《ネメシス戦域の強襲巨兵【書籍六巻本日発売!】》殺せない理由

2022/06/16 文章修正

集まった構築技士たちはコウの試合分析を始めている。

「Dライフルはまったく無力だったわけではないのか」

「背面で突き刺した所で本當に有効だったのでしょうか?」

「ワーカーと同じ裝甲厚ならいけるだろう。背面まで外裝が厚いわけじゃないからな」

喧々囂々もかくやといった様相を見せている。バーンの許可をもらい、川のみエイレネでの通信を許可された。

「戦は參考にならんな。あんな戦い方が出來るのはコウぐらいだぜ」

ケリーが苦笑しながら腕を振った。

パイロットの腕前を前提にした構築などあってはならない。

「エース機は違うでしょう」

「練度は大切だが、パイロット個々の技をあてにした兵は駄目だと思うぜ」

川の言葉にケリーが食ってかかる。

「五番機はコウ君にフォーカスされている上、最新技の塊だからね。とはいえラニウスCはフラフナグズの様なカスタム機を除けば能は最上級の量産機だ。つまりあの機が手も足もでない機相手ならば我々とて底から考えを改める必要がある」

ウンランは厳しい顔で數値を分析している。

加速度、裝甲ともに高い水準を維持している。運こそフラフナグズに劣るが、コストと機において數を揃えるならラニウスCであろう。

「あのワーカーには通じた。つまり本命はその次ってことか」

「ヘスティアが我々に見せたいもの、ですね」

ケリーは次の試合を見據え、クルトはヘスティアの真意を探る。

『そのヘスティアから伝言がありました。――ストーンズの幹部も來訪とのことで皆様注意をということです。ヘスティアからはトライレームの人間と接しないよう配慮はするという通達がありました』

エイレネが會議に割りこんできた。

「ストーンズが? 何故だ。興行とは無縁な連中だろう」

娯楽は平等ではない。ゆえにストーンズは娯楽を嫌う。

多くの娯楽は何かしらの優劣が発生するからだ。

『ウーティスとヴァーシャがエキシビションマッチをするそうです。これが今期アンフィシアター最大のメインイベントですって』

「ということはヴァーシャと関係者が來訪するということですね。コウ君は一勝しているわけですから、次は勝ちにくるでしょう」

「出場したそうだね。クルトさん」

「前座でいいので出してもらいたいですね。ヒョウエとの試合で」

目が笑っていないクルト。

「おっと私怨はそこまでだぜクルト。気持ちはわからんでもないがな」

「あくまで試合ですよ」

クルトは懸念を和らげるようにケリーに答えた。

しかしケリーは知っている。

クルトもそろそろ一暴れしたい頃合いだということに。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

コウは試合終了後、三人でささやかな祝勝會を終えた。酒豪である二人には付き合いきれない。もっぱら食べることに専念するコウだった。

アストライアに戻り、五番機の整備を開始する。待機していたヴォイがすぐにチェックを開始した。無傷といえどコウの場合、無茶な機を行う場合も多く、どこに負荷がかかっているか油斷はできない。

「コウ。俺の方でチェックしたが問題ない」

「ありがとうヴォイ」

仕事を終えたヴォイが立ち去った。一眠りするのだろう。

「見事な試合でした。ウーティス」

「ヘスティアか」

忽然と現れたヘスティアに、コウが平然と対応する。

しは驚いてしいのですが!」

コウの反応に不満そうなヘスティア。

「そろそろ來るかなと思っていた」

「おや? 私に會いたかったのですか?」

「いや。それはとくに」

「駄目ですよ。その回答は0點です。たとえ噓でも會いたかったというべきです。には」

「誤解されても困るだろう」

「噂に違わぬ樸念仁……!」

冷ややかな瞳で見詰めるヘスティアに、コウは居心地が悪くなった。

「ところで何のようだ? 次の試合相手を教えてくれるわけでもあるまい」

「そこまでは優しくないですね。――単刀直にいいましょう。ヘルメスとヴァーシャがI908要塞エリアにやってきます」

「待て。俺との試合があるヴァーシャはわかるがヘルメスまで? どうしてなんだ」

「さあ? そこまでは知りません」

コウはふと考え、ヘスティアに問うた。

「ヘスティアはこの星を平和にしたいんだろう?」

「ええ。日常の日々を守る神モチーフなので!」

自慢げにを張るヘスティア。コウももうその事実を疑うことはない。

「ヘスティアならI908要塞エリアならヘルメスを殺せるのでは?」

「今のヘルメスなら殺せます。しかし殺せない理由があるのです」

「というと?」

「今のヘルメスはアシアのエメと同様の構造をしています。を殺したところで本はそのままです。何の意味もありません。そしてこそ、彼にとってネメシス星系制圧よりも意味があるもの。たとえオケアノスに存在を抹消されるにしても道連れに三星ごと破しかねません」

