勝った。勝った…んだけど、なんだか呆気なかったな。こう、もうし苦戦すると思ったのだが。

それにあの死霊道士(アンデッドメイジ)はボスの類いでは無かったようだ。ボスを倒したのなら、何らかのインフォが流れるハズだからな。いや、仮にボスだったとしても中ボスだったのだろう。そもそも、この窟にボスがいない可能だってあるのだ。過度な期待はだぞ。

取り合えず、この隠し部屋にはこれ以上敵はいないようだな。だったらここをしっかりと漁ってから出ていくとしよう。どうしてしっかり漁るのか、と疑問に思うかもしれない。その答えは、彼らのドロップを見れば解るだろう。

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古びた僵尸の札 品質：劣　レア度：R(希級)

僵尸を作るための札。経年劣化により狀態は良くない。

死にり付けることで、僵尸として使役出來る。

古びた道士の禮服 品質：劣　レア度：R(希級)

ここより西の地からやって來た道士の正裝。

格闘戦を考慮され、見た目よりもきやすい。

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これが僵尸(キョンシー)と死霊道士(アンデッドメイジ)のドロップアイテムだ。これ、絶対に【死霊魔】が関係してるだろ。なら、私でも僵尸(キョンシー)を作れるに違いない。その為の資料があるかどうかを調べるのだ。

それに連中は西の地からやって來たらしい。その土地についての報も手にるかもしれない。言語が異なるかもしれないが、そこは【言語學】があればどうにかなる…はずだ。

「イザーム、これは？」

五人で手分けしてしていたところ、ルビーが何かを見つけたらしい。一何があったのだろうか。

「何か、紐で括られた竹？の束なんだけど…」

「ち、竹簡だと？何て古風な…実は初めて見るぞ」

そう、竹簡だ。木や竹に文字を書き、それを紐で繋げて巻のようにして保存する、日本や中國のおいて史実で使用されていた本の原型である。竹製なのが竹簡、木製なのが木簡だ。しかしこんなものを登場させるとは、運営のこだわりをじるぞ。

「中は…うん、蟲食い狀態だが読めるぞ」

竹簡は多の経年劣化が見てとれたが、読めないことはない狀態だった。中をざっと読んだところ、思った通りに書いた者は【死霊魔】、それも僵尸(キョンシー)作を得意とする一族の出者だったようだな。祖國で何かあったようで、一族郎黨で逃げて來たとのことだ。

ならばこの資料には【死霊魔】以外の魔についての記述があるかもしれないな。余人には単なる竹の束だが、私にとっては一抱えの寶の山のようだ。

だが、じっくり読むのは後にしよう。他にも幾つか見つかった竹簡と木簡をインベントリにれた私達は、一度ここでログアウトすることにした。何だかんだで探索と調査で結構時間を費やした。休憩するべきだろうな。

今回も休憩の順番はさっきと同じで良いだろう。先ずは私とジゴロウが殘る。今回は護衛の召喚獣のいるから特にやることは無い。ならばこの辺で新しい魔について見ておこう。

【虛無魔】の魔力妨害(マジックジャミング)ね。これは発すると者を中心として敵味方関係なく魔を失敗しやすくなるフィールドを展開するだ。

いやいや、使えないから。発すると者も使えなくなるみたいだし、魔師泣かせ過ぎるだろ。これ、ジゴロウや源十郎が覚えるべきじゃないか。

新たな呪文が使えないことはわかった。そうなるとまたもや手持ち無沙汰になってしまう。そうすると我々は自然と闘技大會の観戦を初めるのだった。

「初日の優勝は…勇者君か」

闘技大會が開催されているコロシアム、その電掲示板っぽい魔道にデカデカと勇者君ことルーク氏の名前が表示されている。ひどいネタバレもあったもんだ。

「妥當だろ。技量も中々だけどよ、それ以上に武と防が違うからな。ありゃあ多分、神さんから貰ったって噂の聖剣と『蒼月の試練』の突破報酬だぜ」

「ああ、彼らもクリアしてたんだったな」

しかし、ジゴロウからすれば當然の帰結らしい。まあ、し考えれば當然か。

鬼畜難易度である『蒼月の試練』。それをクリアした報酬がどれほどのものか、私達はを以て知っている。というか、お世話になっている。ジゴロウが中々と評価する技量と武がアレならば負ける訳がない、か。

「そういう意味じゃぁ、今日が一番面白ぇかもな。アイツと仲間の共は二日目にはエントリーして無かったからよ」

「そうだったのか。…いや、當然か？絶対にモメるだろうしな」

闘技大會の初日が個人戦なら、二日目は二人一組になって戦うペア戦だ。三日間の、參加出來るのは二つの競技だけなので、勇者君は初日と三日目のパーティー戦に出るのだろう。それが無くとも彼の場合、出場しようものなら陣の誰と組むかで絶対にめ事が起きるだろうから大會規定はグッジョブかもしれないな。

