《ネメシス戦域の強襲巨兵【書籍六巻本日発売!】》映像(絵)にならない宇宙戦爭

「おはよー! イェルド。よく眠れたかな?」

イェルドは今まで使ったことがない、快適なベッドで一夜を過ごした。

目を覚まし朝食を摂りにいったところ、ヘスティアと遭遇した。

「どうしたんですか! その格好は!」

ヘスティアの雰囲気ががらりと変わっていた。

顔立ちはそのままながらも、髪が赤髪から黒髪に。ウェーブがかった髪型はぱっつんストレートに。

何より服裝が異様だった。雰囲気としては転移者由來のものだろうとなんとなくわかる。

「これね。ブレザーっていうの! ネクタイいいでしょ!」

ネクタイという謎の長い布を手に持ち、イェルドに見せつけるヘスティア。

「いえ。その格好の理由というか。昨日のお姿でも十分おしいのに!」

「もう! イェルドったら! 言葉が上手ね! 私をおだてても今はレーションしかないよ?」

「そうではなく!」

朗らかに笑うヘスティア。

「まああの姿だと私がヘスティアだってすぐばれるからさ。変裝の一種。みんなの前ではバーンって呼んでね」

「わかりました」

イェルドには高名なヘスティアが正を隠す理由がよくわからない。

々あるの! あなたの服はテーブルに置いてあるから!」

「え? ありがとうございます?」

ヘスティアに指定された部屋に行き、朝食を食べ終えるとブレザーなる服に著替えさせられるイェルド。

ネクタイがどうしても結べない。地球の文化はよく理解できない。

「これ面倒だよねー。私が結んであげる!」

「ヘスティア様にご迷を……」

「いいからいいから」

ヘスティアは用にウィンザーノット式でイェルドのネクタイを結びつける。姉のような優しさにに打ち震えるイェルド。

死ぬ気でネクタイの結び方を覚えようと誓う。

後日。同じような孤児たちにワンタッチネクタイが支給され、彼が愕然とするとはこの時點では知る由もなかった。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「早速で悪いけどイェルド。危険な任務についてもらう。最初の住人にこんなことをお願いするなんて気が引けるんだけどね……」

「なんでもやりますよ。ヘスティア様の敵を全員倒せばいいのですか?」

「違うよ?! そんな騒な任務ではないから安心して」

イェルドの返答にむしろ驚くヘスティア。

「ついてきて」

ヘスティアに連れられた先は、巨大な人工島だった。

「このなかに保存用として開拓時代の兵が置いてある。そのなかから一つ君に預ける」

「開拓時代って! 星開拓時代、神話の時代じゃないですか! そんな時代の兵などぼくなんかに!」

「そうねー。持ち逃げされたら困るかな? でもキミはそんなことしないよね」

「誓ってしません!」

「だよね! じゃあ説明するね!」

ヘスティアに連れられて人工島地下にるイェルド。

エレベーターに乗り目的の區畫に到著した。

奇妙な形狀のものがたくさん並んでいる。

のワーカーだけは多かった。

「これらの兵はシルエット誕生前に使われた戦闘兵。戦車や戦闘機みたいな區分は難しいね。宇宙も海底もいけるから」

「この二メートルもない球もですか?」

漆黒の球が鎮座している。兵には見えない。

「ああ。うん。それが現在でいう裝甲車の類いかな」

「裝甲車! 人乗れるんですね。武もないです」

「人間は余裕だよ。兵としての被弾面積は最小。かつ學兵に対抗するために丸い玉。反重力ではなく重力を遮斷して軽減、磁気とプラズマで推進するの。武はプラズマを発生させ指向を持たせてぶっ放すだけだね。雷発生裝置だと思っていいよ」

「なんだかよくわからないけど、とんでもない兵ですよ…… あの針みたいなものも兵ですか?」

もう一つは六メートルサイズの針としか言えない円錐のだった。オブジェにしか見えず、兵にはまずみえない。球もそうだが、こちらにも砲口らしきものはなかった。

「あれが戦闘機にあたるのかな? レーザー対策であんな形狀だね。弱點は側面だけどくるっと方向転換可能だから」

「回転したらまず側面取れないんじゃ」

「そうだよ。だから無音の宇宙に、あの黒い球と銀の針が音のない世界で目に見えない周波數のレーザーを撃ち合う。それが開拓時代におけるシルエット登場前の戦闘兵。レーザーまで弾くからもう熱で溶解させるか質を速近くまで加速させる子魚雷ぐらいしかなかった。子魚雷は主に宇宙戦艦で使用されていたよ」

