《ネメシス戦域の強襲巨兵【書籍六巻本日発売!】》暗黙の了解

決勝トーナメント二回戦が始まろうとしている。

とはいっても予選リーグを勝ち抜いた者はコウたち三人のみ。バーンが手配した相手と対戦することになっている。

『イェルド。みんなの代表だからって無理しちゃ駄目よ。危ないと思ったらすぐに降參しなさい』

「このワーカーをもってしても、それほどの相手なのですか?」

『そうだよ。ウーティスはこの絶的な狀況でアシアを救出した英雄。殘り二人もアシア大戦の最前線で実戦をくぐりぬけた猛者揃い。を借りる気持ちでいきなさい。あなたは今回に限ってはチャレンジャーです!』

「はい!」

現行のシルエットがこの星開拓時代に製造されたワーカーと勝負になるはずがないとは思うイェルドだったが、ヘスティアの言葉で思い直す。

ヘスティアが本気で心配している。それほどの手練れだ。

三機のシルエット相手にイェルドのワーカー一機のみ。

「おや?」

目の前に頭部が初期型のラニウスが進め出た。

殘り二機は黙って下がっている。

「三対一でも構いませんよ」

イェルドは思わず呼びかけた。一騎打ちではさすがに勝負にならないだろうと踏んだのだ。

「暗黙の了解ってヤツだ。三対一はさすがに、な。剣士の矜持みたいなもんさ。順番は……実戦経験順ってところか」

コウが回答する。後ろ二人は無言だ。自然とそうなった。

「剣士の矜持、ですか。なるほど。でもそれで不利になったら元も子もないかと」

戦闘で矜持は何かの役に立つのだろうか、とさえ思う。

孤児達は縋るものもなく、死んでいった。

イェルドはいまだにあの時じた無力を覚えている。

コウの頬が緩んだ。イェルドの言いたいこともわかるのだ。

「不利かどうかはやってみないとわからないさ」

コウが言い終えた時、試合開始の合図が鳴り響く。

ワーカーがライフルを構え、照準を定めようとしたときにはすでに視界の中に五番機はいなかった。

イェルドはレーダーに目をやると、五番機に移した形跡はない。

高度計がすかさず表示され、空を示す。

「上か!」

垂直に飛ぶとは思わなかったイェルドが搭乗するワーカーは上空に視界を向ける。

しかし空にも五番機の姿はなかった。

「どこだ?」

高度計に再び目をやると、地表にいる。五番機が急速接近していることがわかる。

しかし戦闘用ではないワーカーのレーダー。座標のズレが大きい。位置修正が間に合っていないのだ。

正面を見據えても、視界にはいない。

「もう近付いているのか」

アラームが鳴り響く。ワーカーのちょうど10時の方向から高速に3時の方向に移していた。スラロームのように近付いてきている。

「そういうことか! ワーカーでは無くぼくを欺いたと!」

五番機は地を這う戦闘機のように、うつ伏せのような姿勢で高速移をしていたのだ。

「兵は詭道なり、ってね」

コウはイェルドの驚愕を楽しむかのように薄く笑う。

「はん。コウのヤツてめえの戦い方に似てきたんじゃねえか」

バルドもこの展開には痛快だったようだ。軽口を兵衛に叩く。

「二天一流は教えていないんだがな」

場慣れゆえの応用であろう。兵衛はコウの長を心喜んでいた。

「疾(はや)い! これがアシアの騎士か!」

ようやくワーカーは荷電粒子砲を発砲する。

著弾地點にはすでに五番機はいない。腕部のきが五番機についていけなかったのだ。裝甲筋のシルエットならいざしらず、構造ではワーカー同様。

銃で狙いを付け照準に定めて放つという作(モーション)が最適化されていないのだ。

「しかし、裝甲の差がッ!」

イェルドは荷電粒子砲を手放さない。パワーカッターに裝備を変更する時間はない。

地を這うような低空飛行で加速する五番機。ようやく荷電粒子砲のビームを直撃させることができたが、電磁裝甲が反応し威力が削がれる。

