《ネメシス戦域の強襲巨兵【書籍六巻本日発売!】》アンダーグラウンドフォース
両斷されたベアのハッチが開き、大柄な黒人の男が降りてきた。
無事らしい。コウに手を振り、近くの車両に乗り込んでいく。
「君は個人の傭兵か? それともアンダーグラウンドフォースに所屬しているのか?」
「つい先日転移したばかりでね。この世界のことはまだ何もわからないんだ」
コウは正直に告げた。
「々助けがあって、ジャンクヤードでこいつをみつけてね。無人兵を倒しながらここまできた」
無線の向こうで息を飲む音が聞こえる。かなり希有な例なのだろう。
「話せるということは言語カプセルは飲んでいるな? よし。良かったら防衛ドームまで一緒に行かないか? 補給や修理もできるぞ」
「ありがたい申し出だ。防衛ドームってのが何か、ということさえ知らないんだけど、いいか?」
「人類の共同生活施設、コロニーだよ。小規模コロニーが防衛(プロテクシヨン)ドーム、大規模コロニーが要塞(フォートレス)エリアというんだ。本當に転移してきたばかりなんだな」
「救出シャトルに乗り遅れてしまって」
「我々はすぐに移する。君のおかげで助かった。そちらの機に我々のゲスト用識別コードを送っておく。登録しておくといい。我々はアンダーグラウンドフォース『メタルアイリス』だ」
「いいのか? 俺があんたたちの部隊員か何かってことだろ?」
「いいさ。隊長には私から説明しておく」
「助かるよ。甘えさせてもらう」
「では我々と一緒に移してくれ。また現地についたら話をしよう」
「了解」
コウは五番機を再び巡航モードに切り替える。
先行する『メタルアイリス』の部隊を追尾し移を開始する。
「機損傷は……ないな。補給といっても金がない。どうすればいいか」
「ああ。分証明書(ID)カードを登録しないとな」
「だろうな。食料だけわけてもらって向かうか」
コウにも防衛ドームに長居するつもりはなかった。
「アンダーグラウンドフォースってのはなんだろう」
「オケアノス直轄の傭兵管理機構《マーセナリーズアソシエーシヨン》に屬する傭兵。非公式の軍隊《アンダーグラウンドフォース》というのは、そのなかでも大規模な戦闘集団兼會社だ。君たちの時代でいえば民間軍事會社みたいなものだね」
「個人が軍事力を持っていていいのか」
「違う。再興された三星は軍事力を放棄している、國家保有の軍隊がない世界だったのだよ。要塞エリアや防衛ドームが一つの國、ないしは行政権を持つ街といったところか」
「いいのか、それで」
軍隊がない世界という事実が一番驚きだった。誰が守るのか。そして守ってくれるというのだろう。
テレマAIたちが人間の面倒を見すぎたせいもあるのか、とコウは人類に対して疑問を抱いた。
「オケアノス管理のもと、三星とも言語カプセルのおかげもあり言語、通貨は共通で人類の生存域は広大なシェルターで守られている。國の概念が希薄な世界だったんだよ。機械化のおかげで貧困も絶狀態だった。もちろん、各自治も防衛力はある程度あったし、傭兵を雇っていたがね」
「道理でストーンズに為すもないはずだ」
「ストーンズの侵攻により狀況は一変した。軍事力が再定義されてね。現在は各要塞エリアが自治を行い、傭兵を武力として雇用という形になった。當初軍隊を否定していた人類だからこそ、【非公式軍】ってわけだ」
「傭兵なんかなる奴いるんだな」
全自機械化されたこの時代は、格差こそ発生するが最低限の生存環境は保証されているはずだった。
傭兵になるということは、わざわざ命を対価に、危険な職業につくということだ。どれほどなら割りが合うことになるのか、想像がつかない。
「市民では飢え死にはしないが贅沢もできない。裕福になる數ない手段だからね。初期シルエットは作業機械転用だったからそのまま武裝したのが始まりだな」
「シルエットそのものは安いっけ」
「そういうこと。アンダーグラウンドフォースを設立する條件は大型の移施設を持っているかどうかかな」
「移施設?」
「主なのはハンガーキャリアーと呼ばれるシルエット用の移型格納施設。規模の大きいアンダーグラウンドフォースだと、星間戦爭時代の、星間移可能な宇宙空母機能を持つ艦艇を持っているぞ」