「宇宙ですか。昔は宇宙まで戦場だったんですね」

「現在はオケアノスによって止だね。すぐ宇宙で迷子になるし。秒速20キロを超える速度で飛び回る戦闘兵を見失わないようにするために生まれた技がトラクタービームなの」

「そんな速度で戦場を飛び回っていたらあっという間に母艦から離れそうですね」

「宇宙艦に紐付けるためね。衛星にちなんでオービットウェポンと呼稱されていたよ。宇宙艦の周りを衛星のようにぐるぐる飛び回るからね。今思えばシュールだったな」

「戦爭にロマンを求めるわけではありませんが…… 映像(え)にはなりませんね」

球と針だけが宇宙艦の回りを飛び回り、無音の世界で不可視のレーザーを撃ち合う宇宙戦爭。

イェルドの指摘通り映像向きではないだろう。

「そうなんだよねー。映畫で宇宙戦爭を完全再現しても興行的にヒットしなかったねー。ムダを排することは大切だけど限度があるだろうってアフロディーテちゃんやアポロン君、ムーサちゃんはヘパイトス君に猛抗議してたな」

もう一柱だけヘパイトスのシンプルさを追求した兵設計思想に猛抗議していた超AIがいたが、ヘスティアが名前を出すことはなかった。

「なんていうか。機能なんでしょうが…… 無機質過ぎてワーカーのほうがいいなって」

針と球に命は預けたくないなと思うイェルドであった。

「それな! 當時から言われてたんだよね。シルエットが広まった理由の一つだと思っている。デコれるからね。実際宇宙戦闘ではフェンネルによってレーザーも可視化されるし音もつく。やはり人間には必要な要素なんだよね」

「でもこれらの兵に対してシルエットなんて勝ち目がないのでは? とくに宇宙では」

丸い玉と針型兵に、人型兵が勝てるとは思えなかい。

形狀の被弾面積が段違いであるし、効率を追求しすぎた戦爭兵には勝ち目があるとは思えなかった。

「そうでもないよ。ワーカーには搭載していないけど、當時はWDMという凝したプラズマで球と針をぶった切るって手段があって、案外強かったんだ。アテナちゃんやハデス君が用してたね」

「WDM?」

「赤矮星の中心ぐらいほどの超高溫と超圧力をかけると質は金屬のままプラズマ狀態を維持する質の相、かな。プラズマと金屬の中間だね。合金もWDMになるんだよ。宇宙は真空なので熱が逃げないから威力は絶大だね」

「超高熱と金屬の質量を持つプラズマみたいなもの……?」

「赤矮星ネメシスの表面溫度を優に超える溫度だよ。數萬度の金屬塊。開拓時代ではシルエットだけがこの裝備を扱えた。記録だと星間戦爭時代にも星リュビアで大怪獣相手に使われた形跡があるんだけど、私は寢てたからなぁ」

「大怪獣ってなんですか!」

「ああ! ごめん。それは知らないほうがいいの!」

「わかりました。聞きません」

慌てるヘスティア。つい口走ってしまったのだろう。気になる響きではあるが、質問は自粛した。

ヘスティアの説明をけながら歩くイェルド。目的のものに到著したらしいヘスティアが歩みを止める。

「これ!」

「おお! 普通だ!」

驚きの聲をあげるイェルド。針型や球狀兵に見慣れると斬新に映る。

目の前にある。それは裝甲車らしき箱狀のものだった。

この箱狀のものだけは、複數あるようで似たような形狀の乗りが並んでいる。

「タイヤは昨日突貫して取り付けた飾りだから気にしないで。これは兵員輸送車。イェルドにはパイロクロア大陸を巡り孤児たちの意思を確認して、ここへ連れてきてしい。負傷者、年齢、別は問わない。キミが助けたいと思った人を連れてきて」

「孤児を集める?」

「ここで保護するの。武裝勢力に襲われたりした場合や急時は強引につれてきてもいいよ。あとでちゃんと返せばいい。その子達の教育次第で、この場所にある輸送車を使ってもっとみんなを保護できる」

「はい! たくさん助けます! ヘスティア様は慈に満ちた神ですね」

「そうじゃない。そうじゃないけど…… 私は無力なAIだよ。だけどね。助けたい人は助けるつもり。大目標は戦爭の被害者そのものを救済かな。孤児はその代表。兵士だって戦いたくない人たちもいるでしょう。でも今は余裕がないから子供を優先するだけ」

