《スキルリッチ・ワールド・オンライン~レアというよりマイナーなスキルに振り回される僕~》第八章 ナンの町 4.隠しクエスト?(その2)
呪文っぽい歌について想が多かったので驚いています。作者の頭に最初に浮かんだのはコレなんですが……。
「【デュエット】だぁ? そのまんまじゃねぇか」
「どんなスキルなの?」
「歌を歌うと二重唱になるスキルのようです」
「それでいけるんじゃないか?」
「でも……一人で【デュエット】のスキルを使って、條件に合致するんでしょうか?」
シュウイの指摘に考え込む一同。結局は……
「ペナルティは無(ね)ぇんだし、やってみりゃ判るだろ」
「……やってみます。【デュエット】」
スキルを発したシュウイが、試しに般若心経(はんにゃしんぎょう)を唱えると、キンコンカンコーンという鉦(かね)の音と共に、《合格! もう一度チャレンジしますか? Y/N》と言う文字が浮かんだ。見ればゲージは一本減っている。
「いけいけ! シュウ、もうお前しかいねぇんだ!」
「え? でも、他に呪文なんて知りませんよ?」
そう言うシュウイの脳裏に一瞬アホダラ経の文言が浮かぶが、さすがにマニアックすぎると頭を振って打ち消す。第一、経を名告(なの)っている癖に、その文言には呪文らしい所がまるで無い。條件には合わないだろう。
「何かそれっぽい歌とか知らないの?」
「外國語の歌とか」
ヨハネの臺詞(せりふ)に、とある歌の事が思い浮かぶ。聲変わりしてからは歌ってないけど……やれるだろうか。男子にしては聲は高い方だと思うけど……。
覚悟を決めたシュウイがYの部分を押すと、一同の顔が期待に輝く。
インドネシア語の二重唱が流れ始めた。
『蛾(モ○)羅哉(ラヤ)、蛾(○ス)羅(ラ)~』
(((((ピーナッツかよ!)))))
口には出さなかったが、全員の思いは一致していた。
シュウイが歌い終えると、再びキンコンカンコーンという鉦(かね)の音と共に、《合格! もう一度チャレンジしますか? Y/N》と言う文字が再度浮かんだ。ゲージは二本減って、殘っているのは三本。
「『モ○ラの歌』は呪歌の範囲なんだ……」
「まぁ……映畫でも似たような設定だったからな……」
「よしっ! シュウ! 次は『キン○コ○○対○ジ○』いけっ」
「えぇ~?」
何やら琴線にれるところがあったらしいダニエルの熱心な勧めに従って、やはり東南アジア系っぽい言語で、林に棲む黒い魔神を崇(あが)める歌が流れ始める。
「な、何か聞いた事があるような……」
「ダニエルがいつか歌ってなかった?」
「キンゴジがどうとか言ってたな……」
そして、琴線にれるところがあった者は他にもいたらしい。お馴染みの鉦(かね)の音と共にゲージが一つ消え、空中に文字が出現する。
《合格! 運営からリクエストが屆いています》
《「次は『○○ムウ帝國○國歌』でお願いします」》
《運営のリクエストをけますか? Y/N》
「おぉう……渋いとこ突いてきたな。シュウ、歌えんのか?」
「一応知ってますけど……あれってどう考えても呪歌にらないんじゃ……」
「運営のリクなんだから構わねぇだろ」
「……あっちはあっちで何か不穏な會話をしてるぞ」
「シュウイ君がダニエルの同類だなんて……」
「意外だねぇ……」
何か吹っ切れた様子のシュウイがYの文字を押すと、どこか愁(うれ)いをめたようなインストゥルメンタルの旋律が流れ出す。既にカラオケの乗りである。やがて流れてくる、海底のよどみに潛む民の祈りの歌。
「……これは知らないわね?」
「タイトルからすると、多分アレじゃないかと思えるんだが……」
「……曼(マン)荼(ダ)~」
心當たりがありそうな顔で呟いたケインの耳に、聞き覚えのある海竜の名前が屆いた。
「あぁ、やっぱりアレだったか……『海○軍艦』」
「あれ? 『海底○艦』って、押川春浪の小説じゃなかった?」
「そっちの方を知ってるのか……その小説を原案とした特撮映畫だよ」
歌聲が終わると共に鉦(かね)の音と共にゲージが更に一つ消えて、ついに一つを殘すのみとなった。そして空中に文字が出現する。
