《ネメシス戦域の強襲巨兵【書籍六巻本日発売!】》錯疑
コウと兵衛はバルドのもとへ戻り、ワーカー戦対策を話し合った。
「俺はお前らと違って移拠點なんかないからな。今の機でいくさ」
「俺たちもだよ。ワーカー相手に改修なんざできるかっての」
兵衛の言う通り、裝甲材は違えどやはりワーカーである。
対策したところで違反ではないが、彼らの矜持がそれを許さない。
「対策があるっていってたな。コウ君」
「おい。俺にも聞かせろ」
兵衛に話を振られたコウは頷き、対ワーカー戦を話すことにした。
「対策ってほど立派なものではないんですが。あのワーカーは既存のシルエットと比べても相當重いはず。未知の裝甲材質ですが、見た目より質量があるんです」
「ん? どんなに重くても30トンは切るだろ?」
バルドも構築技士のはしくれ。シルエットのスペックは頭に叩き込んでいる。
「戦闘用ではないにしろ、おそらく倍はあるんじゃないか。60トンはあると見ている」
「なんでえ。裝甲材質にタンタルかレニウムを使っているのかってレベルだな」
「より安価で、それらの質以上の裝甲材ということです。似たような兵はいくつか見たことがあるので」
幻想兵戦ではアーサーとウリエルの戦いを間近で観戦しており、コウ自ヨナルデパズトーリを倒している。
ウリエルは圧倒的なウェイト差によって敗北したともいえる。
「剣、剣道でも長差や重は影響する。格が大きいほど有利。戦車だって技格差なく同水準の技なら重量があるほうが裝甲は厚い」
「お前らの母國はよく剛を制すっていうじゃねえか。道だっけ」
兵衛に対抗するためとはいえ、もはや日本の武マニアと化しているバルドである。
「よく知っているなバルド君。しかしその続きもちゃんとあってな。剛よくを斷つ、って続いているのさ。実際ウェイト差があるからこそ道でも階級はある。無差別級で小柄なヤツはまあ例外中の例外だな」
「そこらへんはヴァーシャが達人だと思うが……」
システマを使うヴァーシャは格闘技への理解は誰よりも高いだろう。
「とはいっても格闘技じゃないからな。シルエット戦は」
「俺はシルエットに似た兵同士の戦いに巻き込まれてな。DDTを使おうとした機が相手の機に浮落(うきおとし)で返されて倒されるのをこの目でみたよ」
「DDTってプロレス技じゃねえか! 浮落は道だろ? コウ。お前、パンジャンドラムの作りすぎで悪い夢でも見たんじゃないのか?」
コウが錯したかと本気で疑うバルド。苦笑で返すしかないコウであった。
「俺もそう思う。何か悪い夢だったんじゃないかなとね」
巨大艦の幻想兵がキャメルクラッチを仕掛けたなどと説明する気は起きない。
それこそ錯疑が強まるだろう。
「俺だって聞いたときはにわかに信じがたい話だったからなぁ……」
「しかしバルドがいった通りだ。シルエット戦は格闘技戦ではない。相手は作業機で武としてのチェーンソーは取り回しも悪い。基礎技や重量差があるとはいえ、俺たちは戦闘用に特化されたシルエット。そこに勝機がある」
「なあコウ。あのワーカーもどきとは戦ったんだろ? てめえらのDライフルは有効なのか?」
「あまり有効ではないだろうな。斬撃も同様だ。しかし衝撃は殺せないといえばわかるか? そしてワーカーの基本設計は変わっていない。外裝厚もね」
「おう。そういうことか。々なパターンが考えられるな」
「確かに対策はいくつか考えられるぜ」
各々が現在の機を用いてのワーカー対策を考える。
コウの語った容には、攻略のヒントが隠されている。
「おっといけねえ。コウ。すまねえな。ヴァーシャに報告せねばならん案件だ」
「別に大した話はしていない。大丈夫だ。通信なんて可能なのか?」
「バーンの検閲をけたメールなら、ストーンズにも送付可能だ」
「検閲はあるんだな。どこが削除されたか不明な點が恐ろしい。ワーカーの件は?」
どのみち特異なワーカーは事前に戦ったことがあるバルドから報告がいっているはずである。
「當然送ったさ」
「検閲されてないといいな」
「そういうことか!」
開拓時代に連なるワーカーの話など、バーンが許すはずもない。
「まずいな」
「連れ戻されるか」
「違う。――ここへまた來る可能が高い」
「うん。そいつぁんな意味でまずいな」
兵衛が思わず苦笑いだ。
ヴァーシャまで來たら一大決戦が始まりかねない。
「バーンがなんとかしてくれることを祈ろう」
コウもそう返答することがやっとであった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「休暇願い? どういうことだヴァーシャ」
ヴァーシャからけ取った休暇願いを怪訝に思うヘルメス。
なくとも彼と違って人生を謳歌するタイプではない。休暇願いといっても構築に関することだろうと思う。
