《ネメシス戦域の強襲巨兵【書籍六巻本日発売!】》ヘスティアの試練

海中を進む巨大な軍艦。ネメシス星系唯一の【パンジャンドラムキャリアー】エイレネである。艦種を機工廠プラットホームには戻していない。

エイレネ部にある戦闘指揮所の構築技士たちだ。艦長席にはアベルが座っていた。

「バーン殿に導されてここまできましたが、水中からの港は安全ですな」

『トラクタービームで導されているから楽ねー』

アベルは名だたるA級構築技士たちに譲ろうとしたのだが、メンバー全員に斷固として固辭されてしまったのだ。事実上の拒否である。

仕方なく仮面を被ってマルジンと名乗ることにしている。

「あの建造…… 巨大すぎる何か。あれはいったいなんでしょう? あれが港とは思えませんが」

海中に映し出された巨大な建造に、アベルが眉をひそめる。

導先はあの場所ね。宇宙居留地船【ブリタニオン】じゃない! ラグランジュポイントに存在する超巨大スペースコロニーだよ! 私だってったことはない。なんで星アシアにアレ(、 、 )があるの?』

エイレネは即座に巨大建造の正を看破する。

「つまりコウ君やヒョウエさんを呼び出し我々を招待したバーンなる者は、このI908要塞エリアの主はアシアに匹敵する超AIの可能があるということだね」

ウンランがバーンの正を推測する。これほどの建造を管理する存在は限定されるはずだ。エイレネならば絞り込んでいるだろう。

『バーンという名前にブリタニオン。これは古代ギリシャに連なる建築。祭神は――オリンポス十二神であった爐床の神ヘスティアだと思う』

「であった? 過去形ですか」

疑問に思ったクルトがエイレネに確認する。

『オリンポス十二神に倣って作された超AIですよ。そののちギリシャ神話同様、その座をディオニソスに譲ったのね。その後行方不明になったと聞いているんだけど。って。導先、【ブリタニオン】部になっているよアベル! どうしよう。いっちゃう?』

「面白そうですね。問題ありません。行きましょう」

『そうね!』

二人のやりとりについていけないA級構築技士たち。ケリーだけは愉快そうに笑うだけだ。

「行っとけ行っとけ。俺達はオリンポス十二神レベルの超AIの懐にいるんだ。どのみち何をしたって相手の思うがままさ」

「ケリー氏の言う通りですね。我々は特等席に案されたとみるべきでしょう。懐にれて貰えるんですから」

ケリーとアベルの會話に、生真面目なクルトとウンランが渋面を作る。この二人――否、三人はノリで事を進めすぎるのだ。

『バーンの招待狀には構築技士に見せたいものがある、と。そして指定艦は私。シンパシー的なものかな? ヘスティアとエイレネは平和の象徴。ローマ神話ではウェスタとパークスは國の礎ともされる中心的神だった』

「ヘスティアにコスプレ趣味はないでしょうな」

『アベルー。今それ言う?』

普段二人がどんな會話をしているか、まったく読めない他の構築技師達であった。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

構築技士たちはエイレネ艦からワーカーとレイヴンの戦いを視聴している。

バーンによる中継生放送だ。

「I908要塞エリアは謎だらけだが…… 一番の謎はあのワーカーだ! なんだありゃ! 荷電粒子砲が撃てるほどのエネルギーを確保できるワーカー? エイレネ! 何か知らないのか!」

