《HoodMaker:馴染と學生起業を始めたのはいいが、段々とオタサーになっていくのを僕は止められない。<第一章完>》海岸沿いで食べるカップ麵2
「海だあああああああ!」
期待通りの第一聲。秋が我先にと駆け出す。
「へー。うちの近くにもこんな場所があったんだ」
奈々が目を輝かせながら秋の後を追う。
ここはコンテナが並ぶ港の裏手。観ガイドには乗らない地元の海。
防波堤とテトラポッドが夕日へと続く、場のデートスポットだ。
「私は小さな頃に來たことがあるかな。こんなに整備されてはなかったけれど」
「凜が來たのって結構前?」
「うーんそうかな。多分小學生の頃だと思う」
「なら知らないも仕方ないかな。ここ一年で西海岸の整備と並行して変わったんだよ。
以前のような割れた地面や、は全て修繕されている。
凜が知っている頃はかなり荒れていて、やんちゃな人ばかりが集まっていたが、當時も人気があった。
「ここって不良がたむろしているようなイメージだったけど」
「まあ數年前まではね」
今でも不良……ならぬ田舎のダサさがブランドされた、マイルドヤンキーみたいなのはちょこちょこ見かけるけど……釣竿持って。
「禮夢なんか詳しいね」
「一応、よくここら辺で走っているから」
いつの間にか日課になったロードワーク。
そんな場所を特別だと思ったのは、たぶんあの人のせい。
「ほほう。禮夢は意外とスポーツマンでしたか」
俺たちが防波堤に上ると、先に座っていた秋たちが會話に加わる。
「むーくんは高校の頃は僕ボクサーだったんだよ」
そこへ奈々が一言。
「なっ! 余計なこと言うな!」
雰囲気が良ければ何を言っても許されるわけじゃない。
奈々に全力で釘を刺し、高校時代の俺について話させないようにする。
「そう言えば禮夢って中學と高校の頃って何を……」
「それはまた今度話すから! それよりも今は!」
凜が會話を広げようとするので、俺は被せように全員に別の催促をかけた。
とりあえず今は。
「「「「いただきまーす!」」」」
ズルズルッ!
みんなが麺をすする音が響く。全員の手の中には近くの青いコンビニで買ってきたカップラーメンがある。
秋は味噌。凜は塩。誠二は醤油。俺はとんこつ。
メンカタカラメヤサイダブルニンニクアブラマシマシは奈々だ。
商品名通り、かやくが10種類っているらぁめんである。
「なんと面妖な!」
初めて食べたのか奈々が安くて、特別がある場所。安い=カップラーメン。特別=夕日。という組み合わせ。
どうだろう。
自分で言うのもあれだけれど、海岸で夕日見ながらカップラーメンって結構ありだと思う。
そのせいかいつもより味しい気がする。
「そだそだ~寫真~♪」
「私も~~♪」
秋を皮切りにみんなポケットからスマホを取りだし、撮影會が始まる。もちろんその中に俺も含まれていて。
「なら、全員で撮らない?」
なんて提案を出したりする。
すると奈々が「まるでリア充みたいだ」と騒ぎ出す。
「まあ若い男で騒いでたら、そうにしか見えないよね。というかリア充って死語じゃ…」
「そ、そうなの?」
「最近はあまり聞かないよね」
「確かに流行りのことが廃れるは一瞬。最近『萌え』も死語になっているし…」
「もえ…………ってなに?」
「!?」
凜の返しに奈々が固まる。
「も、もしかして……知らない?」
「もえって、『萌え~』ってやつでしょ?」
「知ってはいるけど、今はどっちかと言うと『尊い』」
「じゃない?」
逆にオタク界隈にある程度理解を示した秋に対し、奈々は前のめりになる。
「な、なぜ最先端のオタク用語をご存じで!?」
「最先端なのかは知らないけど、中學の頃には既に聴いたことある。どこでかは覚えてない!」
「はう! 尊いが最先端では…ない、だと?」
「どちらかというと『バブみ』とか『オギャる』の方が新しくない?」
「バブ…オギャ…?」
「『無理』『しんどい』『尊い』『推せる』は四大用用語でしょ?」
「ら、用?」
「奈々も『沼』なんでしょ?」
「私が沼…?」
奈々が目をまわす。
「なんかよく分からない話をしてる……そして一瞬でリア充から遠のいた」
「確かに。まあ奈々の場合、作品やクリエイターには関心があるけれど。ああいったノリには全然ついていけないタイプだから」
あとズボラなので、言葉の意味も調べようとはしない。そのため誤用も多い。