「I908要塞エリアから再び招待狀が屆きました。アシアの騎士以外にもA級構築技士が集結しているとのことです。私も行かねばなりません」
「君が行く必要もないだろう。バルドと言ったっけ? どういった理由かは知らないがアシアの騎士とTAKABAの會長とチームを組んでいるんだろ」
そんなことで怒るようなヘルメスではない。むしろそのレポートに躍らせている張本人である。
「そこなんです。バルドからシステマの理を概要でいいので教わりたいと」
「君の格闘か。半神半人のポリュデウケスなら理解するところだろうが。ところで何故シルエットにシステマが必要なんだ? 君が使うならともかくバルドまで」
スフェーン大陸を掌握した半神半人のポリュデウケスは格闘に長けているB級構築技士のであった。
ヘルメス自もの補正もあって格闘は達人の域に達する。
「アシアの騎士によるとシルエットに似た兵が格闘技を使ったという話がでたそうで」
バルドが記載可能なことはここまでだ。DDTという意味深な言葉が一言だけ書かれていた。シルエットが使って良い技ではない。
システマを修めるとしては聞き捨てならぬ報だ。コウとの接も検討しなければならない重大案件である。
もしこの事実をヴァーシャに隠そうものなら、バルドが理的に殺されかねない。格闘に関してだけは詳細なレポートを提出していた。
「格闘技の三要素。打つ、投げる、極める。シルエットで行う必要があるとも思えないけどね」
「必要な事態もあったようですね。バーンからはエキシビションマッチでアシアの騎士との試合をセッティングしたとか。當然參加します。これは私闘になりますので、休暇をいただきたいのです」
「そうか。バーンか。だいたい正は察しがついてきたよ。ぼくも行こうかな」
「……それは駄目です! 半神半人のシステムを運用しているヘルメス様は、処理能力が著しく悪化します!」
「戦闘をしにいくわけじゃない。このがあれば十分さ。コンサートを開きたいんだ。もちろんトライレームとことを構えることはないし、偽名を使うよ」
真剣な目でヴァーシャを見詰めるヘルメス。
――ヘルメス様は本気だ。
ヴァーシャの背筋に戦慄が走る。
「しかし、名目が……」
「君の応援楽団ということでどうだろう。専屬バンドだ!」
「駄目です」
「君もそういうところでは頑固だな! いいじゃないか! 知っているよ。フェアリー・ブルーがコンサートするんだって! ぼくだってやりたい!」
だだをこね始めるヘルメス。
「……どこからその報を……」
くようなヴァーシャ。隠したかった事項の一つだ。
「ぼくが諜報系の超AIだってことを忘れていないか?」
呆れるようなヘルメスであった。
「失言でした」
「気にすることはない。しかし、さすがにI908要塞エリアの略奪者に関しては報も集まってきた。名前からしてどうして気付かなかったのか。あれはヘスティアだな」
「ヘスティア? オリンポス十二神であったというヘスティアですか」
「ネメシス星系でも元、だよ。爐床の神であり、英語にするとBurnという意味だ。ぼくとも多因縁はある。脅威ではないけどね」
「脅威ではないという意味は? 我らからI908要塞エリアを強奪した手腕は優れていると思いますが」
「モチーフとなった神に戦闘の逸話が一切ないからね。戦闘能力が皆無なんだよ。人知れず場所を奪うことがせいぜいだ。場の神ではあるからね」
「そういうことですか」
「というわけでぼくも行くよ! これでも構築技士なんだ。資格はあるだろう?」
「理由になっていません。おやめください!」
萬が一アシアとばったり出會おうものなら一即発どころではない。
ヴァーシャは必死になってヘルメスを引き留めるのだった。
いつもお読みいただきありがとうございます! 誤字報告助かります!
ネメシス戦域の強襲巨兵⑤『アシア大戦後篇・都市殲滅侵攻に決死の徹底抗戦!』が本日発売です! よろしくお願いします!
今回は執筆の合間にどのような活をしていたか後書きにて片鱗が見えるようになっております。
すぐにお仕事に繋がるわけではありませんがんな方のお話を伺って貴重な験でした。
ヒロインはアキとにゃん汰! あのん先生のフルカラーデザイン畫は必見です!
星リュビアでの出來事が所々絡みつつ、決勝トーナメントは進んでいきます。
果たして勝算は……!
ガン○ムゲーだと意外と投げがある! 新刊は々あって死にそうでした! 続きを楽しみという方は↓にあるブクマ、評価で応援よろしくお願いします。
大変勵みになります! 気軽に想等もお待ちしております!
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