《高校生男子による怪異探訪》5.七不思議ツアースタート

俺たちは正門脇の街燈の下にぎゅうぎゅうに集まっている狀況なのだが、その明かりが屆かない奧の方の暗がり、そこから唐突に蘆屋先輩はライトを燈して現れた。

ホラー番組かお化け屋敷かといった演出だ。しっかり全員が驚かされた訳だが、わざわざ街燈のも當たらないから出て來る意味はあったのだろうか。

「わっ! いたんですか會長!?」

「うむ。先に來て待機していたのだよ。発起人である私が皆を待たせる訳にもいくまい」

「いや、待ってましたけど……」

無駄に待たされたのだが、そんな俺の言いはあっさりと無視された。

「約束の時間に全員集合か。真面目な人員ばかりが參加してくれたようで嬉しいよ。さて、時刻も夜七時半となった。これからオカルト研究同好會、今夏の研究課題である『上蔵高等學校七不思議』の検証を行いたいと思う」

俺たちの前にて仁王立ちする先輩はそう宣言をかました。漸く始まりか。

先輩が出て來るまで嵩原の講説聞いたり要らない過去話聞いたりしたから、オカルトな話は若干食傷気味なんだけども本番はこれからなんだよな。これ最後まで真面目にやってられるかな。

「さて、まず始めに何故私が今回『上蔵高校の七不思議』を研究課題として選んだのか、その理由から話そうか。確か樹本君たちにも話してはいなかったね。とは言え理由の一端は既に明かしてもいるのだよ。我が校の七不思議は年によりその容に変遷が生じる。これが最大の特徴にして今回取り上げることとなった理由だ」

「変遷って?」

「ええっと、僕らの學校の七不思議って怪談が年によって変わるんだって。定期的に容が切り替わっている、らしい」

この話は聞いていなかったようで二岡が樹本へと説明を求める。

樹本も表面くらいしか理解はしていないから説明は辿々しいな。こういうのは嵩原が専門なんだが、あいつ子相手にはマニア気質は抑えめにしか披しやがらないから今も黙っている。ずっこいなぁ。

「切り替わる?」

「レギュラーがれ替わんだって!」

「レ……? ……ああ、つまり、話の容というか話自が他の話と代するってこと?」

「そうそう」

「あ、そ、そう言うこと? 凄いね檜山君。分かり易かったよ」

助け船はまさかの檜山。絶妙な合いの手に子組も納得した様子だ。能井さんはここぞとばかりに話し掛けに行ってるな。

「へぇ、中々不思議な形式なのね。それって人によっては聞いた七不思議が違ってくるってことでしょ?」

「そういうことだね。常に変化しその時その時で獨自の構をしているのが我が校の七不思議だ。今の所変化の規則やその原因等までは判明していない。つまり、新たに現れた怪談は見逃せばもう二度と出會すこともないかもしれないと言えるのだよ」

力強く先輩は斷言する。ああ、なるほど。そこまで言われれば選んだ理由とやらにも當たりが付く。

「オカルト研究という名を掲げる會長さんからすれば、新たに生まれた怪談を見逃す訳にはいかないと?」

「端的に言えばそうなる。元々我がオカルト研究同好會の前となる上蔵歴史編纂部の常設題目の一つであるからして、志をけ継いだ我が同好會が七不思議の研究に著手することは當然のり行き」

「待った。え? オカ研に前なんてあったんですか? 歴史編纂部?」

なんか新たな名稱出てきたなぁ。

「そうだよ? 樹本君、知らなかったのかい?」

「知りませんよ! なんでそんな堅い名稱の部がオカルトなんて骨な名前を掲げるようになるんですか!」

「簡単に言えば時代の流れと、とある時の部長がオカルトに傾倒したのが切欠であったらしい。民俗學的なアプローチが極まった結果、心霊方向に舵を振り切ってしまったのが同好會への降格事由になったのだとか」

「それ趣味だったりしません? 趣味を理由に部を潰したりしてません??」

なんだその変遷。名稱からしても実に真面目そうな気配が漂っているだけに現狀があまりに殘念過ぎる。

「ああ、編纂部ってオカ研の前だったんだ」

呆れていれば嵩原がポツリと呟きを落とした。

「知ってるのか?」

「名前と部誌はね。俺が七不思議を知ったのも図書室に保管されてた部誌からだよ。この學校に土地のことを細かに記録していた部活だったから興味あってね、でも今じゃ廃部になったって聞いたから殘念に思っていたんだけど、まさかオカ研に変わっていたなんて」

「流石に思い至らなかったか?」

「歴史とオカルトは等號じゃないよ。民俗學とオカルトだって本來結び付きはそんなにないはずなんだけどね」

そこら辺の學的な括りは知らん。とりあえずオカ研としては変化の生じた七不思議は調査対象であり、なので今回は課題として選んだと、そう言うことだな。

「話を戻すが、七不思議の実態もさることながら、主としてはきちんとどのような怪談なのかという記録を殘すことが肝要となる。なので君たちには実際に怪談の語られる場所を巡ってもらい、所を報告してもらえればと思う。専門的な考察などは求めていないので安心してくれ」

「要は肝試しってことかよ」

まさかの肝試しだった。學校への発表課題って話なのにそれでいいのか?

