がらんとして広い山道を、辻馬車がカラカラと音を立てて進んでいる。

キャリッジは上等な布張りの椅子で、車窓はガラス製だ。

NPCの者に、天蓋には房(ふさ)飾りがちりばめられている立派な威風の馬車である。

「よし、妹よ、行くぞ！　上級者クエスト！」

「うん。お兄ちゃん、先手必勝だね！」

公式リニューアルの當日、達は時間限定クエストに挑むためにカリリア跡へと向かっていた。

有と花音はクエストへの意気込みを語りながら、車窓から風景を眺めている。

「お兄ちゃんの転送アイテムがあったら、すぐに跡に著いたのに」

「レベルやスキルはそのままデータを引き継ぐことが出來たとはいえ、舊バージョンのアイテムは全て初期化してしまったからな。転送アイテムを作するための素材を集めてから、目的地に向かっては跡攻略が間に合わない可能がある」

「……上級者クエストか」

有と花音が熱い議論をわす中、は顎に手を當てて深く大きなため息をつくと、こうなってしまった原因の出來事をふと頭の片隅に思い浮かべていた。

『創世のアクリア』の公式リニューアル前に、には一つの難関が待ち構えていた。

舊バージョン時に使った自の特殊スキル、『魂分配(ソウル・シェア)のスキル』。

それを使用したことで発生したと梨のれ替わり現象。

もっとも、片方が目覚めている時は、もう片方は眠っている狀態になるため、の意識が移することで発生するれ替わり現象と言った方がいいのかもしれない。

ただでさえ、一ヶ月ものの間、帰還不能狀態に陥っていたというのに、今度は一日ごとに意識を失ってしまう現象。

『アルティメット・ハーヴェスト』の手配により、病院側から家族に説明があったとはいえ、予測不能な突拍子もない話だ。

は改めて、病院に見舞いに來た両親にゲームで起こった出來事をかいつまんで説明した。

話が進むにつれ、の両親の表が深刻さを増していく。

が全てを話し終えた後、の両親は複雑な表で互いに顔を見合わせる。

「……ここに來る前に、病院の先生から事を聞いていたが、そんなことになっていたとはな」

一瞬の靜寂の後、想をそのまま口に出したのは、の父親だった。

「本當のことなんだ」

にそう告げられても、の父親はあまりの稽無稽さに正気を疑いたくなった。

頭を悩ませ、の父親は機に置いてあるの攜帯端末を手に取る。

「それが本當だとしたら、このゲーム自、危険な代ではないのか？」

「それは……」

の父親の鋭い指摘に、は返す言葉を失い、視線を落とした。

そんなの反応に、の父親は表を緩めて軽く肩をすくめてみせる。

「まあ、もっとも、病院の先生からゲームの続行への許可は出ている。先程、西村さん達からも、をこのまま、続けさせてほしいと頼まれたからな」

「有と花音から！？」

「それに、一緒に院している西村さんのお母さんからだ。西村さんのご家族は全員、このゲームをされているからな」

の父親の言葉に、は呆気に取られたように顔を上げる。

有と花音の両親も、『創世のアクリア』をしており、達がクエストに向かう際には、ギルドの管理を任せている。

だが、達がログアウトできなくなった日、ギルドの管理をしていた有の母親も同じように帰還できなくなっていた。

二人のやり取りを見守っていたの母親は深々とため息をつき、こう告げてきた。

「本來なら、もう二度とこのゲームはしないでほしい。でも、そしたらは無理やりにでもゲームをしようとするでしょう？」

「……ああ」

「だったら、これからはこのゲームをする前に、私達にきちんと話してほしいの」

のその言葉に、の母親はに両手を當てて訴える。

「……分かった。父さん、母さん、心配かけてごめん」

のその聲は、驚いたような、でもどこか嬉しいような、複雑ながりじっていた。

そのことに気がついたの父親は、決まり悪そうに顔を俯かせる。

「これから、いろいろと対応が大変だな」

「一日置きにれ替わるっていうことは、學校にも伝えておく必要があるわね」

文字どおり一日で生活が一変したの両親は疲れたようにため息をつく。

しかし、穏やかな表でをで下ろすいつもどおりの息子の姿を見て、の両親はに滲みるように溫かな表を浮かべていたのだった。