「……オレーシャ……いつの間にここに來ていたの？」

私の目の前に立つ蝙蝠の翼を背中から生やした……いやこの場合は魔(サキュバス)というべきか、背教者(レネゲード)の首魁であるオレーシャが立っている。

彼の周りには樓(ウォッチタワー)を守っていたであろう小鬼族(ゴブリン)が慘殺された狀態で倒れている……數十を一人で倒しているのか。魔(サキュバス)という割には戦闘能力が異様に高いんだよな、彼は……。

「あら、遅かったのねえ……暇潰しにこいつらを倒しておいたわ……謝してほしいところね」

「……それは、ありがとう……」

私がし言葉に詰まったような謝を述べると、オレーシャはまるで私をバカにするような仕草でクスクス笑いながら歩み寄る……この魔(サキュバス)の生理的不快は凄まじい。

何というか……何度相対しても慣れない不信、疑のようなが抑えられないのだ。

オレーシャは、私が黙り込んで何かを我慢している表を浮かべていることに気がつくと、ふうっと軽くため息をつく。

「何で警戒するのかわからないけど……一応私は貴達に協力している立場よ？　どうして信じてくれないのか不思議だわぁ……涼生を取られちゃいそうだから怒ってるのぉ？」

「……あんたに先輩が靡くもんですか……」

私は急に彼の口から先輩の名前が出てきたことでカチンときてしまい、思わず小聲で吐き捨てる……こいつが先輩のことを狙っている、もしくは何らかの協力関係を持っていることは知っている。

先輩がテオーデリヒに捕まった時に、オレーシャに解放されていると本人も認めているし、さまざまな報を提供してくれていることも理解はしていて、それでも報提供含めて協力関係なのだから、という理由だけでＫｏＲＪは彼たち背教者(レネゲード)との関係を継続している。

個人的には全く信用できないし、不快なのでどうにかしてほしいところなのだが……。

「まあいいわ、そういうことにしといてあげる。今は目の前の樓(ウォッチタワー)をどうにかするのが先決でなくて？」

悔しいが確かにその通りだ……この魔(サキュバス)へじる生理的不快はさておき、早めにこの防衛施設を破壊しなければいけない。

オレーシャが私に場所を譲るようにニヤニヤ笑いながら、後ろへと下がる……背中を見せるのはちょっと不安があるけど、今はそうも言っていられない。私は腰に差した刀……全て破壊するもの(グランブレイカー)の柄へと軽く手を當てると、腰を落とした居合ぬき、閃(センコウ)の構えをとる。

「……そうそう樓(ウォッチタワー)は生きている。反撃もあるから気をつけてね」

「「キイイイイアアアアアアアアアアッ！」」

「な、なに……！？」

突然オレーシャがボソリと私に向かって呟くが、その言葉と同時に目の前の樓(ウォッチタワー)の幹に出鱈目な配置で生えている口から、凄まじい音量の悲鳴が上がっていく。

悲鳴と同時に黒く太い幹からびるのような部分……私から見ると足にしか見えないのだけど、それらのがぶるぶると振したかと思うと、地面に潛り込んだ部分がそれよりも太く、巨大に変化していく。

そして枝のようにびた手にしか見えないがわさわさと揺れく……その姿はまるで、冒涜的な異界に住む怪のようにすら見える。

「うわ、キモ……」

「下手に近寄ると手に絡め取られてけなくなるわよ……人間の胎は生と増加に有効だから襲われちゃうかもね……でも、そうしたら涼生はあなたに興味を持たなくなるかもしれないわ……ちょっと襲われてみてよ」

オレーシャの軽口にイラッとした私は思わず後ろを振り返ろうとするが、そこへ樓(ウォッチタワー)の手がまるで投槍(ジャベリン)のように凄まじい速度で向かってくる。

私は舌打ちをしながら、大きく橫へとジャンプして躱すが、それまで私たいた地面を抉るように手が衝突し、抉っていく……結構な攻撃力だな。

もしかしたら生って言っても塊だろうが何だろうがいいって話だろうか？　ちょっと想像するだけでエグい図にじるが……追撃してくる手を私は本との距離を測りつつ避けていく。

「く……オレーシャ何で援護しないの！」

「だってぇ、私そんな気持ち悪いのにれたくないもの……でも安心して、それ以外のものは私が片付けるわ」

オレーシャがその言葉と同時に、鋭い爪を振るう……見れば先ほどの悲鳴に引き寄せられたのか、他の場所にいた複數の小鬼族(ゴブリン)がこちらへと走ってくるが彼は爪を使って降魔(デーモン)を切り裂いて、こちらに近づけさせないように立ち回っている。

後は任せろということか……私はそのまま目の前で悲鳴を上げ続ける樓(ウォッチタワー)と対峙する。悲鳴を上げている間、ずっと周りの降魔(デーモン)を引き寄せている可能があるからな、早めに対処しないと大変なことになりそうだ。

「じゃ、一気に叩き切ってやるわ……ミカガミ流……剎那(セツナ)ッ！」

私は軽く腰を落とした勢から前へと飛び出すと、思い切り刀を振り抜く……移しながらの抜刀技である剎那(セツナ)は納刀狀態から突進し、相手と錯する瞬間に超高速抜刀、そのまま相手を攻撃する。

前進して抜刀、その制限はあるものの前進するエネルギーもそのまま刀に乗せることができるため、ミカガミ流の剣士によってはこの技の方がいいとする向きもあったくらいだ。

私はそのまま振り切った刀をくるり、と回すように鞘へと収めると靜かに納刀する。イメージ通りに振り抜けたな……最近あまり使ってない技だと失敗することもあるので心配だったけど。