「それで、どうだ？誰か面白そうな相手は見つかったか？」

「いんや、どいつもこいつも普通の域を出ねぇな。畫面小さくして個人戦の決勝トーナメントでも観るわ」

「そうか、わかった」

ペア戦は今、予選が行われている。そのやり方は初日と同じでバトル・ロワイアル形式だ。互いに背中を預けあって戦う様子は素人である私の目には見応えがあるのだが、ジゴロウには足りないようだ。

それに観る限り魔を參考にさせてしい使い方をしているプレイヤーはいない。だったら私も畫面を小さくして別のもの…そうだな、掲示板でも読むとしようか。

「個人戦…はいいか。決勝トーナメントに殘った魔師はいなかったようだし。なら、読むべきはペア戦の実況スレか…ん？」

闘技大會実況スレを読み流していると、ペア戦における予選第一試合の話題が何度も出ている事がわかる。『無雙ゲー』やら何やら、圧倒的な躙劇が行われたらしい。誰が何を行ったのだろうか？

現在はペア戦の予選第七試合なので、予選第一試合のハイライトは視聴可能になっている。し視てみるか。

「ええっと…どういう…こ…と…！？」

あー、うん。何が起こったのか、私の目に映ったままを話そうか。まず、一組だけ浮きまくっているペアがいた。片方はジゴロウが高評価を下していた長使いのだ。個人戦とは違って、使っているのは斧槍(ハルバード)だな。そして彼の相方なのだが…馬だ。

そう、馬なのである。鎖帷子狀の馬鎧を纏った立派な白馬だったのだ。それに騎乗して颯爽と登場したのである。

え？これっていいのか？と皆が思ったようだが、なんとその馬はプレイヤーなんだとか。人外だが魔ではないプレイヤー、という訳だな。

それからの試合はというと、掲示板にあるようにまるで無雙ゲーのようだった。余りゲームをやらない私でも知っている、歴史上の人で雑兵を薙ぎ倒して行くアレだな。

闘技場を縦橫無盡に駆け回りながら振り回される斧槍(ハルバード)が軽戦士を両斷し、白馬の當たりが重裝甲の戦士を吹き飛ばす。

また、馬は魔を取得しているらしく、それも使って的確に馬上の彼をフォローしていた。正に、鎧袖一とはこの事だと謂わんばかりの景だ。

想像してほしい。馬、それも専用の鎧まで著裝しているものの威圧を。それが魔を放ちながら、自車並みの速度で近付いてくる姿を。

一般人でそれに対して冷靜に対応出來る者が何人いるというのか。なくとも、私は無理だ。腰が抜けるに違いない。

VRゲームで騎兵の恐ろしさを見せつけられる事になるとは。これは優勝候補なんじゃないのか？ジゴロウにも教えてみよう。

「ジゴロウ、ちょっと良いか？」

「あん？何だ？」

「ペア戦の予選第一試合、そのハイライトを視てみろ。面白いものが観られるぞ」

「へぇ、どれどれ…っ！ククククク！スゲェな、この！まさかこんな隠し蕓があったとは！」

ふふふ、ジゴロウも気にったようだ。食いるように彼の戦いを見始めたぞ。

「これが決勝トーナメント…本戦でも通用するかどうかだな。本戦に進める奴ってのは程度の差こそあれ、対応出來るだろうからな」

「それはそれで楽しみが出來たんじゃないか？」

「ま、その通りだな」

さて予選を見し続けるのも良いが、今は別の暇潰しに向いたものがある。それは何かって？そりゃあ結構見つかった木簡と竹簡だ。これにはどんな事が書かれているのかね？

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これまでの行経験から【符】スキルを獲得しました。

新たに僵尸化を習得しました。

【考古學】レベルが上昇しました。

【言語學】レベルが上昇しました。

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おおー、これは興味深いな。大全部読み終えたが、中々に濃い容であったぞ。

まず彼らが何者なのかだが、その経緯が記された日記がある。ここより遙か西にある『アクアリア諸島』という地域の『華』という國の出らしい。そこで彼らは伝の【死霊魔】と【符】を用いて歴史の影で暗躍していたのだが、政変によって祖國を追われたのだという。

しかし、たどり著いたこの地では【死霊魔】はだった。それを使いこなす彼らは迫害され、更には賞金首となって指名手配されたのである。

そして唯一生き殘っていた日記の著者は世界を呪いつつ己を不死化し、回収出來た一族の死と共にここに隠れ住む事にしたそうだ。そう、それが我々と戦った死霊道士(アンデッドメイジ)だな。

彼らのバックストーリーは救われない話ばかりでし滅ってしまう所があったが、西にアクアリア諸島という他の陸地が存在する事と、そこにはいくつか國家があるという報をもたらしてくれたな。それにその他の書籍は様々な伝書ばかりでとても有意義だった。

私が求めていた【死霊魔】の新たな技能として僵尸化を手にれたぞ。今度ちょうどいい死があったら使ってみるか。そして僵尸化の際に必要不可欠なお札を作する【符】も獲得出來た。僵尸化以外にも使い道は無數にあるようなので、非常に期待が高まるな！

