《ネメシス戦域の強襲巨兵【書籍六巻本日発売!】》閑話 遙か未來
2021年1月2日 地球転移時期修正。
五番機に乗り込んだコウと師匠は、食料を積み込みつつ最終チェックを重ねていた。
「さて、何から話そうか?」
「この世界を教えてしい。異世界? 未來?」
「未來だな。君たちはブラックホール弾で行方不明になった日本人だ。それが遠い未來のこの星にきた」
「いきなり意味不明な単語がきたな。行方不明になっているのか」
「死亡確認されていたら、転移ができないんだ。ざっと説明すると、そこから第三次世界大戦が始まって、二十六世紀には巨大天が地球に衝突し地球の人類は滅亡する」
「滅亡!」
人類が未來の地球で滅亡すると言われては驚きをじ得ない。
「俺は地球に戻れないのか」
「元いた場所、時間に戻ることはできるが、死ぬと思う。死が観測されたら、君はこの場所にも戻ることはできない」
「理屈はわからないが…… 戻ったらアウトか」
「戻った人はいるよ。なくない數だね。ただ…… 結果はあまり良いことにならないとは思ってる」
ブラックホール弾の心地に戻るのだ。即死だろう。
「滅亡を察知した人類は生存の可能を探るべく、七臺のスーパーコンピューター【ソピアー】を創り出し、仮想シミュレートさせた」
「そのコンピューターがこの星を作った?」
「そう言ってもいいかもね。【ソピアー】たちは限界にまで自己進化を繰り返し、三十五世紀の技まで進んだとされる。まあそこに意味はない。もう人間が知覚できない科學を持つ存在になってしまった、技的特異點の時代が到來した」
技特異點はコウの時代でも提唱されている概念だ。
コンピューターが自を改良し続けて人知を超えたコンピューターを造り、人間社會を発展させていく未來學の理想を達したということだ。
「神様みたいな?」
「彼らは自分たちを神と定義するのは斷固拒否する。そこは後日話すとして。【ソピアー】たちは量子を駆使し、それぞれ人間が移住する可能を持つ未來を求めた。そして獨自にそれぞれの星系や星を見つけて改良し、未來を分岐させ、人間の移住可能な星にしたのだよ」
「時間がかかりそうな話だ」
「そこにある、という仮定で創造したんだな。もうすでにある時間の流れとその先の改変は難しい。人類を守るためには滅びかけた地球を放棄させる必要があった」
「萬能な能力があるようで、地球は救えない、か」
「起こった結果は変えられないってことだね。そして【ソピアー】たちは人間を救済するべく、協議した。自分たちが選択した人間を未來に移住させたんだよ。人間及び地球上の生の量子データ化、及びコピーを行ったんだ。宇宙船を作って星間飛行なんて時間は人類になかったからな。そして、遙か未來に人類を送り込んだ。未來は君がいった通り、星を改良するのに時間がかかるからだ」
「地球環境に適した星に移し替えたと。人類の選択基準は?」
「思想、宗教、価値観の共通、共存を基準に選択した。この星系は、主に北米、歐州全域、日本及び環太平洋の島國、香港島付近を中心としていた人間が中心だと言われている」
コウは日本から出たことがないのでいまいちピンとこない。
「未來を分岐とは?」
「観測効果と人間原理の理論の延長上で、【ソピアー】が定義した未來だな。人類は別たれた。バベルの逸話のように、七つの次元にね。もう集まることはないだろう」
「ここは未來、でも地球ではないと」
「そうだね。地球を滅亡させた要因となった太系外縁の赤矮星を中心にした星系だ。二十一世紀では存在していなかった星や見つかっていなかった星になる。その星系を改良し移住した。ハビタブルゾーンになるようにね」
「星系を改良? 詳しく」
「君たちの時代でいえばオールトの雲、と呼ばれている領域に存在していた星だね」
「わ、わからない…… 宇宙のことはさっぱりだ」
「太の伴星である赤矮星【ネメシス】を中心にした、疑似地球型星群だ。人類はそこに転移し、移住した」
コウはいったん尋ねるのをやめ、自分のなかで整理した。
ここは作られた地球的な星。なくともルーツはコウのいた時代につながるということだ。
「じゃあ移住した人類の歴史からどれぐらい経過しているのかな」
「滅亡寸前の地球から約二萬年後に移住転移したと言われている。そしてオールトの雲と呼ばれていた領域は、現在はネメシスを中心にしたネメシス星系と呼ばれていてね。太ではなく赤矮星ネメシスを中心に、スーパーアース――人間が居住可能な巨大星が三つあったんだ。もしくはあると仮定し、確定させた」
「そんな都合の良い星系、無理筋すぎないか」
「地球もかなり無理筋だよ。強い人間原理としか思えないぐらいにね。グッドジュピターと呼ばれる木星型星も必要なのだが、これも木星型星のいくつかに代用させた。ネメシス星系は太系に近しい領域に作り替えられたのだ」
「凄いなソピアーは。でも神話の引用が多い気がする」
「そうだね。この星系は歐州の古代史文化の影響が強いね。三つある地球移住型星はエウロパ。リュビア。アシアと名付けられた星だ。ここは星アシアだ」
