《高校生男子による怪異探訪》8.第二の七不思議
ちょっと長めです
もう疲れたって空気が漂う中、嵩原が二つ目として案したのは図書室。階段を下りて一階の端っこだ。これ移だけでもそこそこ時間が掛かるのでは?
「図書室……だから、次は『第三の不思議、呪われた本』か」
ペラペラ冊子を捲って該當怪談を突き止めた樹本が呟く。呪い……、數ヶ月前がまざまざと思い出されますね。個人的にあんまり関わりたくない怪談だ。
「またベタな文言だね」
「の、呪いかぁ……」
「三花、どうし……。ああ、うん、ドンマイ」
鼻白む樹本の隣で能井さんが居心地悪げに呟く。彼は、まぁ、無関係とも言えない訳で。二岡も瞬時に思い出したようで生溫く激勵なんぞ贈っている。呪いという文句に過敏に反応する人間が二人もいるぞ。
「時間が惜しいからさっさと容も確認しちゃうよ。『呪われた本。上蔵高等學校特別棟一階の図書室には呪われた本が所蔵されている。呪いの言葉に溢れたこの本を手に取ると、れなく手にした者に呪いが降り掛かる』……。容も思った以上にベタだった」
図書室前にて確認。樹本が読み上げている間に二岡が鍵を開けた。
「この怪談の検証って、つまりはその本を見付けないといけないんでしょうか?」
「そうなる、か? 図書室から一冊の本を探し出すって、また時間の掛かりそうな怪談だな」
朝日の疑問に答えると同時に至った結論に途端に萎える。本の山から本を見付けろって正気か? これも嫌がらせに思えてくるぞ。
「そこはまぁ、考えがあるんだよね。ね、嵩原?」
愚癡ってたら樹本がニヤッと笑った。年にあるまじき悪辣な笑顔だが、向けられてるのは嵩原だし別にいいか。
「聖?」
「さっきの室での一件で把握した。君、七不思議の検証を一通り済ませているよね? 當然この怪談だって本は発見済みなんじゃないの?」
不思議そうに名を呼ぶ嵩原にそう斷言する。ああ、確かに。あの絵のギミックやその制作機すらきちんと調べ上げていたからな。今期の七不思議を事前に調べたとは申告していたが、それはただ怪談の容を把握しただけではなく、もう検証も済ませた上での『把握』なのかもしれないのか。
俺たちに話が持ち込まれたのってほんの數日前のはずなのに。こんな短期間で七つの怪談の背後まで調べ上げるって、どれだけ本気で取り組んでんだ嵩原の奴。
「ね、嵩原。僕たちのサポートをしてしいって會長も言ってたよね?」
「そう來るか……。んー、でもねぇ、皆には実際に験してもらいたいし、俺が詳細を語ったって……」
「そこはちゃんと會長の指示に従うよ。要はどこにあるのかヒントがしいってこと。一から探し出すのはあまりに時間が掛かっちゃうから、探す場所を限定させてしいの」
「ああ。そう言うこと。それならいいかな。むしろ時短を考えれば手助けはしないと駄目だね」
一発ゴールを決めるのかと思えばそこは真面目な樹本のことだ、あくまでサポートの枠での助けだけを求めた。
本當に巻きで行きたいなら嵩原の経験談を聞いて終了としてしまうのが一番だろう。でも今回俺たちに求められているのは実際に七不思議を験したその所だしなぁ。あまりズルをするとリテイク食らう恐れもある。
「よし、了解したってことでいいね。ありがとう、嵩原。これで探索する手間も大分短されるよ」
「とは言え実は俺も発見は出來てないんだよね。怪談を調べてもどこに置いてあるってヒントもないから総浚いになっちゃってさ。本棚を端から調べて行くことになって、流石に時間が足りなかったんだ」
「ええ? そうなの?」
早速行だと開いた扉を潛って図書室に一歩踏み込んだ所で嵩原が暴する。これには樹本も骨に殘念そうに語尾が下がった。