あと、地味に【考古學】と【言語學】のレベルが上昇している。どうやら異國の古い書に挑戦すると経験値にボーナスが加わるらしいな。有り難いことだ。

それに、書の中には私以外のメンバーにとっても有用なものが幾つもあった。それは格闘や各種武の奧義書であったり、特殊な金屬の鍛造法であったり、暗の使用法であったりする。皆、どれかが役立つだろうな。

おっと、もうこんな時間か。そろそろ三人も戻ってくるだろう。ログアウトの準備をしなければな。

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ログインしました。思った通り、ジゴロウは源十郎と一緒になって闘技大會を見している。しかし、個人戦の時のような齧り付いてでも、という必死さはじられなかった。何故だろう？聞いてみるか。

「二人は何があったんだい？」

「あ、お帰り。あの二人、ペア戦は見所があんまり無いからちょっと白けてるっぽいよ」

「あれ？馬に乗って暴れてたがいたんじゃなかったっけ？」

掲示板でも盛り上がっていた『無雙ゲー』の如き躙劇。あのプレイヤーなら観ていて退屈しないのでは？

私の疑問の意図を汲んだのか、ルビーとアイリスは苦笑いをしている。何があったのだ？

「その人の試合何ですけど…最初の突撃で全部終わってるんですよね」

「本戦が？」

「うん。一方的だし、何よりも止めようってガッツの無いプレイヤーばっかりでつまらないんだってさ」

「そう、か。殘念だったな」

うーむ、平和をしてきた一般人に人馬一の突撃、それも騎馬が魔を放ちながらのそれは荷が勝ちすぎだったようだな。余りにも一方的すぎて、逆に優勝候補筆頭である彼の出ない試合の方が盛り上がるという謎の狀態に陥っているのだとか。強すぎる、というのも大変だな。

「なら呼べばすぐに出発出來そうだな。ルビー、呼んでくれるか？」

「任せなさい！」

私の頼みに元気な返事をかえしつつ、ルビーは戦闘狂(バトルジャンキー)共のもとへと向かった。

「あの、イザーム。お聞きしたい事があるんです」

「何かな？」

「この探索行はどこまで行くのかなって」

當然の質問だな。窟探索の目的は普通のプレイヤーがいない時間を狙ったレベル上げだ。私のレベルもそうだが、三人は進化という目に見える果があったので主目的はもう果たしたと言っていいだろう。なのでここで引き返しても問題は全く無い。

ただし、時間的な余裕はまだ十分ある。闘技大會の二日目はまだ終わっておらず、今すぐに引き返すと時間が余ってしまうだろう。なら、可能な限り冒険するのが最も楽しいのではないだろうか？

だが、これは私の意見であってそれを押し通すつもりは全く無い。皆が帰りたいのなら話し合った後で帰ればいいのだ。

「時間が許す限り冒険する、というつもりだったのだが…もう引き返すか？」

「あ！そうじゃ無いんです！」

アイリスは慌てたように手を左右に振る。帰りたいわけでは無いのか。じゃあどうしたのだろう？

「私、戦うのとか苦手で前にやってたゲームでもほとんど街に引き籠って生産ばっかりしてたんです」

それなりに有名になったし、そういうプレイ方針も楽しかったんですけど、と言いながら彼は続ける。

「けど魔アバターになって、戦わないといけなくなって。でも頼れる相手もいなくて。正直、イザームからの返事が無かったら一度アカウントを削除しようと思ってたんですよ？」

「それは…」

私はなんと言っていいか解らずに言葉を詰まらせる。

「でもイザームやジゴロウと會って、ルビーと源十郎って仲間も出來て。今日なんて皆で冒険に出てる。それがとっても楽しいんですよ。だから、この冒険がもう終わっちゃうのかなって」

なるほど、むしろ終わってしまうのが惜しいのか。そう言って貰えるとった私としては非常に嬉しいものだ。だからこそ、彼に言っておかねばな。

「どんな冒険にも終わりはあるさ。當然、この冒険にも。でも、また機會はある。何度でも、冒険を楽しもうじゃないか。皆で、ね」

「うん…そうですね！」

アイリスは照れ臭そうにしながら明るくそう言った。私の陳腐な勵ましだったが、それなりに効果はあったらしい。うん、心機一転して探索を続けるとするか！

ヒロインちゃんは素直ないい子です。尚、見た目はヤバい模様。

長使いには相方がいます。なので、ヒロイン化はしません。あしからず。

因みに、主人公達の倒した死霊道士はリポップしません。明らかに中ボスでしたが、ボスではありませんし。それに世界観的に何度も戦える方がおかしいですしね。

こういう敵はゲームに結構いて、攻略組も既に何か倒しています。通稱はユニークエネミー。

なのでこの事は一般的に知られています。実りがいいので、トップ層には眼になって探している者がいるほど。そんな事をしている間にレベル上げをした方が強くなれるのですが、『唯一』という言葉のには誰もが弱いのです。