その畫は誰も気が付かないうちに、ひっそりとインターネット上の畫サイトへとアップされていた。

投稿者の名前は『ｆｏｒｓｅｔｉ』……つまり北歐神話の真実を司る神、フォルセティと名乗っていて、今はこの一本の畫しかアップされていない。

とても遠くからデジタルズームを使って撮影しているらしく、畫質が不鮮明で細かい部分が判別できない。とある繁華街の裏路地……二人の人が戯れるように路地で何かをしている。

畫は酷く手ブレをしている……どうやら撮影者は手持ちでこの映像を撮影しているようだ。

畫の途中で、その二人が驚いたように後ろを振り返ると……畫面の奧から現れた巨大な蛇のような怪が一人へと襲いかかり……頭から噛みつかれ、倒れる人に怪がのしかかる様子が映っている。

もう一人は怯えて座り込んでいるようで、かない。

そこへ、三人目の人影が現れる……その人に気がついた怪はを震わせて、と言ってもブロックノイズになってしまって細かい部分は判別できないのだが、小刻みにいているように見える。

三人目の人影は……何かを考えるような仕草に見える行を取ったあと、一瞬後に腕を橫に振り払うような作で止まる。手には何かを持っているように見える。

その瞬間に怪が切り裂かれ、何かを噴き出しながら倒れていく。その後三人目の人は座り込んでいる人影と何かを話すようなきをしたあと、その場を離れる……畫はぶつ切りで終わる。

誰が見つけたのか、面白い畫だと思ったのか、この畫はクチコミで拡散され始めた。

『路地裏の怪奇！　この時助けられた人は一！？』

『蛇みたいな怪が現代に出現！　これは夢か幻か？』

『三人目の人の謎！　これは男なのかなのか！？』

畫はあらゆるメディアを通じて拡散し、デジタルズームによって生じるブロックノイズを除去しようとするものも現れたが……元々の畫のビットレートも低く、細かい部分の解析までは至っていない。

そう、今はまだ解析はできていない。

『この畫すごいバズってるよ！　どうぜ歴史松の授業つまらないし見よう！』

私の手元にあったスマホに同じクラスのグループチャットの著信が屆く。一斉に他の機に置かれたスマホが振して……授業を進めていた松　雪子先生……通稱歴史松、がその音に咳払いをするも、一応授業は止まる事なく進んでいる。

なんだろう？　と思って授業中だがスマホを開くと、メッセージアプリに畫のＵＲＬが送られてきた。

授業中なんだけどなあ、と思いつつ周りを見るとみんなクラスの生徒たちはスマホを見ている……まあこれなら私一人が槍玉にあげられることはないだろうと判斷し、スマホを作してそのＵＲＬをタップした。

流れ始める畫……私はこの不鮮明な畫を見てふと……違和をじた。そう、し前に私が倒した蛇竜(ワーム)の時の畫ではないだろうか？！　私は混した……ＫｏＲＪの任務中基本的には周囲にいる人はいない事になっている。スマホを凝視して……私は畫を何度も巻き戻して最初から見直していく。冷たい汗が背中を流れる。

「え？　え？　え？　ど、どうして……」

そうだこれは確実にあの時の……蛇竜(ワーム)を倒した時の畫だ。誰も気がついていないが、三人目の人はこの私……なんとか畫の畫質が悪いために判別が難しい狀態だが、振り返ったときに私の髪のがし翻ったところなどもギリギリ判別できる。マントのようにも見えなくもないが……。

私は混のあまり、授業の容が全く耳にらず……スマホを見つめて考え込んでしまった。これは……々な意味でまずいのではないだろうか？　と。

授業が終わり、帰宅時間になるとミカちゃんが笑顔で私に聲をかけてきた。まあ、隣の席だしな。

「あかりん、すごかったねあの畫！　本當にあんな怪いるのかな？」

「う、うん……そ、そうだね……」

「どうしたの？　気分悪くなっちゃった？」

「ううん、ただちょっとびっくりしちゃっただけ、大丈夫だよ」

心配そうなミカちゃんの顔を見ながら、私はし青い顔で苦笑いを浮かべて……再びあの畫について考えている。

八王子さんはこのことを知っているだろうか？　私たちは徹底的な人払をしてもらった上で、ＫｏＲＪの任務を遂行している。基本的に私はあの活をバイトと偽っており、近親者含めて私が夜な夜な化けを斬り伏せている、などと知っている人は存在していない。

これは戦闘に関わっている全員が同じ認識だ。自分たちがそんなことをしている、などと吹聴している人はいないはずなのだ。職員さんについても、箝口令が敷かれており口外しないための魔的な仕掛けを持たされている、と聞いている。

