《高校生男子による怪異探訪》6.白河
ちょっと短めです。
さっきの寫真とは違って非常に鮮明な畫が寫っている。池を真正面に捉え、全景もっているので非常に見易い。畫面全が白く発している以外はいい寫真なのではないだろうか。檜山め、中々な腕だな。
その全景の真ん中、池の中央の水面から何か白っぽいものがちょこんと出ている。円く紙のように白いのだがしばかりけているか? ピントが合ってないようにも見えるけど、問題はそれだけじゃない。
腕が。真っ白な腕が水面から出ている。白い円形のもののし前方、なんの揺らぎもない水面からキノコのようににょきりと生えていた。腕は宙にばされていて、手はこちらへと向いている。々遠いが、それでも真っ白な指らしきものが何かを摑むように歪に曲がっている様は見て取れた。
「……ひっ……!」
息を呑むように小さな悲鳴が隣かられる。これは。こちらの方がはっきりと寫っているが、畫は蘆屋先輩に見せられたあの寫真に酷似していた。
「寫った?」
「誤認しそうな現象、寫り込みそうな現象共になし。本、かな?」
嵩原の口にする本と言う意味は河と言うことか、それとも本の心霊寫真と言うことか。ともあれ、白い何かははっきりと寫ってしまった。
「どうする? これだけでもう証拠は充分だと思うが」
「そそそそうだよね! 何か、何かはいるって、しょ、証明は出來た訳だし! 僕らもう充分働いたよね!」
俺の発言に樹本が必死に追隨する。実際、持ち込まれた話が限りなく真実であることはこれで証明されただろう。この白い何かの正が河であるのかどうかまでは分からないが、この池に何かがいると分かれば蘆屋先輩も多は満足するのではないかと思う。
「……いや、まだ不充分だと思う」
しかし、そんな俺たちの見解を嵩原はあっさりと否定してみせた。隣から息を呑む気配がする。
「……ど、どうして」
「これが撮れるパターンを探りたい。池はこれまで散々に撮ってきた。だけどこの白いものが寫ったのはこの二枚だけ。どうしてこれが突然撮れるようになったのか、その理由を探る必要はあると思う」
揺の激しい樹本に嵩原は冷靜に調査継続の理由を話す。そこまでする必要はあるのか? それこそ偶々だったりしないだろうか。
「な、なんで……?」
「まだこれが理的な現象によって生じた変化である可能が殘っている、と言うのが一番の理由かな? あまり詳しくはないけど、こういった白い線が誤って撮れてしまうことも寫真にはあるらしいんだよね。だからどういった狀況ならこの寫真が撮れるのか、その條件を出來るだけ絞りたい。條件さえ絞れたらそれが理的に起こり得るものなのか簡単に判明するでしょ? 會長さんに報せるなら、それくらいは纏めておいた方がいいと思うんだよね」
言って嵩原は肩を竦める。スラスラと小難しいことを述べてはいたが、要はまだ検証は続けないと駄目って言いたいんだな。寫真が撮れた條件ねぇ。
「そ、そんなのもういいじゃん……!」
「そう言う訳にはいかないんだよ。でも、まぁ、聖は無理しなくていいよ。俺も會長さんへの報告には參加するつもりだから最悪全部任せてくれていいしね。この検証だって半分は自己興味が勝ってるから続けるだけだし」
今にも泣き出しそうな樹本への配慮か、と思えばお前がやりたいだけかい。嵩原としてもこんなあからさまな心霊寫真の真贋を問うなんて興ものなのかもな。わくわくとした気配が隠しきれてない。
「えっと、まだ寫真は撮らないと駄目か?」
「そう言うこと。聖にはちょっと厳しいかもしれないから手伝って。二枚共亨が撮ったものだしね」
「いいぞ! 任せろ! 俺が調べるから樹本は無理すんなよな!」
「なんなら先帰っててもいいよ。もう暗くなってくるしね。ここ街燈なんてないから日が暮れたら真っ暗になるよ」
そう言い置いてサクッと檜山を巻き込んだ嵩原は検証のためにと池に向き直る。あとに殘るのは置いてけぼりの俺とカタカタ小さく震える樹本だ。これ俺お目付役に殘されたじか。
「……どうする? ああ言ってるし先に帰るか?」
顔の悪い樹本を覗き込んでそう訊ねる。あの寫真は樹本には刺激が強過ぎたんだろうな。俺は駅まで送って、それで戻ってくればいいだろうし。
「……殘る。殘るよ。これは僕に出された課題なんだ。ちゃんと最後までいるよ」
