《【完結】前世は剣聖の俺が、もしお嬢様に転生したのならば。》第二四五話 墮ちた勇者(フォールンヒーロー) 決著

——その瞬間、眩い閃と共に古い記憶が蘇った。

「……キリアン、冒険に出るんだったら俺とシルヴィも連れて行け、しは力になると思うんだよ」

「私たちは友達でしょ……あなたのことを手伝うわ」

目の前に立つガタイの良い男……近所のガキ大將だったノエル・ノーランドが頬を掻きながら、僕に微笑む。彼の隣にはしい……シルヴィ・ヴィレント・ヒョウドーも笑顔を浮かべている。

僕が勇者(ヒーロー)としての神の啓示をけてから冒険の旅に出ると話した時、大半の友人たちは応援こそしてくれるが、一緒に行こうと話してくれる人は誰もいなかった。

『……危ない場所にはついて行けないよ』

『お前一人でどうにかしてこい』

『勇者様なんだろ? なんとかなるよ』

無責任な友人の言葉に傷つきながら、僕は一人で旅立つ準備を進めていたのだが、そこへノエルとシルヴィが現れて僕にそう聲をかけてきた時、不覚にも泣きそうになった。

ノエルは元々ミカガミ流という剣を學んでおり、それなりに近所では有名な剣士だった。シルヴィも実家が武神流という格闘の道場を開いていることもあり、子供の頃から喧嘩も負けない有名なだった。

「いいのかい? 命の危険すらあるんだよ? 僕がやろうとしていることは魔王を……世界を救うことなんだけど」

その言葉にノエルは苦笑いをしながら僕の頭をそっとでる……彼は子供の頃からそうやって、僕に優しく接してくれる良い兄貴分だったな。

僕はでられるままノエルの顔をじっと見つめる……彼が僕を見る目はとても優しくて、年上ということもあってし僕よりも手のひらが大きくて……そしてとても暖かかった。

「俺は世界を救うなんて大それたことをしたいわけじゃない、キリアン……お前を助けたいと思ったから一緒に行きたいんだ、だから行こうぜお前が世界を救うんだろ?」

ああ、そうだった。

彼はそんな人だった……ガキ大將と言われているけど、その実とても優しくておおらかで、そして勇敢な人なんだ。僕はそっと彼の手を取ると、頭を下げる。

僕が頭を下げたのを見て、慌ててそんなことしなくていいと言わんばかりに肩を叩くと、傍に立つシルヴィも嬉しそうに微笑んでいる。

僕は彼らに微笑むと、自分の荷を地面から拾い上げて歩き出す……そんな僕の後ろに二人の友人が従い、僕たちは生まれ故郷の村を出ることにした。

「いこう、ノエル……シルヴィ、この世界を救うんだ」

目の前にしい黒髪のが見える……紛れもない、あの時僕のために一緒に立ち上がってくれた仲間、ノエル・ノーランドに似た強い意志をじさせる瞳だ。

姿形は全然変わった……一度死んでこの世界に生まれ変わった彼はしいの姿になっていた……僕は、僕は長い年月を経て、自分自の姿を忘れてしまっていた気がする。

アンブロシオと呼ばれ、魔王として恐れられた後、ふと鏡を見たときに自分はこんな顔だったのか? と悩むこともあった。

傍に立つものは変わっていった……ノエルが死に、シルヴィは一人にしてほしいと一人で生まれ故郷へと戻っていった。エリーゼには僕が良かれと思ってお願いしたことが裏目に出て、怒ってどこかへ旅立ってしまった。

アナとウーゴは巡禮の旅に出なければいけなくなった……最後に話をしたときに、自分は教會のために命を捧げると決めている、と寂しそうな顔で微笑んだのを覚えている。

ノエルはみんなの繋ぎ止める楔だったに違いない……あの時楔を壊したことで、ノエルを失ったのかもしれない、とずっと後になって思った。壊してはいけなかったんだ、絶対に壊れてはいけなかったんだ……。