「夢のの子ということか」
「夢じゃないと思うけどね。さて、この世界もまた滅んだ。ディストピアの説明をするとしようか」
「滅んだ?」
師匠は大きな瞳でモニタを見詰めていた。
「最初に人類が転移移住したのは二萬年前。そして數千年で量子データ化で再停止。停止した理由は不明。これが星開拓時代と言われている」
「開拓、か。この星の基礎を作ったのかな」
「そう言われているね。次に再始した人類は二千年前。超技を活用し人類は発展、そして戦となった。貧困も飢えも絶滅したがよりかさを求めて。そこで愚かなが生まれてしまった。わずか數年先の地球に帰還し、取り戻そうとする勢力が生まれたんだ」
「戻っても滅んでるんだろ」
「この星系を人間に移住させることができたんだから、地球復元ぐらいわけがないと思ったんだね。無理なのに」
「愚かだな……」
「でも一定數、んだ人間がいたのがいけなかった。三星を巻き込んだ戦爭は星環境を破壊。人類を再び滅ぼす寸前までいって、【ソピアー】が再び人間を量子データ化して封印した。再始から量子データ化、主に戦の歴史を星間戦爭時代と言う」
「ソピアー大変だな」
「ああ。科學技を與えすぎたことを恥じた【ソピアー】は自した」
「人類終わるじゃないか」
「人類のデータが圧保存され、解凍されたといえばいいのか。二百年前だ。科學技でも戦爭技は著しく封印され、人類は制限された技のなかで、新たに暮らし始めた」
「時間をかけても星環境は回復できなかったのか。だから荒廃しているんだな」
「違う。人類が無防備なとき、人類の悪意が目を覚ましてしまった。かつて地球に帰還を目論んだ人間が、自分たちの意識をコピーしデータ化していたんだ。その意識が、かつての技の一部を持って、それぞれの星に攻め込んだ」
「それは人間なのか?」
意識をコピーし、を持たない存在。機械もヒトとして認識できるコウだが、意識だけの存在をヒトとして認識するのは難しかった。
話せばまた違うのだろう、とは思っている。
「思考データだ。本人らは生きていると思っているがね。ストーンズと呼んでいる。彼らはまずリュビアを支配下に置き、アシアとエウロパに侵攻を開始した。荒廃したのはそのせいだな」
「もう【ソピアー】はないんだろ? 侵攻する意味がわからない」
「資源、喪われた技。侵攻する理由はいくつかある。【ソピアー】はすでにないが、その子端末が殘っていてね。ギリシャ神話の神々にちなんだ星維持コンピューターを統合するオケアノスと、それぞれの星の名を冠せられたもの。この四つが殘された。彼らはそれを自分のものにしたい」
そこで師匠は黙った。
コウに考えろということだ。
コウはしばらく考え、師匠に聞いた。
「もしかしなくても、俺があったアシアって」
「そう。この星を管理していた、超AIだ」
師匠が肯定する。
「統括するオケアノスは著しく衰退したこの世界に恐怖した。技の継承がなく、殘ったのは作業用シルエットの工場ぐらいだからね。ストーンズたちの襲撃の対応はできなかった。連中は二千年前の、人間が開発した星間戦爭時代の無人兵を使える。マーダーも含め、ね」
「オケアノスの知識を人間が活用できないぐらい衰退していた、ということか」
「そう。そこで対抗するため、失われた技を補うべく、存在が曖昧な二十一世紀前後の行方不明者を量子理論を駆使し未來まで転移させるという方法をアシアは取った」
「俺たちの話につながるのか」
「そうだ。君たちの転移は時間のずれも激しい。最初に転移されたグループから三十年の差があるんだよ。その間にこの施設は攻め落とされた。君たちが転移される日は直前に通知され、ピンポイントに救出にきていた」
「だからあれほど手際が良かったのか」
言語が違うのに日本語のアナウンス。
すぐに救出して出する手際の良さ。
撃墜される可能もあっただろう。
「待てば救助がまた來るかもだけどね。一年後……三百七十二日後だが」
「一年の日數も違うのか。當然か。疑問だが二十一世紀の人間なんか連れてきて、役に立つのか?」
これほど発達した未來なら、自分たち、しかも一般市民など原始人だろう。
「高度な文明になりすぎたのだよ。工業を再構築するにしても、何が理解出來ないか、理解できない。何かを製造しようとし、ロボットに指示を出すのも、何を作らせばいいかわからないんだ。二十世紀後半から二十二世紀前半まで、様々な人間が転移されているはずだ」
「優れた教育機関とかありそうだけどな」
「基礎がないので応用できないといったほうがいいかね? 君のいた時代に例えるならスマホは支給されて、學校がなく勉強する義務がない子供はどうなると思う? そんな世界になっていたんだよ」
「それはやばい」
「文明の後退はしばしば人類史では起きる。発達したギリシャやローマの技が中世の暗黒時代で失われ退化したようにね。日本だって古刀の技は失われて再現できないだろう? 必要があるかどうかは別にしてね」
