《化けになろうオンライン~暴食吸姫の食レポ日記~》イベント終了
……張りすぎたわ。
聖を倒すだけでよかったのに、行けそうだから魔法使い倒して勇者を挑発して……集中しすぎた反が來た。
ログアウトしてすぐに眠ってしまったわ。
頭がぼろぼろになって、泥のように眠るのはいつ以來かしら……。
中東で銃弾の雨の中をひたすら逃げ回った時、北歐で子育て中の熊と出くわしたとき、ロシアで遭難してトラを食うためにナイフ振り回したとき……そのどれとも違う気がする。
丸2日寢ていた……いや時間で換算したらもっと長い。
寢た時はイベント5日目でお晝ご飯を食べてなかったけど今はイベント7日目のお晝、10食も抜いたからかお腹がすごい悲鳴を上げてる。
このままだと倒れそうだからキッチンに重い足を引きずりながら進む。
鍋でお湯を沸かして何でもいいからあるものを突っ込んでいく。
そうめん、冷や麥、うどん、蕎麥、中華麺、本當に何でもいい。
ついでに冷蔵庫の中にあったや魚、野菜にたまご、ぼんぼん突っ込んでいって出とめんつゆをぶち込む。
それを鍋から直接食べて、ひたすら胃に詰め込んで、そして2リットルのボトルから直接コーラを飲みまくる。
一本飲み干して二本目のコーラを飲んで、盛大に息を吐く。
いやぁ……疲れた。
さて、久しぶりのご飯でお腹が急激に活化したのかな。
「トイレ!」
全力で走ってトイレに向かう、足がまともにくようになった!
それから數分後……はしっかり調子を戻していた。
仕事と化けオン、どちらをやるべきかと考えた結果イベント最終日だし參加しておこうと思ってログイン。
最期にログアウトした森の中に私は戻ってきた。
そして周囲には武を構えたプレイヤーたち……えーと、この狀況は何かしら。
「どゆこと?」
「あんたが勇者を倒した後にシークレットミッションってのが発行されてな。勇者を倒した下手人を倒せば経験値とポイント、ついでに金ももらえるらしいのさ」
「あー……」
まぁ、そうよね。
普通に勇者撃退した存在とか危険因子以外の何でもない。
そりゃ指名手配くらいされそうね。
「たんま、こっちは本調子じゃないから持ってるアイテム全部渡すよ。ドラゴン素材もあるし、イベント中に手にれたレアなアイテム……妲己のいるエリアに行ける裝備もある。代わりに見逃してもらえないかな」
噓だけど。
私に説明してくれた人の眼が泳いでいる。
おそらくフレンドチャットを見えないようにシークレットモードにして展開しているんでしょうね。
それで仲間と相談している、私に見えない後ろの人たちがコメントを打ち込んでいるのかな。
だとすると……。
「いいだろう、出してもらおうか」
「わかったわ」
やっぱりね、こちらのアイテムを全部取ってから殺せばいいと思っているんでしょう。
後ろから微かにだけど、きゅぽんという小さな音が聞こえた。
聖水のふたを開けた音ね、馬鹿な人……その瓶すごく割れやすいからそのまま投げればよかったのに。
まぁこちらとしては素直にインベントリを作して……マンドラゴラの鉢植えを引っ張り出して抜き打ち!