「空母が宇宙を飛ぶのか……」
「大手は傭兵として人気だ。どこも取り合いになっているね。要塞エリアなどの行政権利を個人が奪うメリットもないから政権奪取のきもない。戦爭のおかげで資本主義が再導された形だな」
「そこらへんはパス。よくわからない。ん? 待て。ストーンズなんて共通の敵がいるはずなのに、何故手を組まないんだ」
コウが當然の疑問を思いつく。
「それこそ政治的な問題だね。各地の要塞エリアや大手のアンダーグラウンドフォースと調整が取れていないんだ」
「何故?」
「大規模な國家の樹立を恐れている。誰かが手を挙げるとしたら、手を挙げた自治が主となり、そのまま盟主になるだろうからね」
「そんなことをいっている場合なのか?」
「協力はするが金とメリット次第、ってところか。ストーンズ側に寢返った要塞エリアもある。投降した自治には生命と多の自治権の保証はしているからね」
「自由より生存か……」
施政者としては慎重な判斷が求められるのだろう。
「価値観の相違や自由、格差、これらは生である限り克服できないよ。だからストーンズたちは生を辭めた」
「というと?」
「を捨ててモノリス狀の質に自分の意思を転寫させたのさ。差も個差もなく、完全な平等を求め無機質の存在に。そのおかげで二回目の量子データ化をかいくぐれたといえるけど」
「本末転倒だと思うんだが」
「そこは信條や哲學の問題だね。彼らはそういう選択をした、それだけだ」
師匠と話していると、五番機が警戒態勢にり、コウは慌てて戦闘モードに切り替える。
遠くで発がした。
「何?」
五番機の映像が拡大される。大きな炎が上がった。
「なんだありゃ」
五番機のモニターに映し出される影。それはつい先ほど戦ったアント型のケーレスと似ている。
だが、大きさが桁違いだ。なにせ遠く離れているはずの現時點でモニタに映るほどの大きさなのだ。
「超大型クイーンアント型のケーレスだ。都市の破壊者という異名を持つ、恐怖の神から名を取ってエニュオと呼ばれている。一種の攻城兵。住居コロニーは隕石雨対策で高次元投処理を施したメタマテリアルによるシェルターで守られている。それをあの巨で破壊するんだよ」
「恐怖の神とはまた騒だ。中ボスの次はラスボスときた。ひでえ世界だ」
思わず毒づきたくなる。
「コウ。向かう予定の防衛ドームが襲撃されている! このまま向かうが來てくれるか?」
バリーからも通信がる。
「ああ」
ベアに合わせた全速行に移行する。
このような急展開の場合、シルエットは機力に欠けるのだ。
二機のベアはそれぞれ裝甲車にワイヤーをばし、牽引狀態になる。シルエットにはローラーがついているとはいえ、車両ほど速くは移できない。しでも足りない速度を補うためだ。車両側も牽引可能な余力を有し、設計されている。
「こちらは大丈夫だ。追尾できる」
コウはそのまま追尾できた。
「レーダーはほぼ使えない。目視が頼りだ」
「何が起きた?」
「EMP――電磁パルス攻撃による電子機の無効化だ。人にも影響するレベルだ」
「人に影響ってまさか……」
「電子レンジにれられて側の水分が沸騰して死ぬようなものか。1キロも離れたら無害なのだが、それだけ強力な電磁パルスを発しているということだ」
「おっかない世界だ」
1キロ離れたら無害とは信じることはできなかった。
メタルアイリスのメンバーをみても生で野外にいることを避けているように見える。
この星の野外はやはり危険なのだと実できた。
「君たちの時代では非殺傷兵ではあるんだけどね。今の時代は電磁波の出力が桁違いだ。人への影響も比ではない。歩兵が消えた理由の一つでもある」
「外にいたら普通に死ぬってことだな」
「シルエットは隕石雨と磁気嵐に対抗するために生まれた作業機械だ。この中にいたら大丈夫。頑張って目視で戦え」
「戦場が原始的になるはずだよな」
「敵も同じ條件だ。向こうも見つけ次第殺しにくる」
「五番機の運能と機に謝だ」
コウはしらないが五番機はセンサー能にも優れている。
「その分、裝備がトレードオフだがね」
「剣一本あれば十分さ」
コウは気楽に答えた。
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