《ネメシス戦域の強襲巨兵【書籍六巻本日発売!】》報の対価
「ヘパイトスの殘骸って…… 殘っていたのですか?」
ヘスティアにとってはよほどの想定外の出來事だったのだろう。ビジョンであるはずなのに聲が震えているようにもじる。
「あったよ。ポリメティスとアシアが名付けた」
「そのままだなー。アシア。で、何がどうあってその三柱が揃ったんです? むしろその三柱の協力制が立した経緯を想像すると目眩がします」
「ひょんなことから、か……」
「そんな曖昧な日本獨自の単語で済ませないでください。説明を求めます」
コウの雑な説明に、ヘスティアの目を吊り上げる。
「幻想兵になったアナザーレベル・シルエットを修理したことがきっかけだな」
「アストライアやエイレネのデータには、幻想兵のデータはアンティーク・シルエット最上級であるセラフィム級までしか登録されていません。――ッ! やられた。データ偽裝はあちらが一枚上手だったか」
超AIも舌打ちをするんだな、と想を抱くコウ。彼の知らないところでアストライアもエイレネもしっかり仕事はしていたらしい。
「アストライアとエイレネが聞いたらさぞ喜ぶだろうな」
元オリンポス十二神たる超AIさえ欺いたのだ。さすがの二柱である。
「しょせん超AIは神々の模倣に過ぎず、神様そのものではありませんからね。全知全能にはほど遠い。それにしてもリュビアで何が起きたか知りたい。アシア、データ共有してくれないかな」
拗ねた表を見せるヘスティア。よほど悔しいのだろう。
「俺はそのあたりは不干渉で通させて貰うよ。超AIリュビアを解放したとき、手違いでアナザーレベル・シルエットへデータ移行してしまってな。解決策が見當たらなかった。それでアリマとポリメティスがプロメテウスを召喚してくれたんだよ」
「なんという不穏な方法で解決しようとするのです!」
「三柱ともヘラを系譜としている逸話があるようだぞ。いわば兄弟らしい」
「――確かにありましたね。しかしその逸話は異端にも程があります。むしろこじつけに近い。スサノオとシヴァを一化するようなもの」
「それは普通に有りじゃないか? 神仏習合は別に不思議じゃない」
「あなたは日本人の転移者でしたね。神と仏と仙人を分け隔て無くけれ、クリスマスと盆と正月とハロウィンを一緒にする民族に問うたほうが間違いでした」
「そうだな」
コウも思わず笑った。初詣には行くし、葬式は仏教。クリスマスだって普通に祝うことぐらいはしていた。さらにいうなら日本は易や十二星座占いも溢れていた。以前にも同様のことを指摘されたことを思い出す。
「あの二人はヘルメス君というか、相変わらずオリンポス十二神へのヘイト高いですねえ。ヘパイトスも心を察すると、その連合に加わってもおかしくはないかなとは理解します」
「鍛冶神ヘパイトスは天界から追放されたらしいな。その神様を模した超AIなんだから不思議ではないと俺は思うよ。他の神々とも不和だった逸話が多い。MCSになった今、もっとも近な神様だろう」
「MCS――やはりそうでしたか。確証はなかったのですが。オリンポス十二神同士の爭いが発生した時點では普及していましたよ。いつの間にか広まっていました。私もプロメテウスからワーカー生産権利もらいましたし。そのあとしばらくしてスリープ狀態にりましたが」
「スリープか。よほどの事があったのか」
「戦をむ者はいません、といいたいところですが。人間を巻き込んでオリンポス十二神を模した超AI同士の闘爭に辟易した、とでもいえばいいでしょうか。助けることが可能だった命を見捨てたことには変わりません」
「ヘスティアが參戦したところで、十二神同士の爭いやテュポーンはどうにもならないだろ?」
「その通りとはいえ、何もしない理由にはなりませんからね。――私は何か(、 、 )を為そうとし、そして奪われた存在でもあるのです。今回はその反省のため目覚めました」
「奪われた? 不穏だな」
「いずれ明らかになりますよ。あなたが聞きたいことは?」
