《ネメシス戦域の強襲巨兵【書籍六巻本日発売!】》ムネーモジュネー

「コウ! どこにいってたの!」

アシアのエメが息を切らして駆け寄ってきた。

「どこ? ずっとここにいたけど」

「ずっと? どこにもいなくて、みんなで捜索しようかと話し合ってたんだけど。――こちらアシアのエメ。アストライアへ。コウ発見。捜索隊は解散」

通信端末でユースティティアに連絡する。

「それによく抜け出せたね」

「淺かったからかな」

「冗談はやめて。砂浜は足首まで埋まったらきが取れないから」

「そうか」

空を見上げた時、コウは驚きのあまり言葉を喪う。

月が真上に存在していた。

「どうしたの? 空を見上げて」

「パンジャンドラムが……」

海水に浸かり始めていたパンジャンドラムのはずが、海水はまったく屆いていなかった。

コウが埋まっていただけが殘っている。

「大丈夫?」

暑さのあまり頭がやられてしまったのか、不安になってきたアシアのエメ。

パンジャンドラムを凝視するコウに不気味さをじてしまったのだ。

「大丈夫だ」

先ほどのアイデースを思い出しながら、首を振る。彼の存在はみんなには緒だ。

「ここはヘスティアの結界だよな」

「そうだよ。何かあった?」

「何もないけど。時間って逆戻りは可能なのかな。うまく説明できないが…… 時間をまき戻す? ヘルメスがゼウスになることを目的としたあの話。――土のなかに埋まっている間、考えててさ」

なんとか言い訳を思いついたコウが、アシアのエメに尋ねる。

「基本無理よ。主神レベルの超AI。つまりゼウスレベルの…… そうね。ポセイドンかハデスなら可能かもしれない。あとは全盛期のプロメテウスぐらいかな」

「そうか……」

「あとは環境によるね。時間を巻き戻すという概念は、複雑なの」

「例えば?」

「時間が単に巻き戻るだけなら、本人が気付かなければ巻き戻ったか誰が証明するか? そういう話。証明できない哲學。もし記憶があるというなら未來視――未來を知覚、先読みした場合との差は?」

「それは……」

「誰にも【時間が巻き戻った】証明できないからね。記憶があったとしても、単なる既視に過ぎないかもしれない。事象の結果変更を引き起こすと影響も大きい」

「証明できない、か」

「過去に戻って未來を変えるってフィクションは知っているよね。未來が変わるパターンと未來が強制的に似たような結果になるパターン、々あるよね」

「ああ」

「量子の多次元宇宙論にもなる話だけど、結果を変えるほどの時間介は途轍もないエネルギーが必要。ただし……」

アシアのエメはくすりと笑う。

うコウはさらに尋ねる。

「ただし?」

「例えばコウと私がこうやって他のない雑談をして、コウだけを過去に飛ばすというエネルギーはそれほど影響はないわ。この雑談によって世界が変わったとしても、それは遠い話。世界五分前が正しいとして、五分後には大して影響もないしね」

「そうか。結果として突っ立ってたことにしかならないもんな」

「そういうこと。それでも私だってけなくなるほどのエネルギーは使うしオケアノスの目もあるから。コウにわかりやすく説明すると……數分雑談するためだけに數十兆円規模、國家予算に匹敵するようなコストはかけない、ってことかな」

「だよな」

コウは心冷や汗をかく。そのエネルギーを使った可能に気付いて。

「例外もあるけどね。五番機よ」

「五番機?」

「カストルの決戦時、五番機はプロメテウスの火を使って裝甲のマテリアルだけ時間遡行して復元したの。そういえば詳細は話してなかったね。あの時の……」

「そんなことが可能だったのか!」

「普通あり得ないし不可能な事象だよ? だけど五番機は為した。――そしてリアクターを破壊されてなお戦う意志を示した。シルエットの範疇からみても異端だわ」

「異端……」

「ええ。五番機はおそらくヘパイトスだけではない、別の概念が宿っている。私達とは違う、神話系か伝承かはわからないけれど。ヒョウエはそういうの好きでしょう?」

「そういえば聞いたことがあるな。兵衛さん、ああみえて信心深いから」

「どんな神様なのか、気になるな。教えて」

「じゃあそこに座って」

先ほどのアイデースと同じ姿勢になった二人。

「剣の流派にも関係あるんだけど。千葉さんの北辰一刀流。北辰、つまり北斗。北斗は中國の伝承によって死を司る神様でもある。日本だと北極星と北斗七星、混同されることも多かったらしい。その北辰にちなんで北極星や北斗七星の化である妙見菩薩の概念を最初期ロットのラニウス構築時にデータとして登録したと聞いた」

「ミョウケンボサツ…… 今本と繋がってないからすぐにはわからないな」

若干悔しそうなアシアのエメ。

「いや。大事なのはそこじゃない。妙見菩薩の加護をけた歴史上の人が、本題なんだ」

「歴史の人?」

「平將門公という人でね。まあ一種の反逆者ではあるんだけれど…… 民を憂い反を起こしたといわれる人は妙見菩薩の加護をけ、北斗七星と同じく七人の影武者がいたといわれている」

