《ネメシス戦域の強襲巨兵【書籍六巻本日発売!】》技供與
コウがアストライアに到著して數週間が経過した。
開発ツリーの目標は遠いが、當面の目標は決まったのだ。
各自、自分の端末に注視している。
「各企業への技供與、もしくは兵の提供案が決まった」
「迷ってましたもんね」
「オークション形式にして、企業には競爭してもらおうと思っている。隨時、適正価格で技解放していくじだ。そこらは明記してあくまで先行権ということにする」
コウは21世紀の地球でいえば特許オークションに近い形式を取ることにしたのだ。
権限は個人に付與されるので、技を奪われる心配もない。権限付與や譲渡の管理はオケアノスが行っている。
コウにとって譲渡する必要は皆無なので、付與という形を取ることになる。その製品、もしくは材料の生産許可権を持つ者が増えるということだ。
もちろん落札者も付與及び譲渡は可能になる。
これで人の引き抜きが激しくなるのか、企業間の抗爭が激しくなるかは不明だ。
資金力にものをいわせて大勢力になる企業も現れるかもしれない。
最初は様子見も兼ねている。
適正価格での技解放は、獨占による富の集中を防ぐためだ。落札企業は先行の研究期間が長くなるメリットがある。
富が集中し、一部企業が落札しまくって技を死蔵する恐れもある。
その技全般を占有するコウ自、危険な立場になるということにようやく自覚が芽生えてきた。
ヴォイたちの指導のたまものといえよう。
「ネメシス戦域、とくに星アシアの各戦場において、やはり補給が滯ることが問題だ」
コウなりに分析した結果、各アンダーグラウンドフォースの兵站、補給運用に負擔がかかっていると判斷した。
コウも実戦に參加して思ったがやはり傭兵は命が大事。メタルアイリスのように前線で戦う部隊より、他の傭兵隊のように後方支援で様子見になるのは當然といえた。
「用意した兵はこれだ」
パネルに用意したのは、十種類ほどの車両や航空機だった。
「ほとんど輸送機や支援車両じゃねえか」
ヴォイが笑った。コウらしいと思ったのだ。
「シルエット工場の転用で、各企業もシルエットしか作っていない。一部の構築技士が趣味で車両を作っている狀況だ。これを打開したい」
「狙いは?」
「兵站を請け負う會社を各メーカーに出資させるのさ。前線に出て戦う傭兵と、出たくない傭兵をまず切り離そう」
「皆後方支援に回るのでは」
「大丈夫。前線で活躍できる者ほど報酬が高くなるようオケアノスが設定していた。これはメタルアイリスもいってた通り、IDさえあればマーダーを撃破するほど報酬がるようになっている」
「安全な任務は見返りがない?」
「戦闘の激しい最前線より見返りはないな。それでも任務の重要度によるよ。補給輸送も激戦地域となれば危険で重要な任務となる。そこはバランスだな」
用意する車両や航空機のデータを皆に送る。
「要塞級の大型ハンガーキャリアーを搭載できるほどの超巨大輸送機。戦車を三両運搬できる大型トラクターユニット。中型の攻撃支援を兼ねたシルエット運搬型武裝ヘリなどか」
「対空兵の発達で航空機の優位がかなり薄くなってるのは確か。だけど輸送速度を重視するとね」
C212防衛ドーム防衛戦では、援軍は期待できない狀況だった。
援軍を頼んでも輸送手段に乏しいこの世界では困難だったのだろう。
大手のアンダーグラウンドフォースが急展開してエニュオと戦う理由もない。あのような場合は小さな傭兵勢力をかき集めるしかない。だが、彼らには移手段がない。
どうすれば戦力を維持できるか。悩んだ末の回答が各種輸送機だった。
「星間戦爭時代の新素材生権利も込みということか。ただの輸送機は作らんわな」
「防力があがれば運用するメーカーもでるだろう」
他に提示されるのは大型トラクターとトレーラー、中型のトレーラー。
そしてファミリア用の裝甲裝車と裝軌裝甲車、半裝軌車の三種類だ。用途に応じてミッションモジュールを換裝できるユニット形式であり戦車駆逐車から兵員輸送車、救急車まで対応できる。
「フェンネルOSとウィスを使ったパワーユニットを使っているから、裝甲車の形をしたシルエットみたいなもんか。生存なら戦車じゃないのか」
フェンネルOSは人間という認識が必要だ。タイプであるファミリア、獣人であるセリアンスロープでは人型のシルエットを作することはできない。
車両や航空機など機能制限をかけたモードでのみ作することができる。これはコウをもってしても解除はできなかった。
「戦車だと、人間がファミリアを捨て駒にする戦を取りかねないからな。裝甲車で様子見して、戦車系の開発技を提供するのはもっと後にしたいな」
「可能は高いと思う」
エメも可能を否定しない。むしろ十分にありえると思っている。
「この半裝軌車って必要ですか?」
「なんとなく」
半裝軌車のファミリアたちに助けられた印象が強く、大型の半裝軌車を設計してみたのだ。
売れ殘ったらそれまでの話である。
「新素材はファインセラミックスときたか」
「これなら製造権限さえ與えれば地上でも作れるからね。輸送車両や航空機に付隨している型式にしてある」
「ホウ素系ボロフェンを使ったセラミック・マトリックス複合材料か。グラフェンより金屬的な質を持っているから、軽量裝甲材にはいいな」
「グラフェンは靱がね。こいつがウィスで強化されたら、航空機がレールガンの一撃で落とされる心配もしは減るかなと」
航空機はその構造上、どうしても裝甲は薄く脆い。偵察機や輸送機の普及を阻んでいるのもレールガンをはじめとする対空兵の充実による。
「五番機の改良計畫はないのか」
「アキとにゃん汰が、俺用のライフルを作ってくれたよ」
「コウは斬り倒していくスタイルです。そのスタイルで対応できない時のために、程と裝弾數を重視したものにしました」
「ブレード馬鹿はミサイルとか積まないにゃ」
「二人とも、よくわかってる」
シルエットの背面にミサイルや予備のライフルを積むことも可能だったが、コウはあえて積まない選択をした。
距離に応じて的確に運用できる自信がないのと、やっぱり斬り込むほうが自分にはにあっているということだ。
それがにゃん汰やアキにどれだけ心配をかけているか、コウはいまだ気付かずにいた。
「本格的な再設計は聖杯を手にれてからだ」
「確かに中途半端な再設計機を市場に流しても仕方ないわな。殘すは聖杯探索、か」
「いよいよ外の世界へ……」
「引き籠もり生活も終わりにゃ」
「ちょっと怖い」
「大丈夫だよ、エメ」
エメの不安もわかる。眠ってから相當の時間が経過しているのだ。
「コウは俺たちが使える戦闘兵は作ってくれないからな」
ヴォイが不満をらす。コウは自分だけが戦えばいいと思っている。
彼らだって支援車両でのサポートはできるのだ。
「そのうち作らせるにゃ」
「工場をかすのが怖いんだよ」
一度けば本格的な試作が始まる。
かすときはシルエットなどの生産からりたかった。
「聖杯探索は五番機だけじゃ無理だぜ」
「ああ。そこは考えてある。アンダーグラウンドフォースに依頼するつもりだ」
「アンダーグラウンドフォース?」
「ちょうどツテもあってね。アストライアも賛してくれた。今回の件を依頼するにはぴったりだ」
悪戯っぽく微笑む。彼たちは驚くだろうか、呆れるだろうか。
反応が今から楽しみだった。
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