《兄と妹とVRMMOゲームと》第九話 始まる世界と落ちる星屑① ☆
ログアウトできるようになり、有が運営に告訴したその一ヶ月後、達はようやく病院から退院することができた。
紘達が帰還した翌日、有達は目覚めたとともに、『創世のアクリア』の世界からログアウトした。
その後、システム上の不合、サーバーの不調から、突如、運営側はサービスを休止する。
多くのプレイヤー達の帰還不能狀態からの解放をけて、世論に押された『創世のアクリア』の開発會社は、運営そのものを別の會社に委託してサービスそのものを移行した。
だが、リニューアル後の課題も多く、VRMMOゲーム『創世のアクリア』はしばらく再開の見込みはないと報じられた。
「お兄ちゃん、くん。『創世のアクリア』、しばらく出來ないみたいだよ!」
「妹よ、心配するな。當たり前のことだ」
ネット報を散見していた花音の言葉に、運営に告訴してから、ずっと憤りをじていた有はきっぱりと結論付ける。
「『アルティメット・ハーヴェスト』の奇襲との特殊スキルに関して問いただしても、運営側はプレイヤー間のトラブルには対応出來ないと一點張りだ。一ヶ月もの間、これだけ多くの帰還不能者を出して問題を起こしているというのに、この不手際さ。やはり、納得できんな」
「そうか」
一ヶ月前の忌まわしき出來事が、にはまるで昨日、起きたことのように追憶される。
『椎音梨』
が『魂分配(ソウル・シェア)のスキル』を使い、眠りに落ちたことで、それと連するかのように梨は目覚めた。
は確かに、梨として生きた記憶を持ち合わせている。
梨が嬉しかったことも、悲しかったことも、恥ずかしかった時も、彼の生前の記憶さえも、全てが自分のであり、記憶であるようにじた。
梨として生きた自分は、呆れるくらい梨としての自覚しかなくてーー。
はあの日以來、自分の想いとは別の不思議なが沸き上がるのをじた。
「ねえ、お兄ちゃん、くん。『創世のアクリア』、リニューアルされたらどうするの?」
「それはーー」
「ログインするに決まっているだろう」
そう告げる前に先んじて言葉が飛んできて、しばらくログインを躊躇っていたは口にしかけた言葉を呑み込む。
首を一度橫に振ると、代わりには不思議そうに有に訊いた。
「てっきり、有は、もうログインしないのかと思っていた」
「『アルティメット・ハーヴェスト』の奴らは、リニューアル後も続行を表明している。一向に謝罪もして來ない奴らを、このままゲームで放置するのは癪に障るからな」
「でも、それは運営側がセキュリティを強化しているからだろう。実名で登録する代わりに、ギルドのプレイヤー以外とは、現実では深く干渉させないというプライバシー制度があるからな。ただ一応、病院側には、俺の癥狀のことを説明してくれていたみたいだけどな」
憤慨に任せて言い募る有に、初めてログインした日のことを思い出しながらは言った。
実名で登録することによって発生するトラブルを想定して、運営側はプライバシー保護という制度を導していた。
警察に協力を求め、街の各所に監視アプリを設置し、『創世のアクリア』のサーバー以外のゲームに関する全ての書き込みを規制する。
規約を破って不正や事件などを起こした場合、最悪、アカウントを削除されるだけではなく、警察に起訴される。
だからこそ、『アルティメット・ハーヴェスト』はーー椎音紘はゲームでに干渉してきた。
の『魂分配(ソウル・シェア)のスキル』を、梨に使わせるために。
「でもでも、『創世のアクリア』のゲームのポイントを稼いで、生活している人達も多いみたいだから、早く復舊してもらわないと困るよ」
花音は攜帯端末を橫にかざし、視界に浮かんだゲームアプリの橫にあるポイントアプリを、指でれて表示させる。
そして、目の前に可視化した累計ポイントを確認すると、お店を選び、食べたかったアイスクリームをポイントを使って購した。
その瞬間、花音の目の前に、先程まで表示されていたアイスクリームがポンと現れる。
「『創世のアクリア』だけが、お店に行かなくてもすぐにポイントを使えるんだもの。実名登録を実施した當初はけれられなかったけれど、今ではVRMMOゲームの中でもかなり人気の部にるみたいだよ」
花音はそう告げると早速、アイスクリームを頬張った。
よほど味しかったのか、頬をふわりと上気させて嬉しそうに笑う。
『創世のアクリア』を始め、一部のVRMMOゲームでは、ゲームで稼いだポイントを現金の代わりとして使用することができた。
ポイントの會得方法は、モンスターを倒すこと、ダンジョン攻略を達することなどが上げられている。
逆に不正を行えば、アカウントは停止し、ポイントも失効するという不利な狀況に陥りかねない。
「想いを幻想へと導く世界、『創世のアクリア』か」
は目を閉じて、『創世のアクリア』の世界を想い描いた。
頭上に広がるのは、幻想的な夕闇の空。
はただ、仮想の空に向かって手をばす。
と梨。
互いに夢から醒めてしまうのなら、せめて目覚めている時だけは幸せな結末を迎えられるように、と――。
菅澤捻様に、素敵なイラストを描いて頂けました。
達のギルドがある湖畔の街、マスカットで、花音が梨とともに、ショッピングを楽しんでいるシーンになります。
左のが花音、右のが梨です。
しばらく先の話になるのですが、こんなシーンがあります。
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