《ネメシス戦域の強襲巨兵【書籍六巻本日発売!】》聖域アルティス

「そろそろ到著だぜ、コウ!」

「すまないなヴォイ。こんなことに付き合わせて」

「へへ。まあいいさ。たっぷり絞られるのはコウ。お前だからな!」

「う」

言葉に詰まるコウ。それはもう陣たちはさぞ怒り狂っているだろう。

「とはいっても、ニソスが最小行単位ってのは息が詰まりそうだ」

「それなんだ!」

「コウの単獨行、最後の機會かもしれないしな」

「怖いこと言わないでくれ!」

ヴォイはにやりと笑い、流した。陣の過保護は理解する反面、コウにとっても辛いだろうとは思う。

たまにはこんな機會があってもいいはずだ。

「降下開始。――ん? ハルモニアが導されているぞ」

「え?」

星リュビアでもあったな。トラクタービームだぞ、これ! 星アシアでは喪われた技のはずだ!」

「どういうことだ?」

「わからん。一つ言えることは、星リュビアほど強烈な牽引ではないな。進路導の一種だ。まあ、紳士的な導といっていいだろう。従うぜ」

「紳士的なのか。撃墜する気ならとっくにしているだろう。頼んだ」

ヴォイも細心の注意を払っているが、このトラクタービームは強引に移すれば振り切れそうなレベルのもの。

降下角度の調整と著地ポイントへの導とみるべきだろう。

「見えてきたな。I908要塞エリアだ。島々があって、大陸と繋がっている部分。あれがペグマタイト半島だな。その場所を中心にシェルターが広がっている。――導航路のシェルターが開いた。るぜ」

MCSから見える景にコウも嘆の聲をらす。

「綺麗な海だな。避暑地みたいだ」

「過去のデータをみると、リゾート地需要はあったみたいだな。しかしストーンズ侵攻によって観はさっぱり。この要塞エリアも貧乏所帯だったはずだぜ」

「産業がないことが仇になったのか」

「海と島しかないからな。大した抵抗もできずにストーンズによって制圧されたはずだ」

「誰なんだろうな。ストーンズから奪い返したものは」

「第三勢力ってところか? 行けばわかるさ」

「そうだな」

ハルモニアはトラクタービームによる導に沿って、宇宙艦用の軍港らしき施設に降り立った。

五番機のMCSから周囲を確認する。眼下には見回すと見慣れない形狀のライフルを構えた、橙のワーカーが哨戒しているようだ。この防衛ドームの守備隊だろう。

「ワーカーが警備しているのか。あのライフルはなんだろう」

ヴォイとコウのMCSに、コントロールタワーから同時に通達がった。

『こちらコントロールタワー。今から導する場所に移してください。その飛行機のままで大丈夫です』

若いの聲。飛行機のまま格納庫まで導されるのだろう。

「了解した」

ヴォイが応答し、導に従う。ハルモニアは車を出し、著地する。トラクタービームで走距離はコントロールタワーが制しているようだ。

そのまま導に従い、ハルモニアは車を出したまま移を開始した。

街中では多くのシルエットが闊歩している。なかなかの活気だ。

ハルモニアが地上を走っていても誰も気にしない。

「シルエットが多いな。アルゴナウタイ系だけではなく、ベアやエレファントも見る」

「アンフィシアターとやらにわれた連中か?」

「一攫千金となるなら、われたら來るだろう。腕自慢も多數いるに違いない」

治安が悪いと聞いていたが、この區畫はそうでもないようだ。

ハルモニアが巨大な格納庫に導される。シャッターが自的に降りた。

『二時間後、迎えの者がそちらに行きます。ウーティス――コウ様においてはこの施設すべてをご利用いただけます。五番機整備にお使い下さい』

「何もかもお見通しか。怖いものがあるな」

ここまで詳細に把握している者はトライレームの幹部、そしてヴァーシャとその上にいるヘルメスぐらいであろう。

「敵意はまったくみられないな。ただ、利用料金は高そうだぞ」

ヴォイが苦笑した。リゾート地での価は高いと決まっている。

「金で安全が買えるんだ。それぐらいは妥協しよう」

金で済む話なら気楽だ。コウはハルモニアから五番機を発進させ、格納庫の施設を確認することにした。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