《合格! 運営からリクエストが屆いています》
《「〆(しめ)は『平和○祈り』でお願いします」》
《運営のリクエストをけますか? Y/N》
どこか據わった目付きになったシュウイは、何の躊躇(ためら)いもなくYの文字を押す。哀調を込めた鎮魂歌(レクイエム)のメロディーが流れてゆく。
「これって、確か『ゴ○ラ』の……」
「ああ、香山滋の作詞だったな」
「〆(しめ)には相応(ふさわ)しいかもだけど……何かあの卵が死んじゃったみたいな……」
「鎮魂歌(レクイエム)だからなぁ……」
微妙な表の「黙示録(アポカリプス)」メンバー――正しくはそのうち四人――を目に、歌い終わりと同時にゲージが全て消えたかと思うと、パンパカパーンとしか言いようの無いラッパの音と共に、空中に文字が浮かび上がる。
《クエスト「解放の呪歌」をクリアーしました!!》
《クエスト報酬として「幻獣の卵」が提供されます。希する幻獣のタイプを、攻守走の各特化型とバランス型から、一つだけ選んで下さい》
「『幻獣の卵』ですって!?」
「これはまた、規格外のクエスト報酬だな……」
「シュウイ君、どれを選ぶつもりだい?」
「う~んと……守り特化にしようかと思います」
「へぇ……よければ理由を聞かせてもらえるかい?」
「まず、バランス型は結局用貧乏だと思うんですよ。萬一他の幻獣とやりあう羽目になったら敵(かな)わないんじゃないかと……」
「まぁ……あるかもな」
「すると特化型になる訳(わけ)だが、他の二つを選ばなかった理由は?」
「僕自がまともな戦闘スキルも防スキルも持っていませんから、戦闘よりも撤退を優先したいんで、攻撃特化はパス。機特化を選ばなかったのは、このゲームだと中盤以降に転移魔法とか出てきそうな気がしたんで……」
「あ~……あり得るな」
「機力が死にスキル化……って事にはならんだろうが、見劣りはするかもなぁ」
「消去法の結果なのね……。解ったわ。邪魔してご免なさいね」
シュウイが「防特化」を選択すると、石の卵が割れて、と共に一頭の幻獣……のが姿を現した。
「カメ……よね?」
「カメだな……」
「カメか……」
どことなく微妙な顔つきの「黙示録(アポカリプス)」をよそに、シュウイは無邪気に弾発言をかます。
「この子って、大きくなると空を飛ぶんでしょうか?」
あぁ、言っちゃったよ、という表の「黙示録(アポカリプス)」。誰も口を利かないので、代表してケインが――咳払いをして――言葉を返す。
「いや……ガ○ラとは違うんじゃないか?」
空中に現れた文字によると、ガ○ラとは違うようであった。
《ウォーキングフォートレスの。空を飛ぶ予定は今のところありません》
「……今のところ、と念を押しているのが怪しいわね」
「名前を付けておあげよ。従魔なら名前を與える事で、使役者との繋がりができる筈だよ」
「う~んと……じゃぁ、シルにします。盾(シールド)から取ってシル」
そう宣言すると、「シル」と名付けられた子亀のがに包まれ、同時にシュウイは自分とシルが繋がったような覚を覚えた。
《ウォーキングフォートレスの「シル」がシュウイの従魔になりました》
《テイマーおよびサモナーシステムが解放されます》
《従魔についての説明はヘルプをご覧下さい》
二つめの文言に戸うシュウイであったが、ポーンと言う電子音と共に運営からのメールが屆いた。
「テイマーおよびサモナーシステムの解放について……だって?」
參考までに
・「モスラの歌」 由紀こうじ・作詞 「モスラ」(東寶映畫,1961年)
・「巨大なる魔神」 伊福部昭・原詩/太田螢一・作詞 「キングコング対ゴジラ」(東寶映畫,1962年)
・「神聖ムウ帝國亡國歌」 太田螢一・作詞 「海底軍艦」(東寶映畫,1963年)
・「平和の祈り」 香山滋・作詞 「ゴジラ」(東寶映畫,1954年)
今更ですが、著作権とか大丈夫かな……。
次話は金曜日に投稿の予定です。
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