《化けになろうオンライン~暴食吸姫の食レポ日記~》怒られて、怒る

スープの売れ好きは上々。

というのも以前私がイベント中にお店を開いていた時のことを拡散してくれた人がいたらしい。

おかげで數分後のこと……。

「え……?」

一人のお客さんが口元まで運んだスプーンを止めて鍋を凝視していた。

私もそちらに目を向けるとぷかりとがこそげ落ちつつある腕が浮き上がっていた。

いい合にホラーね、というかあれ食材アイテム扱いだったのね。

非食材アイテム、例えば鉱とかを料理鍋にれても変化することなくそのまま殘り続ける。

けれど食材アイテムだとその外見やフレーバーテキストが変化する……といっても、大半のフレーバーテキストはアイテムの名前と同じだけどね。

せいぜい注釈として薬になるとか書かれているくらいだけど、人間の腕はそのまま人間から切り離された腕、としか書かれていなかったからどういう扱いかわからなかったのよ。

「お、俺達が食っていたのって……」

「まさか……」

「いやいや、そんな人間やめたような非道するような奴なんて……」

お客さんたちの目が一斉に私に向けられる。

「本當に、食べてしまったのかい?」

古いゲームの言葉を引用してにっこりと微笑みかけると、みんなれなく表が曇った。

そして青い顔をしてその場でスープを落とす人も……。

「食べを無駄にするなぁ!」

鉄拳制裁、一発毆って死に戻りさせる。

レベル20超えていたのか人間の腳というアイテムが手にったのでそれも鍋にぶち込む。

「みなさん、お殘しは許しませんよ?」

笑顔で告げると絶した表で、しかしすぐに何かに気づいたのかログアウトしていく人たち……ふっ、甘いわね。

あなたたちの名前は全部メモしてあるのよ。

次見かけたら「スープの味はどうでした?」と問いかけてやる。

捨てたりしたら毆る、インベントリに殘っていたら食べるまで何度でも聞く、NPCとかにあげてたり売ってたりしたら……まぁそれは許しましょう。

ちょっと悲しい顔を見せるだけよ。

「さぁ、まだまだおかわりはありますからね!」

ニコニコと、そう伝えると殘っていたプレイヤーの皆さんが固まる。

と、同時に得も言われぬ威圧が背後から……これは!

「汝、極悪なり」

「え、英雄さっ!」

その言葉を最後まで言い終えることなく、私は英雄さんの人外じみた腕力で頭を摑まれてそのまま鍋に突っ込まれた。

人魚の特で窒息はしないものの、熱に強いわけではないので鍋でコトコト煮られながら死に戻り。

後で録畫を見返さなくてもわかる。

足をバタバタさせてトマトスープがしぶきのように舞う……端的に言っての池地獄みたいな景が広がっていただろう。

こぼしちゃったスープ、もったいないわ……今度英雄さん見かけたら一発毆らなきゃ。

そう決意してリスポン地點に降り立った瞬間だった。

『人の心を捨てたものの稱號を取得しました:あなたは心ともに人外です、おめでとう。でもたいがいにしておこうね。この稱號に意味はありません』

というメッセージが。

私、割と常識人だと思うんだけど……。

「あれ?」

メッセージに顔をしかめているとツカツカと英雄さんがこちらに歩いてきた。

飛んで火にいる夏の蟲とはこのこと!

こぼしたスープのかたきだ!

「……汝、大概にせよ」

「え?」

毆りかかろうとして、英雄さんのあきれたような聲に思わず手が止まる。

「汝、阿呆なり」

その言葉と共にぺちっと頭を叩かれて、再び死に戻り。

「汝の罪は清算された、人外とて悪の道に落ちるものではない」

「あ、はい」

なんかお説教された……。

んー確かに今回のは反省した方がいいかもしれないわね。

VRだから驚いて暴れちゃったけどおとなしくしていればスープもこぼれなかったわけだし。

うん、今回スープこぼしたのは私が悪いわ。

なのにそれを英雄さんのせいにしようとするなんてね……。

いやぁ、我ながら恥ずかしいわ。

「……汝」

「え? あれ、まだいたの?」

「頼むから大概にしてほしい、我とて忙しい。このようなことで呼び出すのは勘弁してほしい」

「おぉ! 英雄さんが長文喋ってる!」

「話を聞かぬ阿呆……汝は西へ向かうがいい」

「へ?」

「そこに汝を満足させるであろう者がいるだろう」

そう言って消えていった英雄さん。

なんかヒント貰ったみたいなんだけど……なんで?

というかこの運営そんな親切なことするかしら。

単純に英雄さんに組み込まれているAIが優しいという可能もあるけれど……。

まぁいいや、西ねぇ。

今度時間できたときにゆっくりと行ってみますか。

今はそれよりスープね!

あの場所に殘してきてしまったから心配だわ!

そう思って売り子をしていた場所に戻ると、地面にぶちまけられたスープとそれを遠巻きに見る人たち、地面に落ちていまだに脈している暗殺者の心臓とぼろぼろになった人間の手足が散らばっていた……。

そして寸鍋を足蹴にする二人組……スイッチ、オン!

次回、二人組死す。

デュエルスタンバイ!

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