歴史に詳しくない。衰退といわれてもピンとこなかった。
「機関砲やレールガンも二十數年前に人類側も再手できたところだ。二十二世紀前後の水準までに回復できただけでも凄いことだよ」
「敵も機関砲使ってたな」
「無人兵も工場で生まれ、人間が整備している。洗脳された人間がね」
「洗脳?」
「しばしば人間狩りが行われる。襲撃が起きるのもそのためだ。狩られた人間は管理され、彼らの機械社會を支えるために利用される。なかなかのディストピアだろ?」
師匠は意地の悪い笑みを浮かべていた。貓だからとてもがあるのだけれど。
「現在三星を含んだ戦場の総稱として、ネメシス戦域と呼ばれている。広範囲の戦爭だ」
「敵はあの殺人機械たち、か」
「皮なことにストーンズの無人兵群は超AIが生み出したもの。つまり、人間社會を運行している存在が生み出したものに攻撃されている狀態だ」
「縋っていたものに裏切られ、か」
「そういうな。対抗するためにシルエットや我々がいる。それらはソピアーが生み出した存在だ」
超AIによって生み出されたものが人間を襲い、人間を守るための機械が人間を活かす構図になっているのだ。
「我々?」
「私は第一世代のペットロボット群ファミリア。<テレマAI>と呼ばれている。貓犬鳥、熊や猿もいるな。様々な形態がいる。話せる者もいれば會話能力がないものもね。人間の友人や教師として寄り添うことを目的とする」
「師匠のことだな」
師匠にはずいぶんと助けられたことを実する。
「第二世代はセリアンスロープといって型亜人。一種の生アンドロイド。犬耳や貓耳ついた人間と思えば良い。彼らは労働者や人間の伴も兼ねていた」
「耳つける必要があったのか?」
「私に聞かれても困る。人間の耳もあるよ。に変できるから、ファミリアの進化形で開発されたのだろう。人間社會に溶け込んだからもう製造はされていない。一種族として定著している」
「種族として定著? アンドロイドなのに子供産めるのか?」
「もちろん。君たちがいた時代でも細胞が培養できるんだ。彼らはロボットではなく、亜人のくくりだ」
コウは報の整理が追いつかない。
「最後にネレイス。人間の進化の過程を再シミュレートされたホムンクルス、ほぼ人類だね。オケアノスやアシアなどの意思を人間に伝え、機械と人間の調停者として人間社會に寄り添っている。減りすぎた人類補充の意味もあるが……」
「セリアンスロープもいるのに? そんなに減ったのか」
「現在は十五億程度だね。転移してから三十億人ぐらい減った。ネレイスはその補完のためのものだ。機械への親和と長壽、形が多いのが特徴だな。人類と違う外観があり、耳がし尖っている。転移された日本人がエルフと言い出して、定著しつつあるのが現狀だ」
「何してんだ日本人」
「シルエットにいち早く馴染んだのは日本人だよ」
それはなんとなくわかる気がする。
子供の頃から二足歩行の機械が活躍するアニメやゲームは近だったからだ。
「我々の幹は同じ。『人間と寄り添うこと』が基本概念だ。だが、個としての自由と権利も與えられている。アサーション権に近いといえばわかるかな」
「個の自由? その言葉も聞いたことない」
「必ずしも隷屬しなくてよいということだよ。例えば、毎日整備してくれる人と、憂さ晴らしに蹴ってくる人をどちらか選べといわれたとき、整備の人間を優先する。人間もそうだろ。主観や経験で対象の価値が変する。そして不満を持つ自由、言わない自由を含めて與えられている」
「そういうことか。わかるよ」
「人間第一なら、シルエットなど人間同士の戦闘はけなくなるからね。シルエットは超級な拡張知能を搭載しているが、乗りであることを選択している。乗り手の意思が優先されるんだ」
「乗りである、か」
五番機を作していて実する。確かに乗りだ。カーナビのほうが喋るのではないかと思うぐらいだ。
「そしてマーダーは我々テレマAIやセリアンスロープを敵視、積極的に排除しようとしている。憎悪に似た行原理を持っているようだ」
「許せないな」
「無人のシルエットにあまり反応しないところを見ると、やはり思考がキーなのだろう」
「シルエットはなんでもできるのにな」
作業機械として、救助カプセルとして、乗りとして。多機能すぎる、過剰な能力を持つ人型搭乗機械だと実できた。
「シルエットの本質は人間の機能拡張だからね。早く走りたい、重いものを持ちたい、空を飛びたい、とね」
「シルエットって空飛べるのか?」
「飛べる機もあるよ。現存している機で飛翔能力がある機はないけどね。転移者が作った企業で再研究しているはずだよ。今は多飛べるぐらい」
「そのうち再現可能ってことか」
「君が再現するかもね」
「無理無理!」
「はは。焦っても仕方ない。まずはこの五番機を強くしていくことから始めよう」
「賛だ」
五番機を強くする。
それはきっと、とても楽しいことだと思うのだ。
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