《【完結】前世は剣聖の俺が、もしお嬢様に転生したのならば。》第二一七話 友人同士(ホーミーズ)

「……やはり魔素の影響なのか、結界の強度がかなり落ちているな……」

「まだギリギリ數値上は問題ない気もするのですが……どうしますか? 數ヶ月後には張り直すことになりそうですが」

「不確定要素があればすぐに崩壊する數値だ。安全を取るなら今対応した方が良さそうだな」

とある路地裏……KoRJの職員と、仮初の姿で調査をしているリヒターの姿がそこにはある。この場所では以前、降魔(デーモン)との戦いが行われた場所でもあり、その後処理班の手により綺麗に片付けはされているものの、普通の人間がここへと足を踏みれることはない。

——ここへはってはいけない気がする、とても不気味な場所だ。

普通の人間ならそう思うだろう、二度目の襲撃事件を起こさないように、リヒターによる魔払いの結界が張られているが、その副作用でこの場所は『何かありそう』という不安を掻き立てる効果を生んでいる。

この場所を維持するは、壁にられたトランプのカード……その小さなカードにリヒターが特殊な付與(エンチャント)を行ったことで、結界が維持されていると言っても良い。

今まで事件の起きた場所で、いくつかの地點にはこのような結界を生み出すを設置しており、KoRJの仕事を増やすことなく降魔(デーモン)被害(インシデント)の発生回數を減らすための試みだ。

「呪……例えば奇妙な形の石像とかにした方が維持は楽なのだろうか……私の世界ではそういう品が多かったのだが」

「西洋の悪魔像……キマイラっていうらしいですが、あれは似たような効果を期待されてますね、日本では狛犬とかが似たようなイメージですが……流石に街中に狛犬は置けないですしねえ……」

職員がし苦笑いを浮かべてリヒターへと話しかけているが、リヒターは幻で作った顔の顎をさするような仕草で、ふむ……と考え込む。

街中に狛犬が置いてあったら不自然なのか……それは勉強になる、と誰に聞かせるわけでもなく獨り言を呟いた後、彼は周りを観察し始める。

既にや戦闘の痕跡はほぼ殘っていない……だが、魔素の流れは存在していて、その流れに多の違和じてしばしきを止める。

「……これは……」

リヒターの覚には魔素の流れをかした形跡がはっきりと見えており、その痕跡を辿って他の職員からは見えない何かへと視線をかしている。

不自然なくらいの細工……そしてバレても問題ないと言わんばかりの改変を前にリヒターはその細工を施した人の顔を想像して大きくため息をついた。

そしてリヒターにわかるように細工をしている、ということは今回自分がここへ來ることすら予想して、メッセージとして殘していたのだろう。

「……時間切れ、ということか……全く周りくどい手を……」

「リヒターさん、どうされました?」

職員の不思議そうな顔には構わず、リヒターは軽く手を上げて黙っているように仕草で伝える……それと同時に、コツコツ、と革靴でこちらへと向かってくる音が聞こえ、職員含めて全員がその音の方向へと目を向ける。

そこへと姿を現したのは、金髪を綺麗に整えまるで東歐貴族風の整った容姿をしている男だった……仕立ての良いスーツは高級ブランドのオーダーメイド品であり、職員たちはその姿を見てどこかの金持ちがやってきたのかと軽くため息をつく。

だがリヒターだけは……しだけ張した面持ちで、周りの職員へと聲を掛ける。

「……知り合いのようだ、皆はここから離れてくれるか? し遅れて私は帰ることにするよ」

「知り合い? ……まあ、良いですけど現場を荒らさないでくださいね」

職員たちは訝しげるような表ではありながらも、リヒターの言葉に従ってその場から離れていく……その間も東歐貴族風の男は、職員たちへとニコリと整った顔で笑顔を浮かべて頭を下げており、彼らは特に気にすることもなくその場を離れていく。

この場所に、新居 燈がいれば……彼らを返すことはなかっただろう、なぜならばその東歐貴族風の男は、今現在進行形でこの世界を侵略している魔王アンブロシオその人なのだから。

「……仕事は忙しそうだな、リヒター……その姿になっても忙しいことだな」

「なんの用だ? 殺しにきたのであれば黙って殺せばいい、それともお前はそこまで優しかったか? 魔王アンブロシオよ」

リヒターの返答にクスッ、と笑ってから懐より缶コーヒーを二つ取り出し、一つを軽く放ってリヒターへと渡すアンブロシオ。缶コーヒーをけ取ると、幻を解いて不死の王(ノーライフキング)としての素顔へと戻り、プルタブを起こして開けると軽く中を飲んでから、殘念そうにカタカタと揺れるリヒター。

そんな彼を見ながら、アンブロシオも缶コーヒーの中を飲むが、やはりなんだこれは……と言いたげな表を浮かべる。

「甘すぎるな、微糖と書いてあったんだが……こんなはずではなかったんだ」

「お前が買ってきたんだろう? だが甘いな……お前の選択肢はいつもどこか抜けているな」

顔を見合わせてからアンブロシオは軽く苦笑を浮かべ、リヒターは困ったようにカタカタと揺れながら缶コーヒーを啜る……お互いの間には殺気はなく、仲の良い友人同士の邂逅にすらじる暖かい空気が流れている。

