《兄と妹とVRMMOゲームと》第四十四話 雨がしくて①

「ペンギン男爵よ。何か変わったことはあったか?」

「高位ギルド『アルティメット・ハーヴェスト』から、椎音梨様のギルド兼任に関する承諾のメッセージが屆いています。それ以外は、ご報告する事柄はありません」

有の疑問に、ペンギン男爵は訥々と説明した。

ペンギン男爵の報告を聞いて、有は早速、メッセージを確認する。

そこには、梨に関する當たり障りのない報が記載されていた。

だが、メッセージの最後に記されていた容を見て、有は顔を強張らせる。

達が知り得ている報ともに、梨の監視に纏わる強制的な申請。

『アルティメット・ハーヴェスト』から屆いたメッセージには、そう記載されていた。

有は前に進み出ると、不穏な空気を吹き飛ばすように口火を切った。

「ペンギン男爵よ。戻る前に、新しいクエストの報を教えてほしい」

「かしこまりました」

有の鋭い問いに、ペンギン男爵は丁重に答える。

ペンギン男爵は軽い調子で指を橫に振り、達の目の前に幾つかのクエスト名を可視化させた。

その中で、は不可思議なクエストに気づき、目を瞬かせる。

・『メルサの森にあるネモフィラの花畑に、雨を降らせて』

「雨を降らせる?」

「メルサの森に、雨雲を吸い込んでいるモンスターが潛んでいます。そのモンスターを倒す、もしくは花畑に雨を降らせてほしいそうです」

の質問に、ペンギン男爵は律儀に答えた。

「雨を降らせるか。僕達のスキルでは、それは不可能だな」

「そうだな」

奏良の懸念に、張した面持ちで告げる。

奏良のスキルは、風の魔

有の母親のスキルは、火の魔

どちらも雨を降らせることができないスキルだ。

たとえ出來たとしても、一から生み出すのは至難の技だろう。

「ペンギン男爵よ。このクエストの詳しい報を知りたい」

「かしこまりました」

有の要に、ペンギン男爵はそっと、手の先端をそのクエストにれる。

その瞬間、達の目の前には、目的のクエストの詳細が明示された。

『メルサの森にあるネモフィラの花畑に、雨を降らせて』

功條件

雨雲を吸い込んでいるボスの討伐

もしくは、水の魔などで長時間、雨を降らせる

・目的地

メルサの森

注條件

特になし

・報酬

ネモフィラの花束

「報酬は、花束だけなのか」

「初心者クエストなのかも」

意外な報酬を見て、と花音は呆気に取られる。

「水の魔を使えるプレイヤーなら、容易に達できるからな。このくらいの報酬が順當だろう」

、奏良、妹よ。そうとも限らないぞ」

奏良が冷靜に狀況を分析していると、有は即座にインターフェースを作して、『創世のアクリア』におけるネモフィラの花の素材価値を調べる。

「ネモフィラの花は、希な素材だ。街の取引で得るには、相応のポイントがかかる」

「その通りです」

有の指摘に、ペンギン男爵は恭しく禮をする。

ペンギン男爵は真偽を実証するために、達の目の前に一つの武名を可視化させた。

・ボスモンスターのドロップアイテムの一つ

『蒼の剣』

「『蒼の剣』か」

「やっぱり、くんの武だよね。お店で見たことない武だよ」

聞いたこともない武名を前にして、と花音は目を見張る。

「皆様、今回のクエストで出現する『雨雲を吸い込んでいるモンスター』は、まれに希な武などをドロップすることがあります。ボスモンスターは何度も復活しますので、挑戦してみてはどうでしょうか?」

「希な武か」

「伝説の武は手にらなかったけれど、レア裝備は手にるかもしれないね」

ペンギン男爵の説明を聞いて、と花音はドロップされる武に想いを馳せた。

「『希な武など』ということは、僕の武もドロップされる可能があるのか?」

「マスターの武、是非、手にれたいです」

「いいんじゃないのか」

「そうだね」

奏良、プラネット、そして有の両親も賛同する。

「よし、、奏良、父さん、母さん、プラネット、そして妹よ、このクエストをけるぞ!」

有の決意宣言とともに、有達のギルド『キャスケット』の新たなクエスト注が決まった瞬間だった。

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