《ネメシス戦域の強襲巨兵【書籍六巻本日発売!】》ワイルドキャット・カートリッジ
コウたちはハンガーキャリアーのなかでリックから送られてきた作戦を査していた。
アストライアのサポートもあり、コウはしずつ飲み込む。大局を見ることなど彼には無縁の話だ。
「作戦は明日に変更か。電撃戦という奴?」
「違う。奇襲要素はない。多分、相手はこちらに気付いているはず」
コウの疑問にエメが答える。師匠がレクチャーしているのだろう。
「どちらにしても、相手に準備する時間を與えないことは重要にゃ。兵は神速を尊ぶというにゃ」
作戦容を確認している。疑問點はにゃん汰やアキに確認している。
ヴォイは五番機を整備中だ。
新裝備のバトルライフルと、追加裝甲を確認している。
「撃戦か。俺にできるかな」
「無理して撃戦を行う必要はありません。今回は市街地戦です。コウの場合は建を利用した接近戦のほうが有効でしょう」
「大切に使わないとな」
「ダメです! 使い捨てで考えましょう。いくらでも作ってみせます。決してライフルにこだわらないで」
アキが懇願するように言う。コウのものに執著する格を見抜いていた。
「しかし、せっかくにゃん汰とアキが作ってくれたものだし」
「それがダメだというにゃ! ムダに捨てろとはいわないけれど、なくなったらなくなったでさらにいいものを作るにゃ」
「そ、そうか」
珍しく語気を荒げるにゃん汰に、コウは肯定するしかなかった。
「いっそ楯代わりでもいいんですよ。慣れない戦い方をするぐらいなら」
「わかったよ。ありがとう」
二人に心底心配されていることを実し、心配をかけないようにしないとと思う。
「作戦ファイルの更新を確認。メタルアイリスとストームハウンドの小隊を一部換するみたい」
エメが告げる。エメはコウのオペレーターを買って出た。いにそんなことをさせていいのかと悩んだが、アキたちにも説得されけれた。
一緒に行する以上、何か役割があるべきだというのが彼たちの主張だった。
裝甲車に乗って支援したいという申し出もあったが斷固反対した。
それならばハンガーキャリアーからの遠隔指示に専念してもらったほうがよい。彼の心の平穏のためにもだ。
「Aカーバンクルのコントロールセンターを占拠か。攻略できたら一気に楽になるのは確かみたいだけど」
「私達だけなら目的地に突するしかないですからね。本気で攻略するなら戦力を集中させるのですが」
「途中までは一緒に行するんだろ?」
「ええ。敵はアシアとの接が目的とは知りませんからね。コントロールセンター攻略作戦そのものをにする、と。うまくいけばそのまま占拠して掃討作戦に移行できます」
「警戒が手薄だといいけど、無理そうだもんな」
「要塞エリアにること自、相當苦労しそうです」
「敵にもアンダーグラウンドフォースはいるにゃ」
対人戦の可能を三人は心配していた。日本からきた若者に、生きた人間と戦うストレスに打ち勝つことができるのか、と。
コウは曖昧に笑うだけで、余計に心配した。
「ちょっとヴォイの様子をみてくる」
「はい」
エメが答え、コウを見送った。
彼の姿が見えなくなったあと、たち三人は會話を開始する。
「アシアの救出。コウは知らないほうがいい。それがどれだけ切されていたかを」
エメが呟いた。師匠によって現時點の星アシアの知識は十分にある。
「ストームハウンドの対応は早かったですね」
「ジェニーからお小言の通信がきてるにゃ。あとでコウに教えるにゃ」
「知る人が増える…… 報がれる可能も増える」
エメが呟いた。彼は人を信用していない。
「ストームハウンドは気負いすぎだとは思いますけどね。行方知れずだった創造主の救出。それだけの事柄であることは理解します」
「メタルアイリスは軽く混してるにゃ」
「今のアシアの狀況を考えると當然」
エメが嘆息した。決戦ともいえる狀況かもしれないのだ。
「コウは私達が前線に出ることを凄く嫌う」
にゃん汰やアキと違って彼はシルエットに乗ることができるのだ。