「まぁ、當然と言えば當然の話よね。本棚に置いてある數だけでも數千はいくでしょ? うちの學校、歴史だけはあるから數十年前に発刊した蔵書の類も普通に現存していたりするし」
「本好きの子からすれば、この図書室だけでもかなりの価値があるって言うよね。ネットで一萬円を超えて取り引きされる古書が普通に置いてある!って喜んでたなぁ」
真っ暗で月明かりが溢れる程度の室を見回してそんな想をらす。
我が高校の図書室は教室二個分くらいの大きさがあってそこそこに広い。出り口側に準備室に繋がる扉とカウンター、そしてテーブルや椅子が並んでいてあとのスペースは全て本棚で埋め盡くされている。
學當初からなんでここまで書籍が充実しているのかと疑問には思っていた。進學校として躍起に運営している訳でもなく、あくまで地方の一県立高校としてあるだけの我が校に書籍に充てる予算なんてあるのかなと。
歴史があるという自慢から長い時間でちょこちょこ貯めたその結果かと納得していたけど、校長が編纂業務していると聞いてそれ系列で集まったものかと今は思う。生徒の部活にまで影響が及んでいるんだ、ひょっとしたら書籍の収集も業務のだったりするのかもしれない。
「んー、でも嵩原の探した所は外れって言えるから手間はいくらかは省けるか。君のことだし端から律儀に探したんでしょ?」
「そこの壁際の神話コーナーからまずは始めて、それで壁伝いに奧へ向かっていったんだ。総浚いをするならどこまで調べたのか把握出來ないとまずいしね。最初に壁際の本棚を制覇していって、それから中央へと移したんだけど、一番前の棚を調べ終わった所でタイムアップになっちゃった。一人では無理だよ、これ」
參った、なんて肩を竦めるが一人で全の三分の一ほど調べたことになるぞ、それ。よくぞまぁ、そこまでの熱を注いだな。
「だとすると該當の本は中央本棚にあるってことか。うわー……、それでも結構あるよ?」
図書室中央に立ち並ぶ本棚群を眺めて、樹本が実に嫌そうな聲を上げる。よくぞ三分の一も調べた、しかしたかが三分の一である。殘りを調べ切るのって土臺無理じゃない?
「まぁ、調べるしかないでしょ。聖はメモを調べていて。ひょっとしたら何かヒントでも書いてあるかもしれない。あの會長さんが今夜一晩だけだって分かっていて、こんな時間の掛かる捜索をさせるとは思えないからね」
「ああ、うん、分かった。皆、ちょっと僕は調べにるけど、その間捜索をお願いするね。今は時間が惜しいから、とにかく人海戦で片っ端から本棚探って」
あんまり気乗りはしないけども見付けない限りはどうしようもない。樹本の音頭に返事を返し、六人で一気に本棚を調べる。
「呪われた本、とは言っても外観のヒントが何もないのに探せって……」
「あ、ごめん。怪談に続きあった。『他の本よりも存在が薄く、また背表紙は空白のまま。如何にも妖しい裝丁だけれども、しかし込められた呪いの力は本』だって。とりあえず背表紙には何も印字はされてないってことかな?」
「分かり易い特徴だね。呪いの力が本って言うのはちょっと怖いけど……」
「呪いなんて大は噓っぱちなんだから大丈夫よ。さっきの室を忘れたの? この七不思議は生徒と學校側の嫌がらせが生み出した虛構に間違いないわよ。絶対」
不機嫌そうに吐き捨てる二岡だが、その言い分にも頷けるものがあるのでなんとも。
とにかく背表紙に何も記載がない本を探して行く。電気はやはり目立つことを恐れてオフのまま、各自懐中電燈とスマホを頼りに本棚の間を練り歩く。ここでは子に懐中電燈を渡した。その方が探索もし易いはずだ。
折角六人もいることだし、六分割してローラー作戦と相った。
「うへぇ、こりゃ大変だなー」
「俺は亨には期待してるんだけどね。理屈が通用しない時にを言うのは勘だ。亨の野生の勘に期待してるよ」
