に何も言わない。
そしてそれは正しい。わたしはすっかり出迎える気満々になっていた。
「え、でもリューク様……。あ、いえ、わかりました。何でもありません」
ヒリスは何か言いかけたが、彼の主が冷たく睨みつけるとすぐさま口を閉ざした。
「しかし……もしそうするのなら夫人からいちゃもんをつけられないよう、完璧に過ごして頂く必要がありますよ」
どうやらドリカ・クライフ伯爵夫人は相當禮儀に厳しい人のようだ。
だけど自慢じゃないが、わたしだって禮儀の最高峰ともいえる王宮で生まれ育ったのだから、いざという時の作法には自信がある。
……アンに叱られているわたしはあくまで仮の姿。本當よ?
どんとこいという気持ちでヒリスを見返すと、彼は満面の笑みでこう言った
「そうですねえ、夫人は旦那様とは常に寄り添って行されているらしいですし……。対抗するわけではありませんが、夫人がいらっしゃる間だけでもリューク様と手を繋いて行されてはいかがです?」
「……何を言っているの? ちょっと意味が分からないわ」
わたしは思わず顔をしかめた。
「いやいや、俺は真面目に言ってるんですって! なんせ貴族でありながら結婚をされたほどですからね。リューク様の將來の伴についても非常に心配されてましたいらっしゃったんです。しでも仲が悪そうな所を見せたらたちまち大反対してきますよ。絶対です!」
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