《HoodMaker:馴染と學生起業を始めたのはいいが、段々とオタサーになっていくのを僕は止められない。<第一章完>》blue,Next blue1
「………もう起きてしまった」
先日の教訓を生かし、きっちり8時間睡眠を取った朝。いつもよりも早く目が覚めた。
朝の5時半か……結構早いな。
窓からうっすらと日のがり込んでいる。今月にって3度目の寢不足は流石にやばい。睡眠の重要は、前回、前々回で學んでいる。あの気だるさはもう懲り懲りだ。
「ふああ~~~~~」
大きなあくびと大きなび。
「いち、にい、さん、しっ!」
「ご~、ろく、しち、はちっ!」
更にストレッチ。
「はっ! はっ!」
そして腕立て100回。続けて腹筋100回。最後にスクワット100回。
「よし! やるか!!」
完全にが溫まったところで、一度著替え、機に座る。因みにこのルーティンは悟さんからのアドバイスだ。
『「何事も最高の狀態で楽しむ」これ悟の悟り』
ギャグが面白いかは別として、その姿勢は尊敬する。ならば俺も々と改めなければならない。
夜にやるから寢不足になる。それなら朝一でやればいい。朝の勉強と同じと考えればいいのだ。むしろ一番頭が回る時間にプレイすることこそが、一番正しい作法なのではないだろうか。
というわけで、メインディッシュとして殘しておいた、メインヒロインルート攻略に……。
「……………あ」
しかしノートパソコンを起させる直前、手が止まる。トラブル発生である。いや発生と言うか何というか……。
「ランニングどしよ……」
* * *
流石にこの時間だとここら辺暗いな。自宅とは違って、し背の高い丘の影に隠れるこの海岸。いつもの印象とは違う景に、一つ疑問が浮かぶ。
ゆきねえって、いつも何時に來てるのだろうか。
毎回、先にいるのはゆきねえだ。防波堤の縁に座って、海を眺めているか、文庫本を読んでいる。そして俺を見つけて聲をかけてくる。それがいつもの流れ。
ただそれは、俺がいつも同じ時間に家を出て、同じペース、同じ道を走っているからであって、こうやってイレギュラーな行を取ったことはない。
じゃあ、今日はどうなのだろうか。そんな疑問が俺をいつもより一歩半分、歩幅を大きくさせた。
「はい、おはようさん!」
當然のごとく、定位置で海を眺めていたゆきねえ。変わらない調子で聲をかけてくる。
「おはようございます。早速ですが一ついいですか?」
「いきなりなんだい?」
正にいきなり。前振りもなしに投げかける。
「ゆきねえって、宇宙人か何かですか?」
「なんだ? 會って早々に?」
「いやだって……」
失禮なのは分かっている。
それでも自分が思ったことを正直に話す。
「前回でゆきねえの謎が増えすぎて、頭の中パンクしたので、これならもう、人間以外の存在として考えた方が、理解しやすいんじゃないかな? と、思いまして」
悟さんたち含め、俺の周りの大人たちは、何故こうも訶不思議な思考や行を取るのだろうか。特にゆきねえはイレギュラー過ぎる。こんな朝っぱらから、毎回何をしているのだろうか。分からないことだらけだし、理解できないことも多い。
「ふーん。宇宙人ねぇ」
「はい。もしくは異世界人か」
謎が俺の興味を引き、謎であることが俺を不安にさせる。ゆきねえの場合と言うか
何を食べて、何を見て、どう生きて來たのかが見えてこない。まずは何故ここにいるのか。そこから始めるのだ。
「ほほう。まぁ、そこまでぶっとんでいるつもりはないけれど、そう思い込むのは、仕方ないかな」
「仕方がないって……」
「そりゃそう思うように『設定』してる訳だし」
「はい?」
「設定・コンフィグ・スタート畫面の一番下にあるボタン」
「いやいや、何言ってるんですか……設定って……朝一の冗談にしてもぶっ飛びすぎですって」
「そう?」
「そうなんです!」
またこの流れ。
いつだってゆきねえに常識は通用しない。
「別にそんなに怒らなくても……」
「怒ってませんって」
いや、口調は多強くなっているかも。でも肯定はしない。
「前回の件があるので、ズレをじたら直ぐに伝えるように心掛けただけです」