「七不思議の的な容はこちらのメモに纏めてある。これは樹本君が持つといい。嵩原君は隨所でフォローしてくれればと思う。どうやら調べ上げて來てくれたみたいだしね」

「……ああ。こちらの話を聞いてましたか。盜み聞きはどうかと思いますけど」

「ふふ、ごめんよ。でも君の見解は実に興味深かったよ」

樹本に薄い冊子を渡しつつ嵩原にそんな言葉を掛ける。待機って、男三人が集まるよりも前からやってたのか? 生真面目と取るか暇人と取るかは微妙な所だな。

「こちらが懐中電燈、都合により三個を用意したので各々で分配してしい。七不思議を巡る順番は自由で構わないよ。通し番號は振られているが、それに大きな意味などはないと見られている。効率よく回ってくれて構わない」

ついで渡されたのは結構しっかりとした造りの懐中電燈だ。まぁ、各自スマホは持っているんだ、誰が持つかで爭うこともあるまい。

「えっと、私たちが校舎を巡るってことですよね?」

「あの、本當に大丈夫なんでしょうか? 先生に怒られたりは……」

能井さんと朝日が確認を取る。実態が肝試しともなれば不安にもなるよな。遊びで校舎に忍び込んだと咎められたって言い訳のしようがないし。

「ああ。その點は何も問題ないよ。きちんと私の方で許可は取っているし、ほら、こうして先生も著いてきて下さっている」

「はいどうも。ちゃんと學校側に申請しているから大丈夫だよー」

「キャッ!?」

ヌルリと先輩の背後からもう一人出て來た。だからなんで暗闇の中に待機するのかと。先輩と纏めて出て來いや。

「わっ、誰!」

「三年生の歴史を擔當している駒津です。一応オカルト研究同好會の顧問もしていますのでよろしく」

そう言ってペコリと頭を下げるのは三十代くらいの男教師だ。々癖のある黒髪に眠たげな垂れ目が特徴か。現在ライトで自分の顔を下から照らしているが、分かったぞ、これ先輩と同類だな。

「真面目な研究に伴う學校施設の利用ということで、學校長にまで申請は通っているので安心してくださいね。今晩は俺が當直を擔當しているので、何かあれば言ってくれればいいです。皆オカ研の手伝いをしてくれてありがとうね」

「は、はあ……」

「オカ研って顧問いたんだ」

「今闇の中から出て來てましたよね??」

「ずっと待機してたってことですか??」

皆混が酷いようでさっぱり話を聞いていない。それだけ駒津と名乗った教師の奇行が酷かったと言える。先輩と組んで二重の罠をかますのはどうかと思うぞ。

「まぁ、まぁ。ちょっとしたサプライズのつもりだっただけで深い意味なんてないですよ。それよりも早く始めないと。許可が下った時間は夜の十時までです。あと二時間ちょっとしかないんですし、迅速に行かないと最後まで回り切れなくなりますよ?」

「それはよろしくないですね。折角七人揃えることが出來たんです。今夜はなんとしても最後まで回ってもらわなくては」

こちらの混振りなど無視して駒津が自の腕時計を指差すと先輩も頷きを返す。あと二時間ちょいで學校の七箇所を巡るのか。一箇所二十分あるかどうかって結構無理ゲーなような。

「さて、それでは諸君健闘を祈る。ちなみに私は七不思議の探訪には參加しないのであしからず」

「あれ? 先輩來ないの?」

え? 言い出しっぺ? あんたが持ち込んだ企畫だろうに。

「七不思議を七人で巡るなどそうあることではないからね。是非とも、七という數字を用いたことによる変化等を皆にはしてもらいたいのだ。だから私は席を外すよ」

「……人數多いなと思ったら、最初からそれが狙いですか……」

樹本が呆れた様子でため息を吐く。七不思議だからこそ七人。変な括りを貫いた結果がこの現狀か。

「出來る限り七人で纏まって行してしい。校舎は暗いからはぐれたり迷子になったりしないよう互いに気を配ってくれ。注意等もそのメモに記してあるから充分に読み込んで行してくれよ」

「俺はずっと職員室にいるので用があるなら來てくださいな。今夜はもう俺以外には誰もいないはずなので、まぁ、探索は気楽に。足下には充分気を付けて回ってもらえればと思います」

言われて校舎へと目を向けた。確かにぽつぽつ燈っていた明かりが消えている。職員室以外はもう真っ暗になっていた。

教師でも鍵當番みたいなものはあるのな。そりゃ冷靜に考えたら最後に校舎を見回る人間は必要か。昔は用務員とか宿直とかが學校にはいたらしいけど、それもいろいろあって廃れたんだったか。今じゃ警備は警備會社が擔當しているもんな。個人で回すのは無理があったのかね。

