達は追っ手を振り切って、跡の最奧部の前で降り立つ。

「もう追ってこないみたいだな」

獨りごちたは決定的な変化に安堵した。

最奧部を前に、達は裝備やアイテムの最終確認をする。

そんな中、居ても立ってもいられなくなったのか、花音がボスに攻撃する際の振り手振りを加えながら飛び跳ねた。

「お兄ちゃん、ここのボスって、どんなモンスターなのかな？　どんな相手でも、私の天賦のスキルで倒してみせるよ！」

「、花音。今回、君達の出番はない。ただひたすら、ボスを翻弄してくれ」

花音が自信満々で告げると、奏良は呆れたように有に目配りする。

有はそれに応えるように、インターフェースを作して、カリリア跡の攻略報を表示させた。

「妹よ、殘念だが、ここのボスは理攻撃が効かないようだぞ」

「……そ、そうなんだね」

自のアイデンティティーを否定されて、花音は落膽した。

「攻略報か。なら、ボスはもう討伐されてしまっているのか？」

「ああ。既に複數の高位ギルドが討伐しているようだな」

「ーーっ」

有から、暗に攻略された後のクエストだと言われて、は悔しそうに言葉を呑み込む。

「じゃあ、伝説の武は？」

「最初に攻略した高位ギルドが手にれたみたいだ」

奏良の非な通告に、は目に見えて落ち込んだ。

「みんな、ごめんな。俺の特殊スキルのせいで、出遅れたからーー」

「くんは悪くないよ！　くんは、私達の大切な仲間だもの！」

の謝罪を、花音は眥(まなじり)を吊り上げて強く強く否定する。

「ああ。は、俺達の大切な友人で仲間だ。他のギルドに渡すわけにはいかないからな」

「梨を守ることが僕の役目だ」

強い言葉で遮った花音の言葉を追隨するように、有と奏良は毅然と言い切った。

「……みんな、ありがとうな」

「くんは、これからも私達の仲間だよ！」

「ああ」

両手を握りしめて言い募る花音に熱い心意気をじて、はし照れたように頬をでてみせる。

特殊スキル。

世界を牛耳る力と謳われ、現実世界をも干渉する力と言われている力。

特殊スキルを使える者が、ギルドに所屬しているだけで上位ギルドとして認められる。

また、特殊スキルの使い手は、を含めて三人しかいない。

と紘、そしてーー。

は複雑そうな表で視線を落とすと、考するように口を閉じる。

「ここのボスは、何度でも復活する。伝説の武は手にらなくなってしまったが、素材集めに時間がかかる『転送アイテム』、そして、このクエストのみに配布される『マナー・シールド』は手にれて置かねばな。急ごしらえだが、このくらいの素材があれば、何とか人數分の回復アイテムを作れそうだ」

跡に散らばる木の枝などを集めて、有は回復アイテムを人數分、生した。

そして、に向き合うと、仕切り直して続ける。

「を狙う連中は、これからボスと戦う際にアイテムを沢山、用意するように、力はいくらあっても困らないと思っているのだろう。特に唯一無二のスキルというものは、世界そのものを書き換える力があるようだからな」

「現実世界をも干渉する力。同じ特殊スキルの使い手である椎音紘とそのギルド『アルティメット・ハーヴェスト』に守られているとはいえ、生き返った梨も狙われるんじゃないのか？」

奏良の懸念に、は瞬きを繰り返しながら、梨としての記憶を思い出してつぶやいた。

「梨は、俺と同じ特殊スキルの使い手だからな」

「ギルドメンバー以外とは、現実では深く干渉させないというプライバシー制度。そのおかげで、梨は現実世界にいる間はある程度、安全が約束されている。しかしだ。そのせいで、僕は梨を遠くから見守っていることしかできない」

が張した面持ちで告げると、奏良は持っている銃を悲しげに揺らして肩をすくめた。

、紘、梨。

特殊スキルの使い手は、三人しかいない。

そのため、必然的に特殊スキルの使い手がいるギルドは常に狙われてしまう傾向にある。

有達のギルド『キャスケット』。

紘達のギルド『アルティメット・ハーヴェスト』。

特殊スキルの存在が認知され始めてから、達は表立って行ができなくなった。

自が所屬するギルドや街中にある宿屋などは、絶対不可侵のエリアだ。

街中やフィールド上と違って、安全が保証されている。

しかし、街の外を歩いていれば、特殊スキルを狙うギルドやプレイヤー達に度々、襲われることもあった。

だが、そんな狀態になっても、をギルドの一員として認めてくれる。

有達の心意気に、は謝してもしきれなかった。

達の視線をけて、有は高らかに宣言する。

「みんな、行くぞ！」

「ああ」

「うん」

「さっさと躙してみせる」

達は周囲を警戒してから、跡の最奧部へと足を踏みれた。