「お? そうか勘かー。この分厚いそうな本とかそれっぽい!」
「ちゃんと背表紙見てるの?檜山君。題名書いてある奴は外れだからねー」
聲を掛け合いながら捜索を続ける。ただ背表紙を確認していっているだけなのにそこそこ時間が掛かる。何せ本棚は一つや二つではないのだ。ざっと見るだけでも手間だ。
そうして五分ほど無心に収められた本を眺めて回ったが、未だ発見の聲は上がらない。段々と焦りが募り出した。
「んー、タイトルなし、タイトルなし……。見付かんないよー」
「こっちもなし。おかしいわね? 空白の背表紙なんて凄く目立つでしょうに」
「幾つか経年劣化か文字がり切れているものもありましたけど、それを空白とは言わないですよね……?」
疑問の聲が上がる。今の所完全な空振りだ。まだ未調査の部分は殘っているが、殘りの部分にちゃんと本はあるのだろうか。
し気になったので嵩原を呼ぶ。
「なぁ、お前が探した箇所には本當に本はなかったのか? 見落としはしてないか?」
「如何にも怪しいっては一々調べたし、それこそ背表紙が抜けてる本なんて見掛けたら直ぐ手に取ってるよ。間違いなく俺が探していた所には置いてなかったよ」
「そうか……。ちょっと考えたんだが、隣の準備室に実は保管されている、なんてことはないか? 七不思議として噂されるほどなんだ、誰かが人目を避ける目的で隔離した、なんてことは……」
「あ、そっちも調査済みだよ。そう言えば言ってなかったね。こっち調べるよりも準備室を探る方が面積的に楽だったからいの一番に調べにいったんだよね。結果は空振り。図書委員の子に手伝ってもらったけどそれらしいは何も出なかったよ」
殘念と肩を竦める嵩原。あ、そうなんだ。ひょっとしてと気になったが、この程度は嵩原も予見するか。とすると、やはり本はこちらにあると。
「となると、樹本の調査次第か。もうちょっとヒントがしいな」
「本のヒントはあの冊子を調べればきっと見付かるはずだ。會長さんは無茶振りはしても理不盡な要求はしないからね。きっとちょっとした推理で答えに辿り著けるような、そんな謎掛けがあの冊子にはあると思うんだ。多分、恐らく、きっと……」
「徐々に自信をなくしていくんじゃない」
まぁ、この中であの冊子の次に七不思議に詳しい嵩原が言うんだ、俺たちが縋るべきは先輩からの指示以外にないのだろう。
さて、それならまた探索を続けるかと自分の擔當に戻ろうとした所で。
「うおっ!?」
「皆! それらしい會長の書き込みがあったよ!」
樹本の快哉の聲と悲鳴が重なって聞こえた。それと共にドサドサと重いが落ちる音も続く。樹本はともかく他はなんだ? 聲は檜山のものだった。
嵩原と一瞬見合って檜山の元へ向かう。連なる本棚の列を幾つか通り過ぎれば、スマホ片手に固まる檜山の姿が見えた。足下には本が散している。
「どうしたの、檜山君!?」
子も反対側から現れた。いの一番に駆け寄る能井さんに、檜山もきを再開させる。
「お、おう。ちょっと驚いただけだ」
「驚いたって、何があったの?」
「呪われた本を見付けたんですか?」
「いや、そうじゃないんだよなー……」
歯切れの悪い答えを返す檜山に違和をじる。それは嵩原も一緒か、とにかく急いで傍まで行く。
「檜山君、大丈夫……?」
「あ、うん。問題はなんもないんだ。ただ……」
そこまで言って檜山の視線が不意に本棚へ向かう。同時にライトを點燈させたスマホもかす。子の目も、同じように本棚へ吸い込まれるように向かった。
「……!?」
「ひっ……!」
「キャッ……!?」
そして短い悲鳴が三つ同時に上がる。皆驚愕の表を浮かべて固まってしまっている。なんだ? 檜山が驚いたそれか?
