『先日、繁華街の路地裏にて現場から見つかった白骨化したの元が判明せず、警察では行方不明者との照合をおこなっている模様です……』

『現場付近に殘された痕跡などを警察が調査したところ、降魔(デーモン)被害(インシデント)の可能が高く、今後の捜査についてはＫｏＲＪへと引き継がれるとの見方を発表……』

『……都心の繁華街で起きたこの不可解な事件との因果関係を調査してい……』

『いやー、こんな場所で起きるなんて怖いっすよねー……白骨化した死だなんて、早くなんとかしてほし……』

モニターに映し出されている地上波の報道番組を見ながら、私と心葉ちゃんは無言で目の前にある紅茶のったカップを手に取って軽く啜る。

部長室の雰囲気は暗い……報道番組で現場で見つかった、その元が私たちには知らされたからだ。

不死の王(ノーライフキング)リヒターは結界の調査で現場に赴き、職員と共に調査にあたっていたところ、見慣れない容姿をしたスーツの男と話をすると言って、その場に留まったと報告が上がってきている。

「……燈さん……大丈夫ですか？」

「……大丈夫、間違いかもしれないから……大丈夫」

私は彼の言葉に軽くカップを取り落としそうになってしまい慌てて持ち直すが、そんな私を見た心葉ちゃんはそっと私の肩に頭をもたれ掛ると、ほんのしだけ下を向いて何かを堪えるように小刻みに震えている。

心葉ちゃんもリヒターに何度も治療をしてもらい、いろいろな悩みを聞いてもらったりと接點が多かったと話していたし、底抜けに明るい彼に何度も助けられていたのだ。

私はそっと彼の細い肩を片手で抱き寄せる……我慢しろ、私まで傷に浸っていたら彼に怒られてしまう。私は口を固く結んで黙っていることにした。

「待たせたね、青梅君もってくれ」

八王子さんとし暗い顔をした先輩が部屋へとってくる……先輩は私たちを見て、何かを言おうとしてそれでも何も言葉にできなかったのか、軽く首を振ってから黙って目の前のソファーへと腰を下ろす。

私と目があった先輩はし頭をガリガリと掻いた後に、軽く頭をさげる……私も何も言わずに頭を下げると、その様子を見守っていた八王子さんが話し始めた。

「ニュースは見ているか？」

「白骨死が路地裏で見つかったって……」

「……その死ってリヒターさんなんですか？　いくらなんでも……」

私と先輩が同時に喋り始めるが、その言葉を聞いてすぐに八王子さんは黙って頷いた……つまり、路地裏にあった死というか、リヒターはスーツ姿の男に倒されたというのは事実のようだ。

しかし……リヒターを相手に普通に戦って勝てるような存在って、それこそ魔王くらいしかいないんじゃないか？　と思うのだ。

「辛いだろうが、モニターを見てくれ」

モニターに映し出された映像には路地裏の壁にもたれかかって一見寢ているようにも見えるリヒターの姿だ……最近お気にりのように著ていた白はあちこちが引き裂かれており激しい戦闘が行われたのだな、と思える。

そして、普段は赤いが爛々と輝いていた眼窩は空のままになっており、命の火が消えてしまっているのだな、とじる完全な死がそこにはある。

「警察からの連絡で、ＫｏＲＪの職員が現場へと赴きリヒター本人の死であることを確認している。白骨化しているにもかかわらず、彼の関節はつながっているしな、警察によると普通の死では考えられない保存狀態、だそうだ」

「……リヒター……」

心葉ちゃんが驚いたような表でその映像を見ている……萬事無表な彼としてはかなり珍しい、さっきまで相當にショックだったのか震えていたし仲間が死んだ、というのはそれでなくても強いを呼び起こしてしまうものなのだろう。

かくいう私ですら、軽く手が震えている……ＫｏＲＪにリヒターを引きれたのは本人の希があったとはいえ結果的に私が渉してるわけだし、星幽迷宮(アストラルメイズ)で私が戦う意志を失った時に、い立たせてくれたのは彼だ。

『弱音を吐くな、死ぬまで戦え、恐怖に抗い、最後まで勝利を諦めるな……異世界で俺が戦ってきた剣士は絶対に最後まで諦めなかった……黙って剣を取れ、そしてこの世界を救え』

あの時の言葉は忘れられない……普段冷靜なリヒターがあそこまで聲を荒げたのは、あの時だけだった。それでもあの時の言葉が私を再び立ち上がらせるきっかけになった。

それがなかったら、新居　燈というは戦うことをやめてしまったかもしれない……その場合は、この世界はどうなっていただろうか？

『お(・)前(・)の(・)中(・)に(・)い(・)る(・)も(・)う(・)一(・)人(・)の(・)お(・)前(・)に(・)も(・)』

そして彼はこうも話していた……その時は私はそれどころではなかったのだけど、今思い返してみたら彼は私のなかに本の剣聖(ソードマスター)の魂が眠っていることを知っていたのではないか？　と思う。

それでも彼はずっと友人として付き合ってくれていた……困った時や私の無理な願いなどもちゃんと聞いてくれたし、ちょっと前にパフェを無理やり食べさせたけど、あの時の支払いなんやかんやで彼がやってくれたんだよね。

「……奢ってもらったお返し出來てない……」

まだあの時のお返しできてないんだ……そのうちお返しすればいいって思ってたんだけど、そういうことに気がついた時にはその人はいなくなってしまうことがこの世界においても起きている。