その場にいたほとんどが死に戻りして、町のり口に降り立った。
ふっ、ペナルティはつくけどこの程度問題ないわ。
「くそっ、騙しやがったな!」
「お互い様、そっちだって聖水かけようとしてたでしょ?」
「そりゃそうだが……いやまてよ、この場で聖水ぶっかければ……あ、なんでもありません」
そうつぶやいた男の後ろでナイフを構えていたのは英雄さんだった。
墮ちた英雄さん、ずっと町の中にいたのね……セーフティエリアになっているからイベント中町中でのPKはご法度という事かしら。
てっきりNPCを無差別に狙ったらだめとかそういうのだと思ってたけど……他にもく條件があるのかしら。
「汝、咎人なりや?」
「どうなんでしょうね、狙われているという事は悪事の結果かもしれないけど、私にとっては生存競爭の一環だったから」
「なれば汝罪はなし、されど汝は運命に従わねばならぬ」
「運命?」
なんか英雄さんが長文喋っているの珍しいわね。
「しかり、汝我が後をついてくるがいい」
その言葉と共に超速で走り出した英雄さんをどうするか考えていると、突然ぐらをつかまれた。
ゆっくり見下ろしてみると、英雄さんが青筋浮かべて私のぐらをつかんでいる。
周りの人はなんだイベントか? とか、今がまさにイベント中だろ、とか々好き放題言っている。
これは付いていくしかなさそうね……だからその杭をしまってほしいわ。
「ついていくから、ね? もうちょっとゆっくりお願い」
私の言葉に納得したのか英雄さんが杭をしまって先ほどよりもゆっくり、けれどとてつもない速さで走っていく。
うーん、目で追えるのと足で追えるのは違うんだけど、さっきみたいに見えないほどの速さよりはよっぽどゆっくりよね。
まぁ仕方ないので超低空飛行であとをついていく。
そして案された先は南の森だった。
何も見つからなかったエリア、ここで何かあるのかしら……。
「待っていたわ、化け」
「あなたは……」
思わず聲を上げる。
そこにいたのは勇者一行の暗殺者さんだった。
「あなたに決闘を申し込む」
「決闘?」
「そう、あなたが負けたら聖と魔法使いから奪ったものを貰う。私が負けたらこれを差し出す」
そう言って暗殺者さんが差し出したのは虹にる球。
私の中で何かが反応を示す。
それは食、紛れもなくあれを食べたいと、私の中の私でない何かがんでいる。
「……それは?」
「勇者の魂、これを食べれば勇者となれる。次の勇者を産むための道であり、今の勇者を蘇生するために必要なでもある」
「蘇生できるなら、勇者を直接ぶつければいいんじゃない?」
「無理、あの人は心が折れた。仲間を失うつらさに耐えきれず、そして意識をされていたとはいえ全力の狀態であなたにあしらわれるように負けた。アレはもはや勇者とは言えない、臆病者となり果てた」
「あらら、それで私が次の勇者に?」
「違う、これはただの賭けの道。お前が勇者の魂に選ばれることはないが、聖と魔法使いの力を……そのためにも必要な賭け」
「あなたが、こういってはなんだけど勇者パーティをほぼ壊滅させた私に勝てると?」
あの時の大暴れでレベルは15まで上がった。
勝てないとは思えないけど……。
「人間のままでは勝てない、だから私は……」
そう言って暗殺者さんは黒いマントを羽織った。
「悪魔に魂を売った」
「へぇ……どこかで見た話ね」
ちらりと英雄さんを見るけれど何の反応もない。
「この、この魂、これから得る全てを世界のシステムに組み込むことで私は人でありながら人を捨てる。決闘という言葉が嫌いなら、互いの持つものをかけた殺し合いを挑む」
その言葉に、思わず口角がつり上がるのをじた。
あぁいい、実にいい。
食事とはそもそも命を奪う事、そして奪った命を糧に今を生きる事、今を生きて明日につなげる事だ。
その覚悟もなく漫然と口に食べを運ぶ人間が大嫌いだ。
反吐が出そうな理屈をこねくり回す奴らが大嫌いだ。
だから、私は命を頂いているという意識と殺す覚悟を持つ人には敬意を払う。
この暗殺者さんはただのAI、殺すという事に忌避を抱きながらもそれが無ければ生きられないと知っている存在、そういう風にインプットされただけかもしれない。
だとしても、私は嬉しかった。