あの時はゆきねえに、一人で喋らせた俺にも責任があると思った。會話にリズムを。表で間を。
「なるほど」
これまでにない渋い顔。
「その『なるほど』を、俺にも下さいよ」
「それに関しては結構あげていると思うけど? 新しい視點的な意味で」
「その殆どが魔球ですけどね」
尚且つ剛速球でもある。
「いやいや。これでも手は抜いてるんだぞ~~年☆」
「………………」
やけに語尾を強調した言い回し。それに対して。
「うわ……」
思わず口に出してしまう。
「なんだその顔は~~~」
珍しくゆきねえが俺の行に対して、分かりやすい反応を示す。
「いや、何というか『抜いてるんだぞ♪』の最後の『~年☆』が……ですね。なんか……」
うん、なんか……ね。
「なんか……ってなんだよ~~」
「それは……………正直に言うと……痛いです……『☆』はないです。ダメダメです」
三連続。割り込む隙間なく駄目だしする。すると。
「セイッ!」
ゆきねえが一歩踏み込んでくる。
やっぱり。
前にけた手刀打ち。それをスウェーで回避。そこからバックステップで更に二歩下がる。
自然に右手が握られ、顎を守るように添えられる。
流石に左手まではあげてはいないが、ああ……。
癖で構えてしまうのは仕方がない。
「この~~!」
ガルルと唸るように威嚇してくる。
「前に護とか言ってたけど、その構え! 完全にボクシングじゃないか! この前までは避けもしかなったクセに~~! 隠してたなー!」
これまでのように主導権が取れないせいか、骨に不満そうな顔をする。
「何でもかんでも教えはしませんよ! それに、避ける必要ないものを避けたりしません!」
適度に反抗。適度に主張。適度に逆転。
ああ…なんだろう。なんか高1の頃を思い出すなぁ。
「な!?」
「それにゆきねえは、出會った時から々距離が近すぎたんですよ。指摘しなかった俺も悪いんですけど、今日はそこら辺全部オープンにしていきますよ!」
「ここ數日で年に何が……」
「その數日にゆきねえもってますから」
「そうだとは思うけどさ」
「なら責任取ってください」
「責任? そんな。私たち出會ってからまだししか……」
「もうボケはいいですから! そんな事ばかりしてたら、本當に責任取って貰いますよ……?」
「え? 今何か言った?」
わざとらしく首をかしげる。
「ほんと都合のいい耳してますね!!まったく……」
ゆきねえのペースに付き合っていたら、前みたいになる。
「前々から聞こうと思ってたんですけど、ゆきねえって普段何しているんですか?」
だからこっちから吹っ掛ける。
「出は? 職業は? 何で毎朝この海岸にいるんですか?」
三回言ったのには意味がある。
人間は比較的楽な方を選ぶ習があって、一つずつ投げかければ『答える』か『答えない』の二つの選択肢になるが、複數の問いかけを一度にすることで圧力をかけ、無意識的に選択肢が『答える』『答えない』ではなく『出』『職業』『どうして毎回この海岸にいるのか』の三択であると勘違いさせ、楽な答えに導していく。
のだが、ゆきねえの場合は……。
「う~~~んかなぁw」
この返事の仕方! 最後は悩む振りすら捨てましたよこの人!
「俺のことは散々聞くのに?」
大學生活に起業。バイトに奈々への想い。掘り葉掘りと聞いてくる。それなのに自分だけは卑怯だ。
「それは……まあね。ある意味君の為であり、私の為なんだよ。それは…」
ほらまた。
「誤魔化そうとしたって駄目です」
「そこなんですよ。いつも象的で、質問の答えをはぐらかす。もっと分かりやすく、簡潔に。今の時代は分かりやすく、なんならA4一枚で、140字で、三行で答えられなきゃやってけないですよ」
じゃなきゃ誰も見向きもしない。
「ふーん………分かりやすいねぇ…」
この間の取り方……。なにか嫌な予がする。
「今日の君はいつもとはし違うようだし。そうだ、一つ勝負と行こうじゃないか」
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