《高校生男子による怪異探訪》10.vs蘆屋會長
蘆屋先輩への報告は翌日に持ち越された。
日も暮れてしまったからというのもあるが、一番は今から戻って報告なんて気分になれなかったのが大きい。
あの役所の男から聞いた話はそれだけ俺たちに衝撃を與えた。そう言えば名前を聞いていなかったな。手抜かりが酷いが、役所に行けば會うことも出來るのかね?
そして明くる日。そして放課後。
ホームルームが終わり次第、俺たちは四人揃ってオカ研の部室へと向かった。報告が今日なされることは事前に樹本が連絡を済ませていた。
「蘆屋先輩は何か言っていたか?」
「特には。ただ消沈していた気配は伝わったようで、僕のことを心配しながらも興した様子があったね」
「それだけ聞くと嫌な人に思えるな」
樹本はデジカメをしっかりと抱えて答える。寫真は言われた通り最後の一枚は直ぐに消去したらしい。現在では復元も簡単に行えるというので、これが意味のあることなのかはこれからの俺たちの説得に掛かっているとも言える。
最悪はデジカメ並びにカードを破壊すればどうにかはなるだろうが、それはあまり取りたくない手段だな。
「會長は多分この報告に期待を寄せていると思う。僕が凹んでいたのも本が出たって當たりを付けたはずだ。なかったことにしましょうって説得するのは難しいかもしれないけど、皆どうか協力してしい」
「おうよ! 俺説明すんの苦手だけど死んだ人をどうこうってするのはよくないのは分かってるぞ! それいっぱい伝える!」
「釘刺されちゃったしね。今回はグレーゾーンを大きく踏み越えちゃった訳だし、俺もこれ以上関わるのは勘弁かな。充分噂の検証も出來ちゃったしねぇ」
「事故の話もえれば充分に説得は可能なんじゃないかと思う。蘆屋先輩は一応、常識はある人なんだろ?」
説得に活かすためと、今日一日で改めて教えられた蘆屋先輩の人となりは意外にも評価が高い。
調査のためとは言え敷地への不法侵は良しとせず、また危険行為も承認しない。どうしても調べたいというのであれば事前に許可を取るなどきちんと段階を踏むことを信條とし、対外に向けては潔癖と言えるほど常識的なのだと言う。
「警察署に侵とか言ってなかったか?」
「時々酷く暴走するんだよね。その時は怪談の元になった事件のあらましがどうしても知りたいって無茶言い出したんだよ。まぁ、嵩原が必死にネット記事探し出してくれたから、どうにか納得してくれて事なきを得たんだけど」
それは常識があると言えるのだろうか? 趣味人にありがちな暴走特急振りだな。
「だから今回も私有地なんかじゃないって思い込んでいたんだよね。會長さんは事前準備に手を抜かない人だし、まさか立ちり止區域に特攻させられるとは思わなかったよ。俺も確認を怠った訳だし文句があるってほどじゃないけどさ」
「あー、そうだね。大無茶振りしてくる時はテンションがハイだから分かるんだけど、今回は比較的落ち著いていたから察せられなかったよ。會長、そんなに河が気になってたのかな?」
「結局河じゃなかったけどなー。先輩悲しむかなー?」
「そう言えば嫌に固執してたな……」
わいわいと雑談兼対策を講じながら部室棟へ。二階に上がりやって來たのは廊下の端っこに追い遣られているオカ研部室だ。二度目だけどもやはり奧の壁と扉の位置が近過ぎる。
「會長、樹本です。失禮します」
ノックのあとに扉を開ける。相変わらず返答は待たないのな。中には以前と同様の狹苦しい部屋の真ん中で、蘆屋先輩が例のポーズをして座って待っていた。
「やあ。來てくれたんだね」
こちらへと顔を向けるなりニタリと笑う。あ、なるほど。これは確かにテンションが高そうだ。
「昨日連絡したように早速報告と行きたいんですけど」
「ああ。承知しているよ。さ、皆座ってくれ」
促されガタガタパイプ椅子を鳴らして著席する。今回は樹本が先輩の正面に座りその左右を俺と檜山が固めている。今度は嵩原がお誕生日席だ。
「會長、今回の調査なのですが」
「ああ、昨日の連絡で大は察している。何かしら果があったんだろう? 樹本君は超常の存在と出會した際にはまるで生気を抜かれたかのように元気がなくなるからね。昨日の君は正にそれだった。河と出會えたのかい?」