ヘスティアがため息をついた。自が全能ならすぐにすべての者を救えるだろう。しかし爐床の神をモチーフにした超AIにそんな権能はないのだ。

「欠點はMCSではないことかな。対話形式で運転可能だから、問題はないと思う。一人でも多くの困っている子供を連れてきてあげて。誰を助けるべきか。選別まで任せることは心苦しいけど、自分の境遇を思い出して。その経験を基準にして」

イェルドははっとした。確かにあの時の自分と同じような境遇なら助けたいだろう。子供でも頼れる大人がいる場合は、彼らに任せたほうがいい。保護者のもとに帰りたいなら、降ろせばいいだけなのだ。

「できるところ、からですね。お任せください! 一人でも多くの子供たちを連れてきます!」

罠だとは思わなかった。死寸前の彼は救われ、大役を擔ったのだ。

「これなら子供次第で三十人程度搭乗できるはず。空っぽだからね。居心地は悪いけど、かっ飛ばして帰ってきて」

「はい!」

「うん。頼んだよイェルド。でも決して無茶はしないでね!」

「わかりました」

この裝甲車も外部から人間をトラクタービームで乗車可能。地上でマッハ3以上の速度を出せ空中も水中も移し、戦車砲に傷一つ付かないなど超兵である。

現行兵とは比較にならない桁外れの能を誇っていたが、今のイェルドは知る由もなかった。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

あの日を境に家族(オイコス)は増え、イェルドは今ワーカーに搭乗し地下試合に挑んでいる。

地下試合におけるヘスティアの狙い。――願いを知っているからだ。

「早く出てくれよ。このワーカー程度軽くねじ伏せる猛者がさ。そうでなければ奴ら相手に戦爭だなんて無理なんだから」

彼は今日も地下闘技場の敵として、挑戦者に立ちはだかる。

ヘスティアがむだけの力を持つ者たちが、いずれこの場所に辿り著く日まで。

いつもお読みいただきありがとうございます! 誤字報告助かります!

今回は開拓時代の『リアルな宇宙戦爭』の一端を公開しました。超技で機能を追求し、球と針は最適化の果て。すぎると素っ気ないというか。やはり絵と音は重要ですね。

某國民的ロボットアニメもコックピットで音とを再現しているといいますし、映畫版のマク○スにいたっては『史実をもとにした映畫』なので宇宙艦の艦橋に著地してっても火花が散り、ミサイルは白煙をあげるという設定です。

宇宙と表現に関しては大昔からある有名な問題でご存じの方も多いと思います。過去に々な論爭がありました。

ガン○ムセンチネルでも「人型兵は非効率だしありえない。効率を追求したら球狀になるだろうし箱でもヒーローは出せる。縦している機械でビームなんか回避なんかできない」というクレームがあったそうですが、「そんな語をみたいと思いますか。ガン○ムという世界に則り書いています」みたいな回答でした。

大気大事ですね。音も熱も白煙も大気ゆえです。

個人的にですが『リアルよりリアリティ』が重要で『私の宇宙には音があります』の神が大事なのかなと思っています。無知の知を理由にしてはいけないと思いますが、理解してなお人型である意味にリアリティを出せたらいいですね。

お知らせです!

ネメシス戦域も一巻単巻千冊突破、シリーズ累計三千冊を突破しました(筆者調べ)。

これは書店に並ばない電子書籍およびPODのみでは快挙だと個人的に思っております。

小山英二先生、あのん先生、マグマスタジオ様、いずみノベルス編集部、何よりこの作品を応援してくれた読者様購者様、誤字報告してくれる方々にご報告とともに深く禮申し上げます!

本當にありがとうございました!

セール報です!

GWが始まって各社一斉にセールが始まりました。ご利用の電子書籍サイトのセールを活用していただければと思います。

詳細は活報告に掲載しています!

レーザー可視化は大事! 作者はネクタイ結ぶの苦手! 続きを楽しみという方は↓にあるブクマ、評価で応援よろしくお願いします。

大変勵みになります! 気軽に想等もお待ちしております!

    人が読んでいる<ネメシス戦域の強襲巨兵【書籍六巻本日発売!】>
      クローズメッセージ
      あなたも好きかも
      以下のインストール済みアプリから「楽しむ小説」にアクセスできます
      サインアップのための5800コイン、毎日580コイン。
      最もホットな小説を時間内に更新してください! プッシュして読むために購読してください! 大規模な図書館からの正確な推薦!
      2 次にタップします【ホーム画面に追加】
      1クリックしてください