《兄と妹とVRMMOゲームと》第ニ話 憧憬②
ダンジョンは細い通路が緩やかに延びており、両脇の燭臺が周囲を薄く照らしていた。
「ふむ。この先の隠し通路に例の素材があるのか。しかし、そこには、このダンジョンのボスがいる、と」
有はインターフェースを使い、目の前に表示されているダンジョンマップに沿って歩いていく。
周囲に視線を巡らせていた花音は、興味津々の様子でのもとを訪れると甘く涼やかな聲で訊いた。
「くん。さっきの人って、くんの知り合い?」
「いや、知らない」
「じゃあ、くんのファンだねー」
の答えに、花音はあまり冗談には思えない顔で言って控えめに笑う。
そこで、有が核心に迫る疑問を口にした。
「何だ? 、椎音(しいね)紘(ひろ)と知り合いじゃなかったのか?」
「……椎音紘? もしかしてあいつが、あの『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドマスターなのか!」
の驚愕に応えるように、有は憂げな表で腕を組んだ。
「ああ。『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドマスター、椎音紘。『創世のアクリア』のユーザー達の中でも三人しかいないと言われている特殊スキルの使い手だ」
「俺と同じ特殊スキルの使い手……」
の問いかけに真剣な口調で答えて、有はまっすぐダンジョンを見つめる。
椎音紘。
どんな狀況からも決して負けない高位ギルドのマスター。
多くのプレイヤー達が、羨の眼差しで見つめた最強不敗のプレイヤーだ。
また、『アルティメット・ハーヴェスト』は『創世のアクリア』で名を馳せる高位ギルドの一つで、マスターである紘をはじめ、メンバー達も実力者揃いだった。
「そんなじには見えなかったな」
「そうだね」
が咄嗟にそう言ってため息を吐くと、花音は元気づけるようにを見上げた。
「ーーって、わっ! お兄ちゃん、くん、モンスターが出たよ!」
達が奧に進んでいくと、三のスライムタイプのモンスターが待ち構えていた。
花音が怯えたように、有の背後に隠れる。
モンスターの頭上にはHPを示す、青のゲージが浮いている。
丸くてのある顔立ち、グミのようならかくて弾力のある質でありながら、彼らの攻撃方法である當たりは、ゲームを始めたばかりのプレイヤーには脅威だ。
だが、練のプレイヤーである達は、初心者用のダンジョンに出てくるモンスターに後れは取らない。
「お兄ちゃん、どうしよう? モンスターが襲ってきたよ!」
「初期ステータスのポイントを、素早さに全振りしているから大丈夫だ。妹よ、モンスターの背後に回るぞ!」
「うん!」
會話の容と呼応するように、前衛のをブラインドして近づいていた有と花音が、それぞれの武を構えた狀態でモンスターの死角から現れる。
有の杖と花音の鞭。
有と花音の連攜攻撃に気を逸らされたモンスター達は、急接近してきたの剣戟に切り刻まれて、あっさりと地に伏せた。
「有、隠し通路まではどのくらいだ?」
「あとしだな」
「わーい! お兄ちゃん、くん、大勝利!」
が、有と顔を見合わせてそう言い合うと、花音は嬉しそうに二人にしがみつく。
そして、一旦、離れると、両手を広げてその場をぴょんぴょんと跳ねる。
達がしばらく歩いていると、淡い青の壁のパネルの一つが不自然にっている箇所があった。
「ここが隠し通路だ」
有がパネルにれると、地響きとともに壁の一角が開いた。
中にると、周囲の景が変化する。
淡い青の壁は、周囲に眩しく照らす黃金に変わっていた。
金に輝く部屋は豪華絢爛で、まるで寶庫のようだった。
「あれ? お兄ちゃん、くん、あそこに誰か倒れているよ!」
花音が手に持った鞭で指し示す。
部屋の中央には、一人のが背中を丸めて寢ていた。
「おい、大丈夫か?」
が駆け寄っても、はぐったりとしてかない。
この部屋には、ダンジョンのボスがいるはずだ。
だが、肝心のボスの姿が見當たらない。
もしかしたら、この子が先にボスに倒してしまったかもしれないな。
「ーーっ」
そう思ってそのにれた瞬間ーーは呼吸すら忘れたようにに見ってしまった。
腰までびたき通るようなストロベリーブロンドの髪。
病的なまでに白い。
穢れなき白を基調したドレスは、らしいフリルと金糸の刺繍で上品に彩られている。
まるで語の中の眠り姫のような出で立ちに、一目で人を惹き付けるほどの貌。
彼を見ていると、まるで意識が吸い込まれそうになる。
なのに何故か、このから目を離すことができない。
は次第に、まるで自分がこのであるような錯覚に陥っていった。
「ねえ、くん。この子、大丈夫かな?」
「ーーっ!」
気づかうように顔を覗き込んできた花音を見て、はようやく現実に焦點を結ぶ。
「ーーあ、ああ、そうだな」
「の、くん、大丈夫? 顔悪いよ?」
頭を押さえるを見て、花音は不安そうに顔を青ざめる。
「、花音、目的の素材は採取できた。ボスもいないようだし、ギルドに戻るぞ」
「お兄ちゃん、くんとこの子の調、大丈夫かな?」
「とにかく、ギルドに戻るしかーー」
有が、花音の戸いに答えようとしたその時ーー。
鋭く重い音が響き、飛沫を散らしながら、有のが吹き飛んだ。
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