《ネメシス戦域の強襲巨兵【書籍六巻本日発売!】》僅有絶無

「突は明後日ぐらいになるかな。敵も気付くだろうが、皆無茶はしないでくれ」

コウは五番機からジェニーとリックに話しかける。

「失敗しそうな場合は即座に撤退しても構わない。目標は指定エリアにいる恩人の救出なんだ」

「救出? コウ。殘酷なことをいうようだけど、ストーンズにさらわれて救助された例はあまりないの」

ジェニーが悲しげに呟いた。

「救出とはいっても人間じゃないんだ。AI、人工知能の救出と言わなかったことは謝罪する。そう書くだけでまともな依頼とは思われないと危懼したんだ」

「それはわかるがね。AIを救出とは。つくづく機械を人として認識しているんだな」

「ああ。約束したんだ。必ず助け出す、と。今回はその一部を救出できればと思っている。やっぱり変な依頼だよな」

コウも今ではテレマAIであるファミリアたちの扱いを知っている。ペットや便利な機械扱いの範疇で扱う人間は多いのだ。いくら彼らが人とほぼ同じ思考を持っていてもだ。

またファミリアも進んで人間の盾となろうとする傾向がある。

セリアンスロープたちも現在は一種族として定著しているとはいえ、軽んじられる傾向が殘っていることを知った。人間至上主義者の中では超AIに創造されたネレイスまでその範疇にるようだ。

AIのための救助作戦など、斷られる可能が高いと判斷してしていたのだ。

「あなたがそこまで世話になったAI(ヒト)なら、協力するよ。今更斷らないって」

ジェニーの聲が明るいのが救いだった。彼はコウのそういう傾向を好ましいものとして見ている。ヒトと表現したのも、ジェニー自そう思っているのだ。

「その依頼容で私が斷るはずもない。その案件なら確かに我ら向きだ。全力で手伝おう。個名などがあるなら教えてしい」

リックの聲もとりわけ優しくなった。同胞ならなおさら助けたいのだろう。

「みんな、本當にありがとう。個名はアシア。この星を維持する管理コンピューターって聞いたよ」

「え?」

「なんだと?」

二人が息を飲んだ。

「ちょ、ちょっと待って。アシアを救出? 本當に?」

「この星にきたとき、助けてくれたの子なんだ。夢でしか會ったことがないんだが……」

あまりの剣幕に、つい夢であったと口走ってしまう。失敗したな、とすぐに悔やむことになる。

「……」

ジェニーの聲がない。あまりの驚きに聲が出ないようだ。

理由がわからないコウは訝しんだ。夢で會ったということがいけないか、と見當違いの反省をする。

「どうした? ジェニー」

「もちろん私たちもアシアのことを知っているよ。君はアシアと話せるほど仲がいいんだね。解放手段はあるのかな?」

「施設と接できたら解放できる。確かシルエット越しでも大丈夫なはず」

「――わかった。計畫していた作戦を変更しよう。その話が本當なら敵の守りは堅いぞ」

絶句していたリックだったが、すぐに気を取り直したようだ。優しい聲音で言い聞かせるように伝えた。

コウはリックが話を信じてくれた事実が嬉しかった。

彼の言いに嫌なじはしない。アシアと仲がいいのが、ファミリアにとって嬉しいのだろう、と判斷した。

実際の所、リックがかすかに震えていることにコウは気付いていない。それはジェニーを遙かに上回る興を意味していた。

「そうだよな。封印されるぐらいだもんな」

気付いていないコウは、暢気なものだった。

「ジェニーにも時間がいる。作戦立案は任せてくれ。あとでそちらに転送しよう。今からジェニーと相談があるから、通信を切らせてもらう」

「頼んだ、リック」

コウは通信を切った。

「リックぅ! ありがとー!」

半泣きになりながら、ジェニーはリックに謝していた。

「ジェニー。コウは何も知らないんだな」

驚きのあまり聲が出ないジェニーのフォローをリックはしていたのだ。

その驚きが理解できるからこそ、早々にコウとの通信を打ち切る判斷をした。

本當は聞きたい事が山ほどあるのだ。だが、今は早い。

ことが為ったあと、時間はたっぷりあるだろう。明るい未來とともに。

「ごめんなさい、リック。あまりのことに聲を無くしたわ」

「この戦いがこの星の命運を分ける可能を一切考慮していないんだな。彼は」

「多分知らないんだと思う。星管理AIである超AIアシアの解放が、ストーンズとの戦爭が始まって以來の人々の悲願であることを」

「知らないままでいてもらおう。プレッシャーをかけるのはよくないだろう」

「彼の側にいるファミリアやセリアンスロープたちは何をしているのかなぁ」

「千年以上前の製造らしい。目覚めたばかりなんだろうね。もしくはコウの格を知っていて緒か。その両方だろう」

リックの推測は當たっている。師匠はアシアの重要を伝えてはいたが、彼らほど大きくは伝えてはいない。

殘り三人は冷凍睡眠から目覚めて一ヶ月程度。師匠の経験を共有している三人が伝えるはずもなかった。

「どうしよう…… ごめんなさい。こんなことじゃ隊長失格ね」

「私もいささか混している。明後日といったが予定は早める。速度を何より重視しよう。明日には作戦を決行する。目的は一切づかれてはならない」

「わかった、あなたがいてくれてよかった」

「お役に立てて栄だよジェニー。一時間後、また話し合おう」

「了解」

リックは部隊の通信に切り替え、ファミリアたちに告げる。

「皆の者。よく聞け。今から我らはアシアの救出作戦を決行する、封印されたアシアの一部を解放することが作戦目標だ」

ファミリアたちが息を飲む。全ての型、犬も貓も熊も狐もうさぎも、そして人間も。全てだ。

「依頼主の青年、コウがカギだ。彼は言った。失敗したら即座に撤退しても構わないと。否、だ。失敗は許されない。たとえ我らが全滅し、復活できなくとも彼には目標を達してもらわねばならない」

「リ、リック。その話は本當なのか」

「間違いないだろうな。噓をつくメリットもない。彼がこの星におけるアシアの重要を知らないだけだ」

リックは力強く続ける。

「千載一遇、いや僅有絶無が如き大好機! 我らが悲願、二度と巡ることがない可能すらある。その當事者になる譽れならばなおさらだ。我らが創造主の救出、し遂げよう」

「おお!」

「こりゃすごいや、俺たちの依頼主。死んでも守ってやろうぜ!」

狐のファミリアが興狀態でんだ。

「彼は我らが死ぬことを極度に嫌っていることを伝えよう」

「私達が死ぬって? あらあらまあまあ。優しい子ね。なら余計に守って――死んであげなくちゃね」

うさぎ型のファミリアが微笑んだ。その聲にリックは頷く。

彼らは停止するだけ。蘇る可能もある。大事にしてくれる者ならば、先に壊れるのは自分たちがいい。これがファミリアたちの基本理念だった。

通信越しに伝わる気合い。

コウはしらなかったのだ。

星管理AIアシア。彼がストーンズの謀により封印され、この星が危機に陥っていることを。

救助しようにも手立てすら見當がつかず、人類が消耗戦にっていることを。

そして彼らファミリアたちの創造主であり、アシアが封印されたことで生産を封じられ、減の一途にあることを。

ファミリアたちにとって、人類共生の未來のためにも、アシアは必須なのだ。

ストームハウンドの士気は極限にまで上がっていた。

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