「誰も僕のそばには殘ってくれない……僕はいつまでも一人なんだ……」

思えばノエルだけが、彼だけはずっと僕のそばにい続けてくれようとしていた。シルヴィはノエルがいるからいてくれただけで、僕のことはどうとも思っていなかった節もある……僕は彼のことが大好きだった。だから姿形が変わった彼に、世界の半分をあげようと話したのは本心から、僕のそばにいてほしいって思ったから。

「僕は……僕は一人になりたくない……助けてよノエル!」

必死にぶも聲が出ない、既に僕のはバラバラに切り裂かれているから……目の前に立つノエル……いやこの世界では新居 燈というそうだが……彼の目は憎しみではなく、し悲しそうなも湛えている。

ああ、そんな顔をしないでおくれ……君が先にいなくなってからずっと僕は寂しかった……だから、君を見つけた時に本當に嬉しかった。

僕は君が死ぬ時に、お禮が言えなくてずっと後悔をしていた……だから聲が出ないけど僕は君に言わねばならないことがある。

『ありがとう、ノエル。君はずっと僕にとって大切な友達だった……僕を庇ってくれてありがとう、僕のために戦ってくれてありがとう……そして僕の背中を押してくれてありがとう』

地面に落ちた顔の一部……キリアンと同じをした目から一筋涙がこぼれた気がして、私ははっと息を呑む。目の前で紅(ブラッド)と魔王の繋がりを斷ち切ったことで、加速度的にの崩壊が始まっているのだ。その流れはもう止まらないだろう……つまり、私の渾の一撃が魔王を倒した……はず。

私は地面に全て破壊するもの(グランブレイカー)を突き立て、なんとかその柄にしがみつくことで辛うじて倒れることを拒否する。

ガラン、ガランと大きな音を立てて、聖剣もたらすもの(ライトブリンガー)が転がる……二本の形の違う聖剣は鈍くを放っており、魔王が持っている時よりもそのは鈍くなってるようにも思える。

『我々は契約が命だ……我もそうだが、彼奴の契約者が両方とも滅びたことによってその能力を失いつつある。まあそれは死ではなく、別の世界の契約者によってけ継がれるものだがな』

全て破壊するもの(グランブレイカー)がしだけ悲しそうな聲で囁く……彼も前世の世界では契約者を失った側だ、その辛さや先に待ち構える困難を考えると人ごとではないのだろう、いや剣ごとか? まあ契約者を得るというのはなかなかに困難だと思うのだ。

「そうね……異世界のもたらすもの(ライトブリンガー)……私の友人、キリアンの魂を元の世界へと戻してあげて」

私はゆっくりともたらすもの(ライトブリンガー)へと歩み寄ると両手でその剣を握る……この剣の聲は私には聞こえない、契約者じゃないからね。私の言葉に反応するかのように軽く明滅する刀を見て、おそらく黙って戻ってくれるだろうと期待し、私は崩壊しつつあった煉獄の花(ヴルトゥーム)の雌蕊へと近づく……先ほどまで消えていたの柱が再び立ち上るが……そのは弱々しく今にも消えてしまいそうだ。

