《【完結】前世は剣聖の俺が、もしお嬢様に転生したのならば。》第二三九話 墮ちた勇者(フォールンヒーロー) 〇一
「煉獄の花(ヴルトゥーム)にこんなものがついているとはねえ……前の時もあったのかしら」
私は煉獄の花(ヴルトゥーム)の恐ろしく太いに付けられた、階段狀の足場を軽く手で叩いてみるが、恐ろしく強度のある材質なのか、手でった程度では崩れることもない。
よく見るとその足場になっている部分は、から突き出した棘が変形したようなものなのがわかるけど……これ伝っていくのかよ。
『これで上まで來い、と言うことだろうな……とはいえ骨が折れる作業になりそうだな』
全て破壊するもの(グランブレイカー)が溜息混じりで話しているがそりゃそうだ、私も上を見上げるがこの巨大な混沌の植は遙か上空に花弁を付けており、その間に無數の蔓や巨大な葉が生えているのだから。
これをずっと登るって考えると今から相當気が滅るな……とはいえ、ここを登らないとキリアン……いや、魔王アンブロシオの元へは近寄れない。私は意を決してその足場狀のに足をかけてゆっくりと登り始める。
「……崩れないよね?」
『さあな、お前はよく重計に乗って何やらやっているではないか、なら折れるかどうかわかるのではないか?』
「記憶から消しなさいよ……」
この魔剣は乙のを、よくもまあどこで見ているのか……足場を登り初めて気がついたが、には蔓が巻き付いており片手でそれを持ちながら登ればなくとも落ちることはないのだということが理解できた。
優しさ? いやこれはちゃんと目の前までこい、というメッセージだな……私は登りながら自分の記憶をずっと思い返している……初めて降魔(デーモン)を倒したのは中學生の頃。
ちなみにワンパンで、ぶん毆ったら相手が死んだという実にシンプルな戦闘だったな……ただ、あそこから平凡なとしての生活はなくなった。
高校生になって楽しみや趣味も増えて、友達もできて……なんとなく転生した自分自もいいなって思うようになって、自分が前世で死んでこの世界に転生した、という事実も悪くなかったんじゃないかと思うようにもなってきた。
大好きな人もできて、男ではなくとしても生きていけるのだ、と思うようになって……案外、この世界のことが私は好きになっているってことに気がついた。
ここには守らなければいけない人たちがいる、守りたいと思える人がいる……そして守るべき日常がある。
魔王……アンブロシオと名前を変えた古き仲間、キリアン・ウォーターズを私は今から倒さねばならない、世界を救うことができるのは私ではないかもしれないけど、私は魔王の前に立つ資格を持っている、そうだ。
だから私はこの世界を守るために、勇者として彼の前に立たなければいけない、そしてできることなら彼を倒さねばいけない。
だけど私は聞きたいのだ、なぜこんなことをしたのか、なぜ魔王となったのか……それだけは聞きたい、蔦を握る指に力が篭る。
私の古い友人がどうしてこうなってしまったのか、そしてその答え如何では私は彼を殺すことになるだろう。
「……せめて戦うにしても、理由だけは知りたい。友人がどうしてそうなったのか、私は知らなければいけない……」
「隨分時間がかかったな……前のように飛んでくるかと思ったぞ」
「飛べるわけないでしょ、人間なんだから……」
私が一時間以上かけて煉獄の花(ヴルトゥーム)の花弁の上へと到達すると、の柱を打ち上げる雌蕊の前に立っている人が私に微笑む。
魔王アンブロシオ……金の神と赤い目、そして東歐貴族風の風貌と仕立ての良いスーツを著こなした長の男は、ロイド眼鏡を軽く片手で直しながら私へと話しかける。
「それは失禮した、飛竜(ワイバーン)を出迎えに向かわせればよかったか……まあ、ここまで來れたことを褒めてやろう、よくぞここまで辿り著いた」
魔王アンブロシオはスーツの懐から高価そうな葉巻を取り出すと、指先に魔法の炎を燈すと葉巻を軽く蒸して、紫煙を燻らせる……昔のキリアンであればそういうことはやらなかったろうが、時が経過して彼自もいろいろ変わっていったのだろう。
じっと彼の目を見つめる私に気がつくと、アンブロシオは軽くに手を當てると優雅に一禮をした。
「では、魔王の前に立った勇者に一言尋ねる、二度目の問いかけになるが私の仲間になる気はあるか? 仲間になった暁にはお前のこの世界の半分をくれてやる、これは噓ではなく本心だ」
「……いらない、私は世界の支配者なんてガラじゃないわ、わかってるでしょキ(・)リ(・)ア(・)ン(・)」
私が即答すると、一瞬アンブロシオのきが止まり、葉巻を一瞬で消滅させると彼は次第に肩を震わせていく……怒ったか? いや……彼は突然口元を押さえて堪え切れないかのように、くすくす笑い出す。
私は黙って彼が何を話し出すのかを待つ……似ている、本人なんだろうからそのままなんだけど、キリアンもし間をあけて笑うという癖があった。
「……君がちゃんと僕をキリアンと言ってくれるのは嬉しいな、でも君は隨分姿が変わってしまった、だから僕はもう一つの問いかけを用意している」
「もう一つ? それは何?」