迎えの車が到著し、二人の使者が現れた。

中學生ぐらいの年齢に見える年とだ。

中學生ぐらいとコウが思ったのも無理はない。二人は紺のスクール系のブレザーを著用していたのだ。日本の學校で見るタイプの、である。

「はじめましてコウ様。我々一同心より歓迎申し上げます。我があるじがお待ちです」

禮儀を盡くした挨拶ともに、優雅に一禮する年。

「自己紹介はご主人様自らが行いたいとのことでして。ここではご容赦お願いします」

が申し合わせたかのように言葉を継いだ。躾が行き屆いている、という印象をコウは抱いた。

「了解した。その、なんだ。――その服裝は君たちの主人の……その、趣味なのか?」

「はい。その通りです。私達は戦災孤児でして。このI908要塞エリアでご主人様のサポートをしております」

「良い人なんだな」

孤児という言葉も偽りがないのだろう。心から主人を慕っている様子が窺える。

「それはもう!」

主人が褒められ、自分のように喜ぶ。瞳が輝いている。

洗脳されているような気配は微塵もじない。

「わかった。案してくれ」

地球のブレザーとしかいいようがない服裝に違和を覚えながらも、コウはヴォイとともに車に乗り込むことにした。歩兵用裝甲車であり、年がMCSに乗り縦を行う。

はコウたちの付き添いで、二人の対面に座って応対擔當を行っている。

ヴォイが付いてくる前提だったが、何も言われていない。コウと同じく客人として扱われている。

「注意事項はいくつかありますが、I908要塞エリアとその周辺100キロ圏では戦闘行為を止とさせていただきます。それがストーンズであろうが、たとえ幻想兵テラスであろうが、とのことです」

「わかった。俺宛へのメッセージ、肝に銘じておくよ」

おそらくは幻想兵の意味は理解していないだろう。主人の言葉をそのまま伝えているのだ。

「戦闘するための場所は用意してある。それがアンフィシアター、とのことです」

「わかりやすいな」

ここは一種の完全中立を標榜する都市なのだ。

ただし闘爭手段としての場所はアンフィシアターを用意してあるので、そこで解決しろということなのだろう。

「この都市に名前はあるのかな?」

「この街は以前名前はなかったのですが、ご主人様が首都を聖域アルティスと名付けました。他にも大きな島もあるのですが、アルティス以外は気を付けてください」

「治安が悪いとか?」

の言葉にネイトから聞いた言葉を思い出す。

「はい。難民キャンプから発生した臨時の町や首都に居住できない傭兵様用の施設となっております。お金がない方々が集まるということは必然的に治安が悪く、ということで」

「そうだろうな。報ありがとう」

「どういたしまして」

コウは隣にいるヴォイと會話する。

「貧困街のようなものを形することになっているのか」

「アルティスは傭兵にとっちゃ、お行儀が良すぎるってことなんだろうぜ」

「そういうことか」

シルエットの闘技大會にでるほど好きな連中だ。

荒事があるほうが傭兵にとっては過ごしやすいのだろう。

「お酒や風俗は傭兵にとって必要なものとお聞きしております。――ご安心下さい。私達保護された孤児たちは一切そのような職には従事いたしません。それはもう、大変厳格なお方です」

「それは良かった。そこは気になる噂だったからね」

「コウ様はご主人様に聞いた通り、お優しい方なのですね」

コウがむずがゆい顔をした。優しいという評価は予想外だ。敵に対しては容赦がない方だと思っている。彼にしてみれば褒め殺しに近い。ヴォイが隣で笑いを噛み殺している。

「やりにくい相手だな。コウ」

「わかっているよ、ヴォイ」

たとえお世辭でも、これから対談する施政者とは話し合う必要があるだろう。

主人の言葉をそのままけ取っていたのだろうは、小首を傾げ不思議そうにヴォイの真意を測りかねていた。

いつもお読みいただきありがとうございます! 誤字報告助かります!

I908要塞エリア【聖域】アルティスに到著したコウとヴォイ。ヴォイは祭りはありませんが蜂抜きなどの刑はありそうですね!(陣は羨ましいのです)。

次回は謎の支配者であるバーンと対面です! 正は引っ張りませんよ!

いよいよ明日1/28最新刊発売発売です!

【ネメシス戦域の強襲巨兵④ ~アシア大戦中篇・軌道エレベーター攻防戦】

改めまして応援して下さったすべての皆様、関係者様に禮申し上げます。

読者の皆様にご報告ということで、書籍版も良ければ手に取っていただけると幸いです!

セール報です。

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