《スキルリッチ・ワールド・オンライン~レアというよりマイナーなスキルに振り回される僕~》第九章 運営管理室

その時SRO(スロウ)運営管理室のスタッフは、皆がモニターを凝視していた。ある者は我が意を得たりとばかりに楽しげに、ある者は疲れ切ったような顔つきで、またある者はその表に諦めを浮かべつつ。

「幻獣の卵が解放されたか……」

「まだ王都どころかシアの町すら開放されていないというのに……」

「ここまで早いとは……想定外だ」

「予定していたシナリオはどうなります?」

「判らん……変更する必要が有るのか無いのかすら……」

を浮かべるスタッフを目に、管理室長の木檜(こぐれ)は上機嫌であった。

「いや~、シュウイ君は『トリックスター』として実に優秀だな。このまま頑張ってしいところだ」

じっとりとした視線を向けるスタッフたち。

「チーフ、ご機嫌なのは趣味が合ったからじゃないんですか?」

「リクエストだけならともかく稱號まで與えて……どういうつもりなんです?」

「彼が【デュエット】を持っている時點で、クリアされるのは時間の問題だった。寧(むし)ろ、リクエストという形でこちらから課題を與えた訳(わけ)だから、難度は上がっている筈だ。それを見事にクリアしたんだから、稱號の一つや二つ當然じゃないかね?」

しれっとした顔で言い抜けようとする木檜(こぐれ)だが、スタッフもそんな言葉には誤魔化されない。共犯者の徳(とく)佐(さ)などは、BGMどころか背景にレーザーのエフェクトを顕現させようとまでしていたのだ……阻止したが。

「問題は、『トリックスター』の彼が幻獣まで手にしたという事です。ただでさえ秩序の破壊者である『トリックスター』が幻獣まで手にれたとなると、どんな事態が起きるのかも、その影響がどこまで及ぶのかも、予想が付きません」

「それこそが『トリックスター』に期待される役割じゃないかね。その意味では彼は実に優秀だと言える」

「正直……自分は『トリックスター』には不同意なんですが……」

「既に上層部が決定した事なんだ。今更文句を言っても始まらんよ?」

先ほどから話題に出ている「トリックスター」とはSRO(スロウ)の上層部が実験的に導しているもので、特定のプレイヤーの行をゲーム世界のイベントやシナリオにまで影響させる事で、定型的(テンプレ)なゲーム展開を打破しようと言う試みである。そのための隠し要素として、ゲームには「トリックスター」と呼ばれる幾つかのスキルやアイテム、キャラクターが隠されており、それらをプレイヤーが手する事でプレイヤー自が「トリックスター」として行する事を期待していた。「トリックスター」については完全な隠し要素とされており、公式サイトでも言及されていない。

ゲームバランスを斜め方向に偏らせる事、それだけを期待して設定された「トリックスター」がゲームにどのような効果を及ぼすかは誰にも読めないため、直接の管理に攜(たずさ)わる運営管理室のスタッフには、面白い反面で面倒な代であると認識されていた。できればもっと後になって解放されてしかったというのが、管理スタッフ一同の偽らざる心境であった。

更に問題はそれだけでなく……

「けど、ナンの町外れ、つまり南の地で、選(よ)りにも選(よ)ってウォーキングフォートレス、すなわち亀を解放したんですよ? 四聖獣システムがき出すんじゃ?」

「そうなったらそうなった時の事だ。そもそも、それを期待して設計した我々が警戒するのは矛盾していないかね?」

「設計の連中はともかく、実際に管理作業に攜(たずさ)わる立場としては、予定外の出來事というのは面倒以外の何でもないです」

SRO(スロウ)の設計チームが仕込んだもう一つのギミックが目覚めようかとしていた。

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