ケリーの常識を覆すワーカーの戦闘力だった。外観は今のネメシス星系に存在するワーカーとほぼ同じにも関わらず、桁違いの能を誇っている。

『おそらくだけど、あのワーカーは星開拓時代のもの、姉さんに聞けば何かわかるけど、通信が遮斷されているね』

悔しげなエイレネ。何せ姉妹艦とすら連絡が取れないのだ。

「コウたちが星リュビアで戦った幻想兵並みの裝甲か?」

ケリーが唸る。彼の友人であるスカンクよりも古いシルエットなのだろう。

星開拓時代――今は喪われた歴史。最初期のワーカーかな。私はかなり後に作られたから、本當に年代だよ』

「ワーカーでも荷電粒子砲が撃てたんですね」

コウが星リュビアから持ち帰った學部品の數々により、艦載砲としての荷電粒子砲は再現可能となった。

しかしシルエットサイズは困難を極め、道筋は立っていない。

「あれとどう戦う? いや、バーンが見せたいものは本當にあのワーカーなんだろうか」

ウンランがつぶさに観察する。

確かにワーカーの戦闘力は絶大だ。しかし、星開拓時代のワーカーを見せたいだけとはどうしても思えなかったのだ。

「あのワーカー以上のものがあると? 地下試合とはいえ競技だぞ?」

「骨董品どころかオーパーツだからね。あれが群れをなせるほどあるとも思えない。何かあるはずなんだ」

ケリーは眼前のワーカー以上のものが存在するとは思いたくない。

現在の技では太刀打ちできないものだからだ。

ウンランの視點は違う。あのワーカーが脅威とは言え、競技程度にしか使われていないという事実に著目している。

もしあのワーカーが百機あれば、多くの要塞エリアを手中の納めることも可能だろう。つまり競技場でしか活躍させることができないのだ。

「何があるのでしょう。その先は…… コウ君とヒョウエさんの活躍次第というところでしょうか」

クルトも同様だ。クルトの視點もまた違う。

一対一で倒せるか。剣で倒せるか、だ。レイヴンの善戦をみるにフラフナグズとの絶的な戦力差はないと見ている。

「しかし悔しい。私も仮面を被ってコウ君たちの前に立ちはだかりたいぐらいですよ」

苦笑まじりにぼやくクルト。そういうクルトの目は笑っていなかった。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

コウたちもまたアストライア艦で試合を観戦し、分析している。

決著がついたところだった。

「あのレイヴン。破産寸前になるのでは」

I908要塞エリアの価を聞いているアキが、思わず憐憫の瞳を向ける。

大破したレイヴンの修理は莫大な額だろう。

「それが決勝リーグでは、機修理費用は補填されるらしい。収支的にはちょいとプラスになる程度だったかな」

「じゃああのレイヴンより、コウたちにパンジャンドラムを放ったチームのほうが大損ということですか?」

「そうなる」

コウの回答に、憐憫の対象がパンジャンドラムチームへ移るアキ。

「パンジャンドラムなんか使うから……」

「一か八かにしても無謀すぎるにゃ」

にゃん汰も同意する。対艦ミサイルでも用意すればよかったのだ。

「アレはどうでもいいとして、あのワーカーにゃ。裝甲筋が荷電粒子砲対策になっているから、今から新たな追加裝甲を構築しても厳しいかにゃ?」

「レイヴンであそこまで薄可能なら、五番機なら追加裝甲がない高機型でも斬り倒すことも容易でしょう。ワーカー裝甲に対してもDライフルも通常兵よりは有効なはずです」

にゃん汰とアキの二人もまた、五番機を基準で考える。

次の対戦相手はコウたちなのだ。

「それでも念には念をれてCX型のような追加裝甲を構築するかにゃ?」

CX型はウーティスとして偽裝した五番機の対アンティーク用裝備だ。

「いや、必要ない。むしろそういう特殊裝備を作ってはいけない気がするんだよ」

コウが頭を振り否定する。新たに追加裝甲を構築するという発想に強い違和を覚えたのだ。

「卑怯な気がする?」

アシアのエメが真意を測りかねている。

「そうではないな。新たな裝備を構築することで勝率を上げることは可能だろう。だけど、あのワーカーは俺達が挑戦するべき目標として設定されている気がする」

『完全に勝てない相手なら興行として立しません。機工廠プラットホームとコウの権限を知っているヘスティアにとって、コウと五番機しか勝てない相手を設定する理由はありませんね』

「俺が持つ環境しか勝てないようなものなら、最初から賭試合なんかに參加させないと思うんだ。今回のチームもヘスティアにとって想定外だったらしいし」

『ヒョウエはともかくバルドですからね。私も想定外でした』

「そこは私も思った」

ブルーや他のクルーも同様の想だったようだ。

バルドとの割り切りはうまく説明しづらいものがある。別に憎み合っているわけではないからコウにとってはありだったのだが、他のクルーにとっては苦渋を飲まされた敵という印象しかないようだ。

「そんな流れだったからな」

コウはそう弁明することがやっとのことであった。

いつもお読みいただきありがとうございます! 誤字報告助かります!

A級構築技士たちもI908要塞エリアに到著しました。ヘスティアの企み事も予定通りといったところでしょうか。

やはり生真面目な構築技士はエイレネと相が悪いですね。

そしてパンジャンドラムチームが思ったより悲慘な狀況ということだ判明しました(どうでもいい報)。しばらくバルドのおごりである英國料理漬けですね! マーマイト漬けの日々です!

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