次の瞬間、樓(ウォッチタワー)がビクリ、と大きく震える……そして太い幹がまるでずれていくように、ゆっくりと両斷されそのまま地面へと倒れていく。

ゴオオン！　という轟音を立てて地面へと完全に倒れた樓(ウォッチタワー)は最後の力を振り絞るように幹のあちこちに生えている口をぱくぱくとかしたり、手をかすが切斷面から不気味な黒いが流れ出していくのと合わせて次第にきが鈍くなっていく。

「あら、一撃で斬れるのねえ……」

オレーシャがニヤニヤと笑いながら私のそばへと近寄ってくる……他の敵は？　と思って彼の後方を見るが、それまで迫ってきていた小鬼族(ゴブリン)は樓(ウォッチタワー)が倒れたのをみて慌てて逃げ出しているところだった。

私はほっと息を吐くと、辺りの様子を確認する。

新しい敵はいそうにないな……私は倒れた樓(ウォッチタワー)を見るが、まるで命を失ったが溶けるように、目の前で黒い刺激臭を伴った煙をあげてドロドロに溶けていく。

「う……ゲホッ……」

私は口元を押さえて、その煙を吸い込まないようにするが、それでも鼻の奧に強い刺激臭が殘って吐き気から軽く咳き込む。オレーシャは歪んだ笑顔を浮かべながら私の隣に立つと、溶けていく樓(ウォッチタワー)を見つめている。

ふとその橫顔を見たときに、私はオレーシャの表に違和をじた。元々その笑顔は作り笑顔のようなものだったけど、今は何かを隠しているかのような笑顔なのだ。

私がじっと彼を見ていることに気がついたのか、ゆっくりとオレーシャは私と目を合わせる……そこで私は急に背中にゾッとした寒気をじて、後ろに飛びのこうとした。だが……。

「……勘がいいね、だから君をしているのさ燈……」

咄嗟に飛びのこうとした方向にあった何か、いや逞しい男のにぶつかり私は驚く……そのまま私の両腕をがっしりと摑む白い手……そして肩越しに私をじっと見つめるしい顔。

金髪に碧眼、軽薄そうな笑顔……見覚えのある男、エツィオ・ビアンキの顔が真橫に見え私は思わず息を呑む。いつの間に！？　私は振り解こうとするが、次の瞬間彼の手から植の蔓が幾重にもび、私を絡めとる……信じられないくらいの強い力で私は蔓を振り解けず、きが取れなくなった。

「え、エツィオ……さ……どうして……せ、先輩は！？」

「だめだよ、他の男のことなど口に出しては……僕だけを見ないとだめだよ」

「……涼生は無事なんでしょうね……まさか殺してなど……」

オレーシャが急に真面目な顔になってエツィオさんへと話しかける……もしかして最初からオレーシャはエツィオさんと繋がりがあって……いやそれにしては當初は協力的だった、私の背後をきちんと守っていたし。

それに先輩の名前を出しているということはオレーシャも何らかの形で先輩のの安全を守るために行していた、がエツィオさんがここへ來たもしくは何らかの指令をけたことで、先輩の敗退を知り私を渡すことにした、ということだろうか。

「ちゃんと治療はしておいたよ、思っていたよりも強くてね……手こずったけど殺してはいない、好きにするといいさ」

「……そう、ならいいわ……あなたのみはそのお嬢ちゃんを手にれる、私は涼生を手にれる……これで取引完了でいいかしら？」

「オレーシャ、最初から裏切って……」

「違うわ、私は合理的にするものを手にれたいだけ……あなたがその魔法使いのものになれば、私は涼生を手にれられる、それだけのことよ。これはビジネスなの」

オレーシャはエツィオさんに摑まれてきの取れない私を見て、くすくすといつもの笑いを浮かべている……くそ……だから降魔(デーモン)を信用するのなんか……。私が憎々し気に彼を睨みつけるが、オレーシャは笑顔のまま軽く手を振ってその場を離れていく。

私は何とか逃げだろうともがくが、それに気がついたエツィオさんが私を抱きしめるかのように引き寄せ、私のうなじに鼻を寄せて匂いを嗅ぐような仕草をしたことで、ゾッとして思わず悲鳴をあげる。

「ヒイッ！　や、やめ……」

「思った通りいい匂いだよ、燈……このまま僕らは契りをわさなければ。僕は君を隅々までしてあげるよ……ああ、はち切れそうだよ、君の中はどれだけ暖かいだろうか……」

「何を馬鹿なことを！　やめて！　私はあなたとなんか……くそ、離せ！　変態教師！」

「……いいから黙って私のいうことを聞け」

私の額に彼は手を當てると、バチン！　という音とともにいきなり私の視界が白いに包まれる……一瞬遅れてまるで脳を直接揺さぶられるような激痛と衝撃が走る……電撃？！　そのまま私の意識がゆっくりと遠ざかっていく……暗くなっていく視界の中にエツィオさんの歪んだ笑みが見える。

助けて……このままじゃ……私は心の中でぶ……誰か！　誰か助けて……私は絶対に……こんなこと……んで……。私の視界は暗闇に包まれ、狂ったようなエツィオさんの笑い聲と獨り言だけが最後に聞こえる。

「やっと手にれたわ……ここでは心配だから、別の場所に……しはロマンチックな場所に行かないとね……クハハハハッ！」

_(:3 」∠)_　変態英語教師登場！　というかエツィオさんのキャラがどんどんおかしな方向へ……

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