《銀河戦國記ノヴァルナ 第2章:運命の星、摑む者》#19
同一の機で同じ條件となると、あとはパイロットの腕が勝敗を左右する。それはまさに“ガチンコ対決”だ。六組の『シデン』同士の対決は、すぐに熾烈を極め始めた。
その一方でチェイロのBSHO『シンセイCC』と、シルバータ達五機のBSIユニット『シデン』の戦いは、早くも一機の『シデン』が、『シンセイCC』の超電磁ライフル弾を喰らって大破している。
「距離を取れ、包囲のを崩すな!」
大聲で命じるシルバータの『シデンSC』にも、紙一重の所を、『シンセイCC』の超電磁銃弾が掠めた。
そもそもBSHOとBSIユニットのキルレシオは1:16.5となっており、たかだか五機の『シデン』では、不利になるのも道理である。しかしそんな數字だけで諦めるようなシルバータであるなら、“豬武者”の仇名など奉られていないはずであった。
「俺が仕掛ける! 援護撃を続けろ。俺に當てても構わん!」
発的な加速で『シンセイCC』との間合いを詰めるシルバータ機。『シンセイCC』を四方から囲むナグヤの陸戦『シデン』から、援護撃が放たれる。
「甘いわ!」
そう言い放ったチェイロは、瞬時にポジトロンパイクを左手に握って起させ、前方と左側から來る銃弾を刃で弾き飛ばし、後方と右側から來る銃弾を、機を翻して回避すると、右手に握るライフルで振り返りざまに一連した。右側の『シデン』はパイロットの技量が高かったのか咄嗟に躱したが、後方にいた『シデン』はコクピットのある腹部を撃ち抜かれて、膝から崩れ落ちる。
そしてその時にはすでに、『シンセイCC』は斬り掛かってきたシルバータ機のポジトロンパイクを、自らのポジトロンパイクで打ち払い、そこから半回転させたパイクの石突きでシルバータ機の側頭部に打撃を加えていた。
「ぬあ!」
コクピットで衝撃にのけ反ったシルバータは、咄嗟に機を捻らせる。至近距離から突き出されたチェイロ機の超電磁ライフルの銃口から、銃弾が飛び出して左のショルダーアーマーをえぐって行った。まさに危機一髪だ。しかも組み合ってしまっては、味方が援護の銃撃も行う事が出來ない。チェイロの嘲る言葉がスピーカーに響く。
「その程度か!」
だがシルバータからすれば、相手の懐に飛び込んだこの時こそが、死中に活路を見いだす唯一の機會であった。地表に膝をついたまま『シデンSC』は、タックルを喰らわせる。
「おおぉッ!!」
膝下に組み付かれたチェイロの『シンセイCC』は、バランスを崩して餅をついた。素早くクァンタムブレードを起させ、コクピットを刺し貫こうとするシルバータの『シデンSC』。しかし『シンセイCC』はそれより速く、『シデンSC』の腹を下から蹴り飛ばす。
「むあ!」
蹴られた『シデンSC』は、背後にそそり立っていた巨大な花崗巖の塊に、背中から激突した。ポジトロンパイクを手に立ち上がった『シンセイCC』が、その電子を帯びた刃を振りかざす。そこへチェイロの座るコクピットに響くロックオン警報。シルバータの配下の『シデン』が、左橫合いから超電磁ライフルを放つ。その一撃を機を引かせて躱したチェイロは、カウンターで手にしていたポジトロンパイクを投擲した。
チェイロ機が投げたポジトロンパイクは、銃撃を加えて來た『シデン』の部を貫き、バックパックまで達すると、機を々にするほどの大発を起こした。対消滅反応爐の反質シリンダーを直撃したのだろう。普段であれば急蒸発されるシリンダーのAM(アンチマテリアル)マグネシウムが、れてしまったに違いない。その凄まじい風で、もう一機いたシルバータ配下の量産型『シデン』も合わせ、『シンセイCC』と『シデンSC』は三機ともが薙ぎ倒される。
「ぬおおっ!」
その中でもいち早く起き上がったのは、やはり機能の差なのか、BSHOの『シンセイCC』である。起き上がりざまにQブレードを抜き放ち、花崗巖の間に挾まってしまったシルバータの『シデンSC』に迫る。それを見たシルバータも咄嗟にQブレードを突き上げた。だがその切っ先はチェイロの方が速い。イチかバチかの判斷だ。
「覚悟ッ!!」とチェイロ。
「まだまだぁああああッッ!!!!」とぶシルバータ。
とその時、不意にチェイロの機のきが止まった。振り抜こうとした『シンセイCC』のQブレードを握る右手が、大地から突き出した花崗巖の角に突き當たったのだ。そしてその一瞬の遅れが、致命的な結果を招く。機を起こしざまに突き上げたシルバータ機のQブレードが、ドスリとチェイロ機の左橫腹を深く突き刺した。コクピット左側にまで達したブレードが、搭乗しているチェイロの座席ごと左脇腹まで、深く大きく切り貫いた。
「グハッ!馬鹿な!!」
雙眸を見開くチェイロ=カージェス。
搭乗する機の能だけでなく、パイロットとしての技量からしても、チェイロはシルバータより上のはずであった。それはまだ若いシルバータがどのように意気込んでも、変わらない事実である。だがそういった要素が必ずしも結果に繋がらないのが戦場―――特に複雑な環境下にある、地上戦というものだ。
僅かな偶然…いや不運からチェイロのは、刺し貫いたのちに力任せに振り捌いた、シルバータの剣によって真っ二つとなった。絶と共に、機そのものも腹部で斬り放たれて、発するチェイロの『シンセイCC』。ただ、それをし遂げたシルバータも、無我夢中の行であって、まなじりを大きく開いたまま額に玉の汗を浮かせて、はあはあ…と肩で大きく息をするばかりたった。
そしてようやく我に帰ると、自らの功に興を隠せない様子で、通信機のチャンネル設定を全周波數帯に変え、持ち前の大聲で戦場じゅうに宣する。
「敵將チェイロ=カージェス。ナグヤのカッツ・ゴーンロッグ=シルバータが、討ち取ったりぃいいいいーーー!!!!」
その高らかな宣言は、ノヴァルナの縦する『センクウNX』のコクピットでも、信する事が出來た。戦闘開始早々、思わぬ大戦果である。いや、考えようによっては、地上軍司令のチェイロ=カージェスは、カッツ・ゴーンロッグ=シルバータ以上の豬武者だったのかも知れない。
「おう! やるじゃねーか、ゴーンロッグ!」
自分に反発する、弟カルツェの直臣であるシルバータであっても、ノヴァルナは素直に賛辭を口にした。そして改めて、コクピットに展開した総旗艦『ヒテン』のものと同様の、戦狀況ホログラムを確認する。
ノヴァルナの睨んだ通り、キオ・スー家の宇宙艦隊のきは鈍く、『ムーンベース・アルバ』とアイティ大陸の対宙砲火網にナグヤ艦隊を引き込もうとしており、その一方でナグヤ軍BSI部隊は総監であるカーナル・サンザー=フォレスタの指揮で、キオ・スー軍BSI部隊と熾烈な戦闘を繰り広げている。
「ノヴァルナ殿下…」
親衛隊の『ホロウシュ』を引き連れたまま、戦場とは見當違いの方向へ移した主君に対し、ナルマルザ=ササーラが問い掛ける。それに対しノヴァルナは、あっけらかんと応じた。前方にあるのは衛星軌道上に浮かぶ、見覚えのある宇宙施設だ。
「見えて來たぜ!…アレを使う!」
【第2話につづく】
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