初めて意見の合う人が見つけられた気がした。
だから、両手の爪と手を構えた。
「……化けにこんなことを言うなんておかしいかもしれないけれど」
「言ってみて」
「ありがとう」
「……ふふっ、どういたしまして」
インベントリから聖の心臓と魔の魔力を取り出して英雄さんに投げ渡す。
暗殺者さんも同様に勇者の魂を英雄さんに投げ渡した。
それらを英雄さんが片手でけ取ったのを合図に、殺し合いは始まった。
手による牽制、それが私の選んだ一手。
けれど暗殺者という職業故か、彼のきは機敏で無駄がない。
のこなしだけで言えば勇者パーティの中で誰よりも鋭いといえる。
けれどこちらも無意味に手をばしたわけではない、道をふさいで相手のきを制することこそが目的だった。
そのはずだったというべきかもしれない。
ばした手、それにれるだけでドレインの発條件を満たせるが暗殺者さんはお構いなしに手を足場にして私に近づく。
一瞬、足がれた瞬間にドレインを発させようとするが小刻みにステップを踏まれて不発に終わる。
やるわね……。
「しっ!」
暗殺者さんのナイフによる一撃を爪でけ止めようとして、僅かながナイフから発せられているのを見た。
まずい、と思ったときにはもう遅い。
聖屬と毒の二重攻撃、どちらも私にとっては致命的なそれが爪の先端を削り取る。
右腕がじわじわと毒を吸い上げていくのがわかるが、目の前の暗殺者さんに蹴りをくらわせて距離をとってから自分の腕を切り落とす。
最近自切してばっかりね……なんかそれも手段の一つとして割り切り始めている自分が怖いわ。
人間を犬に食わせろがキャッチフレーズだけど、この覚をリアルに持ち込まないように気を付けないと。
「やるわね……」
「あなたも、よく調べているわ。今の一撃は危なかったけど、なんで手を攻撃しなかったの?」
「フェアじゃないから、というのはおかしい?」
「暗殺者なのに、と言いたいところはあるけれどそういうのは嫌いじゃないわ」
「そう、でも次からは狙う」
「私も、次をけるつもりはないわ」
視線が差する。
一瞬のタイミングを互いに見計らって數秒、じりじりと足をらせて立ち位置の調整をする。
聖屬は邪悪結界で防げるけれど、毒までは防げない。
むしろ結界を使う一瞬で決められてしまう可能が高い今、それは使わないほうがいいまである。
あのナイフの聖屬は勇者の持っていた聖剣ほど強い力を持っていない。
聖剣クラスなら爪の先であろうともれた瞬間、私は死んでいた。
なら……先手必勝!
「はぁ!」
地面をけって暗殺者さんに薄、とっさにガードしようと腕をかそうとしていたのを見て急ブレーキをかけてバク転で後ろに回り込む。
首をとった、そう思った瞬間だった。
私の眼前にキラキラとる何かの欠片があった。
今更突き出した手を止めることもできず、その欠片もろとも貫くしかないと判斷するのとれるのは同時だった。
「ぐあっ!」
左腕が熱を帯びて炭化していく。
ぼろぼろと崩れていくそれは見覚えのある景、ゲリさんに焼かれた右腕と同じだ。
弱點屬によって崩壊する、だとするとあの欠片は聖屬か炎屬をはらんでいる?
……さすが暗殺者、手段を問わなければこれ以上厄介な相手はいないわね。
けれどただで負けるつもりはない。
「そこっ!」
両腕がなくなった今できる攻撃手段は限られている。
手か、足か、狐火。
まず手は使えない、暗殺者さんの速度であれば私を起點とする手がどのようなきをしようとも懐にられてしまうし、手そのものを切りつけられるだけでも負ける。
狐火も今は溫存、手が切られたときに焼き切るのに使う必要がある。
ならばキック、執拗に足を狙った攻撃を続けるが暗殺者さんはそれを紙一重で躱しては私のに傷をつけていった。
じりじりと、負けが近づいている。
「降參するなら、命まではとらない」
「はっ、冗談を」
「あなたのきが鈍い、何かの重りを背負っているよう」
そういえばペナルティけていたわね。
「仮に、その重りが無かったとしても私は勝つ」
「できるかしら?」
「できなくても、やる」
「そう……だったら奧の手を見せてあげる。狐火:纏!」
レベルが15になった時に覚えた魔法というか、狐火のバリエーション?