今回の畫は、完全にそれを破るようなものだ。つまり、この畫を撮影し拡散した人間はＫｏＲＪ以外の……何らかの形で封鎖線を抜けて撮影した誰か、という事になる。

スマホを見つめて……私はし薄寒い気分になっていた。もしもっと近くでこの事件を撮影されていたとしたら？　こうやって畫を拡散されて、私が降魔(デーモン)を斬っていると皆に知られたとしたら？　お父様、お母様、ターくんが私の裏の顔を知ってしまったとしたら？　どうすればいいのだろうか？

不安が募る……こういう時私はどう行すればいいのか、今はわかっていない。

家に帰宅して、程なく……スマホに著信がる。ちょうど服を著替えるために制服をいでいる途中だったので、著替えを途中で止めるのが億劫になり、畫面も碌に確認せずスピーカーモードにして通話ボタンをタップする。

「はい、新居です」

「あ、新居さん。青梅です」

畫面をよく見てなかったので誰が出るのかと思っていたら、先輩だった……珍しいな、と思いつつ著替える手を休めずに私は先輩へと話しかける。

「お久しぶりです。どうされました？」

まあ多分畫のことだろうな、と思いつつ私は下著姿のまま普段著を出し始める。シャツは洗濯しないとダメかな……し汗の匂いが出ている気がする。

「いきなりごめんね、多分知ってると思うけど今話題になってる畫の件で……ん？　なんかお邪魔なじかな？」

ああ、やはりか。と思い私は出してきた普段著に著替えつつ洗濯になりそうな服をまとめていく。片付けをしながらなので、周囲の音などもマイクにってしまっているのだろう。

「いえ、大丈夫です。先ほど學校から帰ってきたので、著替えているだけです……畫見ました」

「え？！　著替え中なの？　ご、ごめん……そっか、著替えて……」

先輩の聲がし上ったじになった……多分今著替えを想像してるな先輩……うん、言葉選びを間違えたんだ私。

男に『私、今著替えてるんです』なんて喋ったら、いくら清廉潔白さをじる彼でもこうなるよな……。自分自の壊滅的な言葉の選び方に心ため息をついて、私は言葉を続ける。

「いえ、大丈夫です。もう著替え終わりましたので。先輩も見たんですよね？」

「え？　いや君の著替えは見たことな……あ、畫か。うん、あれは新居さんの畫だったよね」

先輩の返答は前半はともかく想像通り畫の件、やはり先輩もあの畫は私だと気がついたのだろう。先輩の聲にしだけ張が混じっていることに私は彼の話したいことを理解した。

私と考えていることは同じか……。

「はい、あれは私ですね……細かい部分が判別不可能な畫なので助かっていますけど……どういうことなのか知りたいと思っています」

そう、この畫が撮影された経緯を私は知りたい。

もしかして他の事件の畫なども撮影されている可能もあるかもしれないし、封鎖している場所に把握していない人間がってしまったとしたら？　危険どころの騒ぎではなくなってしまうからだ。

最初の蛇竜(ワーム)の事件だけでなく人が巻き込まれることは結構あるが、外野として見人がいないことで二次被害が起きていないことだけが現狀は幸いなのだ。

先輩もそうだろう……彼は特に私よりもわかりやすい能力を持っている。周りの人にバレたら……と考えただけでそれは恐ろしくて、気が気ではないはずだ。

「それで僕は八王子さんと相談をしたいと思ってるんだけど、一緒に行かないか？」

あら、と思った。一人で行く人のように思っていたが……意外だな。

ただ今回先輩がってくれたのは都合がいいかもしれない。私はし考えた後に先輩に返答をする。

「わかりました、私も話をしたかったので。ご一緒します」

「そっか、ありがとう。じゃあ支部前ではなくてイケブクロで待ち合わせよう」

その言葉になぜか嬉しそうな聲で反応する先輩の聲に私は気がついた。

……ん？　イケブクロで待ち合わせるの？　これってデート的な何かになるのだろうか……。いやいや、私先輩と付き合ってるわけじゃないし、そもそも男と付き合うとか前世が男の私にとって苦痛だし……先輩の好意はわかってるつもりだけど、それはそれだしなあ。

とはいえ、変な格好で行くわけにもいかないので、私は頭をフル回転させてお出かけ用の服裝を考え始める……制服がなきゃよかったな……。

「はい、し準備しますので……そうですね、一時間半後にイケフクロー像の前でお願いします」

_(:3 」∠)_ 先輩の家族とかもそのうち掘り下げよう……

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