前世は散々そんな別れを経験してきているのに、私はリヒターがいなくなるまですっかり忘れていたのだから、愚かだと思う、馬鹿だよ私、リヒターはあんなに優しかったのに。

「リヒターを倒した相手はわかっているんですか？」

先輩が八王子さんに尋ねると、彼は手元の端末を作するとモニターに、防犯カメラで撮影したのであろう映像を表示させる。

路地裏から表通りへと移する地點を撮影した映像が流れ始める……路地裏から出てきた人は私の予想通り、しれた金の髪を手でで付けながら歩いている仕立ての良いスーツを著こなした東歐貴族風の容姿をした男。

魔王アンブロシオ……この世界を侵略する降魔(デーモン)の首魁にして最強の存在……そして私の前世であるノエル・ノーランドの友人にして、異世界を救った勇者(ヒーロー)。

映像の中のアンブロシオは本當に自然に周りの人間の中へと溶け込んでいる……この國にも日本人以外の人種は多いからな……街の中であったところで、判別できるかどうかわからないかもしれない。それでもこの映像はアンブロシオという存在を寫した映像である。

「おそらくこの人だろう……新居君はわかっているよな？」

「魔王アンブロシオ……敵の首魁ですね。私も會ったことがあります」

私は八王子さんの言葉に応じて口を開く……その言葉に心葉ちゃんと、先輩がしだけを固くする。敵の首魁……つまりはこの男さえ倒して仕舞えば人類の勝利なのだから。

八王子さんは私の答えに軽く頷く、ＫｏＲＪでもアンブロシオの危険、そして強さについてはある程度理解をしているはずだ、リヒターは私を除けばＫｏＲＪが有する最強の戦力の一つでもあり、魔王を倒すためには不可欠な人材の一人でもあったのだから。私は拳を握りしめると、獨り言を呟く。

「リヒター……敵は取るわ……アンブロシオは私が絶対に倒す……八王子さん私が彼の敵をうちます！」

「あ、そうなの？　お前がやってくれるなら安心だな、いやあ心配だったがこれで研究に沒頭できるな」

恐ろしく能天気な聲が部屋に響く……拳を握ったまま私は聲の方向、り口に顔を向けるがそこには竜牙兵(スパルトイ)が頭を掻きながら立っている。

は？　私は聞き覚えのある聲にその場で拳を握りしめたまま固まる……竜牙兵(スパルトイ)？　リヒターの最高傑作だと話していたその超高能型竜牙兵(スパルトイ)はまるで関西の蕓人(コメディアン)のような仕草をしながらソファーへと腰を下ろす。

「いやー、もう大変だったんだ……壊されちゃうしさ、魔王は容赦しないし……本當に死んだかと思ったぞ」

「……は？　え？　何？」

私がその場で固まっていると、竜牙兵(スパルトイ)が固まったままの私を見て、口元に軽く手を當てて私に向かって指を指すとまるでめちゃくちゃ馬鹿にしたようなきでカタカタと揺れる。

その揺れ方で私は目の前の竜牙兵(スパルトイ)のなかに、懐かしい友人の姿があることに気がついた……よ、よかった普通にしていれば死ぬような人ではないと思っていたが、なんらかの形でセーフティネットを用意していたということか……我慢できなくなり私の視界が揺れていく、あ、だめだ泣いちゃう……。

だが、リヒターはそんな私の顔を見て、おや？　という仕草をした後思い切りカタカタと揺れながら口を開いた。

「んー？　まさか私が死んだと思ってたとか？　これが本當の不死者(アンデット)なんちゃってー」

「リヒター……それ以上は……」

八王子さんが困ったように私とリヒターを互に見ており、先輩は頭を抱えており、心葉ちゃんも何が起きているのかわからないかのように呆然とした顔で竜牙兵(スパルトイ)を見ている。

さっきまでの悲しい雰囲気を返して……あまりに軽いじで軽口をたたくリヒターを前に、私の頬が一気に熱くなっていく……シリアスだと思ったのにこれかよ！　私は虛空から全て破壊するもの(グランブレイカー)を引き抜くと、リヒターの前に突きつける。

「こいつ殺して私も死にます、みんな止めないで下さいね、不死者(アンデット)のくせに生意気なんだよクソが！」

「おお、殺せるものなら殺して見せろ剣聖(ソードマスター)！　また泣かしちゃうぞ、フーハハハハ！」

「お、おま……おーし、わかった本當にぶっ殺してやる！　そこに座れえ！　私の気持ちを返せ、この馬鹿野郎！」

「あ、新居くん落ち著いてくれ、こんなところで刀を振り回しちゃいかん」

私がブチ切れて刀を振り回し、先輩が心葉ちゃんをガードしている……竜牙兵(スパルトイ)の姿をしているリヒターはカタカタと揺れている。八王子さんはあわあわ、と口を押さえてオロオロしているだけだ。

そんな私たちを見て、ポカンと口を開けていた心葉ちゃんが耐えきれなかったのか笑い始め、釣られて先輩も口を押さえて笑い始めた。

「……格悪いですよリヒター……でも、生きていてよかった……ね、燈ちゃん」

_(:3 」∠)_　これだけ引っ張っておいてリヒターがなんで生きてるのかは次回に持ち越し

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