《ネメシス戦域の強襲巨兵【書籍六巻本日発売!】》防衛完了
『マーダー勢力全滅を確認。掃討戦を終了する。防衛完了! みんなお疲れ様』
ジェニーの聲が響く。
歓聲の通信がりれる。
今回のような無人兵群大型侵攻で撃退が功する例は極めてない。
これでメタルアイリスの名聲もさらに上がることだろう。
「この町はどうなるのかな?」
後部座席でちんまり座っている師匠にコウは聞いた。
「撃退に功したところで、追撃がくるかもしれない。しばらく様子見になるね。最悪タワーのAカーバンクルだけ引っこ抜いて放棄もありうる」
「防衛に功したのに放棄か」
「再建は難しいよ。マーダーたちには生きている人間の駆け引きが通じないからねえ」
「そうだよな……」
相手が殺人、破壊目的のみの無人機械だからこそ、戦えた。
ファミリアみたいに意思疎通が可能な相手なら躊躇があったかもしれない。
「俺たちはそろそろ行くか」
「祝勝會はいいのかい?」
「そういうの苦手」
仕事先でも飲み會を斷って直帰するタイプのコウであった。
そして本來向かう目的の方角へ転し、進行を始めた時だった。
「こらー! 待ちなさい! なんですぐ行くの!」
ジェニーから通信がった。
「ひょっとしてすぐ出て行くかも、と思ってチェックしていたら案の定…… 我々を恩知らずにする気ですか!」
「お邪魔かなと」
「邪魔なわけないでしょ! あんたどれだけ自分が戦果叩き出したと思っているの。戻ってきなさい」
「いいよ。補充する弾も必要ないし」
「裝甲どんだけダメージけていると思っているの? いくらその機の裝甲が厚いからと言って。せめて応急処置と攜帯食料ぐらい補充していきなさい」
「……わかった」
あまりの剣幕に、ついに引き返すことを選んでしまったコウだった。
大型ハンガーキャリアーの場所へ戻ったコウ。
機を中にいれて、休憩室でジュースを飲んでいる。師匠は相変わらず出たがらない。
ファミリアや作業タイプのシルエットが裝甲の修理をしてくれている。
大抵の傭兵は現在、生き殘った施設で宴會中だ。
「やっぱりここにいた」
そこへブルーがやってきた。
「どうも」
「もう行くって本當?」
「ああ。手伝いができてよかったよ」
「手伝いというレベルではないです。あれだけ戦果をあげているというのに」
そして同じく飲みを取ってコウの対面に座る。
しばらくお互い無言だった。
「ブルーは打ち上げに行かなくていいのか」
「苦手です」
「俺と同じか」
そこへジェニーがやってきた。常に通信映像だったので、コウとは初対面となる。
「あらら。うちのアイドル獨占してるのね、コウ」
「ごめん。すぐお返しするよ」
「お返し? そもそもアイドルってなんですか!」
ブルーが不満の聲をあげる。そうはいうものの、ブルーはアイドル的存在だ。
「思い出した。ラジオの聲はブルーだね」
ブルーの反応は予想外だった。顔を真っ赤にし、うつむいてしまった。
「素敵な聲だった。この星にきて右も左もわからなくて不安だった頃に、あの聲で安心できた。ありがとう」
「す、すてき? れ、禮なんて!」
ブルーが突然のことで顔を赤くして噛みだした。
年頃ののようで、微笑ましい。そしてこの世界ではこのような年齢でも戦場にでなければいけないことにが痛んだ。
「あれいいでしょ。たまにブルーにやってもらってるけど、好評なんだ」
腰に手を當てドヤ顔のジェニーが不敵に笑う。
「ジェニーさんの発案だったのか。とてもいいと思う。パーソナリティって言うんだっけ? 次はジェニーさんも一緒にやってるところ聞いてみたいな」
「それいいですね。ジェニーも一緒にやるべきです」
「私はいつも檄飛ばしてるから今更だって!」
「パーソナリティは二人いたほうが華になるよ」
コウは深夜リスナーだった過去から力説する。
トークはやはり面白いのだ。ただしネタはノーサンキュー。
「決まりですね。コウはやり手」
「あんたたち仲良くなりすぎてない?」
訝しげなジェニーだった。
「祝勝會に隊長がいなかったら問題ないのか」
「どっかのサムライボーイがすぐいなくなりそうだからこっち優先よ。本當、うちにきてくれない? あなたの撃墜數凄いけど、あなた自がIDないから、仮登録しているうちの利益になっちゃうの」
「侍じゃない。世話になった禮だよ。とっておいてくれ」
「エニュオへのダメージ貢獻度考えてよ。そんな話の額じゃないから」
「おいは凄く嬉しいよ。やることがあるんだ」
「それが終わったら?」
「まだの振り方を決めてないんだよ。でも、そうだな。戻ってきて個人傭兵じゃなく、どこか所屬となればメタルアイリスを最優先で検討したい。わがままかな?」
「それでいいよ!」
ジェニーが破顔した。本當に嬉しいらしい。
彼の手をぶんぶん握って上下にシェイクする。
「待ってるから」
「あ、ああ」
熱烈な歓迎に戸う。これほどのおいはいままで、どんな形でもなかった。
悪い気はしない。本音では嬉しかった。
「私も待ってる」
ブルーも無表のまま呟くように言った。待ってるようにはみえないが、彼なりの意思表示なのだろう。今のコウにはそれがわかった。
「ありがとう」
「私たちの連絡先はあなたのシルエットに送っておくから。戻ってきたら連絡しなさいよね」
「私も?」
ブルーが若干戸い気味にジェニーに聞いてくる。
「嫌?」
意地悪そうに顔を覗き込んでくる。ブルーは頭を橫にぶんぶんと振った。
「決まりね。あなたの機整備もそろそろ終わるわ。攜行食糧も用意してあるから持っていきなさい」
「何から何まですまない。ありがとう」
「あとはこっちで登録しておくから、ID登録するための生認証しておくわ。これをやれば貴方がマーダーと遭遇戦になっても、報酬が振り込まれるようになる。うちのメンバーに勝手にれるようなことはしないから安心して」
「わかった。出発するとき、その認証をけよう」
この世界での分証明書だ。
ようやくこの世界の住人になれたのかもしれない。そう思えた。
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