國立博館の敷地に、黒いリムジンが到著したのを見て警護に當たっている警察が張する。

高級そうなリムジンのドアが開くと、そこから一組の男が降り立つ。警備を擔當している警察はその二人をみてし驚いた。

1人は銀髪、榛の眼を持った白で細の男だ。服裝はラフで、トレーナーにジーンズ……そしてスニーカーを履いている。顔立ちは良いが、長は一七〇センチメートル程度か日本人男としてはそれなりの背格好だ。しかしどうやってあの髪にしているのだろうか？　あまりに鮮やかな銀髪に違和をじる。

そしてもう一人のを見たときに、警察達はそのしさに息を呑む。

夜風に吹かれてさらさらと流れる長い黒髪は夜の闇を凝したような輝きを、この世界に神がいるのであれば嫉妬するであろうしい整った風貌、大き目の、らかな首筋、膝よりし短いスカートから覗く白い素足、雰囲気にそぐわないゴツいブーツ。

そして鞘に収められた長めの刀を腰に刺した、制服姿の子高生が博館のり口へと歩いてくるのを見て、どうしてこんな場所に子高生が來ているんだ？！　と驚きを隠せない。

「あっ……あなた方は？　ここは封鎖命令が出ています、危険ですよ！」

現場を指揮する格の良い警察が二人へと近づく。男の外見もしいが、子高生が特にしすぎる……警察はし気後れをしながら二人を観察するように見る。いざとなったら力づくでもこの二人を排除しなければいけない。

「ＫｏＲＪの者です。お話は既に聞かれていますでしょうか？」

「ああ、こちらに來ると……ヒッ」

子高生が警察の問いへと返答する。意思の強そうな眼が警察を貫くように見據える。その時警察は思った、生として……この可憐な子高生にすら自分が勝てない、と。警察は腕にはそれなりに自信があった、警察剣道でも格闘技もかなりの腕前だと自負していた。しかし……目の前の子高生、そして銀髪の男は何か違う。

が軽く震え……思わず敬禮をして、二人を通してしまう。早く……早く行ってくれ……。

子高生がお禮の代わりに軽く頭を下げて、髪を靡かせて博館へと向かう。黙ってその後ろをついていく銀髪の若者。

彼らが橫を通ると張と恐怖が警察を包み込む……生としての格が違う。

心臓が恐ろしい勢いで鳴っている……本能的な恐怖でがすくむ、と言うのはこう言うことだろうか。その様子を見ていた若い警察が慌てて走ってくる。

「ど、どうしたんですか？先輩……」

格の良い警察はどっと吹き出す汗を隠さずに、腰砕けになりながら後輩の警察へと答える。

「あれは……ヤバすぎる……俺、まだ生きてるよな？」

震える先輩を見て、後輩の警察は訳がわからずに肩をすくめるのだった。

「さて……日本での初仕事は楽しみだなあ」

博館の中へとると、狛江さんがしをばしながら獨り言を呟く……さっき車の中でも結構一人で喋ってて案外おしゃべりな人なんだな、としだけ心する。

この博館は二階建ての作りになっており、効率よく仕事を進めるには分かれて行した方が良さそうだ。

そして……私はこの狛江さんという人が非常に面白い能力の持ち主だとじている……はっきり言えば人間だけど人間じゃない。

何を言っているかわからないと思うが、説明が必要な能力なので一旦はその部分は置いておくことにする。

「狛江さん、分かれて行しませんか？　お互い危険な狀況になったらヘルプを出すと言う形で」

「いいですよ、僕の能力は個人戦闘向きなので新居さんを巻き込んでしまうかもしれませんでしたから、そのほうが好都合です」

私は頷くとにっこり笑って狛江さんに親指を立てる……そんな私の気持ちを理解したのか彼も笑って親指を立てると、お互い分かれて歩き出す。

私は博館の階段を上がり、二階の展示室へと侵する。り口の橫に、警備員の頭を潰された死が転がっている。死後し時間が経過しているか……あたりに飛び散ったは乾き始めている。顔も知らない警備員だが、この人にも生活や人生があったろう。降魔被害(デーモンインシデント)は一般的には表沙汰になっていない、この人の死は……事故として処理されるだろう。

ご冥福を……私は軽く警備員の死へと頭を下げると、そのまま奧へと歩いていく。

「見ぃ〜つけた……」

私の視線の先には全に包帯を巻いた巨が立っている……まあ予想通りの呪人(マミー)だ。

顔に巻かれていた包帯は既に破られ、乾燥しきった人の顔が、眼球すらない眼窩の窪みが覗く……その奧に、赤いが宿っている。その右手が赤く染まっている、おそらく警備員を殺した時の痕がそのまま付いているのだろう。

私はゆっくりと距離を測りながら呪人(マミー)へと近づいていく。近づいてくる私に気がついた呪人(マミー)は、その乾燥しきってボロボロの顔を歪めて、この世のものとは思えない不気味な聲で話し始める。

「エクレヴィタヴォ……デュラデュイプ……イェクェスピシブ」

「あなたが何言ってるのかわからない、日本語で喋りなさい」

発音もこの世界の言葉ではないな……かといって前世の言葉だったかな？　まあ、今の私が前世の言葉を聞いても理解できないだろうな。転生前の言葉は私の中で日本語に完全に変換されてしまっていて、昔の知り合いの記憶が全て日本語で喋っている狀態なのだ。