そのまま數分會話もなくお互いの距離まらないままの時間が過ぎていく……だがそんな沈黙に耐えきれなかったのか、リヒターはカタカタと小刻みな揺れを生じながら口を開く。

「……私を倒しても、お前は新居 燈に殺されるだけだ。あれは本の剣聖(ソードマスター)……ノエル・ノーランドの魂をけ継ぐ者、私は彼がこの世界を守る勇者(ヒーロー)になる、と考えている」

「……ノエルは勇者(ヒーロー)としての資質はあっただろうが、彼自はそれをんでいなかった」

アンブロシオは缶コーヒーを片手に口を開くが、リヒターはその言葉に黙って頷く……ノエル・ノーランドの伝説は異世界において有名な英雄譚だ。

彼の死後、こぞって遊詩人達は彼の伝説を化して伝えた……それからいくつもの時を超えてなお、異世界においては剣聖(ソードマスター)の伝説は人々の勇気を掻き立てたこともあった。

リヒター個人はノエルと直接の面識はない……だが、異世界においてキリアンという勇者(ヒーロー)とは面識があり、アンブロシオへと墮ちる時も彼の傍に存在していた過去が、思い出と共に存在している。

その彼から死ぬ前のノエルの逸話はたくさん聞かされているが、新居 燈とは全く違った存在のようにすら思えている。パフェを楽しそうに頬張る新居 燈の笑顔を思い出して、リヒターは苦笑しながらアンブロシオへと語りかけた。

「私個人としては、彼はこの世界のとして、平和な生活を送らせてやりたい……だが、お前は違うな?」

「……既に私の部下が何人も彼に殺されているからな、決著はつけなければなるまいよ、そのために君らの戦力を削ったのだからな」

アンブロシオの言葉に、リヒターは改めて大きなため息をつく……理解はしている、最後まで殺しあわなければいけないのだとは。

神に仕える存在であった異世界、そしてこの世界においてもリヒターはなお彼の信じる神へのを捨てたことはない……それ故に思うのだ、友人同士であったはずのアンブロシオと新居 燈が殺し合うのは自然の摂理に反するのだと、聲を荒げて主張したいと。

「なあ、キ(・)リ(・)ア(・)ン(・)……今からでも遅くはない、殺し合いの連鎖を俺は見たくないのだ。水に流すことはできないか?」

「無理だな……わた……いや、僕はもうこの世界の敵でしかない。そして彼は僕の敵だ」

アンブロシオは飲み終わった缶コーヒーを軽く握ってぐしゃり、と潰すとそのつぶれた缶を軽く放る……金屬が壁に衝突する音が路地裏に響く。

リヒターも缶の中を飲み干すと、骨だらけの手で缶を潰して地面へとそっと置き直す。その様子を見ていたアンブロシオがリヒターの目の前へと改めて立つと凄まじいまでの殺気を放つのを見て、覚悟を決めたリヒターは彼に向かって優しく語りかける。

「……友よ、手加減はしないぞ」

「そうだな……君はまだ友と呼んでくれるのだな」

リヒターの赤い眼がぎらりと輝く……アンブロシオが不死の王(ノーライフキング)を前にして、軽く腕を振るうとその手の中に直剣(ブロードソード)が空間を切り裂くかのように現れ……そして眩いを放つ。

もたらすもの(ライトブリンガー)……異世界で勇者(ヒーロー)が攜えた聖なる剣、そしてキリアン・ウォーターズの代名詞となった武でもある。その剣を片手にアンブロシオが赤い眼を輝かせつつ、リヒターへと向かって振るった。

「ああ、友よ……ここでお別れだ。古い友人である君を殺したくはなかった……さらばだリヒター、地獄が本當に存在するならば、君は先に待っていてくれ……僕もそのうち行くよ」

「……何? 雷かしら……」

ふと耳元で、知っている聲が響いた気がして私は下校途中の道端で後ろを振り返る……遠くの空で雷が鳴っているかのように、雲の間が煌めきそして靜かになっていく。

ほんのしだけ不安のような覚を覚えて、そっとに手を當てる……まあ、大きいんですけどね、私。

に手を當てたまま、そんなことを考えているとミカちゃんと心葉ちゃんが、何してんだよと言わんばかりの顔で私を見ていることに気が付き、私は慌てて笑顔を浮かべて二人の元へと駆け寄る。

「ごめんごめん、なんか耳元で囁かれた気がしたの、でも気のせいだと思う!」

「蟲の知らせ、ですかね?」

「わかんない、でもなんかゾワゾワしたんだ……気のせいかな」

私の答えに軽く首を振って、わからないという仕草を見せる心葉ちゃん……ミカちゃんも気のせいならば、と笑って私の腕に軽く自分の腕を絡ませて微笑む。

まあ、気のせいだよね? 私はそっと先ほどが見えた空を見つめるが……既にその方向は黒く雨の降りそうなくらい大きな雲がかかっているのが見える。

予報は晴れだったんだけどな……私はほんのしだけのざわめきを覚えるものの、軽く首を振って自らの懸念を頭から消し去ると、みんなと一緒に歩き始める。

「……多分気のせい……大丈夫、明日も変わらない一日が始まるから、本當に大丈夫……」

_(:3 」∠)_ ホーミーズってスラングなんですね、知らんかった……

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