放課後、今日は上手い合に休みが取れたという要(かなめ)ちゃんをえて、僕たちはいつもの「幕(マク)戸(ド)」――繰り返すが、正式名稱を「帳(とばり)と扉(とびら)」という喫茶店――でお茶會をしていた。

「あ～、糞っ！　半沢の野郎面倒な課題出しやがって！」

「そう？　読書想文なんて簡単じゃない？」

「カナちゃんだけだよ……そんな風に言えるの」

「あら？　蒐(しゅう)君も平気そうだけど？」

「うん。こないだ読んだ本の事でも書こうかな……って思ってて」

「……何読んだんだよ、蒐(しゅう)」

「プラトンの『ティマイオス』」

「……アトランティスの謎についてでも書くつもり？」

「ん～……面白そうだけど、読書想文の枠から外れるんじゃないかな。適當に解説を読みながら再構するよ」

「……簡単に言うよな、蒐(しゅう)は」

「だって、実際簡単だもん。小中學生でもできる事だよ？」

「そうそう♪　題名書いて、筋(あらすじ)書いて、解説を引用して、想書いて、でお終(しま)いよ？」

「うぅ～……あたしたちはそれ以前に本を読まなきゃなんだよ～(泣)」

あ……茜(あかね)ちゃん、もう半分涙目だ。匠(たくみ)は匠(たくみ)でテーブルに突っ伏してるし……。しょうがないな。

「以前に読んで記憶に殘っている本について書けばいいじゃん。先生も新しく読めとは言わなかったし。匠(たくみ)は『宮本武蔵』がお気にりだったろ？」

蒐(しゅう)一(いち)の提案にむくりとを起こす匠(たくみ)。

「……そんなんでいいのか？」

「いいんじゃない？　先生としては現在の文章力や読解力を見たいんだろうし。何なら、小學生の時に書いた想文を下書きにしても文句は言われないと思うし、第一バレやしないよ」

僕の提案に、匠(たくみ)は「それならいけるか」とかブツブツ呟(つぶや)いている。茜(あかね)ちゃんのケアは要(かなめ)ちゃんがするみたいだね。

「ほらほら、茜(あかね)ちゃんも元気を出して」

「うぅ～……あたしも吉川英治くらい読んどけばよかったよ～」

池波正太郎や野村胡堂、橫正史も良いと思うけどね……。

「茜(あかね)ちゃんのお気にりの話があったじゃない。『ごんぎつね』とか」

「泣いちゃうから駄目～」

「じゃあ、『ないたあかおに』とか『フランダースの犬』とかでも」

「カナちゃん、どうしてそ～ゆ～のばかり選ぶの～？」

あぁ、茜(あかね)ちゃん涙目だ。……要(かなめ)ちゃんも相変わらずだね……。

「『坊ちゃん』は？」

「憶えてない～」

「『鼻』」

「知らない～」

「『赤のアン』」

「読んでないってば～。も～、カナちゃんの意地悪～(泣)」

……いや、アレって全部教科書とかに出てきたような気がするんだけど……

「こりゃ、俺以上の強敵だな……。じゃあ、茜(あかね)、小説、話、映畫とかで記憶に殘ってるのは何だよ？」

「……『風と○の詩』？」

……手(て)強(ごわ)いなぁ……