記憶の中の言葉って結構都合が良くできているんだよね。

「ドゥピリス……ムスタス……ドミヒュプ」

「だから……話している意味が分からないわッ！」

私は一気に距離を詰めるように突進すると、居合(イアイ)……ミカガミ流、閃(センコウ)で呪人(マミー)に攻撃を仕掛ける。

が、とても死とは思えない速度で、呪人(マミー)は斬撃を回避する。呪人(マミー)はゆらり、と腕を振りかぶると、凄まじい速度で振り下ろしてきた。この攻撃にモロに當たったら死ぬなあ……と考えながら私は剛腕を飛んで躱し、距離を取る。呪人(マミー)の攻撃は近くにあった品を微塵に破壊する。

あーあ、一応二階にあった品はそれなりに価値のあったものなんだけど……これ後で八王子さんに怒られるパターンだろうか。

私は日本刀を片手で構え腰を軽く落とすと、いつでも飛び出せるような勢をとる。

「ピズドトゥポェメウズロティムス……デュプティプ……イリドゥォ……オゥルモーフィジプドゥシーレス」

歯が剝き出しになった口元を歪め、腕を振り上げて呪人(マミー)が再び前進する。よく喋る死だ……軽い違和……呪人(マミー)の攻撃が単調な気がする。が、考える余裕はなさそうだ。

迫る腕をを回転させて避け、橫凪に日本刀を振るう……鷲獅子(グリフォン)の時に使ったミカガミ流の幻影(ゲンエイ)だ。

タイミングはバッチリ、確実にこのまま相手のを両斷してやる。

日本刀が呪人(マミー)のに食い込む……寸前で金屬音を立てて表面をっていく。腕に凄まじい抵抗をじ、慌てて握る力を緩めて流すようにらせる。

ステップで距離を取り、日本刀を左手に持ち替えて痺れる右手のグローブを軽く外してみる……手のひらが赤く、軽く腫れているのが見える。

間違いない、呪人(マミー)の表面に何らかの形で防結界が展開されていて、手にじた抵抗はそれに日本刀がぶつかっただった。

私の持つ日本刀を確認するが、刃こぼれを起こしていないことにしだけ安堵する。

違和に気がついてすぐに力を抜いたのがよかったな、あのまま振り切ったら折れていた可能すらあるだろう。

この世界におけるイレギュラー魔法か……私は黙ってグローブを元に戻すと再び日本刀を構える。

敵は防結界を表に展開して理攻撃を防している。どの程度強固なのか、は分からないので対処方法は限られてくる。前世の知識で考えると、防結界を打ち破る方法は三つある。

一つ目……結界の耐えられる衝撃以上の攻撃で無理矢理破壊する、いわゆるレベルを上げて理で毆るってやつ。

二つ目……魔法を消滅させるために解除系の魔法を結界にぶつけて対消滅(アナイアレイション)させる。

三つ目……使い手本人を脅したり、納得させて解除させる。

三番目は無理だな、二番目については解除系の魔法なんて私は使えない、魔法の知識なんてものは剣の修行の邪魔だったからな……簡単なものすら使ったことがない。

そしてこの世界で魔法が使えるなんて想像すらしていなかった。

「フィデュドイィス……レプトゥレフィズゥ」

呪人(マミー)が不思議な言葉を唱えると、私の周囲に殺気が漲る……あ、これはまずい……。

私は咄嗟に腕を前に差して防制を取ると魔素が弾けるように散し、目に見えない力が頬、腕、足を切り裂いて私の皮に傷を作っていく。

「あぐ……ッ！」

私はを包む鋭い痛みに耐えかねて蹈鞴を踏んで後退する……戦闘服が切り裂かれ、傷から軽くが流れ出す。

これは……闇司祭(ダークプリースト)達が相手を拷問したり、傷つけて戦意を奪うときに使う魔法切斷(ウーンズ)に非常に似ている。

鎧や服も簡単に切り裂いてに直接切り傷を作っていくので、前世でもかなり厄介な攻撃方法だった……ちなみに前世では悪の組織に捕らえられた姫を拷問しているやつとかがこの魔法に通していて、いわゆるを剝くのによく使われていた記憶がある。

まあ……趣味の悪い魔法だよ、ほんと。

「オゥルゥフェス……デュプメプェセペプ……リィヒィドイソイィ……」

そして予想通りに、この呪人(マミー)は闇司祭(ダークプリースト)をベースに作られている。奴は顎に手を當てて、楽しそうな表を浮かべている。死の顔だが、口元が大きく歪んで笑みを作っていて乾燥した皮がパリパリと剝がれ落ちていくのが見える……私のことを完全に舐めているな、こいつは。

生前は相當にサディスティックな格だったのだろう、そんな格の悪さが滲み出ている表を浮かべているのだ。

「もう死んでるくせに……よく喋る死だわ」

私は頬のを軽く拭うと、日本刀を構え……呪人(マミー)へと対峙する。

_(:3 」∠)_ 異世界言語の文法が難しい……

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