「どうした? 何を見付けたんだ?」
慌てて近寄って四人が見ている方向へ顔を向ける。檜山のスマホが照らす先はやはり本棚だった。幾つもの背表紙が並ぶそこは、だけど目の前の棚だけぽっかりと空白が出來ている。下に散している本が本來なら収められていたんだろう。數冊分の空きが出來たそこは、本棚の背板が見えるはずだった。
しかし、明るいライトが照らすそこには、木目の代わりに誰かの顔があった。
「……!」
心底ビックリした。アーモンド型の綺麗な黒目がこちらを見ている。すっと通った鼻筋にふっくらとした頬、サラサラと流れる黒髪の橫には太字の『甲子』という文字が……?
そこまでに観察して漸く気が付いた。これポスターか何かだ。多分反対側の本棚の背にでもってある奴が見えてるだけだな。
「……ああ。ポスターがってあるんだね。この本棚、背板が下半分にしかないタイプだ。だから背面にられたポスターが見えてるんだよ」
嵩原が冷靜に解説する。瞬間はドキリとするもののタネが分かればどうってことない。
「え……、ほんと、だ。よく見たら寫真だ……」
「ビックリした。なんだってこんなとこにポスターなんてってあるのよ。誰が見るって言うの」
「……こ、怖かった……」
言葉もなく驚いていた子たちも嵩原の解説に冷靜さを取り戻した。恐る恐ると本棚の奧を覗き込んでなんだとをなで下ろしている。
「これを見付けて檜山はんだのか?」
「おう。本の隙間からなんか見えると思って、引き抜いて出て來たのがそれだからすげービビった。ポスターかー。なんだってこんなとこにあんだろうな?」
「思うにこっちの本棚は後で追加されたで、それまで前の本棚は背面を空けたままで置いてあったんじゃないかな? で、丁度いいやって壁代わりにポスターをられたと。本棚を置く際に外し忘れて今日まで放って置かれてたんじゃない?」
「雑だなぁ。なんだって本棚にるんだ。壁にれ壁に」
「壁には本棚が並んでいるかられないって言う本末転倒やらかしたんじゃない?」
「それこそ本棚かせば済む話だろ」
考えれば考えるだけ頭痛くなってくる。さっさと本片付けて探索に戻ろう。
「皆どうしたの?って、本落としちゃ駄目だよ。荒らしたのバレたらあとが面倒だよ?」
樹本までやってきた。足下の本を見て早速と注意が飛ぶ。
「ああ。まぁ、ちょっとあってね。あ、聖、こっち來て。発見したよ」
「え! 本當!?」
あ。止める間もなく檜山の隣まで呼ばれ、そしてスマホのライトが照らしたままの本棚奧を見させられて悲鳴上げた。檜山もなんでずっと照らしてるのか。
「何これ!?」
「昔の誰かの置き土産。ビックリするよね?」
「なんでわざわざ僕に見せるの!?」
ご尤もな文句をぶつけてる。そいつ真のSだから多分苛めたかっただけだぞ。
「仲間外れはどうかと思って。それで、聖も何か見付けたって言ってたね。ヒントあった?」
「覚えてろ嵩原……。怪談の文書とは別に會長の書き込みがあったんだよ。『呪いは本來人目を避けて刻々と積み上げられていくもの。日のに照らされるとその本が明らかにされてしまうから、闇の中で靜かに息づく。呪いとは目に見えるようにして発現はしないもの』だって。怪しいでしょ?これ」
