《高校生男子による怪異探訪》4.古戸池
いい笑顔の蘆屋先輩に送り出された俺たちは、早速と古戸池に向かった。
時刻は夕刻、オカ研部室にてそこそこの時間も経ってはいたのだが、それでもまだ周囲は明るい。
これから日はどんどん長くなっていく訳だし、本日は実に見事な五月晴れだった。現在でも見上げる空は雲一つなく、そうなれば夕方と言っても日は強く差す。
これから雑木林という、日が暮れたあとには絶対に赴いちゃいけない場所へと向かうには中々いいロケーションなのではないだろうか、ちくしょう。
「押し切られてしまった……」
「々後手に回っちゃったよねぇ」
呟きに嵩原が苦笑をえて返す。檜山のやる気を出しにして押し付けられてしまった。巧く流れを導した先輩が上手であったという話。
げんなりしている俺とは違い嵩原はなんだか機嫌良さそう。檜山ほどではないけどもやる気もあるように思える。
「言う割には『しまった』って顔はしてないな」
「そりゃ河がいるかどうかは元々興味あったし。あの寫真の真偽を調べるのも俺はやり甲斐があると思うから」
そう言えば嵩原はそっち側の人間だったな。じゃあ、後手に回ったというのもわざとそうした可能がある。俺たちを噂の検証に付き合わせるためのいつもの手法だ。
「お前なぁ」
「どの道調査には駆り出されていたでしょ? だってこれ聖への罰だし。聖一人だけを送り出したりはしないよねぇ、原因さんは?」
それを言われるともう何も言えない。嵩原の言う通り、この河の調査が樹本への約束破りの罰則と銘打たれている以上は樹本は回避することは出來ず、またその原因である俺も手伝わないという選択は取れない。
分かっている。分かっているならもうぐだぐだ言わずに調査にをれろって? 河の存在解明のために制服姿で雑木林に足を踏みれるなんて事態に直面した奴からしか文句はけ付けん。
「本音はもう家に帰りたいんだが」
「真人ならそれでもいいかもね。一回顔を合わせただけだし會長さんとの縁も薄いから、今後への影響もほぼないんじゃない? 聖はそう言う訳にはいかないけどね。なんせ連絡先もばっちり把握されてるみたいだし」
ああ、やっぱりそんなじか。樹本は逃げたくても逃げられない訳だ。あいつ頭良いしトラブルへの対処も心得てるあるのに、なんだってそう変な所で苦労背負い込むんだろう。
「そんな風に言われると樹本が不憫で仕方ない」
「実際不憫だと思うよ? だって聖はいやいや所屬しているな訳だし、本人はオカルトなんて興味処か見聞きもしたくないだろうからね。一番納得してないのは聖なんだろうさ」
お前が言うのかと思いつつ、ふいと視線を前方にやる嵩原のそのあとを追い掛ける。道路を行く俺と嵩原の前には檜山と樹本が並んで先を行っている。後ろ姿からも檜山の楽しそうな様子は見て取れるのだが、反対に樹本はと言えばどこかその背中は煤けているように思えた。
「なんて分かり易く明暗が別れた背中だろうか……」
「同している人間の臺詞だとはとても思えないよ。まぁ、とりあえず現場に赴いてそれで寫真を幾つか撮ってきたら會長さんも納得してくれるんじゃない? 流石に河を激寫、までは求めないと思うよ」
ええ? そうだろうか。送り出す際のあのギラギラした目を思い返せば絶対に何かしらの証拠を要求すると思うんだけど。渡されたデジカメはそこそこに良さげなであることだし。
「そんな楽観的に構えていいのか?」
「だって今日まだ一日目でしょ? こういう生態調査って何日か掛けて環境調査と、その他に行調査なんかも行っていくものだから。一日で全容が明らかになるなんて稀だよ」
待て。その言い分だと何日も池に通うことにならないか。こんな調査なんか一回しかやる気はないぞ。
一回でいいよな。いい、はず。いや、先輩は一度行ったら許すなんて言ってたか? あれ、報を持って來いとしか言われていない? それって納得のいく報告がなければずっと続けるってことになる、のか?