「秋ってそこら辺結構詳しいんだね?」
「いや~別にそこまでじゃないって。ただ下の子二人が完全にオタク化しているから、その影響かな」
ほう。
「下の子ってもしかして、春斗くんと真冬ちゃん?」
「そう言えば秋のとこって雙子の妹と弟がいたよね」
「うん。それが今では完全なオタクになっちゃったんだよ。タイプは別なんだけど、どこかで布教されてきたみたいで。春斗はラノベばっかり読んでて、最近は自分でも書いてるみたい。真冬は完全にコスプレイヤーを目指してるみたいで、手蕓部を乗っ取ろうとしているとか」
苦笑する秋。
「今度秋ちゃんの家に遊びに行ってもいい?」
「いいよ。奈々たちならきっと二人とも喜ぶだろうし」
「よしよし。春斗くんにMUS〇CUS!を、真冬ちゃんにはげん〇けんシリーズ全巻をプレゼントしよう…ムフフ」
全く。一何を企んでいるのやら。
「一応手加減はしてあげてね……」
「秋ちゃん心配しないで~お姉さんが手取り足取り指導してあげるから~♪」
本當だろうか……例えそれが本當だとしても、嫌な予しかしないが。
「うちは逆なんだよねぇ……」
凜が話を聞いてそう呟く。
「逆って?」
「アニメとか漫畫の話………うちはダメなのよ」
はあ……と、ため息をつく凜。
「うちの場合親じゃなくて、兄さんのほうが嫌いしているというか、生理的にけ付けてないみたいなじ」
「え、凜に兄妹いるの?」
「いるよ。確か奈々のお兄さんの二つ下のはず」
全く知らなかった。
「と言っても、先月、本土に引っ越したから、気にする必要はなくなったけどね」
今度は苦笑いをする。
「でもまぁ……兄は結構気にするタイプで、バラエティー番に一瞬映るだけでも、直ぐチャンネル変えちゃうぐらいだし、參考書もイラストが表紙のやつじゃなくて、ガチガチの派な出版社のものを選ぶよう仕向けたりとか、一々難癖つけて來たんだよね。別に今の時代、何か言われるわけでもないし、むしろそれが普通なのに……ね?」
言われてみるとそうかもしれない。
「でも、それが普通だって思うようになったの、俺たちの世代ぐらいからじゃない?」
「だろうね。禮夢の言うとおり、世代差ってあるとは思う」
俺がそう言うと誠二も頷く。
「だとしてもさ。今の時代、どこを見てもアニメ・漫畫だらけなんだし、それじゃあ息苦しいよ」
同じに染まる必要はないと思う。でもぶつかり合う時期はとうの昔に過ぎているとも思う。
「ほんと。そうだよ……ま、昔嫌な事があったのかもしれないけれど」
そう言って、凜は何か振り返るような素振りをみせる。
心當たりはあるが確信まではないのか、凜は決して兄を否定するような発言はしない。
「ほうほう。ということは、凜ちゃんがこの中で一番アニメ・漫畫を見ていないと言うことでOK?」
まるで餌を見つけた食のように奈々の目が細められる。
これまた空気を読まない行を………。
「そ、そうだね」
「…………」
そしてニヤリと嫌らしく笑う。
「ソッカー。リョーカーイ(棒)」
きっと頭の中では布教リストがものすごい勢いで作られているのだろう。
それにしても何故この子はここまで布教することに熱心なのだろうか。
「なあ秋」
「なに?」
「そっちの雙子もこんなじか?」
「うーん。圧倒的レベル差はあると思うけど……たぶん一緒」
「そうかぁ」
俺も近い未來こんなじになってしまうのだろうか。
「でも考え方って人それぞれだと思うよ。だからさ」
「?」
ズルズルッ!
ぼそりと呟いた秋は、しびてしまった麺をすする。
「これはこれでいいかも…………」
その一言は何に向けての一言だったのかは分からない。
「俺もアニメみようかなぁ」
「ちょ! 今ここで言う事じゃ……」
誠二余計な事を言うんじゃない。ほら、奈々が目キラキラさせながらこっち見てるし。
「遅かれ早かれ、この流れだと定期的に見ることになるだろうし、それなら自発的に選んだ方が」
「うんうん。この流れ。若い男が海に來てまでアニメに話をするなんて、やっぱりみんなこっち側の人間なんだね」
一人で勝手に納得しだす。
「よーしなら、これから事務所に戻って新〇誠_BDBOXマラソンを……」
「「「「やらせないよ!?」」」」
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