冊子を開いて該當箇所を読み上げる。見せてもらうと七不思議の怪談とはし間隔を空けて下の方に記載されている。確かに、先輩の所みたいだな。
「人目を避ける、日……」
「……これだけだとなんとも……」
困した聲が上がるが、しかし嵩原はああ、なんて得心したと一つ頷く。
「え? 意味が分かったの?」
「これ隠喩でもなんでもなくそのままの意味だよ。つまり、呪われた本は人目を避けて目に見えない所に置いてある。それってさ、あのポスターみたいじゃない?」
すっと指差した先、まだチラ見えするポスターに全員の視線が集まる。
「ポスター。……それ、本の後ろにあるってこと?」
「そう。多分そう言うことなんだと思う」
人目を避ける。目に付かない。條件を挙げていけば確かに合致はする。本の後ろに隠してあればそう簡単には見付かりはしないだろう。
そうなるとこれからは本を一々取り出してその後ろを確認しないといけなくなる。當然捜索はやり直しだ。どうしよう、帰りたくなってきた。
「それとこの日の云々ってのも場所のヒントじゃない? つまりはが當たらない本棚、この場合は窓からの採が屆かない箇所にあるんじゃない?」
軽い絶に見舞われていると更に追撃の推理が嵩原の口からもたらされる。
「そうなると、……あの隅の?」
列から出てくるりと見回した樹本はそう言ってどこかを指す。追って指差す方を見れば、そこは図書室の角だ。
り口を正面に、橫を側面として図書室は長方形の形をしているのだが、その長い辺である側面には窓が取り付けられている。幾つかはカーテンを引いて本棚を設置して潰しているのだが、樹本が指差した角は窓自がなく今でも一番暗く影が落ちている。
「あ、そう言えば晝間でも暗い場所だったね。あそこだと確かに日のは當たらないと思う」
続いて顔を覗かせた能井さんも納得顔だ。どうやら一番條件に合致する場所らしい。
「調べてみる価値はありそうね」
「どうせ他に心當たりもないんだし、可能が高いって言うなら當たってみようか」
「なんだってこんな出ゲーム染みたヒント制にしたのかは気になるけどな」
「會長さんからしても苦の策のヒント制なのかもよ?」
そう言うことで移。角に置かれた棚は他よりほんのちょっと小さめのサイズだ。どうやら希本、それも純文學ばかりを集めているらしい。
「こんな希本の背後に呪われた本が……」
「これから取り出すんでしょ? 扱いは慎重に。中には裝丁も傷んでいるがあるから下手に扱うと破れるわよ」
「檜山は待機していて」
「了解!」
「そ、それでいいの? 檜山君……」
わいわいやりながら慎重に本を抜き出して奧を確かめる。繰り返すこと二段、真ん中の棚の左端奧、そこに薄青の裝丁の本?が立て掛けられてあった。
「あ!」
「これか?」
そっと樹本が取り出す。本棚の奧から発掘されたのは本と言うか極普通の大學ノートだった。表題も何も付いてなくてただ々草臥れた表紙が明るいライトの下にある。これが呪われた本?