レベルよりも練度の問題かしら、高位の魔法使いと聖を焼いたから一気に狐火の練度が上がったのか生えてきた。
文字通り狐火を纏うのだけれど、私が使うとダメージがばかにならない。
だから存在しない部位……今は切り落とされてしまった両手をかたどるように狐火をる。
傷口がじりじりと焼けて、このままでは死ぬだろうというのも理解した。
そのうえで暗殺者さんとの決戦をんだ。
この手ならば、聖屬も毒も関係ない。
「いくよ?」
「いつでも」
互いにいたのは同時、私の炎の腕が暗殺者さんの頬をえぐり、暗殺者さんのナイフが私の腹部に突き刺さった。
……あーあ、負けちゃったわね。
「あなたの勝ち……私はもうすぐ死ぬわね」
「……ぎりぎりだった、重りが無ければ負けていたのは私」
「それでも勝つつもりだったんでしょ?」
「もちろん」
そう言って英雄さんに預けていた三つのアイテムを回収した暗殺者さん、その行方を見守っていた私は目を見開いた。
まず自らのにナイフを突き立てて心臓を抉り出した暗殺者さんは、傷口に聖の心臓を埋め込んだ。
このままでは死ぬのではないかと考えていると、淡い燐が暗殺者さんを包み込む。
癒しの、聖が使っていた回復系の魔法だ。
見る見るうちに元の傷がふさがり、土気をして汗をかいていた暗殺者さんの顔にが戻った。
続けて魔の魔力と勇者の魂を、まるで卵を丸呑みするかのように飲み込んだ。
大気が震える、ドクンドクンと脈打つように、暗殺者さんがに飲まれていく。
けれどそれは途中から黒いに染まり、しばらくの後そこに立っていたのは墮ちた英雄とそっくりな格好をした人だった。
「……あとは、最後の仕上げをするだけ。私は力を得なければならないから……恨まないでね」
そっと手渡されたのは暗殺者さんの心臓。
それはすぐにインベントリに収納されたが、暗殺者さんの歯が私の首に當たると同時に食いちぎられた。
あぁ、食われるってこういう覚なのね……そんなずれた想と共に私は暗殺者さんの頭を手ででながら死に戻りした。
それから數時間、ログアウトしてご飯を食べてログインを繰り返しているうちにイベント終了の合図が屆いた。
暗殺者さんと墮ちた英雄さんが似ていたのはなんだろう、そんなことを思いながら私は順位を確認する。
上から見ていくけれど、知ってる名前がちらほら。
7位にゲリさんがいるけれど私の名前がなかなか見つからない。
そう思っていたら28位に私の名前があった。
どうやら勇者パーティや狐をどうこうするよりも、その後のシークレットクエストとやらの方が実りがよかったらしい。
これは戦闘向きな人と、そうでない人の差を埋めるための救済措置も含んでいるのかしら。
熱戦を繰り広げた私としては多憾だけど、まぁ悪くない。
もともと料理キットの上位版といくつかのレシピが手にればよかったんだから。
そう思いながらポイントを換していく。
必要そうなものはあらかた集まったし、ポイントが足りないものもそれなりにあった。
だけどその上で一つ、どうしてもしかったものを手にれることができた。
簡易キッチンと名付けられているそれは料理キットの上位版、現狀レアアイテムだけれど制作アイテムの完度に関わってくるらしいからね。
後は余ったポイントで〇〇コスプレアイテムというのを選択。
いろんなNPCの裝備を手にれられるんだけど、コスプレと付いている通り能はないに等しい。
それでも見た目をそれっぽくできるという事でそこそこポイントが必要だったけど、選んだのは英雄さんの包帯だった。
頭部アクセサリーに悩んでいたからちょうどいいのよね。
そんなこんなで、大分バタバタしながらイベントは終了した。
私はこれからログアウトして畫編集とブログの更新だ……仕事に追われすぎね、私。
はい、聖の心臓ロストです。
聖ホムンクルスを予想されていたのでしばらく黙っておりましたが、こういう運びとなりました。
代わりに暗殺者の心臓をゲットです。
想返信と誤字修正は明日から行わせていただきます。
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8 156FANTASY WAR ONLINE
『FANTASY WAR ONLINE』通稱『FWO』主人公である龍血昴流はVR技術の先駆者である父親の友人から世界初のVRMMOを手に入れる。しかも、家族全員分。人族と魔族の陣営に分かれて戦うこのゲームで龍血家は魔族を選択し、『FWO』の世界へと足を踏み入れる。
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