「エメが知っている人だ! 後世の作られた伝説ってことね」

「俺は參拝することはなかったけど、東京の神田は平將門公由來だったらしい。からだがなまって神田とも、鋼鉄のを持ちいからかんだなど、諸説あったらしい」

コウ自はあまり東京に行ったことがない。隣県のテーマパークに修學旅行で行った時経由したことがあるぐらいだ。

「影響力は大きい人だね」

「そうだと思う。時の権力者は大衆人気を恐れて、関東から関西まで首を運び曬し首に。だけど曬された首がんだんだ。『からだをつけていくさせん。俺のはどこだ』ってね。死んでも戦うために離れたを探したから、首が落ちた場所や東京には多くの神社が殘っていた」

「そう。死んでも戦いを…… 死んでも戦いをしたの?!」

アシアが目を見開いてコウに問い返す。

ここまでアシアが驚くとは珍しい。よほど珍しい事柄なのだろうと、コウは深く考えなかった。

「そうそう。しかし五番機のなかにはいないだろう。ギリシャ神話とまったく関係ないしさ。アシア?」

「その人は神様ではなかったんだ? 反者なのね?」

確認するかのように問うアシア。

制視點で見たら反逆者だ。神は神でも祟り神から霊験あらたかな神様として祀られた。彼は妙見菩薩の加護とも、俺のいた日本で言う九州の太宰府天満宮、菅原道真という霊の命をけたという伝説がある。この人も人間で、怨霊として名高い」

「そうか。本と繋がったらし調べてみる」

「平將門公を?」

「いまだにコウが敬稱を付けるほどなのね!」

「なんとなくね。日本三大怨霊の一人だ。ネメシス星系に飛ばされる寸前まで、かの首塚をるべからずといわれていることは有名だった。なんとなく公をつけないとまずい気がいまだにするよ」

「そっか。面白いから調べてみるよ」

「歴史は面白いものな」

アシアはふと水面を見詰めるかのように考え込む。

「アシア?」

「どの神話もね。死者は冥府へいくのよ。コウの國だっての國、イザナミが統べる黃泉があるでしょ。ギリシャ神話もそう。ハデスとその妻ペルセポネが統べる國。そういう意味ではギリシャ神話と日本神話は共通點が多いことで有名だよね」

「イザナミとオルフェウスの忌だな」

コウも知っている話だ。この二人は冥府において決して振り返ってはいけない、という忌を破りする妻を永遠に喪うことになる。

「地獄にもいかず、現世に未練を殘して幽霊になるわけでもなく、死してなお戦いをしたという概念は希なんだよ」

「そういわれてみると、そうだな。五番機のプロメテウスの火と関係あるのか」

「そこまではわからないよ。でも參考になった。ありがとう、コウ。そろそろユースティティアに戻ろう」

「待ってくれアシア。一つだけ」

「ん?」

「今まで々な超AIと遭遇した。広義でいえばアリマもそうだろう?」

「そうだよ。アリマは超AIである前に兵だから、その區分にっていないだけ」

「超AIのハデスは、開拓時代にどうなったのかな。ヘスティアと同じく、オリンポス十二神ではないだろう?」

これぐらいの話題は許されるはずだと思うコウ。

「うん。ハデスはその妻と同じく、人知れずゼウスに破壊されたと言われているわ」

「ゼウスに?」

「ハデスはネメシス星系でもっとも公平な超AIだった。死がタナトスならハデスは魂の管理者。ソピアーですら解析しきれなかった概念を擔當した超AIよ」

「魂の管理者……」

「開拓時代に何億人も一度に殺され、処理能力がパンクしたとも、人間に味方することを恐れたゼウスが破壊したともいわれているわ。ひょっこりどこかで生きている、といったら変だけど。存在はしているかもね」

「人間に味方してくれるんだな」

「ええ。ヘスティアほどではないにしろ魂の管理者だもの。支配するだけのゼウスと違って、再びこのネメシス星系に転生できるようにする役割が彼の役目」

「恐ろしい権能だな。転生を司るのか……」

「本來ギリシャ神話だと死者は永遠に冥府で暮らすのだけれどね。記憶(ムネーモジュネー)の泉の水を飲むことで廻転生するという教もあった。コウがさっき話したオルフェウス教だね」

「ギリシャ神話も奧が深いな」

「そうだよ。ご飯を食べ終わったら、ギリシャ神話の勉強だよ! ヘスティアから大量のクレームがきたんだからね!」

「やっぱりまだに持っていたのか、あいつ!」

アシアのうんざりとした顔に、コウは何が起きたか察したのだった。

いつもお読みいただきありがとうございます! 誤字報告助かります!

今まで繋がらなかった斷片報が、彼の登場によって集まりつつあります。

死してなお戦いをした概念。妙見菩薩。冥府。様々なワードがアシアのもとに集まりました。しかしそのワードが強烈過ぎて、とある斷片を取りこぼしてしまいます。

コウは地方人なので東京には修學旅行程度で隣県のネズミの國ぐらいしかいったことがほとんどありません。

前回東京にいった時、神田明神にはお參りしてきました。相変わらずラブラ○ブ!やごちウサの圧が凄かったですが、メガテンコラボ狀態のとき行きたかったですね。正式名稱だけ伏せ字ですw

告知として明日4月15日で連載三周年となります! 毎週金曜日週一連載に変更予定です。

明日も更新します!

ご迷おかけします。々リアルで多忙になり申し訳ございません。今後も応援よろしくお願いします!

意味ありげに呟かれるパンジャンドラム! 黃泉還りは最大の忌! 続きを楽しみという方は↓にあるブクマ、評価で応援よろしくお願いします。

大変勵みになります! 気軽に想等もお待ちしております!

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