「本じゃない」
「そうだね。これはノートだね。怪談とは別のかな?」
「でも明らかに隠されていただし、これはこれで怪しいわよ?」
「とりあえず中を確認してみる?」
嵩原の提案に賛し、まずは中を確かめてからとページを捲った。
一枚目、そこにはデカデカと『都市伝説を実現化する能力を使って異世界で最強になる。序でにハーレムも作る』と表題らしきものが毆り書きされていた。
「「「「「「……」」」」」」
「おっとこれは」
誰も何も言えない中、嵩原だけは愉快だと口端に乗せて呟く。
無言のまま樹本がページを捲る。次からはプロットらしき簡易的なチャートが書かれ、それと共に様々な都市伝説の名稱と簡略化した説明が続く。どの都市伝説の何を実現して語に組み込むか。どんな効果を持たせるか。ハーレム要因にするのはどれか、などなど妄想は十ページを超えて刻まれていた。
設定集のあとはどうやら本文を書き出したようだ。それも冒頭の異世界転移をして、都市伝説が現化するという件を書いただけで文が途切れている。一ページを越えたくらいの分量であとは白紙が続いた。
「……うわ」
いや続きがあった。數ページ捲ったあとに唐突にれた字がノートの一面を荒らしている。れている上に重なってもいるから読み難いが、多分小説が書けないと嘆いているのだろう。展開が云々、キャラクターが云々。現代の都市伝説を異世界に持ち込んで実現なんて出來るか!なんてびもある。始める前に疑問に思え。そのあとはただ只管文章化出來ない己の想像力やら文章力やらへの呪いの言葉が続いた。
なんと言うか。なんと言うかもう本當下らない。
「……これが呪われた本?」
樹本が震えた聲で呟く。それは恐怖からではない。怒りからの震えだ。
「ある意味、そう、なのかな……? 最後は呪ってる訳だし」
「前半部分飛ばして後半だけ見ればちょっとは不気味にも思えるかもね」
二年子二人が答える。呪われたというハードルが実に低い。『都市伝説にタイプの子がいない!』なんてびもあるのだがそれ怖いか? 不気味ではあるけど。
「これが呪われた本なのかー。もっとドロドロしたじかと思ってた」
「これだってドロドロと不気味な念は込められてるよ? 己のを葉えようと、ファンタジーに逃げた男の妄執がじられる」
それっぽいこと嘯くな嵩原。七不思議って大心霊系の恐怖だろ。生きてる人間が怖い系はまたジャンルが違うんだよ。
「……えっと、これが正解でいい、んですか……?」
戸いながら掛けられた問いに誰も何も言えない。呪われた本。手にする者を呪うという云われを持つそれは、まさかの個人の妄想を詰め込んだ痛小説ノートだった。
「認めたくはないけど會長のメモに當て嵌まるのはここだ。まさか偶然このノートがここにあったとは思えない」
「違っていたとしてもじゃあまた探しに行くの? 嫌よ。一気にやる気が目減りしたわ」
「俺もここ飽きた!」
苦渋に満ちた聲で判斷を下す樹本に次々賛同する聲が上がる。俺も同意。室に続きなんかもう疲れた。
「一応、各種都市伝説の記載は読み応えがあるほど緻には調べてある。また、後半の自分への呪詛も『呪い』を肯定するだけの不気味さはあるでしょ。これが七不思議で語られる所の『呪われた本』だとしてもそこまで外れてはいないと個人的には思うな」
「確かに気持ち悪いよね……」
能井さんが酷い。不気味と気持ち悪いは等號ではないと思うんだが。嵩原のお墨付きも隠す辛辣な評価だ。
「それなら、もう次行こうか。僕嫌な予してきたから早く終わらせて帰りたい」
告げてさっさと撤収作業にる。あ、ノートは元に戻すのな。このまま放置すればいずれ日の目を見ることもあるだろう。その時が作者にとっては本當の呪詛吐く日々の始まりかもしれない。
「なんでこんなとこに置いてあんだろ?」
「純文學に紛れてあるのが意味深だよね。ある意味これもまた、男のに純な文學なのかもしれない」
「嵩原うるさいよー」
退けていた本も戻し漁ったという痕跡を一切排除。終われば次に一通り図書室を見て回り荒れていないかをチェック。ポスターの場所もちゃんと本が片付けられていた。いつの間に片付けたんだろ。
「さて、それじゃ次行こ次。なんだかんだ長居しちゃったから更に巻いていかないと」
「結局呪われた本は個人の妄想を詰め込んだ閲覧注意の痛ノートだったってこと? 手にした者が呪われるって件はなんだったのよ」
「今現在抱えている行き場のないモヤモヤが呪いなんじゃ? 多分數日は怪談って聞くだけであのノートの存在を思い浮かべるんじゃない?」
「しょーもない呪いもあったもんね!」
プリプリ怒りながらもきちんと施錠をし、そして次の七不思議へと移を開始した。
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