僕と匠(たくみ)と茜(あかね)ちゃんは、今日も屋上で弁當を食べながらＳＲＯ(スロウ)の事を話していた。

「お～、蒐(しゅう)君、ついに『スキルコレクター』の事を話したんだ」

「うん。いつまでも隠し通せるもんじゃないって気がするしね」

「ま、知っておいてもらう方がやり易いよな」

匠(たくみ)の紹介なら大丈夫だろうって気もするしね。言わないけど。

「んで？　リアルの稱號(・・・・・・)についても話したのか？」

「……そっちはまだ……」

うん。「微(ほほ)笑(え)みの悪魔」だの「慘劇の貴公子」だのって渾(あだ)名(な)、自分から話す気になんかなれないよ……。

「ま、余計な事まで喋る必要はないけど、祖父(じい)さん仕込みの武については話しておいた方がよくないか？」

「今のところは大丈夫かな？　スキルだけで倒せてるし」

「え？　蒐(しゅう)君、あの変なスキル、使えるの？」

「茜(あかね)ちゃん……」

「いや、茜(あかね)の言うとおりだと思うぞ？　あの微妙スキルで闘えるのか？」

「……隙をつくるのには向いてるし、隙さえできれば何とかなるし」

「さすが蒐(しゅう)君だね」

「いや……でも、まぁ、解るな。確かに隙はつくれそうだわ。けど、それだと暗殺者寄りの闘い方になんのか？」

「ナントさんにクロスボウを売ってもらった」

「あ～、狙撃手か。蒐(しゅう)はそっちに行くのか」

「ん～、まだ決めてないけど、選択肢は持っておきたいし……」

「自分で長の方向を決められないってのは、結構なデメリットだよなぁ……」

匠(たくみ)の言うとおり、『スキルコレクター』の最大のデメリットは、自分で長の方向を決められない事だと思う。

ＳＲＯ(スロウ)はいわゆるスキルＬｖ制のゲームで、選んだスキルの長によってステータスが変化すると同時に、次に取れるスキルの種類がある程度決まってくる。解り易く喩(たと)えると、純粋なアタッカーとしての長を選んだ者が、一転して料理人のスキルを取ることはまずできない。その代わりに、他の職業ではそもそも選択肢に出てこないようなスキルを取ることができる。

もし幅広いスキルを取ろうと思ったら、初期設定の段階で様々なスキルを選んでおく必要があるが、そうするといわゆる用貧乏に陥りやすい。

どういうスキルを採るかによって長の方向が決まってくる訳(わけ)だけど、『スキルコレクター』である僕は、取るスキルを自分で選ぶ事ができない。つまり、どういう方向に長するのか全く予測できない。なので、裝備にしても様々なものを用意しておかないと、スキルを十全に活用できない。

「今のところ生産系のスキルはってないけど……先の事を考えると、今のアイテムバッグじゃ容量が絶対足りなくなってくるよなぁ……」

「あるよ。もっと大きなアイテムバッグ」

「どこに売ってるのさ！？　茜(あかね)ちゃん！」

「蒐(しゅう)君、近い近い、落ち著いて」

いけない、僕とした事が。これでも紳士で通ってるというのに。……おい匠(たくみ)、チビっ子紳士、って呟(つぶや)いたの、聞こえてるからな。

「では改めて、どこに売ってるの、茜(あかね)ちゃん？」

「ん～、ナンの町には売ってるよ」

そうか……ナンの町で手にるのか……

「あ、でも、凄～～～く高いよ？」

「……そうなの？」

「俺が見たのは二百五十萬Ｇだったな」

「あたしが見たのは百八十五萬だった」

「何！？　その馬鹿げた値段！」

「いや？　魔道の類(たぐい)は大抵高いぞ？　まぁ、アイテムバッグは特別高いけど」

う～ん、さすがにそこまで高いと、素材の代金を加えても手が出るかどうか……

「あ、でも、アイテムバッグが高いのは、それを作れる職人がないからだって言ってた。レアなスキルが必要って事なら、蒐(しゅう)君がそのスキルを取る可能はあるんじゃない？」

「あ～、可能は無くも無いか……」

おおっ♪　もしそのスキルが取れたら、左(ひだり)団扇(うちわ)で暮らせそうだ……ゲームでは。

「あ、でも、蒐(しゅう)君なら、誰でも取れる革細工のスキルが取れないか」

「……茜(あかね)ちゃん……持ち上げてから落とすのやめようよ……」

見えてきた希の燈火をあっさりと吹き消されて、僕は再び落ち込んだ。

「まぁまぁ、蒐(しゅう)、そう気にすんなって。そのうち何か良い事あるさ。で、ナンの町にはもう著いたのか？」

匠(たくみ)のやつ、力(ちから)業(わざ)で話題を変えたな。まぁ良いけど。

「……今はイーファンの先で野営中。今日中には著くんじゃないかな」

「旅は順調に進んでるんだ」

「うん。順調に盜賊を狩ったかな」

「……いや、ソレ、普通は順調って言わないから」

「蒐(しゅう)君的に順調な訳(わけ)かぁ」

茜(あかね)ちゃんの発言を問い詰めようとしたところで予鈴が鳴った。

「あ～……続きは放課後な」

「あ、そう言えばカナちゃん、今日は一緒に帰れるみたいだよ」

「お、要(かなめ)のやつ、久しぶりに休みが取れたのか」

「なんか、ブラックな職場のサラリーマンみたいだね……」

「全く、図書委員なんかになるからだ」

「図書館の本購に干渉できるからだって。った理由を聞いたら言ってた」

「あいつ、確か中學の時もクトゥルフ全集なんか買わせてたろ」

「『皮のヴィーナス』と『徳の不幸』じゃなかったっけ？」

「カナちゃんが買わせたのは『デカメロン』だよ？　確か……」

「『腹腹時計』は買えなかったって殘念がってたような……」

「ま、その辺は本人に聞けばいいか。帰りに幕(マク)戸(ド)にでも寄ってこうぜ」