話し出そうとする樹本を遮って、何やら興した様子で詰め寄る蘆屋先輩。察せられてるな、樹本。ちらっと橫顔窺ったけど頬の辺りがピクピクしてる。
「そのことに関してもお伝えしなければならないことがあります。……會長、突然ではありますが、この調査は打ち切りにしましょう」
先輩の勢いに若干気後れていた樹本は、それでもしっかりと本題を切り出してみせた。ワクワクと目を輝かせていた先輩がピクリとを揺らして押し黙る。
「……ふむ。それは何故だい?」
激昂するかな?と思ったが努めて冷靜に聞き返してきた。前のめり気味になっていた上を戻し、すっと居住まいを正して先輩はこちらを眺めやる。
一見すれば落ち著いて話しを聞く勢にあるとも思えるが、の窺えない無表では心苛立っている可能も否定出來ない。
「今回の調査は君への課題として私が用意したものだ。通常のものとは違い君個人の我が儘等で勝手な引き上げなど出來ないことは百も承知だと思うが」
「勿論、分かっていますよ。調査の引き上げには正當な理由あってのものです」
先程までのオタク特有の興振りはなりを潛め、憐悧な雰囲気で以て先制を仕掛ける先輩は上に立つ者としての威厳を湛えている。普段からこの調子であれば真っ當な部員も増えるんじゃないか? そんな詮ない想を抱いている傍らで、樹本はまず対外的な理由から今回の調査打ち切りの正當を訴えていった。
「――ふむ、つまりは市の管理する公有地であるため、許可なく侵し調査をするのはよろしくないと。そう言うことだね」
話した容を纏めて先輩は思案顔をする。そんな先輩に樹本は力強く後押しする。
「はい。あの古戸池は市が管理しているそうなんです。現在は用水池としての利用はされず、過去に何度か事故も起こっているために危険だからと立ちりが止されています。そんな所に事前許可なくろうものなら僕たちは通報されたって文句は言えません」
真剣に訴える。実際、通報され掛けたし。馬鹿な學生として紙面やネットニュースなんかに曝されずに済んだからの字ではあるが、正直こんな世間的にも危ない橋なんて二度と渡りたくない。
「お説教もされたから正直もう一度行くの無理」
「俺たちのように、世間で流布される噂や怪談を積極的に解明しようとく者は時として社會や個人の事へと大きく踏みることもあります。何かの側に無作法にも上がり込めば當然反発されるもの。であるならば、出來るだけの誠意を見せ、こちらからだけでなく相手方からも歩み寄れるよう協力を引き出すことはとても肝要なことです」
こら檜山。市役所の人間に會ったことはまだだと言っただろうが。何第三者の存在を仄めかしてやがる。嵩原の奴が慌てることなく話し出したのでどうにか誤魔化せはした、か?
嵩原も、今回問題となった社會ルール等には普段から細かく配慮は見せている。人のことを噂の検証に巻き込むきらいがあるものの、だからと言って無作法にも余所の敷地への無斷侵や深夜徘徊といった明らかにアウトな事柄への參加を求めたことはほぼない。
嵩原は嵩原で社會の道徳やルール、そう言った規範には従う姿勢をこれまで示してきているんだ。だからこそ、今回のやらかしにも思う所はあるんだと思う。
俺たちって、まるで俺らが噂探索に積極的に関與してるみたいに言われるのはちょっともやっとはするけども。
「自分たちはあくまで探求者であり、報を開示しなければならない報道者ではないのだから、守れるものがあるなら守るべきと、そう言ったのはあなたですよ。蘆屋會長」
「……」
先輩は何も答えない。腕を組み沈黙を続ける。
ついと顔が斜め上を見上げた。見れば眉間に深くシワを寄せ、どうにも考している様子だ。こちらの主張を査でもしているのか。
「……うむ」
やがて先輩は一つ頷く。長考の結果が出たのか。
さて、これで聞き分けてくれるのなら話は早く済むのだが。ドキドキしながら答えを待つが、先輩は口を固く結んだまま組んだ両腕を外し、そして徐にテーブルへと強く叩き付けた。
バンッという大きな音が室に木霊し、俺たちの間に張が走る。説得は失敗だったのか――? そう結論が頭に過ぎる中、注目される先輩はテーブルを叩いた勢いで立ち上がり、そして両手を突いたまま深く頭を下げた。え?