コウは決して許してくれない。
「ヴォイだけなんとか言いくるめたぐらいにゃ。戦場に出るのは男の仕事とかいって」
「そのヴォイもなかなかコウが兵開発しないから、結局出ることはできないですね」
「無理矢理作ったあれを引っ張り出したぐらいだからにゃ」
アキが苦笑した。コウは彼たちを大切にしてくれるのはありがたいが、肝心の本人が死地にいるのはたまらない。
「私たちが出來るのは、コウの武裝を強化することだけ。ええ、一発一発に魂を込めた。弾丸にね。ワイルドキャットの名に賭けて」
にゃん汰は銃カスタマイズ用セリアンスロープ――通稱ワイルドキャット。ハンドロードの役割も兼ねている。目標に沿って弾丸や砲の最高率化を図るのだ。
規格化された弾頭を調整するために生まれた、不要とまで言われた役割だ。
ガンスミスであるアキと、肩の狹い思いをしていたのも今は昔。彼は自分の役割に誇りを抱いていた。
戦場に出ることができないのは歯がゆい。だから彼は、アキが創った銃をもとに、出來うる限りコウのために最適化を行った。
接近戦馬鹿が、距離を取られて為すもなく死なないように。
しでも彼に役立つよう、思いを込めて。
彼の視線の先にあるモニターにコウが映っている。ヴォイと一緒にシルエットを整備中だ。
「姉さんも無茶をする。砲は限界まで強化しましたよ」
「コウは不用だから複數の兵裝を使いこなすなんて出來ない。威力を落とさないよう、一発一発の命中度を限界まで上げた。弾頭はちょっとだけ口徑小(ネツクダウン)させてる」
「にゃん汰とアキは頑張ってくれた。あとは私と師匠の仕事」
同じく畫面を見つめていたエメが呟いた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ヴォイと一緒に五番機の最終確認を終える。
以前と違う點は三つ。破損していた頭部は修復され、大型の加速用バックパックを裝備。大剣は背中に吊す様に裝備されている。
運を損なわないよう考慮された追加裝甲を裝著している。傍からみると甲冑を著込んだ騎士か武者のようにしか見えないだろう。
両肩の補助スラスターを搭載した巨大なショルダーシールドが特徴的だが、これは脇構えを模した近接戦闘を考慮した武裝だ。中世の鎧武者のような姿となる。
そして新武裝として、両手裝備の大型ライフル形狀の、九十ミリ砲を裝備していた。區分でいえば大口徑、程重視のバトルライフルと呼稱される。裝弾數は二十発。
片手でも撃てるが、基本は両手で構えて撃つ武となる。
ヴォイが解説する。人間に例えると、12.7ミリのアサルトライフルを裝備しているようなものだと教えてくれる。コウは知らなかったが、対人には過剰とも言える大口徑のライフルとなる。
「アキが基本モデルを創り、にゃん汰謹製のワイルドキャット・カートリッジを採用している。弾も砲もとびっきりのスペシャルだ。名前は付けないのか?」
「AK2かな。このライフルは」
「意味は?」
「アキとにゃん汰から語呂合わせ。AKにゃん?」
「無理ねえか、それ……」
「ちょっとそう思う」
「ま、あいつらは喜ぶだろう。じゃあこのライフルはAK2だな」
ヴォイが端末にライフル名を力する。
「あとは、俺の仕事を待つだけか」
「あんなキワモノ兵出したくないんだが……」
コウは今回の作戦にあたって、一つの兵を創り出した。
あまりにも中二――いや、子供っぽい兵が完し、自らの発想に恐怖した。
封印しようとしたところ、ヴォイに見つかり強引にハンガーキャリアーに搭載されてしまったのだ。
「敵の守りは堅いぜ。工兵部隊なんて上等なものが用意できない以上、備えておいてもいいだろう」
「わかった。萬が一、正攻法でいけないときはよろしく頼む」
「おうよ」
五番機の奧、キワモノ兵は靜かに鎮座していた。
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