え、噓だよね。噓と言ってよ。
不安を抱えた道中であるが歩き続ける限り先には進むもので、気付けば當たりには田園風景が広がっていた。行く先には田畑と遠くに山が見えるばかり。
「ちょっと歩けば直ぐに田んぼや山が見えるなんて、こっちははっきり言って田舎だよねぇ」
「いいじゃねぇか。その分夜は靜かなんだよ」
嵩原の揶揄する聲にちょっとムッとなりつつ言い返す。嵩原の家は二駅ほど離れた中心街にあるらしい。県の主要都市であって、こっちとは比べものにならないくらい栄えているのだとか。ビルも建ち並んでいて様々な商業施設もあると聞く。
我が古戸萩市はそりゃ、主要な経済圏からは若干外れてはいるだろうが、それでも人口は十五萬人を超えてるしそれなりに栄えてもいるんだぞ。まぁ、大規模な集會施設と言えば築何十年の市の會館とか、流行りの店は電車乗っていかないとないとか田舎あるあるはあるんだけども。そんな改めて指摘されるほど田舎ではない、はず。
「學校から歩いてそう時間も経たずに山が見えてくるってのが新鮮なんだよね。なんなら市の中心からそう離れていない場所に小山まであるし。自然のが隨分濃いとじるんだよ」
「自然の、ねぇ」
昔流行ったらしいシティボーイ、なんてのが似合う嵩原が口にすると、それだけで様になってるように見えるのだからこの男は得してるよな。俺が言った所で「何格好付けてんの?」と鼻で笑われて終わるのが目に見えている。
「これからその自然の只中に向かおうとしているんだぞ。喜べ」
「雑木林、そして放置された池ともなればどれだけの蟲が飛びっているか分からないものを喜べと言われてもね」
嵩原の目が遠くを見る。都會っ子には蟲は天敵だものな、俺も得意じゃないけど。
「あっ!」
多分揃って遠い目していた俺たちの耳に檜山の歓喜の聲が屆いた。先を行く檜山が急に橫道にって林に一直線に向かって行く。どうやら目的地を発見したらしい。
「あの先のようだね」
「だな。覚悟して行くか」
「蟲除けスプレーを用意するんだったよ」
嵩原の軽口をスルーしてあとに続く。見れば細い未舗裝の道が道路脇から林に向かって延びている。傍らには隨分古ぼけた看板が立っていて、ボロボロの表面にうっすらと『古戸萩用水池』と掠れた文字が見えた。野曬しにされてからかなり時間が経っているらしく、なんの汚れか分からない染みが全面にある。
アスファルトの道路から未舗裝の土剝き出しの道へと降りて林に分ける。高くびる木々が頭上を覆い道程は々暗い。木れ日でそこそこに明るくはあるが、これあとしでも日がれば真っ暗になるんじゃなかろうか。そんな心配と共に先へ進むが、林の小道はあっさりと終わりを迎えた。
道路から続く道は緩やかにカーブを描き、そして曲がった先には一転して開けた景が広がっていた。
「お……」
頭上を覆っていた木々は途切れちょっとした広さの敷地が目の前に現れる。真っ直ぐな西日が差す中、草に覆われた地面のその先には深緑、いや最早茶か? なんとも濁った水を湛える大きな池がでんとあった。
「ここが『古戸萩用水池』か」
隣で嵩原が呟く。かつてはここの水が田畑への水供給の役目を果たしていたのか。濁って全く底の見えない、沼にしか思えない現狀では最早見る影もない。
「ここに河がいるのか!?」
「いやー……、どうだろ……」
対照的なテンションとリアクションを披する二人が水辺で騒いでる。俺たちも近寄って池を覗き込んだ。
遠目から見た時と大差なく、水は濁っていてただのヘドロにしか見えない。底処か水面下だって全く窺えない不明さで水中に生きがいるのかすら陸からは判然としない。
これどうすんのと疑問が頭を擡げる。どうやって水中にいるだろう河を探せばいいのか。近寄ったからよく分かるが、濁った水からは生臭い匂いが強烈に発せられていて手でれるのも勘弁願いたいぞ。
「さて、調査なんだけど、まず何から始めようか」
嵩原が思案気に切り出す。樹本、檜山と顔を見合わせた。そう面と向かって言われても、持たされたのはデジカメだけなのだし寫真撮って終わりでいいのでは?