「――すまない。私の手落ちだった。迷を掛けた」
長い黒髪をテーブルに垂らし、その髪の向こうからくぐもった聲で謝罪を告げる。
これは謝罪、であるらしい。折角の綺麗なストレートの髪が一瞬でボサボサになっているが先輩は気にもしない。額をテーブルにり付けんばかりにを目一杯倒し、そのままの姿勢を維持する。
「……」
唖然として誰も何も言えない狀況が暫し続いた。先輩は頭を上げようとしない。その勢は頭にが上って中々苦しいだろうに、それだけ謝罪の意思が強いと言えるか。
「……えっと。會長?」
樹本が話し掛ける。それでも尚蘆屋先輩は顔を上げない。これテーブルがあったからまだ珍妙に見えるけど、床でやられていたら土下座になっていたのでは。そう一瞬頭に浮かんで冷や汗的にドキドキしてきた。
「その、その謝罪は何に対する謝罪なんですか……?」
「無論、君たちを調査不足の中、送り出してしまったことに対する謝罪だ」
あ、そのまま答えるんだ。くぐもった聲がまた聞こえてきた。しかし、そうかそう言うことなのね。どうやらこちらの訴えはきちんと先輩に屆いていたらしい。
「ああ、そう言う……。お認めになるんですね、會長さん」
「勿論だ。私はこれまで決して社會ルールや道徳から大幅に逸れるような真似はしてこなかった。それは私の超常現象に対する深い興味と常に並んで存在する、社會規範への信頼故だ。私は確かに私の知識求を満たすため邁進はしていただろう。だが、それは決して他人に多大なる不利益を與えてまで果たしてきてはいないと、そうを張って言えるのだ! 言えるはずなのだ……!」
長い長い。ふおおと極まった聲まで出して先輩は己のスタンスを解説してくれるけども、今ってそんな話をしている場合か? とりあえずさっさと頭を上げるべきだと思うんだけど。の起伏故か、それとも力の限界なのか、先輩の両腕がプルプル震えてきてるぞ。
「ああ、はい。會長のおっしゃりたいことは大変よく分かりました。なので謝罪はもういいです。顔を上げてください」
しょっぱい聲としょっぱい顔で樹本が促すが先輩は頭を下げたまま。まだ気が済まないのだろうか。
「私自が手抜かりにより失態を見せるのは致し方ないことだ。だが、他者に迷を掛けた上に君たちを矢面に立たせてしまうなど……! 超常現象探求者としては二流も落ちての三流の振る舞いだ……!」
「分かりました。分かりました! 會長が社會や規範に忠実な人だっていうのは大変よく分かりました! 僕らだって別にそこまで自省されるほどの迷は掛けられちゃいませんから! だから顔上げて! 怖い!」
いよいよ限界なのか腕の震えは最早全に渡ってしまっている。腕を通じ頭に至り、そしてテーブルに投げ出された黒い髪にまで伝播してプルプルざわざわ蠢いているのがなんとも。ホラー映畫でよく見られる髪が獨りでにき回るあれ、それを彷彿とさせる目の前の慘狀に樹本も必死だ。
あれだな。やっぱり蘆屋先輩は普通というカテゴリーからは逸れているんだな。いくら人でもやはりそこは嵩原と同類。憐悧な雰囲気なんて星の彼方まで吹っ飛ばしてしまった先輩の分け目を眺めつつ、一先ず説得功をそっと現実逃避気味に喜んだ。
【書籍化/コミカライズ決定】婚約破棄された無表情令嬢が幸せになるまで〜勤務先の天然たらし騎士団長様がとろっとろに甘やかして溺愛してくるのですが!?〜
★書籍化★コミカライズ★決定しました! ありがとうございます! 「セリス、お前との婚約を破棄したい。その冷たい目に耐えられないんだ」 『絶対記憶能力』を持つセリスは昔から表情が乏しいせいで、美しいアイスブルーの瞳は冷たく見られがちだった。 そんな伯爵令嬢セリス・シュトラールは、ある日婚約者のギルバートに婚約の破棄を告げられる。挙句、義妹のアーチェスを新たな婚約者として迎え入れるという。 その結果、體裁が悪いからとセリスは実家の伯爵家を追い出され、第四騎士団──通稱『騎士団の墓場』の寄宿舎で下働きをすることになった。 第四騎士団は他の騎士団で問題を起こしたものの集まりで、その中でも騎士団長ジェド・ジルベスターは『冷酷殘忍』だと有名らしいのだが。 「私は自分の目で見たものしか信じませんわ」 ──セリスは偏見を持たない女性だった。 だというのに、ギルバートの思惑により、セリスは悪い噂を流されてしまう。しかし騎士団長のジェドも『自分の目で見たものしか信じない質』らしく……? そんな二人が惹かれ合うのは必然で、ジェドが天然たらしと世話好きを発動して、セリスを貓可愛がりするのが日常化し──。 「照れてるのか? 可愛い奴」「!?」 「ほら、あーんしてやるから口開けな」「……っ!?」 団員ともすぐに打ち明け、楽しい日々を過ごすセリス。時折記憶力が良過ぎることを指摘されながらも、數少ない特技だとあっけらかんに言うが、それは類稀なる才能だった。 一方で婚約破棄をしたギルバートのアーチェスへの態度は、どんどん冷たくなっていき……? 無表情だが心優しいセリスを、天然たらしの世話好きの騎士団長──ジェドがとろとろと甘やかしていく溺愛の物語である。 ◇◇◇ 短編は日間総合ランキング1位 連載版は日間総合ランキング3位 ありがとうございます! 短編版は六話の途中辺りまでになりますが、それまでも加筆がありますので、良ければ冒頭からお読みください。 ※爵位に関して作品獨自のものがあります。ご都合主義もありますのでゆるい気持ちでご覧ください。 ザマァありますが、基本は甘々だったりほのぼのです。 ★レーベル様や発売日に関しては開示許可がで次第ご報告させていただきます。
8 62異能がある世界で無能は最強を目指す!