軽くもたらすもの(ライトブリンガー)を見ると、今にも消えてしまいそうなくらい弱々しいものだが……私はそっとそのの柱へと剣を放る。

の柱に飲み込まれた剣は、まるで謝すると言わんばかりに鈍く明滅しながら空へと高く舞い上がっていく。

「いけ、もたらすもの(ライトブリンガー)……次の勇者を見つけ出し、あなたの世界を救いなさい……」

『……良いのか?』

うん、これでいい……キリアンを勇者(ヒーロー)として覚醒させたのはあの剣、何度も命を救われたのは事実だし、魔王はあの剣でないと倒せないだろう。

異世界を救うのは勇者(ヒーロー)でなくてはいけない……私は一振りの剣みたいな存在でしかない、世界を救う勇者(ヒーロー)にはなり得ないと思うのだ。

雌蕊からびたの柱はひときわ大きく輝くと、力を失ったかのようにそのを無くし消えていく。

『……まあいい。で、こちらはどうする?』

全て破壊するもの(グランブレイカー)が傍に落ちているもう一本の聖剣……いやどう見ても斧なんだけどさ、この世界のもたらすもの(ライトブリンガー)を示す。

私が拾い上げるために歩き始めると、もたらすもの(ライトブリンガー)がふわりと空中へと浮き上がる……な、けるのかよ! 私は慌てて構えるが頭の中に聲が響いてきたことで私は驚いた。

『……新居 燈……我の契約者を滅ぼしもの、お前はこの世界における異である……だがその強さを認めよう。アンブロシオは滅びた、だが我の目的は滅びない……』

「何言ってんだ……目的って?」

『お前は異、そして振るう剣は破壊を司る魔剣……ゆえにお前は破壊者である。我は守るもの……この世界を見てきた我はこの世界は人間、お前たちの手に余ると信じた』

もたらすもの(ライトブリンガー)は斧の形のまま宙へその姿を浮かせている……守るもの? そして人間の手に余る? 何を言っているんだ……。

私はこの聖剣が何を言っているのか理解できず、眉を顰める……世界を守るのであれば、異世界の魔や異をどうしてこの世界へと招きれたんだ。

それこそ本末転倒じゃないか……世界を守るために世界に住んでいる人々を滅ぼしかねなかったんだぞ、アンブロシオの行は……。

『それは事の一局面にしかすぎない、人間はこの星、世界を滅ぼしつつある……緩やかにそして他者の命を奪い取り、慈しみを忘れ、自己の利益のままに他者を傷つける……お前らのやっていることは魔王と変わらんのだ』

もたらすもの(ライトブリンガー)は朗々と語る……確かに歴史を學んでいくと、人間が世界を滅ぼしかねない愚行を重ねている、と主張する人たちも多い。

戦爭や貧困、差別など毎日のニュースでさまざまな問題が報道される……人の愚かさを嘆く聲もいるかもしれない……だけども……。

「……だからって、何も知らない人を殺していいなんて私は思わない、私の大事な人を傷つけられて、それでも世界のため、なんて私には耐えられないわ」

『……愚かな……キリアンはそれでも大義のためであれば、人を切り捨てることすら厭わない男、それ故に我の契約者足り得た、だがお前は無理だな……癡れ者が、お前のおかげでこの世界の崩壊は早まったかもしれぬ』

「……だからってキリアンが罰を與えようとするなんて……それはエゴだわ、あなた自の。私は世界を変える人の力、そして知恵を信じる……ノエルもそう言うでしょうね」

『……話にならん……』

ひときわ強く輝くと聖剣もたらすもの(ライトブリンガー)は呆れたようなを表現したのち、その場から消え去っていく。

私の目の前から姿が消え去った後、月明かりに照らされた煉獄の花(ヴルトゥーム)がゆっくりと震え出す……あ、これまずいやつだ……まるで植が力を失って枯れていくかのように、混沌の花はゆっくりとその命を失い崩壊を始めていく。私は慌ててこの巨大な植から逃げ出すために走り出す……必死に逃げる私の耳元で、そっと誰かに囁かれたような気がして、私は一瞬立ち止まるが、大きな振が起きたことによって慌ててその場から走り出す。

『お前はやはり秩序の破壊者だ……覚えておけ私はこれからも世界の秩序を守るために、寄生蟲たる人間を滅ぼすために立ち上がる、お前は人間の代表として爭って見せろ剣聖(ソードマスター)……』

_(:3 」∠)_ ようやく決著……現代の剣聖新居 燈の語ももうすぐ完結です。

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