梨からにれ替わった翌日、一介のギルドホームが慌ただしい騒に包まれていた。

「カリリア跡でのデータのサンプリングを注しました」

モニターのついた機材を作して告げるのは、『レギオン』のギルドメンバーの一人だった。

カリリア跡から離れた場所にある機械都市、『グランティア』の一角。

そこに高位ギルドの一つ、『レギオン』のギルドホームがあった。

「ですが、羅様の覚醒には至りません」

「やはり、データではなく、特殊スキルの使い手の存在が必要不可欠か」

ギルドメンバーからの報告に、賢は苦々しい表で眉をひそめる。

々しい機材やモニターに繋がれている玉座。

そこで今も眠った表のまま、羅は座っている。

彼のもとまで歩み寄ると、賢は悩みを振り払うように首を橫に振った。

「羅様、どうかお目覚め下さい」

言わぬ羅の前で片膝をつくと、賢は丁重に一禮する。

それでも変わらぬ羅の表を目の當たりにした瞬間、賢のまとう空気が一変した。

「椎音梨は今現在、ゲームへのアクセスをしていない。狙うべきは風か」

立ち上がった賢は一呼吸おいて、異様に強い眼を羅に向ける。

「風がログインをした瞬間を狙って、羅様とシンクロさせろ」

「はっ」

賢の命令に、ギルドメンバー達は速やかに従った。

羅を、特殊スキルの使い手であるとシンクロさせる。

その絶対目的のために、『レギオン』は行を開始した。

プレイヤーは、現実では『プライバシー保護』という制度で守られている。

実名で登録することによって発生するトラブルを想定して、運営側はプライバシー保護という制度を導していた。

警察に協力を求め、街の各所に監視アプリを設置し、『創世のアクリア』のサーバー以外のゲームに関する全ての書き込みを規制する。

規約を破って不正や事件などを起こした場合、最悪、アカウントを削除されるだけではなく、警察に起訴される。

ゲームから、現実世界への不正アクセスも同様だ。

だからこそ、『レギオン』はーー賢達はゲームでと梨に干渉しようと目論む。

達と接することで、梨のデータの集合である羅の覚醒を促すためにーー。

それはいずれ、神にも等しい叡知を宿した存在を産み出す土俵になる。

やがて、それは実を結び、賢の目の前で羅の表がわずかにいた。

「特殊スキルの使い手を手中に収めれば、全ては羅様のおみのままになります。それまでご辛抱を」

羅の反応に応えるように、賢は再び、片膝をつくと嗜的に笑みを浮かべたのだった。