目的の神社は、割と都心から離れた場所にあり山腹に建立されている歴史ある神社だった。

「いい場所にありますね、ここ」

「そうねえ……見學だけならいいのにね」

ヒナさんは苦笑いをしながら階段を登っている。思っていたよりも本殿までの階段が長く険しい。階段の橫に生えている木には時折爪痕や黒いが付著しているのでおそらく本殿に三頭狼(ケルベロス)がいるのだろう。

木製の建や森のある場所で三頭狼(ケルベロス)の炎を吐かせてしまうと厄介だな……とは思うのだが、そこはもうＫｏＲＪの面々に期待するしかないだろう。

しかし神社仏閣はなんていい場所にあるのだろうか。

森の中にあって空気が新鮮なのもあるが、神域というのはどの世界でも荘厳で落ち著いた空間にあるものなのだ。まあ、街の中にある建は別だが、東京都はいえここまで都心から離れると空気が味しいはずだ。しかし私の嗅覚には獨特の臭気……獣臭い匂いが常にじられている。

確かにノエルの記憶では魔王城に近づくに従ってやたらと獣臭い匂いに包まれていき、気分がひどく悪くなった思い出がある。その時は數十がその場にいたからだと思っていたのだが、どうも一頭でもそれなりの匂いがしているものなのかもしれない。

階段を登り終えると、本殿が見えてきて……そのり口に黒い巨が寢ているのが見えた。

私とヒナさんは慌てて鳥居の影に隠れて様子を伺う。三頭狼(ケルベロス)は三つの頭を全て下げて、ぐっすり寢ているように見える。その周りには何かを食い散らかした後……まあこの神社の関係者か何かだと思うが、片などが転がっている。

「人を……食べたのね……」

ヒナさんがし青い顔でその様子を伺っている。そうか、訓練をしているとはいえヒナさんはそれまで素人だったのだから、こういう場所に連れてくるには一言必要だったかもしれない。

「ヒナさん、相手は人を食べる魔です……倒さないと犠牲が増えてしまう」

私は三頭狼(ケルベロス)を起こさないようにヒナさんにそっと囁く。ヒナさんも青い顔をしているが、その言葉には頷いている。まあ、これならば大丈夫そうだ。

私は日本刀を抜き放ち……ゆっくりと鳥居の中心へと立つと三頭狼(ケルベロス)を見つめる。

そのきに三頭狼(ケルベロス)も気がついたのか、3本の頭が目をあけ、こちらを見ると巨を震わせながら立ち上がった。ああ、犬っぽいきだな〜と思いつつ私は日本刀を肩に擔ぐように構えると、前傾姿勢をとる。

「燈ちゃん？」

「ヒナさん、私が相手の注意を引きつけます、援護をお願いします」

三頭狼(ケルベロス)が大きく咆哮を上げる。三本あるからかなりの大音量だ。付近にある鳥居、狛犬がその音量でビリビリと震える。

私の全の筋がぎりぎりと音を立てる。限界まで引き絞られた弓の弦が弾けるように私は前方へと全力で駆け出した。高速で駆け寄る私を見て三頭狼(ケルベロス)が戦闘制にる。彼らの能力は火を吐く、鋭い爪で引き裂く、牙で噛み砕く……あたりだがそのレベルが非常に高かった記憶がある。きも早く本能で戦う生きなので、油斷すると簡単に優位をひっくり返されるケースもあった。

「さあ、まずは小手調といきましょうか！」

私は一気に接近すると軽く跳躍して、ミカガミ流『大瀧(オオタキ)』を放つ。この技は肩に擔いだ剣を前への推進力と落下時の加速力との回転力を利用して縦切りで斬りつける技だ。日本刀が電石火のスピードで一気に振り下ろすが、その攻撃を三頭狼(ケルベロス)は背後へとステップして一気に距離を取り躱した。私の攻撃は神社の石畳をかち割り、轟音をあげて地面を凹ませる。

「あら……思ったより目がいいのね」

私は再び日本刀を構え直す……そこへ一気に突進してきた三頭狼(ケルベロス)の爪が橫なぎに振われる。私は日本刀を使ってその攻撃をけ流し、その勢いを利用してを回転させて橫に薙ぎ三頭狼(ケルベロス)のを切りつけた。日本刀は黒い皮を切り裂くが、三頭狼(ケルベロス)は再び跳躍してその攻撃の威力を消し、私との距離を取る。

黒いからが滴るが、その怪我をものともしない三頭狼(ケルベロス)は前足を描くような作を始め私へと3本の首が別々に威嚇を始める。

ーードクン。

心臓が……一度だけ大きく弾むように脈した。私は奇妙なの反応にし戸うも、日本刀を構え直し……目の前の敵へと集中していく。

『次に來るとすれば……火炎だ』

私の心にふとそんな聲が聞こえ……はっきりと次に三頭狼(ケルベロス)が行うであろう作……火炎を吐く作がイメージとして湧き上がる。し戸ったものの私は日本刀を構えて、相手の首の作に集中していく。三頭狼(ケルベロス)の首は別々のきを始める。

