《ネメシス戦域の強襲巨兵【書籍六巻本日発売!】》人類の敵についた者たち

今回は敵視點の話となります。

X463のAカーバンクルが包されているコントロールセンター。

アンダーグラウンドフォース【デスモダス】のリーダー、バルドは急遽の呼び出しに対し、慌てて駆けつけた。

「どうした」

配下のマイルズに呼びかける。バルドは髭面でいかつい壯年の男だ。荒くれ集団を率いるだけのことはある。

マイルズはバルドより十歳下の青年だが優秀だ。隣にいる無想な男は、B級の構築技士(ブリコルール)。つまり重要人(VIP)だ。

「敵襲です。大隊規模ですね。今かせるケーレスを使い迎撃に向かっていますが、突破は時間の問題でしょう」

よどみなく答えるマイルズ。隊長のバルドは見た目より気が荒くはないが、冷徹ともいえる判斷を下すことがある。臆する者も多い。その筋では有名な、戦闘狂でもある。

「ふん。人間側も要塞エリアを取り返す気になったってところか? 最近じゃ反攻作戦はまったく聞かないからな」

「大隊規模の攻勢は聞いたことがありませんね。それでもこの場所を落とすにはやや戦力不足かと」

「そうはいうが、何か考えがあってかき集めたのかもしれない。油斷はできん」

人類側の軍隊と戦うことを期待してストーンズ側に付いたバルドは、攻めてきたという事実だけで評価に値する。

「そうですね。隊長の仰る通りです。敵は戦車を中心に編しています。シルエットだけなら評価にも値しないでしょうが、この數の戦車は侮れません。現在マッドスロース機甲隊が迎撃にでています」

「今日はあいつらが哨戒だったな。敵もあんな化け戦車がいるとは思うまい」

マッドスロースは超重戦車を中心とする戦車隊だ。アンダーグラウンドフォースのなかでも中堅に位置する。

ストーンズ勢力に付いたアンダーグラウンドフォースはとにかく実力主義だ。

ストーンズ側についたアンダーグラウンドフォースは大まかに分けて三種類だ。

まず金。だから人類側につく場合もあるし、ストーンズ側につく場合もある。この場合、金払いがよいのはストーンズ側だ。

デスモダスのメンバーも主に金だ。

次に犯罪者。傭兵機構に所屬はしているが、何らかの犯罪を犯し、通常の依頼をけることが困難なもの。

最後に、勝ち馬に乗るタイプ。人類に見切りをつけたタイプである。

マッドスロースはその手合いだった。

ストーンズ側にも人類の生存圏は存在している。

飼われている、といったほうがいいかもしれない。

そして部外者。彼らのようなアンダーグラウンドフォースのために、娯楽は用意されている。酒もタバコも麻薬もも手にる。ならば人類側に固執する必要はないだろう。

ストーンズの目的は人類絶滅ではないのだから。人類を蟻に例えるならば、蟻の巣ごと観察しているにすぎない。

またストーンズ側に寢返った構築技士や彼らの持っている先端技の供與がある場合もある。

超重戦車はその代表だ。人類側の普通の無人生産ラインでは、あの手の巨大兵は製造を反対される場合が多い。

製造の制限が解除されるストーンズ勢力の無人工場は魅力的だ。マッドサイエンティストともいうべき素質を持つ構築技士たちはこぞってストーンズ側に寢返ったのだった。

両方の勢力に兵を売る転移者企業も存在する。死の商人というのはどの世界にもいるものだ。

「化けとはいってくれるなあ。防衛には役立つはずなんだがな、アレは」

酷く痩せこけた構築技士が薄く笑った。

男の名はアルベルト・クナップ。超重戦車の開発者であり、ネメシス戦域での死の商人でもある。

彼にはストーンズ、人類側のこだわりはない。製造施設を任せてくれれば、どの勢力にも付く。

様々な異名を持っているが、一番有名な異名は砲撃卿――日本人の構築技士に言わせれば砲撃狂だ。

「背が高く鈍重なあれがか? シルエットの壁ぐらいが関の山だろ?」

「ふん。ばれてたか。まだ履帯の調整がうまくいってなくてね。砲もたいしたが搭載できん。あれならいっそ四腳にしたほうがいいかもな」

そんなゲテモノ戦車には乗りたくないな、とバルドは心毒突いた。

「四腳と履帯を組み合わせでもしてろよ」

嫌味のつもりで言った一言に、アルベルトは顔を輝かせた。

「おお、そのアイデアはいただきだ! いますぐ設計に取りかかろう。このコントロールセンターは落とされないでくれたまえよ」

「仕事だからな」

「ふむ。四足に二列履帯を裝備させ…… 砲を撃つときは足を固定式にするか……」

ぶつぶつ呟いて、別の部屋に移していった。

「何しにきたんだ、あのおっさん」

「超重戦車の実戦データがしかったようですよ」

「まあ、いい。邪魔だ」

構築技士を邪魔の一言で片付けるバルド。

マッドサイエンティストというのは、ああいう男のことを言うのだろう。自分の開発するものにしか興味がないのだ。

「隊長のお耳にいれておきたいことが」

「なんだ」

「TSW-R1が確認されています」

バルドの表が固まる。

「あれが?」

「隊長が、この機がいるときは至急、と仰っていたので。ご報告した次第です」

「鷹羽か?」

彼の言う鷹羽。それは伝説の傭兵。

転移者企業TAKABAの創業者にして、求道者のような剣の鉄人であった。シルエット乗りとしても最高峰と言われている。

「それはわかりません」

「俺たちも戦闘準備にる。敵には構築技士がいる可能が高い。目的が例の封印區畫の可能がある」

「了解です。ですが敵の位置は封印區畫ではなく、このコントロールセンターを目指しています。あの戦力がとは思えませんが」

「ふむ」

封印區畫。彼らアンダーグラウンドフォースの依頼條件。

ストーンズより絶対に死守するよう厳命された區域だ。

その場所に何があるかは、彼らも知らない。

「俺が封印區畫に行く。構築技士をあの區畫にいれてはいけない、というお達しがあるし、部にる許可は俺しか下りていない。お前たちは敵大隊の迎撃にでろ」

「いざとなったら區畫ごと破ですからね」

「そういうことだ。コントロールタワーが落ちなくても、封印區畫を落とされたら要塞エリア全域を破して放棄らしいからな」

「了解です。隊長がいなくてもなんとかやってみせます」

「マイルズ。お前のほうが指揮は上手い。任せた」

「そんな。ご冗談を」

バルドはある意味カリスマだ。

人類の敵ともいえるストーンズ側勢力につくことで、士気が下がるアンダーグラウンドフォースも多い。

だが、彼は様々な方法で士気をあげる。

X463區域に商業・娯楽施設を作らせたのは彼だという話もあるぐらいだ。

「鷹羽だといいが」

バルドは口の中で小さく反芻する。

金でストーンズについたといわれているが、あくまで名目だ。

彼は人間と戦いたがった。人間が乗るシルエットや戦車と。

バルドはシルエット乗り。敗北知らずだった。――鷹羽兵衛に破れるまでは。

ムダの無い斬撃。隙の無い作。的確な位置取り。全てが高い水準でまとまった恐るべき転移者。

あの男に勝つ。

バルドは再戦の可能に沸き立つ心を抑えようと必死だった。

ついに敵側勢力についた人類登場です!

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