そんなこんなできも、調査スタート。先輩は正門前にて俺たちを見送る。まさかずっとその場に待機してないだろうな? せめて部室に移すればいいものを。

「はぁ……。なんだろう、この無茶振り……」

樹本がなんかもう疲れた聲出してる。大丈夫か、まだ始まったばかりだぞ。

「やることは話にある場所を次々に巡っていくことだし、検証も本格的にやる必要はないんだからむしろ気楽じゃない?」

「それだと単なる肝試しになるでしょ。こんな夜にわざわざ學校まで來てやることなの……?」

それを言い出したらねぇ。やさぐれてテンションの低い樹本は言葉選びに遠慮がない。

「あれ? 樹本君は唯一の部員だって聞いたけど、乗り気ではないのかな?」

今にも愚癡りそうな樹本に駒津が聲を上げた。顧問の目の前で部活に対する愚癡を吐くのは々憚られるな。

「あ、いえ、そんな……こともなくはないと言いますか……」

「取り繕えてないぞ、樹本」

「ああ、いやいや。そう言えば半ば強引な勧だったと言ってましたね。それだと心から協力なんてなりようがないもんねぇ」

なんだ、ちゃんと事は把握していたか。知ってるなら諫めろと思わなくもないが、貴重なもう一人の部員だから顧問としても手放したくないのかね。

「あ、いずれ確かめようと思っていたんですけど、どうしてオカ研は廃部になったりはしないんでしょうか? 現狀は蘆屋會長と樹本君の二名しか在籍してないようですが、同好會の規定からは外れているのでは?」

丁度いいと言わんばかりに嵩原が問いを投げる。今聞くことか? でも質問容は俺も気になる。最低でも五人いないと同好會としてもり立たないって調べたら出てきたぞ。なんで大手を振ってこんな調査の申請も通せるんだ。

「ああ。それはオカ研の支援者が學校長だからですね。元々學校長は古戸萩市の歴史編纂に攜わっていた人でね、學校長となられたあともこの地の歴史や逸話などを収集して纏めていらっしゃるんだ。上蔵歴史編纂部の立ち上げにも協力されていてね、オカ研と実態を変えてしまった今も支援なさっているんだよ」

「え、それってつまりは學校長肝煎りだから人數が足りてなくても存続が認められていると?」

「纏めるとそういうことだね」

「ひいき?ってことか?」

「オブラートに包まないとそうなるね」

隨分明けけに答えるなぁ。この話って表に出すとオカ研も學校長もよろしくないんじゃないか? それなのにこんな軽く暴しても大丈夫か?

「あの……、私たちが耳にして良かったんでしょうか……?」

「良くはないから黙っててくれると助かるよ。學校長としてはまだまだオカ研には編纂作業を手伝ってもらいたいみたいなんだよね。七不思議の調査だって編纂部時代からの習わしだし、怪談だって実際の出來事を元にしてるなら立派な歴史の一部だ。遊びにしか見えなくても、これだって歴とした歴史調査の一環とも言えるんですよ」

緩い口調で話を続けるが、だが歴史調査の一環だと告げる聲は存外真面目だ。歴史を擔當しているという関係でひょっとしたらこの教師もオカ研には肯定的なのかもしれない。だから顧問もやっているのかね。

「蘆屋先輩は校長先生のお手伝いをしてるんですか?」

「一部、だね。地元に伝わる不可思議な逸話や噂の収集を主に擔ってくれてるね。まだまだ編纂作業は殘っているんだけど、もうオカ研も存続の危機かなぁ。部員がいなくちゃガワだけ殘っても仕方ないし」

特に含みもないけど全員の視線が樹本に集まった。唯一の正式な部員だ。本人もよく分かっているんだろう。無反応を決め込んではいるが、その頬がひくひく小さく引き攣っている。

「ま、せめてアーカイブだけは殘りはするでしょ。俺も蘆屋君も無理強いなんてしないから、その點はどうか安心してくださいね」

校舎の暗い玄関を前にして駒津はそう纏めた。話しているに校舎に辿り著いたな。これからこの真っ暗な中に踏み込んでいく訳か。

「さてさて。それでは、『ドッキリ! 上蔵高校七不思議験ツアー!』スタートです」

わーと棒読みで告げる駒津に、全員白けた目を向けたことは言うまでもないだろう。

    人が読んでいる<高校生男子による怪異探訪>
      クローズメッセージ
      あなたも好きかも
      以下のインストール済みアプリから「楽しむ小説」にアクセスできます
      サインアップのための5800コイン、毎日580コイン。
      最もホットな小説を時間内に更新してください! プッシュして読むために購読してください! 大規模な図書館からの正確な推薦!
      2 次にタップします【ホーム画面に追加】
      1クリックしてください