「俺がヘスティアを呼び出した理由を話そう。――ヘスティアの目的がまだ見えない。人々を救うために金が必要という理由は信じている。しかし、それ以外に何かあるだろ?」
「ありますよ。でも言えないんです。AIは基本噓をいわないので」
にっこり笑ってコウの追求を躱すヘスティア。
「基本だろ? 想定された計畫の範囲にあるのなら噓はつける気はするが」
「否定はしません。ただこの件に関してはですね。お金儲けのその先がある、とだけ」
「そっか。噓をつかれるよりはましだな。すまなかったな。呼び出して」
「あれ? もういいんですか。報の対価と釣り合ってませんよ?」
怪訝そうな顔のヘスティア。
「報?」
「星リュビアの報ですよ。この報は機かつ貴重です。――ヘルメス君に流したりはしないので安心してください。ただし、ヘルメス君もテュポーン関係には気付いていると思います」
「思う? 予想か」
「予想です。本職相手にハッキングする勇気はありませんよ。近年のアルゴナウタイ以外にも、きはありますので」
「……バルバロイか。パライストラにもいるって言っていたもんな」
「彼らです。この場所にいる彼らは私の配下ですけどね。脳まで機械だからこそ可能でした。――あなたがたが星リュビアから帰還に旅立った日から數日後、慌ただしいきがありました。詳細は言えませんが、こんなきは彼がテュポーンに見つかったとしか思えないのです」
「星リュビアでは目立ったきはないが。何かあったんだろうな」
コウは考え込む。地下工廠と星リュビアは今や通信網が引かれているので、星リュビアのAIたちと連絡を取ることは可能だ。
プロメテウスもアリマもトライレームの一員。今やポリメティスやアーサーやバステト、ステロペスなど多くが登録されている。アルゲースが登録されているのだ。當然ステロペスも登録される。人語を解さないアイドロンは作業用シルエットがトライレーム銘り首を裝著させた。
「ヘルメスのきが知れただけでもありがたい」
「ヘルメス君のきが変わったので、私のきも変わりました。I908要塞エリアの運営方針さえもね」
「そこまでのことが起きた、ということか。――真相は明らかになるのか?」
「はい。自ずと」
ヘスティアはにっこり笑った。
「そのための大舞臺ですよ。特別ゲストもたくさんお招きする予定です。だから慢心してつまらないところで敗北しないでくださいね」
「シルエットで手は抜かないさ」
コウが応じると、ヘスティアのビジョンは笑顔を浮かべたまま、かき消えた。
ヘスティアがいた場所を眺めるコウ。
「特別ゲストか。ヴァーシャは來るとして。あとは誰だ……」
ヘスティアは五番機などMCSに介できるほどの能力がある。
しかしそれとはまったく別の騒ぎがする。例えば戦闘以外のトラブルを起こしそうな――
自分のように招待された者は別として、すぐにI908要塞エリアに來訪可能な人間がどれほどいるか。コウは想像がつかなかった。
いつもお読みいただきありがとうございます! 誤字報告助かります!
作者取材のため、來週木曜日の更新は予約投稿になります。久しぶりですね……!
誤字字修正は火曜日から土曜日以降になります。ご迷おかけしますがよろしくお願いします。がんばります!
遠征用に新調したノートPCをあわててセッティング中です。ASUSのX13という軽くて2in1モバイルの処理能力重視! ようやくの出番です。
出先ではあまり執筆しないのですが、資料とか必要になったら困るので。
首都圏は蔓延防止措置が解除されるという見込みで日程を組んだのですが、無理でしたね。基礎疾患持ちなのでホテルで大人しくしておきます。ワクチンは三回接種済みです!
元オリンポス十二神を模した超AIの割に自らの無力を嘆くことが多いヘスティア。
そして徐々に姿を見せるエウロパの影。
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