異能がある世界で無能の少年は覚醒する
8 84冒険者は最強職ですよ?
ジンと言う高校生は部活動を引退し、何も無い平凡な生活を送っていた。 ある日、學校の帰り道ジンは一人歩いていた。 そこに今まで無かったはずのトンネルがあり、ジンは興味本位で入ってしまう。 その先にあったのは全く見たこともない景色の世界。 空には人が飛び、町には多くの種族の人達。 その世界には職業があり、冒険者から上級職まで! 様々な経験を積み、レベルを上げていけば魔法使いや剣士といった、様々な職業を極めることができる。 そしてジンの職業は...まさかの最弱職業と言われる冒険者!? だがジンはちょっと特殊なスキルをもっていた。 だがそれ以外は至って平凡!? ジンの成長速度はとてつもなく早く、冒険者では覚えられないはずの技まで覚えられたり!? 多くの出會いと別れ、時にはハーレム狀態だったり、ジンと仲間の成長の物語!!
8 116加速スキルの使い方!〜少年は最速で最強を目指す〜
スキルーーそれは生まれながらにして持つ才能。 スキルはその人の人生を左右し、スキルのランクで未來が決まる世界で主人公の少年イクスが手にしたスキルは、【加速】 【剣術】スキルは剣の扱いが上手くなる。 【農耕】スキルは作物が育ちやすくなる。 だが、【加速】スキルは速くなるだけ。 スキルがすべての世界ではこんなスキルはクズ呼ばわり。それもそうだ。速く走るなら馬にでも乗ればいいのだから。 「こんなスキルで何ができる。こんな役立たず。」 そう、思っていた。 あの日【加速】スキルの本當の能力に気付くまではーー 『さぁ、全てを加速させろ!』 これはクズと呼ばれたスキルを持つ少年が、最速で世界最強を目指す物語。 前作『魔術がない世界で魔術を使って世界最強』もよろしくお願いします!
8 109悪役令嬢のままでいなさい!
日本有數の財閥に生まれた月之宮八重は、先祖代々伝わる月之宮家の陰陽師後継者。 人には言えない秘密を抱えた彼女は、高校の入學をきっかけにとある前世の記憶が蘇る。 それは、この世界が乙女ゲームであり、自分はヒロインである主人公を妨害する役目を擔った悪役令嬢であるという不幸な真実だった。 この學校にいる攻略対象者は五名。そのどれもが美しい容姿を持つ人外のアヤカシであったのだ。 ヒロインとアヤカシの戀模様を邪魔すれば自分の命がないことを悟った八重は、その死亡フラグを折ることに専念しつつ、陰陽師の役目を放棄して高みの見物を決め込み、平和に學園生活を送ることを決意するのだが……。 そう易々とは問屋が卸さない! 和風學園戦闘系悪役令嬢風ファンタジー、開幕! ※最終章突入しました! ※この素敵な表紙は作者が個人的に依頼して描いていただきました!
8 99病弱を演じる妹に婚約者を奪われましたが、大嫌いだったので大助かりです
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」「ノベルバ」に同時投稿しています。 『病弱を演じて私から全てを奪う妹よ、全て奪った後で梯子を外してあげます』 メイトランド公爵家の長女キャメロンはずっと不當な扱いを受け続けていた。天性の悪女である妹のブリトニーが病弱を演じて、両親や周りの者を味方につけて、姉キャメロンが受けるはずのモノを全て奪っていた。それはメイトランド公爵家のなかだけでなく、社交界でも同じような狀況だった。生まれて直ぐにキャメロンはオーガスト第一王子と婚約していたが、ブリトニーがオーガスト第一王子を誘惑してキャメロンとの婚約を破棄させようとしたいた。だがキャメロンはその機會を捉えて復讐を斷行した。
8 145