「なッ」

睨み付けるように頭部をワーカーに向け迫る五番機に、減速する気配はない。

左肩部をワーカーに向けると、ワーカーの両腳に突進し當たりした。

超音速に達した當たり。その程度でワーカーは傷つきはしないが、衝撃までは殺せない。

足元をすくわれ、前のめりに転倒するワーカー。作業用シルエットであるがゆえに、起き上がるためには時間がかかる。作業用機械に即時立ち上がりの機能など必要ないのだ。

「しまった」

コウの意図に気付いた時はもう遅い。

背面部に刀の切っ先が突きつけられていた。背部はリアクターにもっとも近い部位。戦闘用シルエットでも明確な弱點である。

勝負は決したのだ。

「二腳は不安定だよな」

コウがイェルドに笑いかける。

「……降參です。裝甲がいくら厚くても。重量があっても――接地面積が限られる二本足で踏ん張ることなどできません」

年の瞳には、コウに対する尊敬の念が浮かんでいた。

『勝負あり! 勝者はエンプティです!』

試合終了の合図とともに、バーンの聲が會場に響き渡った。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「勉強になりました。バーン様」

敗者らしく大人しくトラクタービームで牽引されるワーカー。

イェルドは試合前にヘスティアの言葉であるを借りるつもりで、という言葉の意味をしみじみと噛みしめていた。

『彼はずっと構築していたからね。裝甲筋採用シルエットは剣機ともいうべき設計なの。幹、安定を重視している。自機の利點を活かし、ワーカーの欠點を突いたといったところ。さすがアシアの騎士ね』

「ふがいなく申し訳ありません」

『大丈夫だよ。あんな奇襲が可能なパイロットなどそういません。今この場でいる人間はそれこそ彼と殘り二人ぐらいなもの。あとは百人斬りの彼かな』

「ヴァーシャさんですか」

ヴァーシャは禮儀正しく、年たちも好を抱いていた。

ストーンズは幹部階級ほど禮儀正しいものが多い。傭兵など外部に屬する人間は人間社會を追放された者が多いので荒くれ者だらけだ。バルドなどその代表であろう。

「彼も招待に応じてくれたわ。世紀のエキシビションマッチが立ね! でも問題が一つ発生したわ。あとで話すね」

「はい。わかりました」

このシェルターにおけるヘスティアの権限は絶大。彼のいう問題とは外的なものだろう。

ヘスティアと通信を遮斷し、イェルドは天を仰いで聲もなく笑いながら呟いた。

「あーあ。やっぱり悔しいなあ」

――強くなろう。ヘスティアや他のオイコスのために。

強い決意で誓うのだった。

いつもお読みいただきありがとうございます! 誤字報告助かります!

ネメシス戦域の強襲巨兵⑤『アシア大戦後篇・都市殲滅侵攻に決死の徹底抗戦!』が皆様のご支援のおかげで、発売翌日にBOOKWALKERの新文蕓ジャンル日間一位になりました。

日間とはいえ異世界ファンタジー主流の新文蕓(大判)でSFロボットという作品で一位を取れたこと大変嬉しく思います。

BWでは週間でも22位と高順位、hontoのSF1位、Kindleでは新作ライトノベル33位、常時50位前後で五番機が闘しています!

ご購いただいた皆様に禮申し上げます! 完結編も頑張らねば!

イェルド年は敗北しました。

年兵からみたエースはどう映るのか。書いてて楽しかったです。

次はいよいよ奴らの出番?

スライディングも選択肢にあった! 蹴られても速度がある分五番機が勝っていました! 続きを楽しみという方は↓にあるブクマ、評価で応援よろしくお願いします。

大変勵みになります! 気軽に想等もお待ちしております!

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