『そうだ、こうして三本の首が違う作で相手をわせて、隙を作る。野生や戦いに慣れていない人であれば、この複雑な首のきに対応しきれないだろう』

誰？　誰の聲なの？　私はし混しながらもその聲が伝えようとする三頭狼(ケルベロス)のきに対応するべく集中していく。今回はどうやら左右の首が囮で……ストレートに真ん中の首から炎を放ってきた。炎というよりは火球だな……私は素直にその場から飛び退いて火球の直撃を防ぐ。地面へと衝突した火球は激しく発し地面を抉る。

『首は同時に火炎は放てない……だから落ち著いてきを見る』

次々と三本の首から火球を放っていく三頭狼(ケルベロス)。ただ、聲の通り複數の首からは火球が放てないようで、その時間差を生かして私は回避に専念していく。

「燈ちゃん！　左を取るわ！」

ヒナさんの聲が響くと、左側の首のきが一気に止まる……いや最低速まで時間の流れを遅くしたのだろう、空間が不気味に歪んだように見えており首はジリジリとこうとしているようだが、強制的に時間の流れが遅すぎてくことができない。違和に三頭狼(ケルベロス)が驚いたように左の首を見ている。

そこへヒナさんがリボルバーを六発全弾速で打ち込んでいく……弾丸は三頭狼(ケルベロス)の左の首の眼前でピタリと止まったように見える。いや弾丸もジリジリと進んでいるのだろうが、私の目には靜止しているようにしか見えない。

「時間作(タイムコントロール)……解除」

ヒナさんの宣言で一気に時がく……魔獣の眼前で靜止したように見えていた弾丸が一気にき出し、六発の弾丸が同時に著弾し魔獣の顔面を潰してが舞う。首が別々に悲鳴をあげて、蹈鞴を踏むように代する三頭狼(ケルベロス)。

左の顔はだらりと垂れ下がり、活を指定しているのが分かる……ヒナさんはリボルバーのチャンバーから薬莢を落とし、ポケットから新しい弾丸を裝填しながら、へと再びを隠していく。

『ここでもう一度大瀧(オオタキ)……首を取ろう』

そこへ、聲に導かれるようにフル加速した私が一気に距離を詰めていく。今は聲の導きの通りにをかしていく。

「ミカガミ流……大瀧(オオタキ)！」

三頭狼(ケルベロス)へ急接近した私は一気に跳躍し、前方への回転力を生かした攻撃で、右側の首を狙い一気に切斷する。に日本刀が食い込む手応え、そして切り裂いていくをじながら私は一気に三頭狼(ケルベロス)の首を切斷する。

『距離をとる……非力な君はできるだけ打ち合いの時間を短くする』

地面への著地と同時に私は、素早く橫へと跳躍し距離を取る。重いものが地面へと落ちる音と同時に三頭狼(ケルベロス)の首が地面へと落下し、切斷面から大量のが噴き出す。悲鳴をあげる三頭狼(ケルベロス)、真ん中の首は私を憎々しげに睨みつけると、反撃の火球を放つ。

『ストレートに放たれた火球は軌道も読みやすい。ステップして避ける』

言葉通りに私は難なく火球を避けると、ジグザグに走って三頭狼(ケルベロス)へと接近していく。連続で放たれる火球も虛しく地面へと衝突して発四散していくが、私には當たらない。

『そうそう、上手い上手い……では頭を蹴り上げて、泡沫(ウタカタ)で止めだ』

「これで終わりよ！」

その言葉通り、私は三頭狼(ケルベロス)の頭を蹴り上げ首を狙い……ミカガミ流泡沫(ウタカタ)……橫薙ぎの一閃を放つと、私の日本刀は最後に殘った首をいとも容易く切斷する。

ぶるりとを大きく振るわせると、全ての首を失った三頭狼(ケルベロス)はゆっくりとを吹き出しながら地面へと轟音を立てながら倒れていく。

地響きがあたりに響き……私は大きく息を吐き出すと、日本刀をくるりと回転させて鞘へとしまう。

「燈ちゃん強いわねえ、見惚れちゃったわ」

ヒナさんがから出てくると笑顔で私に聲をかけてくる。

「いやヒナさんの攻撃もすごかったですね……」

あの時間を靜止させての弾丸を同時著弾させる技……あれは面と向かってやられたら私でも避けれない可能が非常に高い。時間作(タイムコントロール)の発もヒナさんが座標指定して手をかざすだけなので、発もわからなかったら何がなんだかわからないうちに殺されてしまう可能すらある。とんでもない能力だ……。

「さ、今日は帰りましょうか。汗かいちゃったわ」

ヒナさんは笑いながら私の肩を叩く。私もその笑顔に釣られて笑うと、深く深呼吸をすると……今一番したい

「そうですね、いたらお腹減っちゃいました……」

ヒナさんと並んで歩きながら、ふと……あの聲はなんだったのか？　とし疑問が湧き上がるが……一度だけ心臓が大きく鼓した。

ーードクン。

心の奧底で……時折じる猛る魂が私を見たような気がして……背筋が凍りつくような恐怖を覚えて……私は立ち止まる。心の奧底から……とても澄んだ青い眼のような何かが見ている気がした。

しかしすぐにその視線……猛る魂は再び目を閉じていく……。

「……ッ！　この覚は……ノエル？　で、でもどうして……呼び出そうとしていないのに……？」

_(:3 」∠)_ 表現してみて思う、兇悪すぎる能力

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