「一応は池周辺の調査、何か大型のの痕跡はないか、不自然に荒らされた様子はないかを調べて、あとは池の部? でも、これは……」
落ち著いて頭も普段通りに回り出したらしい樹本が方向を口にする。調査項目を挙げながらチラリと池に視線を向けるが、嫌そうに眉を顰めてその先も言及しない。気持ちは痛いほど分かるぞ、樹本。
「まあ、周辺から調べるのが妥當だよね。目撃報が真実だとして、ひょっとしたら何かしらの生を見間違えた可能はある。まずはその痕跡がないか探るべきだ」
「え、河じゃないのか?」
「野生のを河と見間違えるって話はよくあるそうだよ。それこそカワウソを見間違えたのが河の始まりだって言われてるし。今回も現実の生きが正だったりするかもしれないね」
嵩原が答えるのに檜山はがっかりと肩を落とした。気持ちは分かるらしく嵩原は苦笑を浮かべる。現実的な結末を希してるのは俺と樹本だけなの、この面子。
「それじゃあ、一先ず二手に別れて池の周辺を調べてみようか。そんなに大きな池って訳じゃないけど日暮れも近付いている。あまり時間も掛けられないし手分けして調べちゃおう」
樹本の提案によりそうなった。ペア分けは俺と樹本、檜山と嵩原だ。頭脳労働者が別れた形だな。この場合はやるべきことを理解している二人が別れたと言える。
「ここから左右に別れて向こう岸で合流。それでいいね?」
「寫真はどうしようか? デジカメ、一つしかないんだけど」
「あ、そうだね。嵩原、持ってく?」
「調査は聖が主な方がいいでしょ。こっちはスマホで代用するよ。データを提出するくらい手間でもないし」
そんなじに話は纏まり、俺は樹本と共に右から池周辺を探索することとなった。
「よし、それじゃ始めよう」
「おう! 河を捕まえるぞ!」
「亨だと鹿くらいなら素手で捕まえそうだよね」
やる気に満ち溢れる檜山、嵩原と別れて右に行く。池を左に、雑木林を右に何か変わった痕跡がないか調べていく。しかし左手側の池はともかく、雑木林は藪も濃くて奧まで見通せない。
「樹本、これ林側の様子を調べるって無理じゃないか?」
「夕方ってことを差し引いても木々が濃過ぎてよく見えないね。こっちは雑木林が続いているから仕方ないんだけどさ。嵩原の方は道路が近いから、池に住み著いたとすれば多分こっち側から侵して來てるとは思うんだよね」
軽く藪を掻き分けてから意見するとそんな返事が。なるほど、だからこっちルートなのな。確かに振り返って向こう岸を見てみれば、林立するその向こうに田んぼがしだけ覗いている。林の範囲は狹そうだ。
「中にるか?」
「それは止めとこう。事前準備もないのに林の中にるのは危ないよ。とりあえず寫真だけは撮っておいて、あとは藪が途切れてないか、地面に足跡はないかだけ確認しよう。の糞が見付かれば明確な証拠になるんだけどね」
言ってデジカメを持ち上げて撮影する。ピピッと電子音が聞こえてフラッシュが焚かれた。一瞬暗い林の中が白く浮き彫りになるが、本當に一瞬なので詳細な様子は何も分からない。
ゆっくりと池の縁を辿りつつ調査と撮影を進めて行く。樹本の指示に従って地面や藪などを注意深く見ていくが痕跡らしきものは何も見付けられない。地面は雑多な草花で覆われていて、足跡はともかく、生きが通ったなら踏み締められるなりして分かり易い形跡が殘っていそうなのに、それも一向に見當たらない。
「こちらからは出て來てないのか?」
「だったら田んぼの方かな? 水田か、その用水路で暮らしてた亀なんかが道路を渡ってこの池に來たとか。話を參考にするとそこそこの大型っぽいんだけど、やっぱり噓か見間違いかなぁ」
二人で頭を悩ませながらも調査を進める。時折樹本は池も撮影していった。徐々に赤く変化していく日差しの下で、池は波風立てず凪いだ水面をずっと曬し続けていた。
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