帰るかと思ったが、樹本はを見せて居殘ると宣言した。別にここでそんなを出さんでも。思えど口にはしない。樹本のやる気を俺が臺無しにするのもなんだ。
とりあえず踵は返さずにこの場に留まる。どの道日が沈めば帰らざるを得ないんだ、あと小一時間ほど待機するか、もしくは先に嵩原たちが條件を見付けるかの違いでしかない。
池の縁にて撮影に集中する二人を見やる。樹本と話し合っている最中にも何回か撮影を行っていたようだが、結果はあまり芳しくないみたいだ。
「條件は分かったのか?」
聲を掛ければ揃って振り返る。嵩原はおや?なんてわざとらしく眉を持ち上げた。
「なんだ、帰らなかったの? 別にいいのに」
「……僕だけ帰る訳にはいかないから」
「いいんだぞ。俺まだ粘るつもりだし。絶対河捕獲する!」
三者のテンションの落差よ。なんだか檜山はこのまま日沒後も殘りそうな勢いだけどちゃんと一緒に帰らせないと。夜の水辺は本當に危ないしな。
「あくまであの白いのが寫る條件探しだろ? 河の捕獲はまた後日にしとけって。まずは一つ一つ……」
「んー、條件、條件というか、一応これかな?って心當たりはあるんだよね」
「え?」
檜山に釘刺そうとしたら嵩原の奴からあっさりと答えが返ってきた。斷定早くない?
「え? そうなのか? さっきから全然河寫んないぞ?」
デジカメ抱えて檜山が主張する。教えてやってねぇのかよ。一緒に検証しているんだから報明かしてやりゃいいのに。
しかし早々に判明するというのはついてる。あっさりと解明させてさっさと帰りたい。
「その心當たりって言うのはなんだ?」
「今の所、河らしき姿が撮れたのってどちらも亨が撮ったものなんだよね。フラッシュを焚いた、ね」
……? ああ。つまりそれが條件?
「フラッシュを焚いて撮影?」
「じゃないかなって。フラッシュなしで撮ってみたけど何も寫らなかったよ。會長さんが見せた寫真も、當然夜なんだからフラッシュは焚いていたと思うんだ」
「なるほど……」
「當たってるかどうかは実際に撮影してみれば分かる。亨、フラッシュ付けて池を撮ってみて」
「おう! えっと、このマーク? これ押して……、よっと!」
池に向かった檜山がパシャリとシャッターを押す。夕日に染まる池を白いが瞬間照らした。
池の様子をに観察する。寫真が撮られる瞬間に異変は起きていない。水面下から何か出て來ることも水上に浮かぶものも何もなかった。寫真にはただの池が寫るはずだ。
「さて、何が寫るかな?」
「……おっ!」
畫像を確認した檜山が聲を上げる。覗き込んだ嵩原も満足げだ。こちらへとデジカメが渡って來たので俺と樹本も畫面を確認する。
アングルの変わらない池の全景を寫した寫真。その池の中央、そこにはやはり白く丸いものが水上にある。當然のように腕も出ている。水面から生えた上腕が斜め上に突き出され、曲げられた肘が今度は斜め下へとびてその先の手が宙を掻く。先程と比べてより『手』らしく見えるのは被寫が大きくなったからか。
「確定、かな? 今度は俺が撮ってみるね」
言うや否や嵩原はデジカメを回収して池を撮影する。焚かれたフラッシュがまたも辺りを白く染め上げる。
撮るなり直ぐにデジカメを確認した嵩原は、一瞬直してから俺たちへとカメラを差し出す。畫面に表示された畫を見た俺たちも思わずきを止めた。
腕が増えていた。丸い白いものの向かって左に見えていた腕のその反対、今度は右側に白い腕が一本生えていた。左側同様に宙へとばされる腕の先は、やはり何かを摑むように五本の指がばらばらに躍している。
「増えたぞ!」
「……真ん中の白い奴が顔だとして、最初が右手で今度は左手か。指の向きは合ってるな」
寫真に見って、ついしみじみと分析結果を口にしてしまう。こうなるともうこれは腕にしか見えない。嵩原の言っていた理的な解釈が頭の片隅からも排除される。恐らく、これはそう言ったものではないんだろう。
「……ねぇ」
黙り込んで畫面を凝視していた樹本が震えた聲を上げた。もう涙聲だ。限界かと察知したのだが、顔を見れば真っ青な顔で畫面から目を逸らそうとしない。
「……これ……、これってさ、こっちに近付いて來てない……?」
か細く溢された一言で、またも俺たちの間に衝撃が走った。
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