「僕と一緒になる気は無いか? 魔王の妻、伴、番(つがい)……呼び方はなんでも良い。君はこの世界で最も強い人類の一人、そして僕は君をしいとじているからな、僕は君をする自信がある」
アンブロシオの言葉に思わず頬が紅する……な、何言い出してやがるんだ……私の反応に楽しそうな表でニヤニヤと笑う魔王……くそ、認めたく無いけど今のアンブロシオの風貌ってし好みなんだよな……ずっと言わなかったけど、ナイスミドルのおじさまってじで、としてし心惹かれるものがあるっちゃあるのだ。だが、冷靜になれ自分……私は軽く首を振ると、ため息をついてから彼に答えた。
「気持ち悪い、ふざけんな、私の相手は私自が決める、なくともお前じゃない」
その答えにわかっていた、と言わんばかりの顔で黙って頷くアンブロシオ……おい、本心じゃねえだろさっきの……あぶねえな、思わず恥ずかしくなってしまったけど、そもそもキリアンとノエルの絡みなんてボーイズラブの薄い本とかでしか出てこないからな? 前世の姿で考えたらそりゃもう、ミカちゃんが大喜びの図式にしかならないのだ。
「まあ、答えは予想していた……僕から聞きたいことは以上だ、君は何か聞きたいことがあるかな?」
「……なんで、世界を侵略するの? この世界は平和なのに……」
「それは仮初の平和でしか無いからだ、事は一面だけでは捉えられない……そしてお前にいうことがある、俺たちの世界は滅びつつある」
世界が、前世の世界が滅びつつある? 私の記憶にしかった世界と、しかった街並み、楽しそうに笑う子供の姿や懐かしい思い出が蘇っていく。
あの世界が滅びる? どうして? だからアンブロシオはこの世界へと侵略した、ということか? 私の顔が変わったのを見て、アンブロシオはニヤリと笑う。
「覚えてるだろ? 楔……あれを壊した時から世界のバランスが崩れたんだよ、世界を支配する魔王……この僕が現れても生まれ出でる勇者(ヒーロー)は弱いままだった、バランスの崩壊は振り子のように揺れ、そして世界はどうしようもなく歪んでいった」
彼の手元がると、空中にまるで映像を映し出すかのように私の記憶にある景が映し出される……そこに寫っているのは時が立っているが私やキリアン、シルヴィが住んでいた村……そこは大地が荒れ果て、まるでかだった緑はし変し生命力をじさせない、どこか空虛な風景が広がっている。
人々は暗い顔で座り込み、窶れ果てている……その村を地震が襲い、かろうじて建っていた建が崩れ落ちていく……そして悲鳴と恐怖の聲が響く中、その悲慘な映像が消える。
「世界は不の大地と化した、何かが壊れた、何が壊れたのかはいまだにわからない、だからこそ俺はこの世界へとみを託した……世界を統合し、あたらしい世界へと再編する、それが俺のみ、目的」
『……お、おい燈! 上を見ろ!』
「な、何これ……世界が空に広がっている?」
アンブロシオは言葉と同時に天空を指差す……私が全て破壊するもの(グランブレイカー)の聲で我に返り、空を見上げるとそこにはうっすらと空いっぱいに不思議な景が広がっている。まるで鏡合わせのように、別の世界の風景が映し出されているのが見えるのだ。
その景はまるでこの世界の宇宙から撮影した風景寫真のように、恐ろしく神的な景が広がっているのが見える……。
地球の寫真を見ているかのように青く、緑の大地が広がる不思議な景……でもそれは私たちが暮らすこの世界の姿とはかなり異なっている。
「初めて見たろ? あれが僕たちが生きていた世界だ……しいだろう? でももう滅び始めている、もう取り返しのつかないところまで壊れたんだよ」
アンブロシオは大きく両手を広げて、天空へと手を差しべる……恍惚とした表を浮かべたまま、彼は再び私を見て微笑む。
その微笑みに、微かな狂気、そして不気味すぎる雰囲気をじ取った私は背中に背負っている全て破壊するもの(グランブレイカー)の柄を軽く握る、なんかヤバい……うまく言えないけど、私の覚に引っかかるものがあり、私は表を引き締め直す。
「ここは私たちが暮らす世界……異世界の魔王であるあなたはここには來てはいけなかった、そうじゃない?」
「何を言っているんだ、僕はこの世界でも救世主となるよ……ノエル、僕は世界を救うんだ、だって勇者(ヒーロー)だからね……勇者(ヒーロー)は世界を救うんだよ」
アンブロシオが軽く手を振ると、その手の中にり輝く聖剣……もたらすもの(ライトブリンガー)が現れる。そのはまるで私の前世で見た時のように聖なる力をじさせる力強いを放っている。
キリアンを勇者(ヒーロー)たらしめた異世界最強の聖剣、邪悪を討ち滅ぼし世界を救う力を持つと言われるその聖剣を手にしたアンブロシオは歪んだ笑みを浮かべる。
「さあ、最後の決戦だ……聖なる剣を攜えた勇者(ヒーロー)と魔剣を攜えた剣聖(ソードマスター)……どちらがこの世界を手にするのか……殺し合おうじゃないか」
_(:3 」∠)_ 最終決戦開始〜、よく考えると勇者って酷いやつ多いですよねw
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