《兄と妹とVRMMOゲームと》第三十一話 魔天樓を見上げて③

「ねえ、くん。明日は梨ちゃんの日だよね?」

ログアウトフェーズにったを引き止めたのは、花音の不安そうな聲だった。

飛びつくような勢いで、花音は両拳を突き上げて聞いてくる。

「ああ。もっとも、ゲーム梨とれ替わったから、明日はどうなるのか、見當もつかないけれどな」

「そうなんだね」

が苦蟲を噛み潰したような顔で渋ると、花音は寂しそうに俯いた。

梨ちゃん、ゲームから突然、現実に戻ったんだよね」

「びっくりしそうだな」

花音の気遣いに、は殊更もなく同意する。

梨としても生きているためか、目覚めた途端、怯えて隠れる梨の姿が容易に想像できた。

梨の想いも、彼の生前の記憶さえも、全てが自分のであり、記憶であるようにじている。

にとって、梨は誰よりも自分に近い存在なのだろう。

梨の側には、椎音紘達がいる。だから、大丈夫だ」

「うん。くん、ありがとう」

の勵ましの言葉に、花音は嬉しそうな顔で勢いよく抱きついてきた。

的に抱きとめたは、思わず目を白黒させる。

「花音?」

いつもどおりの花咲くようなーーだけど、し泣き出してしまいそうな笑みを浮かべる花音に戸いとほんのしの安堵じながら、は訊いた。

いろんな意味で混するの耳元で、花音は躊躇うようにそっとささやいた。

くん、無理はしないで。私達、くんを支えられるように頑張るから。すごーく頑張るからね」

花音の包み込むような溫かい言葉が、の心に積もっていた不安を散らしていった。

「花音、ありがとうな」

「うん」

花咲くように笑う花音の姿を、はどこか眩しそうに見つめた。

「……っ」

一夜明けたことで、梨は自分の部屋のベッドで目覚めた。

先程まで、ゲームの中にいたはずなのに、いつの間にか、自分の部屋のベッドで眠っている。

「私の、部屋?」

梨のその聲音は弱々しく、あまりにも脆い。

まるで、ここに存在していること自に恐怖しているようだ。

まるで瞬間移してしまったような狀況に、梨は記憶が混雑したように頭を抱えたーーその時だった。

梨、目を覚ましたのか?」

「ーーーーーーっ!」

唐突に響いた年の聲とドアが開く音に、梨は聲にならない悲鳴を上げる。

「よお、梨、おはよう!」

「…………っ」

徹の気楽な振る舞いに、寢間著姿の梨は怯えたように部屋の隅に隠れた。

「そうやってすぐ隠れるところは、いつまでも変わらないな」

「徹。梨を驚かせるな」

徹が気な聲で言うと、後から部屋にってきた紘は不服そうに眉をひそめる。

紘の姿を見て、梨はゆっくりと歩み寄ると躊躇うように口を開いた。

「……お兄ちゃん、話してごめんなさい」

「問題ない。達には、いずれ話さなくてはならないことだったからな」

を曇らせる妹の頭を、紘は全てを察しているように穏やかな表で優しくでる。

紘の優しい眼差しに、梨は蕾が綻ぶようにらかく微笑んだ。

「俺もそう思うぞ!」

「……う、うん」

徹がここぞとばかりに口を挾むと、梨は掠れた聲でつぶやいた。

梨、今日から學校だけど、大丈夫か?」

「……張する」

梨は徹から顔を背け、恥じらうようにに手を當てる。

梨のことは、先生やクラスメイト達に『守ってくれるように頼んでいる』。もう怯える必要はない」

「……うん」

紘の意味深な言葉に、梨は噛みしめるようにそう答えた。

守ってくれるように頼んでいるーー。

それは、どういう意味なのか。

しかし、そのことを指摘する人は、この場にはいなかった。

    人が読んでいる<兄と妹とVRMMOゲームと>
      クローズメッセージ
      あなたも好きかも
      以下のインストール済みアプリから「楽しむ小説」にアクセスできます
      サインアップのための5800コイン、毎日580コイン。
      最もホットな小説を時間内に更新してください! プッシュして読むために購読してください! 大規模な図書館からの正確な推薦!
      2 次にタップします【ホーム画面に追加】
      1クリックしてください