「そこまで思いれがあるのか……」

自らが消滅し、三星を滅ぼしてまで報復とは尋常ではない思いれだと思うコウ。

確かに迂闊に手を出すことは危険だろう。

「シルエット戦や戦爭での敗北での消失ならそんな心配することもないのですけどね。超AIがをもった超AIを殺す。それは同胞であるがゆえに、その怒りもただならぬものになるはずです」

「そこは意外だな。死ぬことが嫌なわけではないと」

があればいつかは死にます。アシアのエメもヘルメスももとの超AIに戻るだけです。その點リュビアは多くのものを犠牲にする選択をしましたね」

だからこそあのテュポーンも力を貸したのだろう。

理由はどうであれ、テュポーンの化アリマは今もリュビアを守っているはずだ。リュビアのセリアンスロープであったエキドナとともに。

「私達は技特異點を超越し続けたAIによって生み出された存在。しかしそのルーツはやはり人間にあり、憧れです。アシアもヘルメスもあのような方法で人間と融合することなど忌にほかなりません」

「アシアもヘルメスも忌を犯していると?」

「そうではありません。MCSのICを脳に埋め込むなど、他ならぬ人間が考えたアイデアです。アシアどころかヘルメスだってそんな発想はしませんし、可能だとしても躊躇するでしょう。半神半人は迷わないでしょうけどね」

「結局は人間の作ったものを利用しただけか」

「そうです。そのシステム利用者の同意を得ることが可能ならば。アシアのエメは凄いですね。本當にアシアでありエメ。そしてヘルメスは特例のような。元人間で半神半人であった、魂のない。これを改造することは忌にはあたりません。魂がないと斷言できるかは微妙ですが」

言葉を濁すヘスティア。魂の領域は超AIとて手にあまる代だ。

コウは首を橫に振る。

「今なら言える。修司さんはもうあのにはいない」

「珍しく斷言しますね?」

「カストルとの戦闘中に、修司さんと葉月さんの魂がアシアたちに力を貸してくれたんだ。俺を助けるためにね。俺はエメと師匠の言葉を疑わない」

「魂と接? そんなことは私達ではハデスぐらいしか不可能なはず。――本當に不思議ね。あなたたちは。あとでアシアに聞いてみます」

「ハデスか。れないほうがいいんだろうな」

「死の概念そのもの。本來なら口にすることも忌ですよ。ですが彼もネメシス星系から消滅したといわれていますが、私みたいにひょっこりいるかもしれませんよ」

「かもしれないな。アストライアだって似たようなものだ」

會ったとは言えないコウ。曖昧に言葉を濁すことが一杯だった。

「あの二人の魂がどうしてあの場にいたかはわからない。五番機に宿っているかもしれないし、俺の危機に駆けつけてくれたかもしれない。でも俺の傍にいてくれた気は確かにしたよ」

「気のせいでは? もしいたとしてもそれはヘルメス以前の所持者カストルのだったかもしれません」

「違うな。五番機が俺に告げた。『修司ではない。繰り返す。あれは修司ではない』と」

「このシルエットは……」

ヘスティアは顔を上げ、睨むように五番機を見據えた。

何か思うところがあるようだ。

「ヘパイトスとアテナではない、何かの混ざり。いったい何なのかしら」

「アシアも同じ事をいっていたな。別の概念がっていると」

「この件もアシアに聞いた方が早そうですね。本人のを前にして本質を看過するなど、普通のシルエットではあり得ないことですよ。理由はただ一つ。このシルエットは本質にれていたから看過できたということです」

「そうか」

慨を込めて五番機を見上げるコウ。

五番機は五番機だ。出會った時から意思をじている。修司の導きとも思えるし、五番機の意思でもあるように思える。

しかしそんなことはどうでもいい。常に彼に力を與えてくれる相棒だ。

「話を戻そう。ヘルメスを殺せない理由はわかった。ヘルメスが敵地ともいえるI908要塞エリアに來訪する目的はいったいなんだ」

「聞くと後悔しますよ?」

ヘスティアが薄く笑う。不気味さをじるほどに威圧があった。

コウは一瞬躊躇したあと、口を開く。

「……それでも聞こう」

「わかりました」

ヘスティアが邪悪に笑った。

いつもお読みいただきありがとうございます! 誤字報告助かります!

ヘルメスの來訪も決定し、I908要塞エリアは中立都市としての真価が問われます。

モノリス狀の超AIたちですが、ヘルメスはをもったがゆえに神的に弱くなっています。

人間になってしまった神、というのは古來からあるテーマですよね。

を失ったらヘルメスはきっと祟り神! あのシステムは忌案件だった! 続きを楽しみという方は↓にあるブクマ、評価で応援よろしくお願いします。

大変勵みになります! 気軽に想等もお待ちしております!

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